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勇気の証

作者:加藤さとし
 クリスマスギフト企画作品です。ギフト企画を検索すると他の作者の作品が楽しめます。
この作品は戦争という重いテーマーを描いています。
読んでくださった読者さんの心が少しでも暖まると幸いです。
 クリスマスまで間近に迫った週末の午後、ここ東京ディズニーランドは、まるで恋人達を祝福するかのような煌びやかな幻想的イベントで大いに盛り上がっていた。園内はカップルを筆頭に老若男女を問わず歓喜の声が満ち溢れている。広島県から家族旅行で訪れている加藤猛、一行も例外にもれず園内を楽しんでいた。
 一行は猛夫婦を筆頭に猛夫婦の三男一女の息子、娘夫婦とその子供達、そして猛にとっては、ひ孫にあたる長男夫婦の娘の子供達が家族旅行に参加していて、4世代総勢23名大家族旅行である。
 猛一行が家族旅行にディズニーランドを選んだのには訳があった。元々今年で満80歳になった猛の傘寿を祝う為のもので、猛の息子夫婦が熱海の温泉旅行を計画していたが、その旨を猛にいったところ、熱海ではなくディズニーランドに行きたいと猛が言った為であった。普通なら若者向けのここより、熱海の方がくつろげるのじゃないかと、息子夫婦は首を傾げたのだが、猛には、ディズニーランドに内に秘めたる並々ならぬ思いがあるらしく、がんとして熱海行きを拒否したのだった。
 猛一行の孫達は朝一番から人気アトラクションに乗る為に、大いに走りまわっていたが、猛は園内を考え深げに杖をついてゆっくりと見て回っていた。園内をそこそこ見て回った猛は、シンデレラ城が間近に見える広場に御座をひくと腰をおろした。それは、3時間後に始まるパレードの場所取りの為である。パレードの時間まで猛は園内で楽しんでいる人々を見ていた。園内にいる人々の顔は皆、笑顔に満ち溢れていて、見ているだけで猛は幸せな気分になれた。
 遠くの方でミーキーマウスが猛の孫達と戯れているのが見えた。孫達は大はしゃぎでバンザイのポーズをして飛び跳ねている。その姿を見て猛は、63年前の日々を思い出していた。1944年、昭和19年の春先のあの日の事を……

 駅のホームで蒸気機関車が白煙を上げて出発を待っている中。
「加藤猛君の出陣を祝して万歳、ばんざーい、バンザーイ」
 町内会長の号令によって猛の両脇に整列している近所の住人達が一斉に万歳していた。その間を真新しい軍服をまとい、千羽鶴を肩にのせて猛はゆっくりと進んでいく。
「万歳! バンザイ! バンザーイ!」
 列の先頭には猛の母親の節子が心配そうな表情をして万歳していた。
「それでは、猛君! 集まってくれたみなさんに一言お願いします」
 町内会長はニコニコしながら猛の出陣の挨拶を促した。
「はい、加藤猛は御国のために立派に戦って参ります。例え名誉の戦死を遂げようとも帝国のため、憎っくき鬼畜米兵を成敗して参ります」
「よぉ、猛君、立派だぞ! 戦死するなんて縁起の悪い事を言わずに、是非とも手柄をたてて、帝国の為、鬼畜米兵に一矢を報いてきてくれよ! そして派手な祝勝会をしようじゃないか」
 そういって、町内会長は猛の肩を叩いた。
「それでは、母さん。猛は戦場に行って参ります」
 猛は母親の節子の目を見て言った。母親の目からは大粒の涙が流れていた。
「猛よ、命を惜しむんじゃないよ。御国の為にしっかり働いてきなさい!」
 節子は猛の体を軽く抱きながらそう言った。その言葉を聞いて町内会長は歓喜の声を上げた。
「いやぁ、立派ですよ! 立派です! 節子さんこそ、正に帝国の母。ご主人と長男を戦死されているにも関わらず――いやいや、なかなか言えることじゃないですよ! それでは、猛君と節子さんに今一度、万歳三唱をしようじゃないですか、みなさーん」
「万歳! 万歳! 万歳!」
 猛と母親の別れを惜しむ暇なく、蒸気機関車が出発を促すかごとく、大きく警笛を鳴らした。
「行って参ります」
 そうして、猛は機関車に乗り込んだ。機関車の車中には猛と同じような境遇の若い兵士達でいっぱいであった。機関車の到着地は呉にある大日本帝国の駐屯地である。ここから船に乗って、あちこちの戦場に兵士達は振り分けられる。猛の向かうべき戦場はサイパンの基地防衛部隊であった。

 1937年に盧溝橋事件を発端に始まった日中戦争、中国大陸の主要都市を手中に収めた日本軍に対して、米英は即時撤退を日本軍につきつけてきたが、日本軍はがんとして拒否を決める。制裁措置として、米英は油や鉄鉱石の供給を止めた。資源の無い、日本にとっては致命的なことであった。それに対して、日本は南方にむけて資源の活路を見出そうとする。大東亜共栄圏という旗の下に……次々と南方を攻めおとしていった日本であったが、戦局は拡大し続ける、そして、様々な圧力をかけてくる米英に対して、1941年12月8日真珠湾奇襲攻撃によって米国に対して宣戦布告をした。最初、連戦連勝だった大日本帝国軍であったが、物量に勝る米英は徐々に劣勢を挽回していき、ミッドウェイの会戦によって連合艦隊に致命的ダメージをあたえ戦局の劣勢を逆転することになった。そして1944年の猛の出兵するころには、大日本帝国は敗戦の道を確実にたどっていた。勢いに乗る米軍は、本格的な本土空爆の足がかりにすべきと、サイパンにB29の飛行場建設をもくろんでいた。日本軍も米国の思惑を察ししていた為、是が非でもサイパンを死守すべきと大量の兵士を投入することにしたのだった。その中の一人が猛であった。

 猛が出兵する三ヶ月前、節子の下に一年前に出兵した主人と長男の戦死報告が大本営から通達された。単に名誉の戦死とだけ書かれており、詳しい事はほとんど分からない内容のものであった。そして、次の日には猛の出兵の通達を意味する赤紙が届けられた。節子はひどく落胆したが、それからの日々、猛の出兵の為に準備をすすめた。節子は猛の為に、腹巻の作成をする。腹巻は戦場にいって猛がお腹を壊すといけないと思って作っているのだが、それだけではなかった。それと、近所の神社にいってお守りを貰ってくると中に節子の思いを込めた手紙を忍ばせて入れた。
 猛の母、節子は当時としてはハイカラな人で結婚するまでは、西欧の文化に興味をもって、西欧の映画や文学を堪能していた。しかし、戦争が始まると、その趣味を一切止めた、いや止めないと生きていけない環境になったのだった。そして、その時代の他の人達と同じように愛国者に努めた。
 猛の出兵前日、節子は猛の自室に行くと、猛に腹巻とお守りを手渡した。
「猛や。いいですか、戦地は厳しいところです。あなたがお腹を壊すといけないから、この腹巻を必ず巻いていなさい。それとね、この腹巻はね、母さんが念をこめて作ったの! あなたが、命の危険を感じた時、腹巻を脱いで敵兵に向けて広げなさい。そしたら、神風が吹いて戦局が一変することでしょう。腹巻には、縫い目があるので、それを引きちぎって広げるのですよ! いい絶対に母さんの言ったこと忘れるじゃないよ」
「はい、母さん。御国のためにしっかり、命を惜しまず働いてきます」
 節子はうんうんと頷くと、猛の頭をなでた。
「それとね、お守りの中に母さんの思いを込めた手紙が入っています。あなたが命を懸けて戦って生き残れたら読みなさい。いいですか、勇気を持って戦ってきなさい。あなたは絶対に死にません!」
「はい。母さんありがとう。とにかく必死になって鬼畜米兵をやっつけてやります」

 呉の駐屯地で厳しい訓練を受けたあと、猛は輸送船に乗ってサイパンに送られた。輸送船の中は狭いうえに激しい船酔いの為、嘔吐物の匂いで蔓延していて、かなり厳しいものであった。20日ほどたってようやくサイパンの地にたった猛はすっかり日焼けしていた。
 サイパンに着いた猛は第43師団に所属した。着いてまもなく、師団長の中将から訓示をうけた。1944年6月11日のことである。
「諜報部によると、米軍の大規模部隊が我が基地を陥落させようと迫ってきている。恐らく明後日には大規模な戦闘に入るだろう! 君たちもわかっている通り、是が非でもここは死守しなければならない、ここさえ死守すれば、我が軍の勝利は名実の下である。命に代えても守りきろうぞ」
 中将の顔は少し強ばっているように猛は思った。
 訓示の後、猛は446部隊に所属となって、赤城少尉の前で整列していた。
「いいかぁ、貴様ら! 生きて帰ろうなんて思っているんじゃないだろうな! 敵と刺し違えてでも基地を守りきるのだ」
 猛は返事の声が小さいと言う事で、少尉におもいっきりビンタをされた。口が切れた。そして、反抗的な目をしたという事で、更に殴られた。しかし、ここ戦場では上官の言うことは絶対である。ひたすら耐えた。

 1944年6月13日、米軍は日本軍が占領しているアスリート飛行場に対して空襲が行われた。こうしてサイパンでの日本軍と米軍の死闘が開始された。諜報部によると洋上に展開している米軍の戦力は7万であって、日本軍の基地守備隊は3万である。兵力差は2倍以上である。米軍はLVTと呼ばれている揚陸戦車を多数上陸させる為にはげしく洋上の戦艦から艦砲射撃を行ってきた。猛達日本軍も激しく上陸を阻止する為、抵抗したが、物量に勝る米軍は圧倒的であった。多数のLVTの上陸を許してしまう。すぐに中将の命令によって猛達部隊は赤木少尉の指示の下、さとうきび畑に潜んでLVTの飛行場行軍を阻止すべきと、ゲリラ戦法に切り替えた。最初さとうきび畑に潜んでのゲリラ戦法は功を得て、敵米軍のLVTのいくつかは火を噴いて行軍を止めたが、すぐに米軍は火炎放射器部隊を投入して、さとうきび畑を焼き払いにかかった。
 猛の潜んでいる畑にも容赦なく火炎放射器があびせられた。前方に潜んでいる猛の仲間達は恐ろしい断末魔をあげて黒こげになっている。赤木少尉は猛と同じ歳の兵士を呼ぶと、耳元で何かを告げていた。しばらくしてからその兵士は火炎放射器の間を縫ってLVTに向かって走っていった。赤木少尉は兵士に向かって、
「帝国男子の意地を見せてやれ!」と叫んでいた。
 兵士はLVTに飛び込むように持っていた手榴弾をひくと爆発した。兵士の肉片が飛び散るの見えた。
「よし、よくやった!」
 赤木少尉は次々と周りの部下を呼びつけると、さっきの兵士と同じように、LVTに突撃させた。ほとんどがLVTにたどり着く前に火炎放射器の餌食になっていく、中には火炎放射器の米兵に抱きついて爆死するものもいた。正に地獄であった。赤木少尉は猛を呼んだ。いよいよ自分も特攻して死ぬのかと思った時、撤退を意味するラッパが鳴った。赤城少尉は猛に「命拾いしたなぁ! ちぇ」と舌打ちして、基地に戻るぞと言ってさとうきび畑から撤退した。一中夜かけて飛行場に戻った猛達であったが、中将は飛行場を放棄すると兵士達につげた。ここからは、山間部のポンチョ山にこもり、米軍の隙を見て基地を取り返す作戦に変更するとの旨であったが、猛達が山間部のジャングルに潜む間に、中将は飛行場の司令室で自決した。事実上、指揮官を失った日本軍は崩壊した。

 猛達がポンチョ山に隠れて一週間が経った。部隊は山間部で再編されたがもは戦力とよべるものでは無い。
 兵士達は食料不足のために疲弊しきっており、夜になると、米軍の偵察機が山間から降伏勧告をしてくる。
それでも、猛達兵士は味方の増援が来て、物資を大量に持ってきてくれると信じていた。しかし、実際は日本軍は物資を積んだ輸送船をサイパンに向かって送っていたが、たどり着く前に米軍の潜水艦によってことごとく撃沈されていた。いくら待っても、増援など来ないのである。それを、あおる様に、米軍の偵察機からは、増援の輸送船を撃沈したとのビラを上空から大量にばら撒いていた。
 猛達は空腹に悩まされながら、昼間はジャングル内に隠れて過ごす。夜になると、米軍に位置をさとられないようにジャングル内を行軍していく。兵士達の一部は怪我をしている者も少なくなく、傷口が化膿して腐ってきているものもいた。あと、不衛生な為と栄養をとっていないのも手伝って蚊によるマラりアが蔓延していた。日に何人も死んでいった。もはや、猛達は精神的においこまれており、自決するか、敵基地に銃剣突撃するしか選択肢は残されていなかった。すでに、何人も空腹と辛さに耐えられず自決している。しかし、猛の部隊長の赤城は自決は許さなかった。自決するぐらいなら、特攻して米軍の一人でも道連れにすべきと云う考えなのだ。そして、赤城少尉は決断した。今夜未明、敵基地に向かって銃剣突撃を敢行すると……
 猛達には銃の弾薬は無い。あるのは、銃の先についてる刃だけである。特攻イコール自決と同じようなものである。兵士の一人が赤城少尉に投降を意見したが、赤木少尉はその場で、その兵士を銃殺した。もはや、赤城部隊は敵に投降して捕虜になる考えなのどさらさら無いのだ。
 銃剣突撃を敢行する5時間前に赤木少尉は残り少なくなった部下達に仮眠を取っておくように指示した。兵士達は毎日過酷な行軍が続いて疲れているので少尉の仮眠命令がありがったかった。兵士達はおのおの木々の陰なのでに横になると仮眠に入った。猛も横になるとすぐに睡魔が襲ってきて眠りに入った。緊張のあまりか眠りが浅くすぐに夢を見た。
 夢の中では、猛の母、節子が出てきて、母が作ってくれた腹巻の事を思い出す事が出来た。
「そうだ、今日の突撃で腹巻を敵にかざしてやるんだ!」そうしたら、きっと、きっと、母さんの言っていたように神風が巻き起こり……冷静に考えたらそんな事おこりうる事なぞありえない。いくら、精神的に追い込まれていた猛でも、百も承知であった。しかし、どうせ特攻して死ぬのだ! だめで元々、最後ぐらい母さんの言っていたことをやっても誰にも文句は言われないだろう。猛は汗でべちょべちょになった腹巻を脱ぐと、そっとズボンの腰ポケットに腹巻をねじこんだ。
 あっという間に仮眠の時間は終わりをつげ、いよいよ銃剣突撃の時間になった。突撃する場所は、ほんの数週間前までは日本軍のサイパン基地であったアスリート飛行場である。いまでは飛行場の周囲はすっかり敵の有刺鉄線防衛フェンスが高くそびえたっている、唯一のフェンス入り口には重機関銃が二門設置されていた。まともにいったら蜂の巣にされるのは白日の明であるが、しかし、それしか赤城部隊には侵入路は無かった。それいえの特攻なのだ。赤木部隊は草むらの間をホフク前進してフェンス入り口正面500メートル手前まできた。赤木少尉は特攻前に気分が興奮しているみたいだった。そして皆に最後の言葉をいった。
「貴様らぁ、いいかぁ。この作戦は決して無謀なものではないぞ! 我々は少数だが、あの門さえ突破すれば勝機がないわけではないぞ! かの戦国武将、織田信長は桶狭間の戦いにおいて、見事、突撃によって敵の大将今川義元の首をとって勝利したではないか! 我らも、あの忌まわしき門を突破して敵の大将首を銃剣の刃先で切り落としてやるぞ! いいか、命を惜しむな! 俺が先陣を切って突撃するので、貴様ら、俺の後に続いて突撃を敢行せよ!」
 そう言ってから、赤城少尉は「うおおお、突撃ぃ!」と言って、敵の門に向かって走っていった。猛も数人の兵士の後ろから走って、赤城少尉の後を追った。その時である、前方を走っている赤木少尉の足が激しい爆音と共に吹き飛んだ。赤城少尉は地面に仕掛けられている地雷を踏んだのだった。赤木少尉の腰から下は見事に吹き飛んでしまい上半身だけが地面に無惨に転がっていた。後ろを走っていた猛達も爆風によって左右の草むらに飛ばされた。飛行場ないからは爆発によって突撃がばれてしまい、けたたましいサイレンが鳴っている。すぐにフェンス入り口付近は米軍照光器によって激しく照らされて昼間のように明るくなった。爆風によって兵士の何人かは、すぐに立ち上がり、門の入り口付近に再度突撃をかけたが、時すでに遅しで、重機関銃の的になってしまい蜂の巣にされて倒れていく。そして猛も意を決して立ち上がると門向かって走り出す。猛は母さんの作ってくれた腹巻を取り出すと、縫い目を引きちぎり両手いっぱいに腹巻を広げて走っていった。
猛の耳には重機関銃の乾いた銃撃音が響いている。猛の前方を走ってる兵士の体が照光器に照らされて明るくなった瞬間、機銃掃射にやられて前のめりに倒れていった。そして、猛の体も魔の光にさらされた。
 その時、奇跡が……奇跡が起こったのだ! 機銃掃射の音が止まったのだ。遠くから米兵の「STOP」という声が響いていた。機銃掃射が止まったのには訳があった。そう、猛の母親が作ってくれた腹巻が原因なのだ。腹巻を広げた全面には、見事にネズミ、いや、ミーキーマウスが刺繍されていて、そのミーキーマウスは両手を挙げていた、下面部には英語が刺繍されていて「GIVE UP」と書かれていた。
 すぐに生き残った猛達は基地から出てきた米兵によって取り押さえられ、捕虜になった。こうして猛の中の戦争は終わったのだ。後にわかったのだが、サイパン島における死闘によって、日本軍の損害は戦死者2万9千、捕虜は900人であった。戦死者2万9千のうち、自決したものは1万にのぼったとされている。

 それから一年後、無条件降伏によって日本は戦争に負けた。捕虜収容所にいた猛は、お守りのことを思い出して中の母が書いた手紙を読んだ。
「この手紙を読んだということは、あなたは恐らく米軍の捕虜になって生きているのでしょう。母は本当に嬉しく思いますよ。あなたを送り出す際に近所の手前で言った弱い母の言葉は許してください。誰が腹を痛めたかわいい我が子を御国のために捧げる母親がいるものでしょうか! あなたにはしっかり生きてもらいたいのです。恐らくこのような若い子供にまで戦地に送るような国は戦争に負けるでしょう。でも、人間はどんなに辛い事があっても自分から命を捨ててはいけないのです。捕虜になったあなたに自決を薦める仲間もいるかもしれないでしょうが、決して自決して自ら命を絶つような事はしないでください。生きてこそ、本当の勇気なのです。敵の捕虜になるぐらいなら、死んでしまおうなどは勇気でもなんでもないですよ。今は御国によって、洗脳されているかもしれないですが、いつの日にか、母の言ってる事が分かる日が必ず来ます。それまで、勇気を持って生き抜いてください 節子」
 猛は母、節子がくれた腹巻とお守りの中の手紙という贈り物を生涯忘れない。手紙を読み終えた猛は涙を拭ぐうと、どんな事があっても生き抜いてやると硬く心に誓ったのだった。そして、猛はむしょうに母親に会いたくなった。生きていれば必ず、また母親に会えると信じて捕虜収容所で生きぬいた。しばらくしてから、収容所内で猛は故郷、広島に新型爆弾が投下されて、街が壊滅したことを知ることになった。

 三年後、猛は捕虜収容所から釈放された。幸いな事に戦犯に問われることなく釈放された。猛は母が心配で故郷に戻ったが、母の姿は無かった。町内もろとも新型爆弾によって消滅していたのだった。


「じぃちゃん、何考えてるの?」
 孫の智史が不思議そうな表情で猛の顔を見ていた。
「うん、少し昔の事を思い出していたんだよ」
「ふーん」
「智史、ディズニーランドは楽しいか?」
「うーん、楽しいよ! さっきミーキーマウスと写真撮ったのだよ」
「そうか、そうか、そりゃ良かったなぁ」
 猛はそう言って、孫の頭を優しく撫でた。
 ほどなくして、猛一行、全員がパレードを見に猛の周りに集まった。総勢23名、猛が生き抜いたおかげで生まれた命。節子がつむいだ命。
 猛は皆の顔を確認すると、つくづく、ここまで生き抜いてこれた幸せを実感した。
 そして、パレードが始まった、すっかり暗くなった夜空に仕掛け花火が夜空を照らした。空いっぱいにミーキーマウスが笑っていた。眼前には華やかに電飾された車が登場した。皆の顔は幸せいっぱいの表情をしている。猛は思った。
 今年は最高のクリスマスだな! 母さん……ありがとう。 了。

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