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とある少女とその親友の日常。

作者:小択出新都
「ねぇねぇ、サフラン。知ってた?この国の王子さまって、成人するまで別の家で女の子として暮らすらしいよ。暗殺なんかの危険を避けるためなんだって。」
 私の言葉に、親友はいつも通りの冷静な口調で答える。
「知ってるよ。この国に暮らす貴族なら常識でしょ。」
 美しい黒い髪、理知的に光る緑の瞳、ちょっとうらやましいすらっとしたしなやかな肢体、きめ細かい白い肌。本当に溜息を尽きたくなるほどの美人さん。それが私の親友、サフランだ。
 でも今はあまり表情を変えない瞳が、ちょっと呆れたようにわたしを見つめてくる。
「なんだー。せっかく凄いこと知っちゃったとおもったのにぃ。」
 わたしはがっかりして溜息を尽く。小さい頃は別の国で暮らしていた私は、この国について知らないことも多い。その度に、サフランには呆れられる。
 でも、気を取り直して私はサフランに明るく話かける。
「ねぇねぇ、王子さまってどんな方なんだろうね。女装にあってるのかなぁ?」
 王子さまも年齢なら、私たちと同い年のはずだ。成人まで、あと一年。私も胸なんかが成長してきた。身長はまだ低いけどね…。逆に親友は、身長が高いのだけどちょっと…かなり胸は控えめなようだった。気にしてるかなっと思ってるから、口には出さないけどね。
 まだまだ成長する可能性はいくらでもあるしね!
 王子さまも、もう男の子じゃなくて青年になりかけてる歳だ。女装も無理がでてこないだろうか。でも、国王陛下も王妃殿下も凄く美形だったから、そんなに気にならないかも。むしろ似合ってたりして。
 そんな風に想像を膨らませているのだけれども。
「興味ない。」
 親友の返答はそっけなかった。
「えー、つまんない。」
 親友のノリの悪い態度に、私はむくれる。
「ほら、次の授業がはじまるよ。教室に行かないと。」
 親友はそう施してくるが、私は機嫌を損ねているのだ。簡単になど言う事を聞いてやらない。
「手を繋いで歩いてくれなきゃいかなーい。」
 私の言葉に、サフランは困った顔をする。最近、こうやってなかなか手をつないでくれないのだ。昔は、いつだって手を繋いで歩いてくれたのに。
 でも今日は、手をつないでくれるまで許してあげない。
 私が座り込んで頑なに動かない。でも、手だけは親友に向けてのばしている。
 はやくつかめ、つかむのだー。
「もう、仕方ないなぁ…。」
 そんな私を見て、サフランは溜息をつきながらも、手を握ってくれる。
 うへへ、やったぁ。
 私は機嫌を直すと、親友と手をひかれて歩き出す。
「んっ、あれ?」
「どうしたの?」
「なんでもないよ。」
 親友の手がなんだか、昔より大きくなった気がする。私の手をすっぽりと包んでしまう。でも指がすらっと長い綺麗な手で、かっこかわいい親友には似合ってる気がする。
 でも、女の子はそこらへんは繊細で意外とコンプレックスにしてたりするかもしれないから、あえて口に出したりはしないのだ。
「もう、なんなの?」
「なんでもないよー。えへへ。」
 私は大好きな親友の手をぎゅっと握ると、一緒に教室へと歩いていった。

***

「ねぇねぇ、これ見てー!」
 私は上機嫌で、親友に手にもったものを見せる。
「なにこれ?」
 首をかしげる親友に、私はそれを掲げちょっと自慢げに話した。
「ふっふっふ、なんと私へのラブレターなのだよ。」
 今朝、靴箱を見たら入っていたのだ。えっへんと思いっきり顔を上げてのけぞり、親友へと視線を戻した瞬間、私は思わず飛びのいた。
「ど、ど、どおしたの!?」
 親友が物凄い顔で私を睨みつけていたのだ。
「なんでもないよ。」
 普段はハスキーでかっこいいと思っていた声が、さらに低くなってドスが効いている感じになって、かなり怖いのだけれど…。
 美人が怒ると怖いというのは、本当だった。
「な、何で怒ってるの?」
 怒られるようなことをしてしまっただろうか。もしかして、ちょっと自慢げに言ったのが悪かったのか。でも、サフランほどの美人なら求婚やらお誘いがよりどりみどりだから、怒ることなんてまったくないはず。
「ぜんぜん、怒ってないよ。それより、それどうするの?」
 そう言われて、親友は表情だけは笑顔になる。でも、全然笑った感じがしないんだけど。というか、普段はあまり表情を変えない親友だけに、こんな笑顔に(顔だけ)なってるのもはじめてだ。
 ちょっと異様な雰囲気だけど。でも、私もくじけない。
「と、とりあえずあけて見ようかな?」
 実はこの親友と恋話というのを一度してみたかったのだ。親友はとても美人なのに、そういう浮いた話をまったく聞かない。もしかしたら、隠してるのかもしれない。なのでこれまで、そういった話をしたことがなかった。
 でも、せっかく女の子同士なのだ。恋話のひとつやふたつ青春の一ページとしてやっておきたいではないか。
「ふーん、どれ。」
 私が手紙を開けようとすると、親友もそれを覗き込んできた。
 おお、意外と乗り気?
 さっきの態度から恋話とか嫌いなのかと思っていたけれども、これなら案外いけるかもしれない。
 後ろで手紙を凝視している親友をちらみして、機嫌を戻した私は、上機嫌に手紙をあける。
「えっと、なになに。以前からとても可愛いくて明るい蒲公英のようなあなたが好きでした。放課後、西の宿舎の裏でお待ちしております。そこでお返事を聞かせてください。だって、えへへー。」
 手紙の言葉に、ちょっと照れながら、親友を振り向く。そして、思わず飛びのく。
 だって、また怖い顔をしていたのだ。
「ど、ど、ど、どおしたの?」
「なんでもないよ。」
 本当にそうだろうか。でも、さっきも特に何もなかったし、確かにそうなのかもしれない。私の気のせいなのか。うん、きっとそうだ。
「それで、どうするの?」
 親友は腕を組みながらそう言う。ちょっと、眉間にしわがよってるけど、でも話の内容はいわゆる恋話というのではないだろうか。
 うん、きっとそうだ。親友と恋話をする作戦は、成功したようだ。
「とりあえず、会ってみようかな。」
 よく知らない人だし、断るにしても会うしかない。それに会った話を種に、もう一回恋話ができるかもしれない。一粒で二度お得だ。
 そう答えた瞬間、親友が冷気を放ちだした気がするけど、きっと気のせいだろう。二度も気のせいだったのだから、二度あることは三度あるものである。
「えへへ、放課後が楽しみだな~。」
 放課後、ラブレターの返事が終わったら、それを種にサフランともう一度恋話をするのだ。こっちから話したのだから、あっちの話も少しは聞きだせるかもしれない。
 そう考えると、放課後が待ち遠しくてたまらない。
 そして、放課後、私は西の宿舎の裏で待ちぼうけしてた。半刻ほどは待ってるのだけれども、誰も来ない。そんな私の前に現れたのは、親友の姿だった。
「あれ、サフラン?」
 校門前で待っていてと言ったのだけれど、もしかして遅いと思って迎えに来てくれたのだろうか。
「来なかったみたいだね。」
 親友にそう言われて、私は頷く。
「うん、冗談だったのかなぁ。失礼な話だよねぇ。」
 残念とは思わないけど、待ちぼうけさせられたのだ。腹は立つ。親友と過ごす時間も目減りしてしまった。そう考えると、むかむかしてきたのだけれど。
「あー!」
 親友の顔をみた瞬間、そんな思考も吹っ飛んでしまった。
「どうしたの?それ!」
 親友の綺麗な顔に、青たんができていたのだ。本当に国宝の美術品もかくやというぐらい整った顔なのに、なんてこと!誰かに乱暴でもはたらかれたのだろうか。だとしたら、許せない。
「ん、大丈夫だよ。ちょっと、打っただけ。」
 親友は首を振ったけど、そんなわけない。白い肌に、青紫が痛そうに滲んでいる。
「大丈夫なわけないよ。とにかく治療しなきゃ!」
 私は親友の手を引っ張って、寮へと走り出した。このままもし痕が残ったら、親友の未来のお婿さんにも顔向けできない。
 もう、ラブレターのことや、すっぽかされたことはどうでもよくなって、とにかく寮へと向かって走っていった。
 親友がなんだかとても嬉しそうな顔をしていた気がするけど、四度目の気のせいだろうか?

***

「ねぇねぇ、せっかくだから泳いでいこうよ!」
「はぁ?」
 私の言葉に、親友は思いっきり顔をしかめた。そこまで、おかしなことを言っただろうか。私は首をかしげる。
 今日は休日ということで、ちょっと遠くの泉がある草原まで遊びにきている。親友の趣味は、乗馬の遠乗りというちょっと男の子っぽい趣味なのだ。せっかくの美人なのだから、社交界でお淑やかに微笑んでいれば、噂の王子さまでも何でも捕まえられると思うのだけれど、なかなか世の中うまくいかないものだ。
 いや、親友ほどの美人なら、むしろそこがいいと、王子さまを捕まえてしまうかもしれない。
 私も親友の趣味ということもあって、乗馬を覚えようとしたのだけれど、どうにも才能がなかったらしく、馬から振り落とされかけたところを親友に救出され、それ以降、練習すら親友に禁止されてしまった。
 仕方ないので、親友の鞍の前にのせてもらってる。親友の馬捌きはかなりのもので、お父様に馬にのせてもらった時より安心するのだから凄いものだ。
 そうやって休日のたびに一緒にでかけていたのだけれど、今日は日が照ってるのでかなり暑い。泉の水はきれいで、ここで泳いだら気持ちよさそうだと思い、そう提案したのだ。
「泳ぐって服はどうするの?」
 そう親友に言われて、私はああと頷いた。親友は乗馬服で、私はドレス。ちなみに私も乗馬服を着ようとおもったのだけれど、サフランからドレスでいいと言われたのだ。まあ、いいけど…。
 乗馬服を着たサフランは、ちょっと男装の麗人みたいでかっこよい。
 それは置いておいて、親友の問いに、私は単純明快に答える。
「下着姿で入ればいいじゃない。」
「ぜったいだめ!」
 珍しく強い調子で反対され、私は唇を尖らせる。
「ええ、なんで?暑いから水浴びしたら気持ちいいよ。街からはかなり遠いから、誰かに見られることもないよ。今日は日が照ってるから濡れた下着もすぐに乾くだろうし。」
「だめったらだめ!貴族の令嬢のやることじゃないでしょ!」
 サフランだって乗馬やら、剣術やらやってるくせにぃ…。
 そういえばサフランとはずっと一緒にいるけど、水遊びをしたことがないのに気付く。強く反対されたこともあり、これは俄然やりたくなってきてしまった。
「いいもん、私だけで泳ぐから。」
 私が気持ちよさそうに泳いでいるのを見れば、親友も入りたくなって根負けして泳ぎたいと言い出すに違いない。
 私はそう言って、ドレスのボタンをぷちぷち外して下着姿になろうとする。なのに…。
 ガシッ
 サフランの手が私の手を握ってそれを止めてしまう。
「何するの!?」
 むぅ、何故とめる。親友め!
「だめだって言ってるでしょ!」
 それはサフランが、外で下着姿になりたくないという話で、私は関係ないではないかー!私は気持ちよく水浴びして、親友を水遊びの誘惑へと誘い込むのだ。
 うん、そういう意味では関係あるけど。
「離してー。」
 私は親友を上目遣いに睨みつけながら、服を脱ぐのを続けようとする。
 ぐぐぐ。
 なのに手はぜんぜん動かない。ぬぬっ、美人で細い体つきなのにどこにこんな力が…。って抵抗していると、力がどんどん強くなってきた。
「痛いっ!」
 手首に痛みが走り思わず叫ぶと、親友はばっと手を離した。
「ごめんっ!」
 そして珍しく慌てた様子で謝る。
 離された手首を見ると、ちょっと赤くなっていた。
「別にいいよ。」
 私はちょっと涙目で、ふーっふーっと赤くなった場所に息を吹きかけながら答える。親友は意外と力もちらしい。儚げな外見なのに、趣味が男の子っぽいせいだろうか。これは実力行使も難しそうだ。
 でも自分が脱ぐのだけでは無く、私が脱ぐのまで止めてくるとはいったいどういうつもりだろうか。
 もしかして…。
 私の中にある予感がひらめく。
「もしかしてサフラン。」
「なに?」
 私の真剣な言葉に、サフランもどこか真剣な表情で言葉を返す。
「胸が小さいの気にしてるの?」
 水浴びもしたくないほどどころか、私の水浴びも見たくないほどに。そこまでに胸が小さいのを気にしていたのだろうか。
 私の言葉に、サフランは返事を返してこない。私はそんなサフランの手を取り、ぴたっと私の胸へと押し付けた。
「あんまり気にしてなくていいんだよ。私だってほら大して大きくないし、サフランともあまり変わらないでしょ。」
 ちょっと見栄を張って成長したと言ったけど、実は私の胸も平均より小さい方なのだった。
 今まではあまり触れないようにしていた話題だけど、こんなにもコンプレックスがあるのだとしたら問題だ。この際、しっかり話しておくべきなのかもしれない。
 サフランを見ると、真っ赤な顔をして口をぱくぱくさせたまま硬直している。親友がここまで動揺するのは珍しい。
 これは…図星だったな!
 私は親友の手を、さらに胸に強く押し付けると言った。
「ほら、ぜんぜん変わらないでしょ?だいたい女の子の価値は胸じゃないんだから。サフランは素敵な女の子なんだから、こんなことで悩まなくても全然いいんだよ。」
 私の言葉が終わったぐらいに、親友は呆然とした状態から立ち直ると同時に、私の胸から凄い勢いで手を離して真っ赤な顔で叫んだ。
「そんなんじゃないから!」
「うんうん、わかってる。」
 相手の意地を受け入れてあげるのも、親友の役目だ。ふっ、私はレディだから野暮なことはしないのだ。そういうわけで余裕の表情で頷いて見せたのだけれど…。
 それから親友が肩を掴み、物凄い形相で睨みつけてきたから、立場が逆転してしまった。私が珍しく纏っていた余裕のオーラは、親友からのプレッシャーにあっけなくはじけ飛ばされてしまう。
「他の男にこんなことしちゃだめだからね!」
「こんなことって?」
 親友の怒鳴りつけるような剣幕、というか怒鳴りつけられました…、に半ば茫然としながら聞き返す。
「服を脱ごうとしたり、手を胸に押し付けたり!」
「う、うん。そりゃしないよ。」
 殿方にそんなことできるわけがない。女の子であり、親友であるサフランだから出来たのである。誤解しないでいただきたい。
 そう言いたいけど、怖いから反論できましぇん…。
「もう、帰るよ。」
 そう言って、私の手を引いて歩き出す親友に、私は思わず声を漏らす。
「えー、水浴びは?」
 ぎろりと睨みつけられて黙る。これはしばらく、水浴びの話題なんか出せないかもしれない。やっぱり胸のことに触れたのは、失敗だったのかなぁ…。
 そう思いながら、親友の体に背中をあずけ、馬に乗って寮へと帰る。

***

「ねぇねぇ、花火まだかなぁ。」
「あともう少しかな。」
 今日はサフランと一緒に、お祭へと来ている。聖母とも言われる神様の誕生日を祝う祭りで、祭りの最後にはたくさんの花火があがるのだ。
 あらかじめ屋台でお菓子なんかを買い込んだ私たちは、見晴らしのよい丘に座って話し込みながら、花火が上がるのを待っていた。
「もうすぐ、成人の歳だねぇ。」
 もうすぐ私たちも学校を卒業し、同時に成人の年齢を迎える。貴族の娘は、成人になるとすぐにどこかにお嫁にだされることが多い。私の場合、まだ縁談が来てないみたいだけど、いずれそうなるだろう。
 サフランはどうなのだろう。あまり、そういう話は教えてくれない。けど、美人なサフランのことだ、縁談は溢れかえるほど来てるのではないだろうか。
 そもそも私とサフランは親友なのだけれども、サフランの家についてはあまり知らないのだ。ミステリアスなところも、この親友の魅力なのである。
「結婚かぁ…。」
 もうそう言う年齢が近づいているのだけど、あまり現実感が湧かない。
「私たち結婚したらどうなるのかなぁ。」
 今までサフランとずっと過ごしてきたけど、結婚したら今までのように一緒にいられないかもしれない。そう思うと少し憂鬱だった。
「あまり一緒にいられなくなるかもしれないね…。」
 親友はいつも以上に無口だった。でも、ちゃんと聞いてくれてることはわかってるので話し続ける。
「サフランも私も素敵な人と結婚できるかなぁ。」
「結婚したいの?」
「ううん、まだそういうわけじゃないけど。でも、結婚するなら素敵な人がいいなぁ。」
 サフランにはきっと素敵な人があらわれるだろう。こんなに綺麗で優しくて魅力的な女の子なのだから。だからそんな親友と並んで立てるぐらいの素敵な人がいい。ちょっと私には荷が重いけど…。
 そして。
「優しい人がいいなぁ。」
 毎日、サフランに会いにいっても怒らないぐらい優しい人がいい。
 そんな人となら結婚してもいいかもしれない。
 未来の夫へと思いをはせる私に親友からの返事はない。あまりこういう話は好きじゃないのかもしれない。
 私も実は、あまり考えたくはなかった。もしかしたら、サフランと離れ離れになってしまうかもしれないから。
 その時にちょうどよく、花火が上がりはじめた。
「そういえばこのお祭、最後の花火が消えないうちにキスした恋人同士は、永遠に結ばれるんだって。」
 政略結婚が多い貴族の私たちにはあまり関係ない話。でも、そうやって恋人を選べたら幸せかもしれない。今、隣にいる親友みたいに、一生のパートナーを。
「そうなんだ。」
 ぽつりとした返事に、ちょっと喜びが沸きあがる。
「もしかして、知らなかった?えへへ、ついにサフランの知らないことを私が教えられたね。」
 親友と出会ってからは、私は知らないことを教えられてばかりだった。でも、今日は私がサフランの知らないことを教えられたのだ。
 それがちょっと嬉しい。
「綺麗な花火だね。」
「そうだね。」
 夜空に舞い上がって行く花火は、色とりどりの残光を残し、夜の黒に溶けていく。
 そしてひと際大きな花火が夜空を染めつくした。
「あ、最後のは花んっ」
 最後の花火だよ、と言おうとした瞬間、唇が何かに塞がれる。驚いて見開いた目には、親友の顔とまだ夜空にまたたく花火の光が見えた。
 花火の光が消えると共に、あたりは静寂を取り戻す。
「もしかしてキスしたの…?」
「うん。」
 親友の答えは、はっきりしてるのに、どこか震えていた。
「そっかぁ…。」
 私も何か言うべきことが見つからず、間抜けな声で頷く。
 キスされた…。親友に…。
 これはもしかして…。
「ずっと私と一緒にいたいってことかな!」
 私は答えを見つけると、上機嫌で立ち上がった。成人と卒業が近づいていて、どこか物憂げだった気持ちも消えていた。
「そうだよね。恋人同士じゃなくて、親友同士でも一緒にいられるよね!」
 一緒にいたいという気持ちは一緒。恋人同士なんてことにこだわらなくてもいいのだ。何よりキスまでして、一緒にいたいというおまじないを実行してくれた親友の気持ちが嬉しいじゃないか。
 親友は赤い顔で、少し憮然とした調子で言った。
「別に親友じゃなくてもいいけどね。」
 これは照れてるに違いない。一緒にいたいからといって、キスまでしてしまったのだ。いつもは冷静な親友とはいえ、恥ずかしいのだろう。
 すねたような表情が普段の親友とは違って子供っぽくて可愛い。
 ふっふっふ、愛い奴め。
「もう、照れちゃって。私たちどんなことが会っても親友だよ。いや、大親友だよ!」
 赤い頬をつんつんしてると、手を握り込まれる。
「もし縁談が来てもサフランに会えなそうだったら蹴っ飛ばしてきちゃうから!」
「いや、それは困る…。」
「ええー、なんでぇ?」
 もう縁談なんて、全部断ってこの親友と一緒にいようという気分だったのに。
「そのうちわかるよ。」
「ええー、そのうちって?」
「今は教えない。」
 親友はそう言ったきり答えてくれない。でも、逃げ出すわけじゃなく、ここにいてくれる。そのちょっと私より大きな手を握り、私は花火の消えて行った夜空を眺めた。
「うん、ずっと一緒にいようね。」


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