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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~ 作者:和久井 透夏

第7章 むかしむかしニコラスは♪

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#65 モフモフ教はちょうどいい

 その日、私は頭を抱えていた。
 原因はアンナリーザとネフィーが布教しだしたモフモフ教だ。



 ネフィーの小型化が成功した翌日、アンナリーザは上機嫌でネフィーを学校に連れて行った。
「レーナ、ネフィーを学校に行かせて大丈夫なの?」
「学校に使い魔を連れて来てる学生は結構いるし、使い魔を育てる過程でしばらく付きっ切りでないといけない場合もあるから、基本的に授業の妨害をしない限りは認められているわ」
 心配そうに尋ねてくるクリスに、私は問題ないと説明する。

「いや、そうじゃなくて、ネフィーは魔力の保管庫みたいな状態だったりもするんでしょう?」
「ネフィーの中に転移用の魔法陣も描いてあるし、必要な時は呼ぶから大丈夫よ。それに、アンも妹が出来たみたいで嬉しいって積極的にネフィーの世話をやこうとしてるし、今は一緒にいた方がネフィーとアンの成長に良さそうだもの」

「え、ネフィーって女の子だったの?」
 驚いたようにクリスが私に尋ねてくる。
「元となった木は雌雄同株で、ネフィーに性別は無いけれど、アンはそれなら女の子がいいって」
「あーそういえば、エリック君にもエリーってあだ名付けてたし、今は女の子同士で遊んでるのが楽しいのかな?」
「どうかしらね」

 なんて、他愛の無い会話をしていた日の夕方。
 学校から帰ってきたアンナリーザとネフィーは、何かうんうん唸りながら部屋に行ってしまった。
 そして夕食時まで自分の部屋に篭っていたアンナリーザは、上機嫌でネフィーを抱えて降りてきたので、私は何があったのか尋ねてみた。

「モフモフ教の教義を考えてたの!」
 すると、スープをすくうスプーン片手にアンナリーザは元気いっぱいに答える。
「そ、そう……どんな内容なの?」
 若干自分の笑顔が引きつるのを感じながらも私はその内容を聞いてみた。

「皆仲良くしましょうっていうのと、相手の嫌がる事はしちゃいけませんっていうのと、あと皆モフモフになろうっていうの!」
「まあ、最初の二つはいいけれど……モフモフになりたくない人に無理に勧めてはダメよ」
「そっか、じゃあモフモフにならなくてもいいけどモフモフは楽しいよって言う!」
「まあ、モフモフ教だものね……」
「うん!」

 元気良く頷くアンナリーザだったけれど、これ位のゆるさなら、逆にすぐ相手にもこれが子供のお遊びだと伝わるだろう。
 そう楽観的に考えていたのが28日前。

 ネフィーの改造が思ったより早く終わった私は、畑の修復や、ネフィーが食事を出来るようにする研究をするなど、余った休暇をそれなりに楽しく過ごしていた。

 しかし、休みが明けて獣人化魔法の店を再会した日、私は違和感を感じた。
 なぜか皆、妙に私の店で獣人化の施術を受ける事をありがたがるのだ。
 既に理論は確立されているし、フィオーレ美容魔術系列店の獣人化施術を行える魔術師は皆、確かな腕を持っているのでどこで施術を受けても同じなのに。

 それからしばらくして、コレットさんから実は最近、なぜか施術を受けるのは私がいいと名指しで予約を入れてくる人達が多いと連絡があった。
 おかげでしばらく私の店に来るのは私を名指しで指名した人達ばかりになるそうだ。

「うちのグループでは美容魔術の施術を施す魔術師を指名することも出来るんですが、獣人化魔術で指名というのは珍しいですし、レーナさんは何か心当たりありませんか?」
 心底不思議そうにコレットさんは尋ねてきたけれど、私も理由はわからないので明日来た人にでも直接聞いてみようと考えたのが昨日。

 そして、実際に尋ねてみたのが今日。

「やはりモフモフ教に入信するなら、教主であるレーナさんに直接獣人化してもらいたいと思いまして!」

「あの、私モフモフ教の教えを聞いたら、とても気持ちが楽になったので、レーナさんに施術を受けて直接お礼が言いたいと思ってたんです。ありがとうございました」

「モフモフ教において獣人化は必ずしも義務ではありませんが、新たに獣人化するのなら、やはり教主様直々に施術していただきたいと考えまして……」

 始めは何を言われているのかわからなかった。
 しかし、どうも彼、彼女達の話を聞いていると、最近、町全体にモフモフ教の教えが広がっているらしい。

 そしてその教義というのも、なんだか私の知っているものとは違った。

 一つ、モフモフ教は自由恋愛を推奨する。愛の前には年齢も身分も種族でさえ、関係ない。
 二つ、モフモフ教は個人の意思を尊重する。例え自分がどんなに思っていても嫌がる相手に無理に迫ってはいけない。
 三つ、モフモフ教は獣人化を推奨するが、それは義務ではない。モフモフ教は個人の意思を尊重する。
 四つ、恋人や妻、夫を複数持つ事は、両者の合意の上であるならば罪ではない。
 五つ、愛がなくなったのなら、新たな愛を探す事も罪ではない。

 何一つとして言った覚えが無い!!

 なんとなくアンナリーザが言っていた話がこう解釈されたのかな? というものもあるけれど、全く身に覚えの無いものが多い。
 というか、なんなんだ、この恋愛至上主義は……。

 しかも、話を聞いた人達には随分といい笑顔で感謝されてしまって、今更そんな事言った憶えないですとか言える空気じゃなかった。

 モフモフ教に改宗したおかげで路頭に迷っていた自分と妻の幼馴染を二人目の妻として迎える事ができたとか、素敵な男性二人に迫られて迷っていたけれど、二人を選ぶ事が出来たとか、これで気の多い息子が方々に手を出しまくって囲っていた女性達に顔向けが出来るとか言われても……。

 一夫多妻制なんて、遥か昔の、それも王族や貴族などの特権階級の富裕層にだけ許されるもので、それだって最近は一夫一妻制が普通だ。
 いろんな国にいろんな宗教があるけれど、どれだって一夫一妻制を推奨しているし、結婚後の浮気は重罪で死刑になる国だってある。

 比較的恋愛に奔放な気風のこの地域だって、誰かと結婚している間に他に手を出すのはご法度だ。
 まあ、心変わりしたらすぐ別れるので離婚率はかなり高いけれど。
 だからこそ、クリスと婚約直後のニコラスの登場はかなり周囲をざわつかせたし、クリスは何人かの女の子に一緒に私へ仕返ししようと持ちかけられた事もあったらしい。

 もちろんクリスはそんな事をするつもりはないと断ったし、もし何かしらの嫌がらせをされた所で、一般人相手に負ける気なんてしないけれど。

「なんでこんな事になってるのよ……!」
「多分、アンとネフィーが何かやったんだろうね……」
 仕事が一段落して私が嘆けば、クリスが昼食を出しながら冷静に指摘してくる。
 確かにそれ以外考えられないけど、一体何をどうやったらこんな事になるのか。

「別に良いではないですか。人間が種族全体で性に奔放なのは元からの性質なのですし、むしろ特定の相手としか関係を持たない今の方がおかしいのです」
 一方でニコラスはなぜその教義をそんなに問題視するのかわからないというように首を傾げた。

「は? 人間が種族全体で性に奔放?」
 他の魔物や動物に比べたら、理性がある分、むしろ禁欲的だと思うのだけれど。
 しかし、ニコラスの言い分ではそうではないらしい。

「身体能力でも魔法でも、手先の器用さや技術力、寿命でも他の人型種族に劣っていた人間ですが、その生殖能力の高さは人型種族の中では圧倒的でした……まあ、その他種族がいなくなったからこその現状という事でしょうか」
 どこか考え込むような様子でニコラスが言う。

「そういえば前にもそんな事、言ってたわね」
「ある日突然何者かに封印されて、目を覚ましたら知らない土地で七百年経っていて、八百年は生きるはずの同種のドラゴンが絶滅しているらしいと知った時は本当に驚きました」

「ん? ……そしたらどうして今が自分のいた時代から七百年経っているって判断したのよ。それとニコラス、あなた今何歳なの?」
 私はてっきりニコラスは七百年以上そのまま生きているのだとばかり思っていたけれど、どうやら違うらしい。
 という事は、もしかしたらニコラスは私が思っている以上に若い可能性がある。

「暦は星の巡りでわかるでしょう。歳は三百五十の男盛りですね。ちょうど適齢期と言えるでしょう」
「まあアンは適齢期じゃないけどね。というか、そんな話、初めて聞いたんだけど」
「聞かれませんでしたので」

 ニコラスのアピールに釘をさしつつ、私はふと考える。
 星の巡りで暦を見るなんて、ニコラスの元いた時代で天文学はドラゴンの一般教養だったのだろうか?
 そうなると随分とニコラスの印象が変わってくるような……いや、そうでもないか。

「あ、僕は聞いてたよ。文字とか教えてる時の雑談で」
「そう……」
 小さく手を上げて申告してくるクリス。
 なんだか仲間外れにされたような気がして寂しい。
 いや、別にクリスとニコラスが仲良くなるのは一向に構わないのだけれど。

「とにかく、人間が性に奔放なのは普通ですし、今の状況を見るに、恐らく他の人型種族が絶滅し、文化が一度途切れるような『何か』があったにも関わらず人間という種族が生き残っているのは恐らくその生殖能力の高さ故でしょう。なのでそれを伸ばす事は種の繁栄という意味でも良い事なのでは?」
 話を戻すようにニコラスは言う。

 ニコラスの仮説もわからないでもない。
 そして、そういう物事の捉え方もあるのかと感心する部分もある。
 だけど、「じゃあこれからモフモフ教を広めよっか、人類の為に!」とはならないんだけど!?
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