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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~ 作者:和久井 透夏

第6章 大きなトレントの下で♪

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#60 レーナは稼ぎたい

 ネフィーがうちの子になった翌朝、私はとりあえず事情を説明する為、母とコレットさんを呼んだ。
 母もコレットさんも、まず庭の敷地ギチギチに現れた巨大な木に困惑していたけれど、一旦家に入ってもらって私は事情を説明する。

「えっ、あの木、トレントなんですか……? それも元々エルフ教の教会で? アンちゃんと仲良くなって? モフモフ教?? に、改宗???」
 コレットさんは訳がわからないとでも言いたげに首を傾げながら疑問符を浮かべる。

 確かに、家出した娘がエルフ教の教会をトレントにして連れ出したあげく、モフモフ教とかいう訳のわからない宗教に改宗させて、最終的にトレントをうちで引き取る事になったなんて、確かにいきなりそんな言われても訳がわからないだろう。

「そもそもモフモフ教ってなんなのよ……」
「私が聞きたいわよ……多分、エルフ教の人達が実際にエルフになってるから、うちで施術して獣人になった人達はモフモフ教だ、みたいな感じなんじゃないかしらね」
 呆れたように尋ねてくる母に、私はため息交じりに答える。

「うーん、それにしても、あのトレントは随分と目立ちますし、せっかくだから何か宣伝に使いたい所ですけれど……さっきのレーナさんの話を聞くと、何か問題を起こされた時のリスクの方が高そうですね……」
 一方コレットさんは、こんな事態になってもなお、この状況を金儲けに利用できないかと考えていたようで、色々と流石だなと思った。

「ママー! 今日の分のお勉強終ったから、ネフィーと暗がりの森に行くー!」
「ええ!? 何言ってるのよアンちゃん!」
 私達がリビングで話していると、二階からアンナリーザが降りてきて、私に突進してきた。
 母は突然のアンナリーザの発言に、随分と驚いている。

「……わかったわ。とりあえず、ニコラスとクリスも一緒に行くのよ? 通話用の精霊を付けるから、何かあったら連絡する事。夕方にはこの前に競争した大きな木の前の広場に集まるのよ」
 言いながら私は椅子から立ち上がり、通話用の精霊をアンナリーザに付けた後、共に庭へと向かう。

「大丈夫! ニコもクリスも準備できてるし、早く暗がりの森に転移させてよ~」
「はいはい、しょうがないわね……」
 庭に着けば、既に身支度を終えたらしいクリスとニコラスがネフィーの前に立っていた。
 早く早くとアンナリーザが横からせがんでくる。

「それじゃあ、あんまり無茶な遊び方して精霊を振り切っちゃダメよ。クリスとニコラスもアンとネフィーの事よろしくね」
「うん、頑張るよ」
「任せてください!」

 声をかければ、クリスもニコラスも大きく頷く。
 昨日の夜のうちに打ち合わせが済んでいるので、この辺はスムーズだ。

「レ、レーナ? 一体何を……」
「ああ、アンが暗がりの森で昨日、ネフィーと遊ぶ約束しちゃったから……まあ、あそこは元々ニコラスが住んでた場所でもあるし、この辺で元気を持て余して暴れられるよりはまだいいわ」

「まだいいって……」
 すぐ後ろでわなわなした様子の母が尋ねてきたので、私が答えると、母は脱力したように呟いた。

「アンナリーザの学校と店の営業が休みの今日はいいとして、問題は学校と店の営業が始まる明日からだわ」
「……まあ、そうね」
 アンナリーザ達を暗がりの森に送った後、私達はリビングに戻り、気を取り直して話を再開する。

「そこで相談なのだけれど、うちで受け持っている予約済み人達の施術を、他の店に割り振って、しばらくの間店を休ませてもらえないかしら? 出来れば五十日……三十日でもいいから」
「それは……先日人員を増やしたので可能ではありますが、一体何をするつもりです?」
 私が話を切り出せば、コレットさんは怪訝そうな顔で私に聞き返してくる。

「とりあえず、ネフィーの独立的かつ恒久的な状態で縮小魔法をかけ続けられる仕組みを考えて実行するわ。そうでないと、色々と差しさわりがあるもの」

 庭で育てていた薬草は、元々は今の見た目を保つ美容魔術に使うために育てていた物だ。
 育てるには様子を見ながら適度な魔力を注ぐ必要があり、買うと高いので自分で育てだしたのが始まりだった。
 薬草を加工して薬にすれば、いい値段で売れるので、ちょっとした収入にもなっていた。
 庭が潰されてそれがなくなるのは色々と辛い。

 それに、現在、幹の部分だけでも庭ギリギリの大きさのネフィーは、葉や枝の部分は余裕で我が家の敷地からはみ出している。

 幸いまだ周りから苦情は来ていないけれど、あの甲高い声でアレコレと周りにいる人達に話しかけたり、退屈だからとその身体と気まぐれによじったり揺らしたり、あまつさえ一人で出かけようなんてすれば、どうなるかは火を見るより明らかだ。

 とりあえず、ネフィーには早急にその身体を小さくしてもらう必要がある。

「た、確かにそうかもしれませんが、そんなに簡単に出来るものなのですか……?」
 驚いたようにコレットさんが尋ねてくる。

「理論上は可能だと思うのよ。さっき説明した通り、ネフィー……あのトレントは、光合成で生成した酸素を使った好機呼吸で生み出したエネルギーを魔力に変換して、その魔力で活動しているのだけれど、その生み出した魔力を使って自動的に縮小魔法を自分にかけ続ける術式を組んでしまえばいけるはずだわ」

 魔術の分野においては素人であるコレットさんにもできるだけわかりやすいように説明したつもりだったけれど、それでもよくわからなかったようで、コレットさんは首を傾げた。
「……ブリジッタさん、私にはよくわからないのですが、つまり、それは出来そうなのでしょうか?」

「まあ、確かにレーナなら短期間で出来ない事も無いかもしれないけれど……研究にはそれなりの金額がかかるでしょうし、さっきの話だとエルフ教の教会を新しく建てる費用で、貯金はほとんど飛んで行くようだし……いくら必要なの?」
 母はコレットさんの話を受けて、腕を組みながら私に尋ねてくる。

「ああ、その辺はクリスとニコラスが冒険者業で稼いできてくれる事になったから、大丈夫よ」
「なっ……! じゃあなんで今日は母さんを呼んだのよ!」
 すると、なぜか母が怒ったように立ち上がる。

「仕事の調整をお願いするんだから、一応コレットさんだけじゃなく母さんにも話は通しておく必要があるでしょ。それと、近況報告?」
「……もうっ! 別にもっと母さんを頼ったっていいのよ!?」
「そうね、いざという時はお願いするわ」

 言いながら、私は母に頼るのは最終手段にしようと心に誓う。
 確かに、母に頼めば金銭的な援助もすんなり受けられるだろうけれど、そうなれば今以上にやたらと母は私にべったりと干渉してくるだろうし、事あるごとに母の価値観を尊重してそれを基本に動かなければならなくなる。

 私はそれが嫌なのだ。

 結局、コレットさんと話し合い、とりあえず三十日間の休みを貰った私は、二人が帰った後、早速基礎理論を組み立て、術式を組み始める。
 元々の動機はあまり前向きなものではなかったけれど、久しぶりに魔法の原理を踏まえて自分の望む結果を出す為の理論を立ててそれを実現させる術式を組むのは、純粋に楽しかった。

「ママー、もうお外真っ暗だよ~まだ~?」
 気が付くとすっかり日が暮れていて、私はアンナリーザからの通話用精霊を通した声でそれに気づいた。

 それから私はアンナリーザ達を暗がりの森に迎えに行く。
 遊び疲れて眠るネフィーを庭に戻し、すっかり泥だらけになったアンナリーザにお風呂に入らせている間に、クリスとニコラスにリビングで今後の予定を説明する。

「ネフィーをこのままのサイズにしておくのは色々と差しさわりがあるので、まず縮小魔法で小さくなってもらうわ」
「え、そんな便利な魔法があるなら、なんで使わなかったの?」
 私が説明すれば、不思議そうにクリスが首を傾げる。

「魔法で小さくしても一時的な効果しかない上に、より大きいものを小さくする程に魔術消費が跳ね上がるのよ。つまり、ネフィーを手頃なサイズにし続けるにはいくら魔力があっても足りないの」
「なる程……しかし、今の話し方だと、レーナはその解決策をもう見つけているのですね?」
 ニコラスが私の言葉を確認するように尋ねてくる。

「ええ、ネフィーを動かしている魔力を使ってネフィーに縮小魔法をかけ続けさせる術式の理論を組んでみたわ」
「じゃあ、それを使えばネフィーをレーナが始めに少しだけ手を加えればずっとネフィーを小さくしておくことができるって事?」

 理論を書いた紙を見せて言ってみたけれど、クリスはそれをチラッと一瞥した後、目線を私に戻して聞いてきた。
 ……確かに魔術は専門外のクリスから見たら訳わからない物なのでこの反応は仕方ないだろう。
 個人的にはかなり出来の良い物なので、ちょっと寂しい気もするけれど。

「そうよ。でも、コレを実行するには少し問題があって……」
「問題?」
 私の言葉にクリスは首を傾げる。

「圧倒的に魔力が足りない。私がコレットさんにお願いして取れた休みは三十日。私個人の魔力量じゃとても三十日でそれだけの魔力は貯められない。だけど、外部から足りない分を買ってくる事は出来る。だけど、この前エルフ教の教会の建設費用を払ったせいで今の私には貯金もほとんど無い」

「……つまり?」
「稼ぐわよ。明日から」
 どこか顔が引きつった様子のクリスに、笑顔で私は答える。

 私がいれば、Sランク任務だって受けられるし、ニコラスもいれば大人数向けのAランク任務も少人数で受けることも出来る。
 ……問題は、アンナリーザは学校、私やクリス、ニコラスが仕事に行っている間、ネフィーが大人しく待っていてくれるか、という事だけれど。
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