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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~ 作者:和久井 透夏

第6章 大きなトレントの下で♪

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#59 尊重されるもの

「毎日!? それでは通常業務に支障が出てしまいます……」
 エルフ教の人達も、流石にざわつき出す。
 流石に毎日教会がピクニックに出かけてていないなんて事になると、もう元来の教会の働きを果たしているとは言えないだろう。

「アン、本当に毎日ネフライトと遊びまわるつもり……?」
「うん! ネフィーの事はちゃんと私がお世話するし、いいでしょう?」
 以前そう言って拾ってきたドラゴンに、今では逆にめんどうを見てもらっているくせに何を言っているのだろう。
 第一、身体の大きさも力の強さも規格外のネフィーを、何かあった時にアンナリーザが一人でどうにかできるとも思えない。

「ネフィーの身体で町中を走ったら大変な事になってしまうわ」
「あっ、じゃあそろそろ私にも転移魔法教えてよ! 暗がりの森まですぐに行けるよ!」
 私が軽く頭を抑えながら言えば、良い事を思いついたとばかりに私に転移魔法を教えるようにねだってくる。

「アンにはまだ早いからダメよ」
 長距離の移動方法が飛行魔法だけの今の状態でさえ、こんな事になっているというのに、そのうえ移動魔法まで覚えられたら、それこそ、もう私の手には負えない。

「もうっ! じゃあママが森まで送ってよね!」
「なんでそうなるのよ……」
 というか、なんで転移魔法を教えない私が悪いみたいになるのよ。

「とにかく! ネフィーはレーナの家の子になって毎日アンと遊ぶの!」
「ネフライト、遊び相手ならエルフ教にも沢山いるわよ!」
 そして、私がアンと言い合っている間に、こちらもヒートアップしてきたようだ。

「だってエルフ教の皆は突然難しい話で盛り上がったり突然静かになってネフィーにも静かにするように言うし、つまらないんだもん! ネフィーはもっと遊んだり冒険したりしたいの!」
「ネフライト、あなたは自分がなんのために生まれたと思っているの!?」
「そんなの知らない! ネフィーはネフィーだもん!」

 ドスン。
 と、癇癪を起こしたようにネフィーが大きな木の根を踏み鳴らす。
 その風圧で舞い上がった土煙がエルフ教の人達を襲う。

「仕方ない、ここまで言ってもわからないのなら、こっちにも考えがあります!」
 とうとう頭にきたらしい、お姉さんは、右手を天に向かって高く上げた。
 直後、辺りに巨大な魔法陣が出現して、ネフィーやエルフ教の人達を丸ごと包み込む。

「ぴゃっ!?」
 ネフィーが驚いて声を上げた次の瞬間には、ネフィーは周りに障害物の無い、大きな広場のような場所に移動していた。

 ネフィーの窓から顔を出して辺りを見渡せば、巨大な建物があり、周りの様子を見るに、ここは学校の校庭らしい。
 状況から考えるに、多分ここがアリシア魔術学院なのだろう。
 校舎にはまばらに灯りがついている場所もあったけれど、大部分は灯りが消えている。

「なにこれー! ネフィー動けないー!」
 ネフィーは身体を揺らしながらじたばたしたけれど、思うように動けないらしい。
 転移した瞬間に発動する拘束術式でも組んであったのだろう。
 中にいる私達はなんともないので、その辺は配慮してくれているらしい。

「ネフィー、しばらくはここで大人しく……」
「こんなのつまらないもん……!!」

 お姉さんの言葉を遮るようにネフィーが言った直後、ネフィーの目の前に大きな光の玉が現れたかと思うと、それがエルフ教の人達のいる所へと直撃した。

「そんなっ……!」
 思わず私は声を上げたけれど、そのすぐ後に光の玉はエルフ教の人が張った結界により弾かれる。
 そして、その弾かれた光の玉はアリシア魔術学院の校舎へと向かい、灯りが消えていた塔の一角を吹き飛ばした。

「キャー! ネフィーすごいすごーい!」
 まるで花火を見た子供のように、アンナリーザが手を叩いて大喜びしている。

「損害っ、賠償……!」
 一方私は決して安くないであろう建物の修理費用を思って気が遠くなった。
 しかも、もし建物内に保存されていた高価な品にも被害が出ていたら……それを考えたら、足元から力が抜ける。

「レーナ! しっかりして! ブリジッタさんやコレットさんに相談すれば、まだ何とかなるかもしれないよ!?」
「ううう……それが嫌なのよ……でも、返すには、もう…………!」
 ふらついた私を抱きとめたクリスが気を確かに持つように言ってくるけれど、私としては、あの母にお金を借りるなんて事は絶対に避けたいのだ。
 でも、これはもう私個人で支払える額ではないかもしれない。

「今のすごかったねー! ネフィー……ネフィー?」
「むー……ネフィー、モフモフ……の、教会……なる……もん……」
 アンナリーザが興奮気味に話しかけるけれど、ネフィーの意識が朦朧としている。
 暗くなってからは部屋を照らしていた魔法石の光も、何度かチラついた後、ゆっくりと消えていく。

「どうやら日中に貯めていた魔力を使い果たしたようね。たぶんまた日の光があたれば魔力の生成ができるようになって、目を覚ますわ」
「ネフィー寝ちゃったの?」
「そうね」
 照明魔法で辺りを照らしながら、私が推測すれば、アンナリーザが心配そうに私に尋ねてきたので、私は静かに頷く。



「とりあえず、これで一件落着ね」
 ネフィーの外に出て、エルフ教の人と今後の事を大まかに打ち合わせをした後、私はアンナリーザ達にもう用事は済んだので帰ろうと声をかける。

「え? ネフィーは? うちの子になるんじゃないの?」
「でも、エルフ教の許しは得られなかったみたいだし、仕方がないわね」
「そんなのヤダもん!」
 私が答えれば、案の定アンナリーザが不満そうに声を上げる。

「ダダをこねても結果は一緒よ」
「やぁだぁぁぁぁ!!!!」
 涙をポロポロと瞳からこぼしながら、アンナリーザがその場にしゃがみ込む。

「アンちゃん、今度都合のいい日にでもまた遊びに来てください。その時はネフライトと一緒にお出かけしましょう」
 先程ネフィーを説得していた、実はエルフ教の代表だというお姉さん、ルチルさんは、アンナリーザの前までやってくると、しゃがんで目線を合わせて、優しく言い聞かせる。

「ネフィーは私の家の子になるって言ったもん……ママもいいって言ったもん……」
「アン、わがままを言ってお姉さんを困らせてはいけないわよ」
 そう言いながら私はアンナリーザの頭を撫でる。
 コレはしばらく立ち直るのに時間がかかるかもしれない。

「それにしても、エルフ教と言うからどんな宗教かと思っていましたが、やはり種族を改変しても所詮は上っ面だけの真似事でしたか……」
「え……?」

 突然、すぐ後ろで聞えた声に、私は振り返る。
 今までずっと大人しく事態を見守っていたニコラスが、薄い笑みを浮かべてエルフ教の人達を見ている。

「自らエルフと名乗り、自然との調和を歌い、教会をわざわざ木で作って、コミュニケーションを取りたいからとトレントにまでしておいて、結局そのトレントの意思は無視するのだなあと思いまして」
「……何を言ってるのよニコラス?」

 本当に急に何を言っているのだろう。
 せっかく話がまとまりかけているのに、なぜ、混ぜっ返すような事をするのか。

「大層な理想を掲げた所で、自分の意見が通らなければ無理矢理に相手をねじ伏せて相手の意見を捻じ曲げるのなら、意思なんて持たせるべきじゃなかったと思うだけです。力づくで生まれて初めて持った願望を打ち砕かれ、虐げられたネフィーは、あなたたちに何を思うのでしょうね」

「私達が、間違っているとでも……?」
 途端に辺りはしんと静まり返って、重苦しい空気が流れる。

「さあ、生憎と私は人間ではないので、人間の価値観はわかりかねます。ただ、本物のエルフを知っていたもので、少し懐かしくなって口が滑ってしまいました。申し訳ございません。そもそも、あなた達は見た目と名前だけ同じだけの別物だというのに」

「ニコラス、少し黙りなさい。すいません! 私達はもう帰ります! 今回の事で壊してしまった町の修繕費や怪我人がいた場合の治療費、減った備蓄食糧分は後で私に請求してください! 大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません!」

 これ以上はいけないと判断した私は、ニコラスとエルフ教の人達の間に割って入って、話の話題を変えつつ、さっさと退散しようとする。

「……いえ、町の修繕費などは私達が独断でやった事ですし、備蓄食糧分のお金も要りません」
「……へ?」
 ルチルさんは静かに首を横に振る。

「代わりにレーナさんには、新しいエルフ教の教会を立てる費用と、その設備を整えるのにかかった費用をお支払いいただければと思います」
「それって……」
 何か、とてつもなく嫌な予感がする。

「レーナさん、ネフライトのネフィーの事をよろしくお願いします。そちらにいるドラゴンの彼の言葉で、我々はギリギリで気づく事ができました。ネフィーはもう、我々の所有物じゃない、自我を持ったその瞬間から、それは尊重されるべき個であったのです」
「あっ……はい……」

 憂いを帯びた笑顔を浮かべるルチルさんの後ろに目を向ければ、エルフ教の人達が皆、静かに泣きながらルチルさんの話に頷いたり跪いたりしている。
 すっかりニコラスの今の言葉に説得されてしまったらしい。



 こうして、この日からネフィーが私の家の子になった。
 普通に買うととんでもない値段になる庭の薬草達のスペースは奪われ、南側の庭の敷地ギチギチにネフィーが居座る事になった。
 我が家は常に日陰となり、窓辺や屋根上で薬草を育てることも出来ない。

 加えて、新たに教会を立てるというのもかなりお金がかかる為、ここ最近、私が必死に働いて貯めてきた貯金は一瞬にして消えた。
 今度は普通の教会を建てるという事で、かろうじて母に借金せずに済んだ事が、せめてもの救いだ。
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