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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~ 作者:和久井 透夏

第6章 大きなトレントの下で♪

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#57 仲直り

「アン! 迎えに来たわ。一緒に帰りましょう!」
「やだ! 私はここに住むの!」
 声をかければ、アンナリーザはぷいっと拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

「わがまま言ってないでさっさと降りてきなさい」
「わがままじゃないもん! ネフィー!」

 私の言葉に怒ったらしいアンナリーザがトレントに声をかけると、突然足元から木の根のような物が出てきて、私の身体を拘束した。
 足が床から浮いて、私は拘束されたまま宙ぶらりんのような格好になる。

「ちょっと、放してちょうだい!」
「やだ! ママもニコもクリスもずっとここで一緒に暮らすの! お仕事もしないでずっと私と遊ぶの!」
 私が抗議すれば、アンナリーザは不服そうに声を上げる。
 そんな監禁みたいな生活ごめんだ。

 さっさと私の身体にまとわりつく木の根を切ってしまおうとして私はハッとした。
 一応このトレントはエルフ教の持ち物なので、下手に危害を加えるのはよろしくないかもしれない。
 自我もあるようだし、もし痛覚もあるとすると、痛いと騒いで暴れる可能性もゼロじゃない。

「アンとずっと一緒に毎日遊んで暮らす生活ですか……ふむ」
 一方、アンナリーザの言葉に何か考えるような様子でニコラスは頷く。

「ニコラス! 何ちょっといいかもみたいな顔してるのよ!」
「いえ、しかし、当初の私の目的はそれですし……」
「ニコ、ここでずっと一緒に暮らそうよ!」
「もちろんです! アン!」
「ニコラス!?」

 アンナリーザを迎えに来たはずなのに……ちょろい。
 なんてちょろいドラゴンなんだ。

「クリスも賛成でしょ?」
「うーん、その場合、学校はどうするの? もうデボラちゃんやダリアちゃん、エリック君やテオバルト先生にも会えなくなっちゃうよ?」

 次にクリスを説得しようとアンナリーザが声をかければ、クリスはちょっと考えるような素振りを見せた後、首を傾げながら優しくアンナリーザに尋ねた。

「えっ! あっ!? じゃあここから学校に通う!」
「そっか、でも、僕達が生活していくお金はどうしよう? 見た所、今ここには色んな食べ物があるみたいだけど、それだってその内なくなっちゃうし、新しく買うためにはお金が必要でしょう?」
「うー……」

 優しく諭すようにクリスが聞けば、アンナリーザは困ったように言葉をつまらせる。
「大丈夫ですアン! 森に行けば、食べられる植物や生き物が沢山います! そこで自給自足をすればいいのです!」
 しかしその直後、ニコラスが自信たっぷりにアンナリーザに進言する。

「そっか! じゃあそうする!」
「ニコ!?」
 アンナリーザはその手があったかとばかりに目を輝かせ、クリスは驚いたようにニコラスを見る。
 ダメだこのドラゴン。

「そう、じゃあそうしたければそうすればいいわ。だけど、私は元の生活の方が好きだから、そっちで暮らすわね」
 身体に巻きつく木の根だかつるだかよくわからない物をひっぱったり身体をよじったりしながら私は言う。
 だめだ、まるでびくともしない。
 やはりコレはもう魔法で切ってしまうしかないのだろうか。

「ダメ! ママはずっとここで私と暮らすの! 私に魔法を教えたり、一緒に魔法の研究したりして過ごすの!」
「でも、魔法を勉強するのもお金がかかるのよ? 学校に行くのだってお金がかかるし、例えばアンが今首から下げている人工魔法石だって、作るのにはとってもお金がかかるのよ?」

 例えば氷結魔法で一気に身体に巻きつくこれらを凍らせて砕いてしまえば、万が一このトレントに痛覚があったとしてもそこまで騒がれないだろうか。

 このトレントの精神年齢は随分と低そうだし、トレントの図体や私達がその体内にいる事を考えると、下手に刺激して混乱させたり暴れさせるのは得策じゃない。
 アンナリーザと話しながら、そんな事を考える。

「で、でも……」
「魔法の勉強や研究はお金がとってもかかるの。だから、働いてお金を稼がないとそれはできないし、私がお金を稼いでアンを学校に通わせるなら、元の家の方が通学にも便利でしょう?」

「…………もん……」
「え? 何?」
 とりあえず一度、凍らせてみよう。と思った時、アンナリーザが俯きながら何か言った。
 上手く聞きとれなくて、私は聞き返す。

「うわあああああああああああん!!! ママなんて嫌いだもんんんんん!!!!!!」
 直後、顔を上げたアンナリーザが大声で泣き出した。

「えっえっ!? アン泣かないでー! なんでアンをいじめるのー!!」
「いじめてないっ! っ……!?」
 泣き出したアンナリーザに動揺したらしいトレントが、抗議するように拘束した私の身体をゆさゆさと揺さぶる。

「レーナ!」
 突然興奮しだしたトレントに、クリスは焦った様子で私の身体に巻きついた木の根を剣で切って、支えを失った私を受け止める。

「ぴゃっ!!」
 突然の事に驚いたらしいトレントは、声をあげて飛び上がった。
 比喩ではなく、実際に。
 おかげで私達の身体は突然宙を舞う事になった。

「にゃっ!?」
「アン!」

 突然の事に反応が遅れたアンナリーザが祭壇から転げ落ちそうになるのを、咄嗟に私は浮遊魔法で阻止する。
 そのまま宙に浮いたアンナリーザを私の元まで移動させて、抱きとめる。
 今のアンナリーザなら、その気になればいくらでも抵抗できそうなのに、なぜか大人しく私のされるがままだった。

「アン……?」
「………………」
 さっきまで拗ねていたはずのアンナリーザは、今度は私の胸に顔を埋めてしがみつくと、そのまま黙ってしまった。

「レーナ、確かにレーナの言ってた事は正しいけど、理詰めで言っても解決しない事ってあるよ。今はアンを説得するよりも、まず言う事があるんじゃないの?」
 どうしていいのかわからず私が困っていると、目の前のクリスが困ったように笑いながら私に言う。

 ……今、私がアンナリーザに言うべき事。

「アン、無事でよかったわ。急にいなくなったら心配するじゃない」
「……うそだ! ママは私の事なんてどうでもいいんだ!」
 アンナリーザの頭を撫でながら私が言えば、すぐにアンナリーザから否定の言葉が返って来た。
 けれど、アンナリーザは私の胸に顔を埋めてしがみついたまま、動く気配が無い。

 そうだ。
 私はまず、この事をアンナリーザに会ったら伝えなくちゃいけなかったんだ。

「どうでも良かったらこんな所までわざわざ迎えに来ないわよ。仕事が忙しくて寂しい思いをさせちゃってごめんなさい。でも、獣人魔法を使える人を増やしてもらったから、また前みたいにアンの勉強を見たり、一緒に出かけたりできるようになるわ」

「この前もそう言って最初は良かったけど、その後すぐに忙しくなったもん……」
 私に抱きつくアンナリーザの腕に力が篭る。

「……そうね。ごめんね。確かに、今回一時的に仕事が楽になったからと言って、それがずっと続くかはわからない。だけどね、私が働くのはアンに好きなだけ魔法の勉強をして欲しいからだし、ママはアンが大好きよ」
 私が語りかければ、アンナリーザがおずおずと顔を上げて私を見る。

「……どれくらい?」
「ママにはね、好きな物や事、人が沢山あるけれど、そのどれだって、その全部が束になってかかってきたって敵わないくらい、アンが大好きよ」
「じゃあ、私がママにお仕事やめてって言ったらやめてくれる?」
 どこか疑うような、甘えるような顔でアンナリーザが尋ねてきた。

「もしもアンが本当に嫌だって言うならやめるわ。だけどね、そしたらアンに毎日美味しいご飯を食べさせて上げられないし、可愛い服も、魔法道具も用意してあげられないわ。アンの好きなお菓子だって買ってあげられなくなるわ」
「…………」

 なぜ私が働くのか、お金が必要なのか、という事を、私はできるだけわかりやすくアンナリーザに説明する。
 ここで下手にごまかしても、きっとアンナリーザは納得しない。

「ママはアンがいてくれたら十分だけど、できるならアンにいっぱい笑って喜んで欲しいし、色んな事を知って、困った時、私が助けられないような時も、自分で問題を解決して泣かないで済むようになって欲しいの」

 だから私はアンナリーザの為に色々とお金をかける。
 もちろんアンナリーザには私の研究を引き継いでもらいたいという思いもあるし、アンナリーザを作った理由はそうだけれど、今はそれ以上にアンナリーザに幸せになってほしいと思っている。

「ママは、私が泣くのは嫌なの?」
 私を見上げながら尋ねてくるアンナリーザに、私は大きく頷く。

「ええ、大好きなアンが悲しいと、ママも悲しくなってしまうもの。だから、ママがお仕事する事でアンが泣いてしまうならもうお仕事はやめるわ。だけどね、ママはアンに泣いて欲しくないのと同じ位アンに喜んでもらいたいと思ってて、お金がないとそれは難しいの」

「……可愛い服も、魔法道具も、お菓子も、お金がないと買えないから?」
「そうね。あと、学校に行くのにもお金はかかるのよ?」
 私の言葉を繰り返すようにアンナリーザが聞いてくるので、私もそれに答える。

「うー……」
 アンナリーザは困ったような顔で唇を尖らせた。

「だから、これからは出来る限りお仕事の量は減らしていくけれど、それでもどうしても忙しい時期は、アンも応援してくれたら、ママは嬉しいな」
「……そしたら、今みたいにいっぱいなでなでして、ぎゅってしてくれる?」
「いくらでもするわ」
「……じゃあ、もうちょっとこうしてて」
「はいはい」

 そうして私はしばらくアンナリーザを抱きしめながら頭を撫でる。
 クリスは安心したように笑っていたし、ニコラスは所在無さげにソワソワしてた。

「アンとアンのママ、仲直りしたの?」
「うん!」
「そうね」
 しばらくして、トレントが尋ねてきたので、私とアンはそれに頷く。

「良かった! これでネフィーも安心してモフモフ教の教会になれるね!」
「ん?」
 なぜ、そういう事になるのだろう。
 トレントの言葉に、私は固まった。
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