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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~ 作者:和久井 透夏

第6章 大きなトレントの下で♪

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#53 ママなんて知らないっ

「レーナ、最近は獣人化の仕事に大忙しみたいだな」
「ええ、でも今日から他の店舗で施術できる魔術師を増えて予約分を他に割り振れるようになったから、大分楽になったわ」

 今日の予約分の施術が一段落して一息ついていた頃、テオバルトが訪ねてきた。
 追い返しても後々めんどうな事になりそうだったので、私はとりあえずお茶でも出して彼の話をいくらか聞いてやることにした。

「……最近ではすっかり獣人の姿も珍しいものではなくなった。他の地域から獣人になるためにわざわざ立ち寄る冒険者もいるらしいな」
「そうね、そういうお客さんも最近では多いわね」

 むしろ、最近ではそれ目的でこの町に観光に来る人も少なくない。
 ファッションとして流行り出してからは、冒険者だけでなく、一部の富裕層も施術希望でやってくるようになった。

「最近では、西のエルフ、東の獣人、なんて言われ方までされている。この頃、急にこの国でエルフだの獣人だのが流行り出した。エルフ教について、君はどう考える?」
「エルフ教? なにそれ、初耳ね」

 耳慣れない言葉に私は首を傾げる。
 というか、なんで私が知っている前提で話を進めようとしているのよ。

「……エルフ教は自然との調和、魔術の伝統を重んじつつ未来への発展に貢献する事を教義とした最近西側で勢力を伸ばしている新興宗教だ」
「ふーん、入信するとリザレクションの応用魔法でエルフにされるとか?」
 私が尋ねれば、テオバルトはこれ見よがしにため息をついた。

「知ってるじゃないか」
「知らないわよ。思いつきで言っただけ。それは誰でも入れるものなの?」
「……いや、魔術の素養のある人間だけらしい」
 ちょっとムッとしながら私が聞けば、テオバルトは静かに首を横に振った。

「まあ、物語の中のエルフのイメージだと、魔法が得意そうだものね……西というと、アリシア魔術学院があるところかしら」
 言いながら私は研究の難易度ではオフィーリア魔術学院と双璧を成すといわれるアリシア魔術学院を思い出す。

 最新の魔術研究に力を入れているのがオフィーリア魔術学院なら、アリシア魔術学院は失われた古代魔法を研究に力を入れている。
 今日まで伝わっている歴史で、信憑性が高いとされているものは大体二百年前までの物だ。

 それ以前の物はエルフだとか獣人、巨人など、御伽噺に出てくるような種族が当たり前のように出てくるものばかりで現実にはありえないとされているからだ。
 しかしその二百年以上前の言い伝えや伝承には現代では考えられないような魔法が数多存在しているので、その魔法の謎を解き明かして復活させるというのが目的だ。

 もっとも、以前ニコラスの言っていた話では七百年前までは本当に獣人もいたらしいけれど、今はもういないようだし、下手に考古学的な大発見だなんだと騒がれてこれ以上注目されたくない。
 それに、十分な技術も確立されていない過去の不確かな伝説を頼りに魔術を組み立てるよりは、同じような働きをするより効率のいい魔術を新たに考える方が建設的だと私は思う。

「先日、俺に促成魔法の監修をして欲しいという依頼がエルフ教団から入った。大木の中に教会を作りたい、だけど木は生かしたいと言うから、どうやったら木を思い通りの形に成長させられるかを実際にやって見せたんだ」
「テオバルトは相変わらず、頼まれたらどこにでも行って技術指導するのね」

 テオバルトは、昔から頼まれれば自分の考案した技術や理論を惜しみなく周りに伝える。
 それが社会や世界の発展に貢献すると信じているからだ。
 確かにそれはそうなのかもしれないけれど、私はたとえ有償でもほいほい自分が心血注いでやっとの思いで作り出した自分の研究成果を簡単に周囲に教える気にはなれない。

「それが俺の仕事だからな。その時ついでに挨拶に行って知ったんだが、アリシア魔術学院では、講師も生徒も全員エルフになっていた。強制ではなく全員の自由意志だと言っていたが、どうもきな臭い」
「まあ、もしエルフになる事によって魔法適性が強化されるのなら、便利だし魔術を志す人間なら皆入信しちゃうんじゃないかしら」
 テオバルトは随分と深刻そうに言うけれど、流行だとか、同調圧力とかでその辺は簡単に説明できそうな気がする。

 もし、入信するのに大したコストもかからず、エルフになることで魔法を使う時に何かしら有利になる点があるとするならば、逆に魔術を学ぼうとしている人間が入信しない理由がわからない。
 宗教上の理由で入信しないというのなら、古代魔法を研究している学校は他にもあるので他の学校に行けばいいだけでだ。

「……あくまで何も話すつもりは無いという事か」
「話すも何も、最初から知らないわよ」
「……まあいい。ところでレーナ、もう少しアンの事を構ってやったらどうだ、学校でも随分落ち込んでいたぞ」

 何か諦めたようにテオバルトはため息をつくと、思い出したようにアンナリーザの名前を出した。
 こっちは単純に教師や同じ年頃の子供を持つ親としての意見だろう。

「それは私も悪かったとは思ってるわ。今日から大分仕事が楽になったし、今まで構ってあげられなかった分は今日からなんとかしたいわね」
 とりあえず、今日の晩御飯はアンナリーザの好物を揃えてあげよう。

「アンは前にレーナが週刊オーディエンスにゴシップ記事を書かれた時、怒ってエリックと一緒に新聞社を襲撃しようとした位、レーナの事が大好きなんだ。それだけはわかってやってくれ」
「待って、新聞社襲撃しようとしてたなんて聞いてないんだけど!?」
 突然の話に、私は耳を疑った。

「新聞が出た翌日にアンが我が家に来た時、エリックから新聞を見せられたらしい。詳しい意味はわからなかったみたいだが母親が悪く書かれてる事はわかったみたいで、エリックと新聞社を爆破する算段を立てていたよ」

 正直、あの二人ならやりかねない。

「……それが起こってないって事は、その計画は流れたの?」
「ああ。俺が復讐は悲しみと憎しみしか生まない、俺もレーナもそんな事は望まないと説得したら、二人共わかってくれたよ」
「…………確かに望まないけど……まあ、ありがとう」
 なんだろう、一応テオバルトのフォローで事前にトラブル回避できて助かったはずなのに、なんかむかつく。

 その日の夜、アンナリーザはなぜか不機嫌だった。
 大好きなクリームチーズ入りのパンや厚切りベーコンと香草のスープを前にしても一瞬目を輝かせた後、すぐにふくれっ面になってしまう。

 デザートにうさぎの形に切ったリンジーの実を出しても、
「こんなの嬉しくないもん!」
 と言いながら完食していた。

「今日はママと一緒に寝ない! ニコと一緒に寝る!」
 夜になると、寝巻き姿で枕を持参で私の部屋に来たアンナリーザがそう宣言してきた。
 元々別々に寝てたので今更申告もいらない気はする。

「とりあえず、ニコはやめなさい」
 一応、使役魔法でアンナリーザに手を出せないようにはしているけれど、まだ子供のアンナリーザを今すぐ嫁にするだとか言っているドラゴンと二人きりで寝るのにはあんまり賛成できない。
 私が答えると、なぜだかアンナリーザが急に嬉しそうな顔になった。

「まあ、私とも寝たくないなら、間を取ってクリスと一緒に寝たらいいんじゃないかしら?」
 折衷案を私が提案すると、アンナリーザはまたぷくーっと頬を膨らませる。
「もうっ! ママなんて知らない!」

 アンナリーザはそう言うとドアを勢い良く閉めて、バタバタと足音を立てながらどこかへ行ってしまった。
 ……なんなのだろう。
 もしかしたら、これが反抗期というものなのかもしれない。
 私はその夜、娘の成長を感じつつ、眠りについた。

 翌朝、いつまで経っても起きてこないアンナリーザを起こしに行くと、部屋には誰もいなかった。
 ベッドの上には
 『旅にでます アンナリーザ』
 と書かれた書置きが置かれていて、私はその状況を理解するのに少し時間がかかった。
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