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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~ 作者:和久井 透夏

第3章 パパなんて嘘さ♪

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#25 修羅場の騎士

「修羅場の騎士?」
 リアに出された紅茶を一口飲んでから首を傾げる。

「そう、Aランクの騎士らしいんだけど、いつも彼を巡って複数の女の子が修羅場を繰り広げてるからそう呼ばれてるんだって」
「戦い方とかじゃなくて、そっちの修羅場なのね……」

 私は今、リアに誘われて、彼女おすすめの喫茶店のテラス席でお茶とケーキを楽しんでいる。
 森に引き篭もって研究に明け暮れてた頃は稼いだお金はほとんど研究費用につぎ込んでいたので、あまり嗜好品には手を出せなかった。

 だけど、アンナリーザが完成して金銭的に余裕が出来た今は、もう何の憂いも無く優雅なお茶会を楽しめる。
 こんな洒落た店に足を踏み入れたのも何年ぶりだろうか。
 たまにはこんなのも悪くない。

「それでね、すっごいイケメンらしいわよ。プラチナブロンドにエメラルドの瞳、紳士的で柔らかな物腰は正に王子様って感じみたい」
「ふーん、王子様ねえ……」

 リアの話に相槌を打ちながら、そういえば私の昔の知り合いにもそんな子いたなあ……と、まだ冒険者になりたての頃に知り合った、剣士の事を思い出す。

「なんか告白される度に自分には心に決めた人がいるって言って断ってるらしいんだけど……」
「というか、その修羅場の騎士さんは最近この町に着たばかりのはずなのに、随分と情報が多いのね」
 そんな他愛の無い話をリアとしていると、突然横から声をかけられた。

「レティシア? レティシアじゃないか!」
「クリス……?」
「そうだよ! わあっ、久しぶり、僕の事覚えててくれてたんだね。嬉しいよ! 八年ぶりかな?」

 声のする方に顔を向ければ、ちょうど先程思い浮かべた人物が現れた。
 私の記憶よりも少し成長して大人っぽくなっているけれど。

「えっ、お姉ちゃん知り合い!?」
「昔、同じパーティーにいたんですよ」
 驚くリアにクリスがにっこりと笑って答える。

「初耳なんだけど!?」
「言ってないもの」
 まるで抗議するかのようにリアは言ってきたけれど、私はそれを受け流す。

「え、あれ? というか、八年ぶり? 失礼だけれど、二人は一体どういう関係なのかしら?」
 リアは半ば強引にクリスに同じテーブルの席に座らせて、前のめりになりながら尋ねる。

「八年前は僕もまだ駆け出しの剣士でしたので、レティシアさんにはよく助けられていて、色々とお世話になったんですよ」
「その色々を詳しく聞かせてもらっていいかしら? あと、当時のお姉ちゃんの交友関係も」

「急にどうしたのよ、リア」
「だって、アンナリーザちゃん今七歳なんだから、逆算したらその時期くらいの子でしょ?」
 嫌な予感がして尋ねてみれば、想像通りの答えが返ってきて私は頭を抱えたくなった。

「え、子供……?」
「いやいやいや、別にいいじゃないそんな事、アンナリーザの親は私一人よ。大体、今続いてないって事はもう終わってるって事だもの。大事なのはこれからだわ!」
 いぶかしげに聞き返してくるクリスに、何とか私は話を逸らそうとする。

「確かに今一緒にいないところを見ると相手の男の人とは色々あったんだろうけど、だって純粋に気になるじゃない!」
 だけど、リアはとてもまっすぐな瞳で、思いっきり話を蒸し返してくる。

「待ってください、今、レティシアには子供がいるのですか……?」
「ええ。母親似のとても元気な七歳の女の子がいるわ。何か心当たりは無いかしら?」
 クリスが真剣な顔になって尋ねれば、とても力強い頷きと共にリアが答える。

「ある訳ないでしょう……?」
 お願いだから、この話もう終わりにしない?
 そう言いたくて仕方ないけれど、言った所で終わる訳がない事はわかりきっているので言わない。

「いや、時期的に全く知らなくはないかもしれないでしょ?」
「一つ、確認したいことがあるのですが、レティシアは今、独り身で、今後そうでなくなる予定もないのですか?」
「そうなのよ。母や私の知り合いを紹介したりあちこちに声をかけてるんだけど、お姉ちゃん全く興味を示さなくて。もしかして忘れられない人でもいるのかな、なんて思ったの」
 しかも、私が黙っていても、二人でドンドンまずい方向に話を進めていく。

「……その子の父親、僕かもしれないです」
「は?」
 深刻そうな顔でクリスが言う。
 そんな事、ある訳が無い。
 第一、クリスとそんな事をした憶えもない。

「ええっ!? もしかしたらと思ってたけど、本当にそうなの!?」
「あの時の子供か……! という心当たりも、確かにあるんです」
「急に何を言ってるのかな、君は」

 本当に何を言っているのだろう。
 何を根拠にあの時の子なのか。
 そもそも、あの時ってどの時??
 どんどん話おかしなことになってきた。

「レティシア! 当時の僕はまだ子供で頼りなかったのはわかります! でも、今はあなたにふさわしい男になれるよう成長したつもりです! どうか、僕に責任をとらせてくれませんか……?」
 クリスは急に私の方に向き直ると、片ひざを付いて私の左手を両手で包み込み、懇願するように私を見上げてくる。

 ……この表情には私は見覚えがあった。
「はっ!? わかったわよ!? あなたがそんな物言いをするって事は……!」
 慌ててあたりを見回すと、ちょうど背後から甲高い女の子の声がした。

「そんなとこにいたんですのねクリス様!」
「わたくしというものがありながらあなたって人は!」
「早くその二人に説明してよ! 私こそがあなたの真の恋人なんだって!」

 三人の可愛らしい女の子が、それぞれ興奮した様子でこちらにやってくる。
「違う、僕がずっと思っていたのはこの人なんだ!」
 彼女達が私達の目の前までやって来た直後、クリスは演技がかった大げさな口調で彼女達に言った。

「やっぱり……」
 私はぼそりと呟きながら小さくため息をついた。
 クリスは昔からよく女の子にモテた。
 そして、私は彼女の女の子避けとしてよく恋人役にされていたのだ。

 ……そう、彼女。
 クリスは女だ。
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