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第七話 『逃げ出すぜ、あばよッ!』
「いてぇ……」
 時間帯で言えば午前五時半ぐらい。窓の外は薄っすらと明るくなり始めている。
 俺は気がついたら自分の部屋のベットの上で寝かされていた。
 誰がやったか検討もつかないが、身体に変な塗り薬を塗られそれを包帯で綺麗に巻かれていた。
 一応処置なんだろうが、寝かせる場所が悪すぎる。硬いベットの上に寝かせられるんじゃたまったもんじゃない。
 寝返りを打つたびに身体の節々が痛み、睡眠なんてとってられる状況じゃねぇ。
 そんな感じで意識が戻ってからはずっと痛みに耐えながら眠ることも出来ずにただもぞもぞと動いてるだけだった。
 何も知らない奴が居たら変な奴だと笑うかも知れないが、マジで一遍味わってみろと叫びたくなるような心境だ。
 それにしても訳がわからない。なんで急にエリファは弓なんかを向けたんだろうか。
 俺のカミソリより鋭い頭で考えてみるが、わかるわけがない。所詮一枚刃のカミソリなんてその程度さ。
 流石に寝たままでは身体が痛いので水でも飲むか。
 身体に渇を居れ、俺はヨタヨタと水飲み場まで歩く。
「やっべぇ、五臓六腑にしみわたるぅ」
 五臓六腑っつうのが何処を指しているか解らんが、とりあえず身体の中を指しているんならあながち間違いではないだろう。
「そして迷った」
 薄っすらと明るくなり始めた時間帯とはいえ、まだ暗い。
 おまけに俺は満身創痍。そりゃ迷うはずだ。いや、自分を正当化してるわけじゃぁないぞ決して。
「ん?」
 ふと扉から明かりが漏れているのが解った。
 大抵こういうの覗き見るとろくな事がないのがセオリーだが、とりあえず気になるっつーの。
 大丈夫、子供が見たくないものを見る確率は0%親は此処には居ないからな。
 俺はやれば出来る子なんだ。
 自分に気合を入れて、そっとその扉に近寄る。
「と、言うことがありまして……」
「そう、それでその傷」
 聞いた感じ女同士が話しているようだ。扉ごしなのであまり声が聞き取りにくいが。
 とりあえずこんな朝早くにひっそりと話をするなんてただ事じゃなさそうだ。
「と、言うわけで真田様には私たちと同じです」
「となると、鍛えれば貴重な戦力になりそうと?」
 ちょっとまて、今俺の名前が出たよなッ!? もう盗み聞きが悪いとか関係ねェ、俺の問題じゃんよ。
 少し距離を開けていたのだが、扉にべったりと密着するぐらいまで身体を寄せる。
「はい、今日も、意識が飛ぶ寸前に障壁を張りましたし。多分身の危険が訪れれば、防衛本能のようなもので咄嗟に反応するようです」
 この声、エリファなのか?
 近寄ることでなんとか声の主を一人判明できた。
「…できるだけ早くお願いします。敵も様子見など何時までもやっているわけじゃありませんからね」
「わかりました。」
 待て、状況整理でもやってみるか。もうコレは俺の得意分野だ。
 まず俺の話題である。そして何かを急かすようにもう一人の声の主が言っている。うん、コレだけじゃわかんないが、取って置きの出血大サービスのヒントを俺は持っているのさ。
 昼のエリファの行動。この話を聞けば全てのピースがバッチリピッタリ合わさる!
 つまりは、俺は上手い事言いくるまれて戦の訓練を受けさせられていたということだ。
 ってやべぇぞ、このまま此処に居たら否応無しに戦に巻き込まれちまう! とか言ってみても俺は此処で何ができる?
「誰ッ!?」
 まずったぁっ! 音を立てちまったよ、逃げる、逃げるしかねェ!!
 あれ、そうか。逃げ出せばいいんだ、何処か遠くへ。そうときまりゃ善は急げだ。
 一度部屋に帰って荷物持って逃げ出そう。あばよッ!

「まずったぁー完全に迷っちまったぞ」
 右も左もわからない世界で、適当に駆け出した俺。見事に迷ってしまいました。
 でも、オルタルネイヴとか言う街からはずいぶんと離れたぞ、これは。
 とりあえず喉が渇いた。自販でジュースを買おう。
 って、あるわけねーよ、そんな文明の最先端の機械なんて!
 水を求めて道をひたすら歩く。木は沢山あるが水は一滴も無い。公園と思えし場所に足を運んでみても水道管すらない。
 マジで何なんだよこの世界は!責任者出て来いっつーの!
「わ、我天運尽きたり」
 小休憩のため、木陰に横になり目を閉じる。
 虫の鳴き声や葉の揺らめきが心地よい音色となって俺を睡眠へと誘う。
「し……も…で…すか?」
 何分か目を閉じた所で誰かに呼びかけられている声がし、俺は薄っすらと目を開ける。
 目の前には小学校高学年か、中学校低学年程度に見える女の子が居た。
 ぼんやりとだが頭の中がすっきりとしてくる。
「あぁ…そ……」
 喉がかすれ上手く声がでない。
「あ、み、水が欲しいんですか? おかーさん、水ッ!!」
 女の子は少し離れた位置に立っている人物に駆け寄り、リアカーのようなものからひょうたんのようなものを持ち出してくる。
「そ、その…コレをどうぞ…」
 おずおずと差し出されたひょうたんのようなものの栓を開け、中身を飲む。
「…ッ! ゲホッ…ゲホッ!」
「だ、大丈夫ですか!? もっと落ち着いて飲んでもいいんですよ!?」
 女の子は小さな手で俺の背中をさする。
「はぁぁ……ふぅ……」
 水で何とか喋れるぐらいまで回復し、水がこれほど美味い物だったと感動を抱きつつ一息を付く。
「そ、その…助かりました」
 女の子が駆け寄った母親と思わしき人物は呆れたため息をついてこっちへ歩いてくる。
「アンタねェ…その身なりからしてこの周辺の騎士っぽいけど、そんな軽装で何処に行こうってんだい? 隣の街に行くにしても行き倒れないようにちゃんと水とかは用意してなかったのかい? 今回はたまたま娘がアンタを見つけたから良かったものの……」
「いや…それが…まぁ、色々とあって……」
 やはりこの人物は女の子の母親のようだ。俺が口を開けば開くほど呆れたような表情を強くする。
「ホント、子供の家出じゃないんだから…で、道に迷ったの?」
「そういうわけ…でもありますね…ここら辺の事全くわからなくて……」
 母親と話している間、女の子はずーっと俺の顔を見ている。
「な、何かな…俺の顔そんなに変かな?」
 女の子に質問すると顔を背ける。
 が、すぐにチラチラと俺の顔を覗き見る。
「見てる見てる…メッチャこっちチラチラ見てる」
 突っ込みは忘れずに入れ、チラチラとこっちを見ている女の子の頭を捕まえる。
「ベル!」
 母親と近くに居た数人のおじさんおばさんが一斉に叫ぶ。俺はその声にびびり思わず手を離すが、女の子の視線はいまだ俺の顔に向けられている。
「べ、ベルちゃん? …ホント不思議な事あったら聞いてみな? 俺で解る事なら何でも言うよ?」
 女の子…ベルと呼ばれた子は俯き気味にぽつりと呟く。
「あの…その…スピリットですよね? その髪の色…何色のスピリットなんですか?」
 髪? 黒髪はそんなに珍しいのか? そもそもスピリットってなによ。精霊?
「す、スピリット? せ、精霊?」
 どっと周囲のおじさんたちが笑う。
「ベル、この人は多分コールヒューマンだよ。学校でこんな色の友達居る? スピリットの人もこんな色している人は見たことある?」
 母親がベルの頭を撫でながら言う。
「こ、コールヒューマン!!」
 感動したように俺の顔をまじまじと見るベル。なんか照れくさくてしょうがない。
「コールヒューマンってナンデスカ? 差別用語なんでしょうか?」
 またも巻き起こる笑いの嵐。俺デビューできるかも知れねェ。
「えっと、コールヒューマンってのは別の所からこっちに迷い込んで来る人の事さね。まぁ一般的にはおとぎ話の存在さ」
「お前さん、こっちの世界に来て長いのか?」
 リアカーのようなものの近くに居たおじさんの一人が近寄ってくる。
「えっと、一ヶ月になりますか」
「よくそれで生きて来れたもんだな……どうだい? 俺たちもう少し先の街に帰るんだが、一緒に街まで付いてくるかい?」
 おじさんは気さくに笑うと俺の肩を叩いてきた。つか、滅茶苦茶いてぇ。
「い、いいんですか? 危なくないですか?」
「何が危ないって言うんだい?」
 母親は何を言っているのか解らないといった顔で俺の顔を見る。
「いや、だからもし俺が危ない人間だったら……」
「あははは、おかしな事いうねェ…そんな人間は見るからに危なそうな奴だったり、剣を堂々と見せてたりしてないね、それにウチの娘もアンタに興味あるみたいだし」
「行く所決まってないなら付いてきなよ、ここら辺はそうでもないけど、獣とかも出るって話しだし。俺としても男手が増えると残りの道中が楽になるんだよ」
 おじさんと母親はリアカーの元へと戻り、手招きをする。
「こ、こっちです……」
 ベルは大人たちのもとへと俺を案内する。
「…別にいいか。何処にいこうなんて決めてなかったし」
 俺は大人しくベルの後を追った。
人物紹介。
ベル…十二歳。
用語紹介。
コールヒューマン…異世界から来た人間。


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