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第五話 『初めての授業』
 スプリングの入ってない硬い木のベットに潜り込んで現状などを考えていたのだが、いつの間にかに眠ってしまっていた。
 窓から差し込む太陽の光で意識が戻り、目を開ければいつもの自分の部屋の天井が目に飛び込んでくるのではないだろうか、と一抹の望みを持って目を開けてみたが、全く違う天井だった。
「マジかよ……」
 腕だけを動かし指の隙間から日が昇り始めた空を見て、そのまま前髪をかき上げる。手のひらから伝わる額は少し熱かった。
 こうしていても何にも始まんない。昨日、中途半端に考えていた事をまとめ直そう。
 まず、俺は何故か知らんが変な世界に来てしまった様だ。そして今居るところは戦争の真っ只中で危うく俺もそれに巻き込まれそうになった。うん、今のところコレがこの世界の現状だ。
 で、次に俺の待遇についてだ。昨日の俺への対処を見るに、此処へはよく別の世界から俺のように来てしまう奴が多いと見た。で、日本人のような平和な人間は今まで来たことが無かったと。コレは探せば別の世界の人間を探すことが出来るかもしれないな。
 最後にこれからの事だけど、まずエリファがこの部屋に迎えに来る。それ以外の事は全くわかんない。
 よし、朝から考え事をするのは少しつらいが、眠っていた頭が働き出した。
 頭のもやがなくなったところで、身体も少し動かしてみよう。慣れないベットで長時間寝てしまったためか、腰を中心に節々が痛い。こんな身体状況を打破するためには少し動き、血液を元気よく流してやれば良いだけだ。久々にやってみるか。
 右手を上に左手を下に、右足そのまま左足上げ。右手を肩に左手を上に、右足上げ左足下げ。右手を横に左手を肩に。右足上げ左足下に。右手下に左手横に。右足下げ左足上げ。
 と、足と手の動きが微妙にずれてくるこの体操を身体が温まるまでやってみる。
 始めは痛かった腰や節々もだんだん痛みを薄れさせ、少し息が上がってくる頃には痛みは完全に消え、五体に力がみなぎる。
「いち、に、さん、し、ご……」
 一人部屋なのを良い事に、掛け声まで掛けてこの体操を行っていた。
 元々、幼稚園の頃にじいちゃんから教わった体操で、諏訪曰くジジ臭いだそうだが小さい頃からやってきた俺にとっては一種のおまじないのようなものである。
 落ち着きたいときとか、身体が鈍っているなんて思ったときにやれば不思議と落ち着くように身体が認識してしまってる。
「そ、ソースケ様?」
 自分の世界に入り込んでいた俺を呼び戻したのはエリファが戸惑いながら発した言葉だった。
 高速と言ってもいいスピードで部屋の入り口を見ると、困ったような表情を浮かべているエリファが居た。コレはもしかしなくても見られていた。うわ、首吊りてぇッ!
「お、おはよう」
 我ながら不自然すぎる動きで手をおろし、片手を壁に付き何となくポーズを決めてみる。
「おはよう御座います、ソースケ様」
 礼儀正しくエリファはお辞儀をし、にっこりと微笑んだ。
「そ、そういえば今何時ぐらいかな?」
 太陽の位置などから時間を推測する技術なんか俺には無い。というか無理だろそんな事。
 エリファは一度太陽を見て、気の影を見てすらりと言った。
「えっと、シィフィールあたりでしょうか。」
 し、しぃふぃーる? 何それ? 駄目だ、全く訳解らん。言葉がわかっても意味がわかんなきゃ意味がねェ。
「……すまん、俺が馬鹿だった」
 もう今が何時だとかどうでも良くなってきて、俺は学ランを着ようとしたが少しシャツの臭いが気になった。
「あ、そういえば洗濯とかってどうすれば……というか着替えも」
 そういえば一番確認しなきゃならないことを怠っていた。食住衣と生きていく上で必要なものをまだ確認できていない。
 まず住は何とかなった。食も多分なんとかなってるだろう、何かしら労働がありそうだが。最もやばそうなのがこの衣かもしれない。
 エリファなどが着ている服、ぱっと見だが凄く着るのがめんどくさそうな感じがする。結んで紐を回してと色々やりそうな。
「あ、すいません、御召し物がまだでしたね、只今用意します」
 ぱたぱたと部屋を出て行くエリファ。それよりも俺はシャワーを浴びたかったんだけどなぁ。
 窓際に立ち何気なく外を眺めているとちょうど部屋の下に井戸のようなものがあった。
 おっしゃ、ちょいと許可貰って身体拭いたりしよう。
 窓際に腰掛け、枕元に置いてあった日本刀を手にとってみる。
 アニメや漫画の世界でしか見たことが無い日本刀をまじまじと眺め、鞘から刀身を抜き放ってみると太陽の光を反射し、淡く光り輝いた。
 やはり鋼のような材質で出来ているようにしか見えないのだが、その割には重さが異常だ。軽すぎる。ブラスチック製の子供の玩具の日本刀並だ。
 本物なら、やはり斬れるのだろうか。
 指をそっと近寄せてみる刃先が触れ合う瞬間、
「そ、ソースケ様ッ!?」
「うわぁぁっ!」
 着替えを持って扉を開け放ったエリファの声に驚き、俺はバランスを崩した。
 あれ、なんかおかしい。部屋の窓枠が少し遠くに見えるぞ。あぁ、コレはアレか。窓から落ちてるんだな。
 って、ヤベェヤベェ! ヤベェってマジでッ!
 確か二階だったよな、そっから落下は……骨折ぐらいで済むか? いやいやいやッ! 背中から落ちてんだよ、ミスったら死ぬじゃんかよ!
 離れていく二階の窓。恐ろしくて俺は後ろなんか振り返れやしない。
 人は死ぬときになったら走馬灯というものを見るらしいが、全く見えない。くっそ誰だそんな事言い出した奴は、責任者出て来いッ!
 待て、逆に考えると見えないんだから俺は死なないのだろうか。
『…を貸そうか?』
 不意に耳元で囁く声が聞こえた。
 いやいやいや、俺と仲良くIn The Skyしている奴なんか居るはずが無い。こんな状況で怪奇現象を体験するわけも無い。というか幽霊妖怪の類も場と雰囲気を読んでくれるだろ、ちゅうか読め。
『力を貸そうか?』
 また耳元で静かに囁かれた。
 とうとう俺は狂ってしまったのか、というかこんな世界に来たって思う時点で狂っているのか。
 もう狂ってるとかそうじゃないかとかどうでもいいや、とりあえず死んだり、怪我をするんなら最善を尽くしたほうが数秒後後悔しないですむ、同にでもなれ。!
「あぁ、貸せ、貸してくれッ!」
 藁にも縋る思いで俺は強く願った。
 その瞬間、右手に握られていた刀身むき出しの刀が眩い光を放ち、何かに操られるようにして俺は肩から地面を見て右手を大きく振った。
 土煙を巻き上げ、気がつけば俺は地面の上に転がっていた。
 俺の身体は、背中越しにひんやりとした地面の感触しかしない。二階の高さから落下したのにも関わらず、身体を駆け巡っているであろう痛覚が全く無いという不思議な状態だった。
 呆然と空を見ていた俺の元にエリファが顔面蒼白で駆け寄って来たことで、思考を取り戻した。
「ソースケ様、お怪我は!?」
「あれ、なんとも無い…大丈夫みたいだよ」
 念入りに俺の身体の状態を聞いてくるエリファに答えを返しながら、俺はずっと右手を見続けていた。

「と、いうわけでして、ゼフィールから始まりシフィールで一回転、次はゼフィールスからシフィールスでニ回転と、それを4回転分繰り返します」
 朝のどたばたの後、俺はエリファに連れられ、とある一室に呼び出された。
 今改めて気がついたのだが、エリファは胸がでかい。そんな女の子と二人きりの部屋に居るというなんともウハウハなシチュなんだが、世の中そう美味い話はない。
 真っ白なノートに俺はシャーペンでひたすら説明しながら黒板のようなものに書かれた文字を書き写す。文字は象形文字のようなものが一杯書かれてあって、全く読めないが。
 文字が何を書いているか訳わかんないので、口頭での説明をひたすらメモってるわけだが、インタビュー記者の仕事がつらいものだと今始めて実感した。
「で、質問はありますか?」
 エリファが黒板のようなものに板書する手を休めて、俺に確認する。
「あぁ、大丈夫、理解できているよ」
 はっきりって教え方がメチャ上手い。学校の数学教師なんか目じゃない。というか、エリファが俺を中学高校と勉強を教えていたなら、きっと俺の知能は今の倍は良かっただろう。
「つまり、ゼロフィールってのが0時なんだろ、それからワフィール、ツフィール、スフィール、ヨフィール、フィフィール、シフィールと時間が流れる。つまり6時って事だな」
 一日二十四時間。こっちではAM、PMと十二時間の二回の時間の区切りだが、こっちの世界では六時間の四回の区切りのようだ。
 二回目の六時間に突入するとスやズなどの語尾が加わる。
 ちょっと文明の古いこの世界でも時間というきちんとした決まりがあって、デジタル、アナログの時計の変わりに六時間用の砂時計と、一時間用の砂時計がこの世界の時を知らせている。
 しかもこの砂時計、砂時計を丸いガラス球に入れたような形で、砂が全て落ちきったら勝手にひっくり返るというハイテクもんだ。
「ゼロじゃなくてゼですね。ちょっと例えがわかんないのですが、大方そうでしょう」
 呼び方が違うだけで根本的な部分はこっちと変わらない。
 外国の時間について勉強していると思えばなんのその。
 とは建前で、ノート開いて、シャーペン握って話を聞けば、今までの四年間ほどの癖でついつい睡魔に襲われるようになっている俺の身体。
 時間の説明までは良かったのだが、段々国や生活の事などに焦点が行き始めると、もうヤバイ。
 目蓋は重くなり、意識は飛び飛び。
 気がつけば砂時計の砂がかなり落ちていた。
「あれ俺、寝てた?」
 いつの間にか机に突っ伏していた俺は当たり前の事を質問してしまう。
「はい、少しだけ」
 エリファはくすりと笑った。まるで年下の弟や妹を見守るような眼差しで。
「ソースケ様、昨日はあまり眠れませんでしたか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど」
 流石に癖でとまではかっこ悪くて言えない。
「じゃ、ちょっと息抜きをしましょう、ソースケ様は日ごろどんな本を読みますか?」
「えっと、漫画だろ、ラノベだろ、あとなんか面白そうなタイトルの本」
 普通に答えて、エリファの頭に無数の疑問符が浮かんだのが解った。
「え、えっと、じゃぁ適当に見繕ってみますね」
 パタパタと足音を立ててエリファが部屋から出る。
 うん、なんか世話の上手いおねーちゃんみたいだな。そしてさしずめ俺は世話される情けないにーちゃんか。妹に世話を焼かれるなんてな。
 しばらくしてエリファが何冊か本を持って戻ってきた。
「さ、どれでも読んでいいですよ」
 どさっと机に置かれた数冊の本のラベルがまず読めない。一冊手にとって見るが、中身も読めない。
「すまん、ホントすまん、字が読めねェ」
 エリファの表情が固まり、乾いた笑い声をあげる。
「あは、あはは、そう、そうでしたね、失敗失敗」
 ぺろっと舌を出してこつんと自分の頭を叩く仕草をする。
「じゃ、じゃぁ、問題を出しますからそれに答えてくださいね」
 とっさにこういう方法が思い浮かぶのは素直に凄いと思う。諏訪なら『しょうがない、終わりッ!』で済みそうだし。仁科ならおどおどしているよな。
「では、第一問、戦に行く前に話してはならない事は?」
 ふむ、なかなか難しい問題だな。戦争に行くわけだから、負けるとか死ぬとかのマイナスのイメージだろうか? 
「えっと、死ぬとか負けるとかか?」
 自身はあまり無いが、まぁ、こんなもんだろう。
「違います、家族や恋人の事です」
 なんで!? 訳わかんねー。
「何故?」
 マジで気になる、答えが気になる。これマジで。
「死なないためです」
 きっぱりというエリファ。
「じゃ、第二問、囮になって味方を逃がすときに言ってはならない言葉は?」
 え、何で言っちゃいけない言葉があるんだ? 必ず追いつく! とか言うのは基本だろ。やっべぇ、難しい。
「わ、わかんねー」
「絶対にに追いつく、等の言葉です」
 何で、何でなんだよ、一体!
「死なないためです」
 きっぱりというエリファ。
 というかコレ旗だろ、旗! 
 死ぬ旗を立てないための行動なのか。そう考えると今どんな状況でどんなことしてもいつ旗がたってるか解らないぞ?
 最近の旗立ては凄いからなぁ。
 そんなこんなで、俺はどこかで聞いたことあるような旗の説明を日が暮れるまで受けていたのだった。
最近凄く暑いです。
梅雨って終わったんだろうか?
とりあえずまたお付き合いいただき、有難う御座います!
次もがんばります!


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