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第三十五話 『戦勝ムードと酔っ払い』
 −西砦−
 砦の中は戦勝ムードで、先日まで此処が戦場だった事が信じれないほど皆浮かれ、食べ物や飲み物が散乱している。
「そこで、俺がこう、ズバーッと剣を振ったわけよ! そうしたら……」
 先日のケルヴィン隊との戦の時外に出て戦った事、どんな風に敵が逃げて行ったかと言うことを砦の守りに当たっていた隊の人間に武勇伝として話している奴。
 そんな奴も居れば、身体に怪我を負っているのにも関わらず頭からアルキュール…酒をかぶって、苦しみ悶えている奴も居る。
「そっか、勝ったんだなぁ……」
 どこか実感が沸かない妙な気分だった。
 先日のケルヴィン隊と戦い、ケルヴィン隊の統率は崩れ、撤退を開始。
 それから再攻撃があるかもしれないと言うことで眠れない夜が続いた。
 今日のお昼前、中央砦から伝令が届く。
 西砦の方角から撤退している一団を発見、一団は中央砦を避け、アリヴェラ平原へと退いたと。
 これで完全にベルギー地方の敵は居なくなり、ガルディア、ドルフ隊を東砦に向かわせた。
 戦は終結し、今に至る。
 俺は何をするわけでもないが、なんとなく砦内を徘徊し時間を潰している。
 ちらりと視界に騒いでる集団が目につく。その輪に飛び込もうという気になれない。
 俺の頭の中にはケルヴィンとの一騎打ちの事ばかり浮かぶ。
 圧倒的な実力の差。
 キャッチャーメットの男、ゲイア。歩将と呼ばれる男を倒し、数は多くないが戦でスピリットヒューマンを退けて、この世界でも俺はやっていけると思い始めていた。
 そんな天狗になった俺の鼻を見事にへし折った。
 ほんの数分ぐらいしか顔を合わせていないのに、はっきりとその顔を覚えてしまっている。
 俺がどんなに考えて攻撃をしても、不意を突いても通用しない。
 悔しい、悔しい。
 テストや授業なんかで人に負けちまうことは多々あり、その都度『悔しいなぁ』なんて言ってたりするんだが、心の中では『しょうがない、そういうもんさ』と開き直っていた。
 が、これだけは『しょうがない』とかじゃ済ませられない。
 手も足も出なかった。それだけが悔しくて、その結果を許せない。
 どーしちまったんだよ、俺は。
 人を傷つける術が他人より劣っているって事だけでこんなに悔しがるなんてよ。
 そういえば、前よりも人を傷つける事に躊躇いがなくなってきているような気がする。
 本気でこっちの世界の色に染まってき始めてるな。
「やっ、どーしたんです? こんなところで」
 肩を叩かれ振り返ると、其処には赤い髪で頬に傷があるポニーテールの男が立っていた。
「ローチ…だっけな。まーテキトーにブラブラだ」
 手を上げて挨拶をし、近くの手ごろな木箱に腰掛ける。
「皆さんの輪に加わらないんですか? ベルジ地方戦功第一なんですから、皆さんサナダさんが加わると喜びますよ?」
 ローチも俺に習うように木箱に腰掛ける。
「そうだな、もう少し熱が冷め始めた頃に加わってさらに盛り上げるよ。って、戦功第一?」
 戦功ってのはその戦のランキングみたいなのだよな、確か。
 ガリンネイヴで偉い奴らが一杯集まってたあれだよな。あれが一番?
「そりゃ当然じゃないですか、この戦全ての流れを読み、それを的中させたんですから。それに戦力的にも優位なシュレイム地方の戦よりも早く、圧倒的不利な状況にも係わらず戦を終結させたんですよ? この地方だけでなく、シュレイムを総合した戦功を考えても、一番ですよ」
「なんかピンとこないが、俺なんかやっちゃったわけ?」
 俺の答えに笑いながらローチは頷く。
 自分に出来ることを出来るだけやっただけだから、なんか実感が湧かなかった。
 その後、適当にローチと話し、また徘徊を再開する。

 気が付いたら砦内を一周し、元の場所に戻ってきた。
 何分間歩いたか解らないが、そう時間は経ってないだろう。
 周囲の宴会騒ぎはまだ衰えておらず、その所為もあって時間が把握できない。
「真田……」
 背後から聞きなれた声が聞こえ振り返ると、全体的に少し赤くなったレイラが立っていた。
「おう、どうだ楽しんでいるか?」
 軽くレイラの肩に触れ言葉を交わす。
「真田は……加わらにゃいの?」
「ん?」
 なんか今妙な語尾が聞こえた気がするんだが?
 レイラは俺の首に腕を回しもたれ掛かる。
「まだまだ……戦はこれから…さぁ真田……いざ行くぞ……」
 覚束ない足取りで俺を引っ張ろうとするレイラ。
 こいつ、この匂い…。
「てめ、また酒か、酒飲んでんのか!?」
「全然……」
 否定をするレイラだが、その足取り、吐き出される息の匂い、そして首元や肌を見てもわかる。
「いや、絶対飲んでるだろ!? やめい、酔っ払い! こら、やめろって!」
 一人で歩き出せば誰がどう見ても盆踊りを踊ってるようにしか見えないレイラ。全く見てられやしねぇ。
 というか、未成年の飲酒喫煙は法律で……あ、此処そんな法律ねーや。
 それじゃぁしょうがない。
 今にも倒れそうなレイラを支え、レイラの足の向くまま付き従う。
「あーサナダさぁん」
 レイラに半ば強制的に連れられ、騒ぎ立てる一団の中に入ってゆく。
 見た顔が一杯居る集団。
 此処がディレイラ隊のメンバーが集まっていると言うことはすぐにわかった。
「みんなやってるみたいだな」
 河原でやるバーベキューのようになんか色んな食べ物とかが散乱している状態。いや、比喩だぞ比喩。アウトドアでそんな事したら自然を壊しちまうからな。
 やはり皆いい具合に出来上がっているようで、臭ぇ。
 その匂いだけで俺も酔ってしまいそうなほど、アルコールいや、アルキュール独特の匂いが周囲に漂っていた。
「サナダさんものんでくださぁーい」
「ほらほらぁ〜」
 俺の周囲に食べ物を求めて群がるゾンビ。そう、今この状況はそうとしか言い表せない。
 足取り、力の抜けた手。これで特殊メイクさえ入れば撮影すら出来そうだ。
 そうか、そういう映画はゾンビ役を酔わせて撮影しているんだな。時折ギャグとしか思えないようなゾンビの行動は素の行動なんだな!
 んな訳ねーよ。
「ちょ、お前ら来んな! 悪霊退散、悪霊退散! 呪い呪われ……いやそんな事が言いたいわけじゃなくてな……」
 この調子ならすぐに呼んでも陰陽師は来てくれそうにもないな。
 ゾンビどもの手には同じ液体が握られており、どんな馬鹿な奴だって見たらすぐにわかる。それが奴らと同じように変えてしまう薬だと。
「うぉ、誰だ、俺の腕を掴む奴は!? ぎゃぁぁぁ! 腰を抑えるな、足から離れろッ!」
 全身を押さえつけられ、映画で主人公を庇って死んでゆくサブキャラのようなポジションに立たされる。
 くそ、此処で俺は死んではならない、そう俺はゾンビよりその他の伝説の生き物のほうが好きだから。吸血鬼とか狼男とか。
 そんなの全く関係ねぇ?!
 早く逃げればよかったと今になって思う。勝利への転進を行おうと思ったときには退路を封じられ、自由まで奪われていた。
「や、やめろぉぉぉ! あ、美味いや」
 俺の冷静な思考はそこで途絶えた。

「頭いてぇ……」
 頭の中に棒を入れられ、掻き回されているような感覚を覚え、上体を起こす。まだ視界は霞み、瞬きするだけで頭が痛む。
「明らかに二日酔いだ……」
 喉仏のすぐ横側を人差し指で掻き毟り、痛みが落ち着くのを待つ。
 途中参加の俺でも此処まで体調が優れないんだ、きっと先に始めていたレイラ達は……。
「…真田、顔色悪い」
「どうしたんですか、サナダさん?」
 滅茶苦茶元気です、ハイ。
 なんか、なんか納得いかないんですけど! こう、言葉で言い表せない何かが胸の奥につっかえて苦しいんですけど!
「二日酔いだよ、誰かさんのおかげでさ……」
 恨みがましくレイラを見つめる。何処をどう見ても奴は元気そのもの。ありえねぇ。
「酷い事をするものだ……」
 あなた、貴女ですよ、フィンレルム・ディレイラさん!?
「それはいいとして、私達は一度オルタルネイヴに凱旋する事になりましたよ」
 レシアは笑いながら話を逸らす。
 こんな重要な事を軽くスルーしやがって! って、戻るの?
「戻るのか? このまま軍を進めて敵を一気に追い払うって考えていたんだがなぁ。敵に立て直す暇を与えちゃ不味くないか?」
 ゲームだったら敵がボロボロになっているところを怒涛の如く攻めるんだけどな。
 今敵は傷ついた状態だから勝つのは簡単に思えるんだけど。
「それはそうですけど、こちらもかなりの被害を抱えていますので、これ以上続けて戦闘を行うと兵も兵糧も不足してしまいますし、戦闘地域の拡大に伴い、再編成などしなければいけませんからね。」
 なんか小難しい言葉が出てきたぞ?
 直訳すると、疲れてるし腹も減った、領土が広がったから一度編成を考え直そうってか?
 いや、わけわかんねー。
 とりあえず、これ以上戦闘をしては危ねぇって事か。よし、了解だ。


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