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ルームメイト 作者:帆摘
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8話

大学が始まり1ヶ月が過ぎた。ルームメイトとの生活は最初に考えていたより、楽なものだった。初めの頃はあの強引な性格でどうなる事かと思っていたが、通常彼は滅多に私にかまってくる事はなく、それは私も有り難かった。朝はブラックのコーヒーだけ、昼食は別々、そして夕食に至っても一緒に取る事は滅多に無く、その日作ったものをラップしてテーブルの上に置いておけば大抵次の日には綺麗に片付けられていた。リビングとダイニングを共有していると言っても、遥が在宅時に彼はほとんど家にいる事がない。土日などの休日にたまに昼を一緒にするぐらい、だがそれもモデルをしているらしい彼は休日も多忙で滅多に無い事だった。

建築を専攻しているルームメイトとはほとんど学内で逢う事はないが、それでもたまに女子の奇声の上がる方向を見てみれば大抵彼がその中心にいる。初日に女には不足していないと言った様な事を言っていたが、それは確かに本当なのだろう。今の所、彼は家に女を連れ込む事はないが、時折彼のものでない仄かな香水の匂いを漂わせて帰ってくる事がある。ああ、それでも一度彼と付き合った女の子が彼の後を付けてマンションまでやって来た事があった。私は丁度その時アトリエに籠っていたのだが女の泣く声と、聞いた事もないような彼の冷たい突き放す様な声が耳に入って来た。

あんな冷たい声も出すのかと少し吃驚した。それからその彼女とは別れたのだろう、最初はこんな私と一緒に暮らしているのが知られるのが嫌なのかとも思っていたが、どうも他人に自分の生活を乱されるのが嫌なだけかもしれない。まあ、どちらにしろ私も彼と同居している事は絶対に知られたくないので都合は良いが。

せっかく有名らしいスタイリストにヘアメイクをしてもらったが、あれから以後、一切メイクをした事はない。買ってもらった?服も同様にタンスの肥やしとなっている。髪は梳いてもらって随分と軽くはなったが、後ろでひとまとめに括っているだけだ。これについては時々不満そうな忍の目線を感じるが、極力無視している。大学内は確かに、美術系大学とあって、校内にはそれこそーお洒落と呼べる人達は多い。服装だけでなく、髪型、そして装飾品に至るまで見ていて飽きないのは事実だ。そんな中で地味な私に声をかけてくる人達はほんの一握りだった。

だがそんな中でも大学に入って新たな友人が幾人かできた。同じ油彩科の真樹ちゃんは、姉御肌で男女共に人気がある。何故かそんな彼女はたまたま隣に座った私を気に入り、何かと面倒をみてくれる。それから・・・、あまりお友達にはなりたくなかったのだが、一方的にやたらと私をかまいたがる困った先輩もいる。沢田亮司といういかにも芸名の様な名をもつ男はこの大学でルームメイトと同じぐらいの有名人だった。
「お!はっるかちゃ〜ん!そんなところで何やってんの〜?!」
学内の店からデッサンに使うチャーコールを買って教室へと向かって歩いていた私の名を大声で呼ぶ先輩の声に私は眉をひそめる。

なんでこの人はわざわざ目立つように呼びかけてくるんだ!沢田・・先輩は美術科のホープとも言われる才能溢れた人だった。油絵、彫刻、果ては日本画までなんでもござれのマルチタイプ人間。この大学始まって以来の天才と呼ばれる彼が何故一介の新入生の私を気にいったのかは謎だ。聞こえない振りをして補足を早めたが彼はあっという間に追いついてきて私の横に並んだ。

「もう、遥ちゃん、無視しないでよ。俺の声聞こえてたでしょ?」
そりゃあ・・・聞こえてましたとも。聞きたくはなかったが。
「・・・先輩こそ、何をやってるんですか?今先輩はシェール賞に出す作品の製作で忙しいんじゃなかったんですか?」
「ああ、あれねえ。ほんとまいっちゃうよ。教授ったら俺の事そんなに愛してるのか縛り付けて離してくれないから。」
「それは・・・先輩がすぐにサボっていなくなるからでしょう?」
「ん〜?でも俺としては遥ちゃんみたいな可愛い女の子が側にいてくれた方が創作意欲が増すというか〜・・ってなことでさ、遥ちゃん、俺とデートしよ、デート!」
「結構です!」
「遥ちゃんって意外に気が強いよね〜。本当は儚げな美少女なのにね。」そういって沢田先輩はさっと私の眼鏡を取る。他人に眼鏡を取られたのはあのジェリーというオカマ言葉で喋るスタイリストさん以降の事だった。私はそんなに隙があるのだろうか。

「先輩、返してください!」そういって私は朧げに揺らいで見える先輩をおもいっきり睨みつけた。
「やだ。遥ちゃんがデートしてくれるっていうなら返しても良いけど。」ざわざわと人の集まってくる気配に私はため息をついて降参した。
「わかりました。デートしますから、早く眼鏡を返して下さい。」
「やった!絶対約束だからね、遥ちゃん。」そういって先輩はやっと眼鏡を返してくれた。
その様子をじっと遠くから見つめる姿があった事を遥は知らなかった。

「ねえ、忍ってば、何見てんの?」腕に絡ませた手を強く引っ張りながら女が言った。
「ん?ああ、何でも無い。」
「あ、あれって沢田先輩じゃない?やだ、本物初めて見ちゃったかも!」
「・・・知っているのか?」
「え?うん、だって有名だよ〜。まあ建築科の方はあんまり知らないかもしれないけど、なんでもうちの大学始まって以来の天才らしいよ。私の友達にも一時期付き合った事のある子いたなー。なんたって美形じゃん?でもかなりの変人らしいよ?私も詳しく聞いた訳じゃないけどさ〜。」
「変人?」
「うん、あ、そんな事より〜、早くいかないと間に合わないよ!それから、今日のが終わったらいいでしょ?」そういって女は含みのある目を向けた。
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