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ルームメイト 作者:帆摘
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31話

「中川君、ちょっと良いかね?」
今日提出する書類の最終確認をしている中川柾樹に部長がデスクまで寄って来た。「大澤部長」柾樹は少し驚いて顔を上げる。
大澤は、そのまま柾樹を促して個室へと誘った。
「一体どういった用件でしょうか、部長?」
「ふむ、君は我が社のドイツ支社の事は知っているかね?」
「ドイツ支社へは、一度取引で行った事はありますが、それが何か・・?」
「実は、この度ドイツ支社から一人、この第一課に派遣されることになってな・・慣れるまでの間、君に彼女の世話を頼みたいと思っている。」
「女性・・ですか?」柾樹は軽く眉を顰める。
「ああ、そうだ。名前は桐生真弓君という。ドイツ支社でもやり手のホープなんだが、本人の強い希望があって、来月からうちにくる事になっている。まあ、そういう事で宜しく頼むよ、中川君。君の様な若手のやり手と彼女ならきっと良いコンビになるだろう。ははは!」

体よく押し付けられた様な気がしなくとも無かったが、デスクに戻った柾樹は先ほどの桐生真弓という女の事について考えを巡らした。いくらやり手だとはいえ、そう簡単に東京の本社に希望を出して帰って来られる程甘い世界ではないということはよくわかっていた。
ということは・・・上との繋がりがあるか、言いたくはないが、女の武器を使ったか・・実際いくら建前を繕ったところで、こういった事例はどこの会社でも多かれ少なかれある事だ。正直メンドクサイ事を押し付けられたとは思ったが、上からの命令である以上仕方がない。柾樹は軽くため息をつくと、もう一度デスクのコンピューターに集中しだした。

***
あれから忍さんは桐生真弓という名前を聞いてその美しい顔を少し曇らせると、黙り込んでしまった。色々と思う所があるのだろう、色男は大変だ。
私にも何か言いたさ気にしていたが、なんせ、ゾフィーが居た間、ほとんど課題をする時間がなかったので家につくと私はさっさとアトリエに閉じこもって課題に取りかかった。
一息ついて部屋から出て来たときには既に夕方になっていた。
「やばっ、もうこんな時間か、夕食の用意しなきゃ・・・。」ゾフィーを送って行った帰りにそのまま買い物に寄って、食材と日用品を買い込んで来た。車があると、こういうときは本当に便利だ。とはいえ、いつもは私自身が厳選した格安のスーパーや八百屋などで買い物をしているから、いつも車が必要な訳ではない。
カチャリとノブを廻してリビングへの扉を開けるとリビングのソファーで長い足を投げ出した忍さんが横たわっているのが見えた。

「忍さん?」呼びかけて見るが返事がない。寝ているのかと思いゆっくりと近づいて行く。ゾフィーといい、忍さんといい、本当にゲルマン系の彫りの深い整った顔立ちをしている。しばらくの間その端正な寝顔を楽しみ、キッチンへ向かおうとした瞬間私はぐいっと引っ張られて彼の胸の中へと倒れこんだ。
「お、起きてたんですか?!」焦った私の体を包み込むように忍さんがぎゅっと抱きしめてくる。もしかして寝ぼけてる?そして次の瞬間、何か熱いものが私の唇に覆いかぶさった。
半開きだった私の唇と彼のものが合わさっている現実に驚きを通り越して固まってしまった。息をするのも忘れてしまったように私は目を見開いて相手の顔を見つめる。
そんなに長い間ではなかったはずだがつい息を止めていたせいか苦しくなって相手の唇を退けようとする。
「っん」
逃げる私を追いかけてまた忍さんが角度を変えて私の唇を奪おうとする。
く・・・苦しい!自分でも顔が真っ赤になっているのが分かっている。もちろん初めての事で恥ずかしさもあるがそれよりも苦しさが先に立っていた。私は手に力を込めて忍さんを引きはがした。
名残惜しそうに伏せ目がちに私のくちびるをひと舐めして忍さんが離れた。
「おきがけに何するんですか!」
「人の寝顔をじっと見てたお駄賃。」
「それはっ、・・・っていうか、本当は私が呼んだ時から起きてたんでしょう?」
「まあ・・。こんなチャンスはなかなかないし。」
私はじろっと忍さんを睨みつけて言った。「だからと言ってなんでキスするんですか?!私すっごく苦しかったんですよ!」
「何故?」
「何故ってそりゃ、息ができないじゃないですか!」
「・・・・・。」
「なんですか?変な顔して。」
「いや・・遥、キスは初めて?」
「そうですよ!っていうか、今の私のファーストキス?!うわあ・・・初めてのキスはレモンの味って聞いてたのに・・・。」遥の顔が曇る。
「俺の・・・そんな顔されるぐらいに駄目だったわけ?」さすがに自分からキスをした女の子にこういった態度を取られたのは初めてだ。彼女はいつも俺の想像を上回る。怒るだろうとは思っていたが・・・こういう反応を返されるとは思わなかった。
「だって、忍さんのキスはレモンじゃなかったですよ。あの匂いは・・そう、お酒・・?」
「ああ、寝る前ちょっとウイスキー飲んだから。」
「忍さん!ここは日本ですよ、20歳までは飲酒禁止です!ってホントそれ、何処から手に入れたんですか?」
「おばさんのコレクション?」
「もう!」遥は立ち上がって、すたすたとキッチンまで歩いて行くと、「今日はうどんです!」と言った。

実のところ、忍から背を向けた後、色々と唇の感触や色んなものをはっきりと認識してかなり動揺していたのだが、その時の忍は思っていたリアクションと違ったものを返された事で軽くショックを受けていた所だったので、それに気がついた様子はなかったのだった。
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