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ルームメイト 作者:帆摘
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1話

最近ではさして珍しい話ではないのかもしれない。この不況の中、突然父親が解雇されてしまった。私、中川遥、18歳、東京の美大への進学が決まった後だった。小さな頃から絵を描くのが好きだった私の夢の第一歩が叶えられたと思った途端、それは砂の城のように淡く足下から崩れさって行く。
正直、うちは元々そんなに裕福な家ではない。5つ年の離れた兄は頭もよく、国立の大学を卒業した後、既に3年前に家を出て会社の社宅で一人暮らしをしている。家のローンだってまだまだ残っているし、うちの経済状況を考えるなら、大学進学は断念して働いた方が良いのは分かっていた。大体美大に入ったからといって、少々絵がうまいだけで食べて行ける世界ではない事は十分に承知している。本当に一握りの選ばれた人間だけが、この世界で這い上がっていけるのだ。

だが私はその入り口にもたてないのか・・・。父の解雇が分かってから怖くて両親に聞く事もできず私はもんもんとした日々を送っていた。美術部の安藤先生も、私が東京の美大に進学が決まった事を聞いてすごく喜んでくれていたのに・・どうやって話そう。
と、階下からお母さんが私を呼ぶ声が聞こえて来た。
「遥!降りてらっしゃい。ちょっと話があるから!お兄ちゃんも帰ってきてるのよ!」
さっき聞こえたドアの開け閉めの音は兄の物だったのか・・。それよりもとうとうやって来たのかと私は腹をくくって下に降りて行った。

「よう、遥、久しぶりだな。」久しぶりに会うお兄ちゃんは相変わらずだった。短く切りそろえた髪にちょっと日に焼けて浅黒い肌に涼しげな目元。通った鼻筋にきりっとした口元。我が兄ながらちょっと自慢したくなるぐらいの男っぷりだ。お兄ちゃんは美人と誉れ高いお母さん似なのだ。私は・・というと、不細工・・と言う程ではないと思うが、お兄ちゃんとは違い、ずっと室内の部活動ばかりしていた為か、白い肌だ。本を読むのが好きで、絵を描くのが好き・・な私は必然、視力も悪く、薄い銀フレームの眼鏡を愛用している。
たまにお兄ちゃんが悪戯で私の眼鏡を取り上げてはまじまじと顔を覗き込んで、「もったいねー」と口にするが、何の事だかわからない。大体眼鏡を取られると周りがぼやけてほとんど見えなくなってしまうのだ。

兄妹仲はいい方だと思う。5歳年の離れた妹を昔からよく可愛がってくれていた。そんなお兄ちゃんが家を出たときは少し寂しかったが、こうしてちょくちょく家に帰って来て顔を見せてくれるのはうれしい。
久しぶりに家族揃って食卓に着いた所で、お父さんがおずおずと話を切り出した。来たか!とつい私も身構えてしまう。
「遥、お前の大学進学の事なんだがな・・・」皆まで聞くのが嫌で私はお父さんの話を途中で切って言った。
「いいよ、お父さん、分かってる。家、お金ないんでしょう?私、地元で何か仕事見つけるから気にしなくていいよ!」精一杯の強がりで私はお父さんに早口でまくしたてた。
が・・・一瞬家族の間に奇妙な沈黙が広がった。何だろう、なんで皆変な顔してるの?
「遥・・お前、大学に行きたくないのか?」お兄ちゃんが聞いてくる。
「え?そりゃあ・・・行きたいに決まっているけど、お父さん、仕事なくなってお金無いんでしょう?家のローンだってまだ払い終わってないし・・。」そう言って口ごもった私の頭をお父さんがクシャリと撫でた。

「なんだ、遥、そんな事を気にしていたのか?心配するな。お前の大学に行くぐらいのお金はちゃんと貯金してある。父さんが遥に話そうと思っていたのは、大学の事じゃなく、住む場所の話だ。」
「え?じゃあ、私、本当に東京の大学に行っても良いの?」
母がニコニコと笑いながら言った。「当たり前でしょう?そんな事を心配してたの?家の事はあなたが心配しなくても何とかなるわ。お父さんだって、今また新しい仕事を探しているし、私も幾つか新しい翻訳の仕事が入っているから心配しなくていいのよ。それにお兄ちゃんもまたお父さんの定職が決まるまでの間、月々サポートしてくれることになってるんだから、ね?お兄ちゃん?」

「ああ、俺は社宅に住んでるからな。家のローンは俺が払っておくし、お前が心配することはない。」そういって兄はほれぼれする様な笑顔を私に向けた。
何だ・・・じゃあ、私本当に夢を諦めなくても良いんだ・・。ほっとしたのと同時にもう一つ父の言っていた事を聞き返す。
「お父さん、住む場所の事って・・・?」
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