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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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悲運の武将、松平広忠 弐

三人称視点です

「安祥城が落ちたか……」

三河中部、岡崎城にて、岡崎城城主松平広忠は力無く呟いた。
祖父の代から松平家に仕える百戦錬磨の大叔父ならもしかしたら、と思っていたが、やはり無理だったか。

「流石は尾張の虎、と言ったところか……」

負ける事は許されないとは言え、負けて当然の相手でもある。
敗戦続きでささくれ立っていた広忠の心が、若干ではあるが慰められた。

「安祥城守備兵の奮戦もあり、織田弾正忠勢も相当の損害が出た模様。左馬介様は残念ながら討死なされたようですが……」

「織田勢の動きは?」

「息子の信広を城主として信秀は手勢を従えて撤退。水野忠政は損害著しかったため、そのまま安祥城に入りました」

「奪還のための出陣は?」

「難しいでしょう。鳴海攻めの敗戦から、我らも未だ立ち直っておりません」

「三河各地でも不穏な動きが見えます。ここは戦力の建て直しを図るべきかと」

提言したのは松平信孝だ。広忠の岡崎帰参を手助けしてくれた重臣である彼の言葉を無碍にはできない。
それに、彼の言葉にも一理あった。

「織田もこれ以上は動けないとは思いますが、正式に和睦を結びましょう」

「幸い安祥城に入った水野忠政は先代様の代には松平家との繋がりが強かった者です。彼を仲介として和睦なさるのがよろしいかと」

「信孝に任せる。ところで、新しく安祥城城主となったその信広とはどのような武将だ?」

これから戦うかもしれない相手の事を知っておくのは悪い事ではない。
だがそれ以上に、広忠は興味があった。
自分も相手も、強大な父を持つ。しかも名前の一字が同じだ。
若い広忠は、共通点のある相手が気になっていたのだ。

「織田信秀の長男ですね。側室の子ですし、正室に男子がおりますから家督の相続権は無いようです。先の安祥城攻めが初陣のようですな」

「そうか」

信孝の言葉に広忠の興味は急速に薄れた。
嫡男が別に居る長男という事は、お家騒動の火種になりかねない。安祥城は対三河の最前線という重要な拠点であるが、それはつまり、最も危険な場所でもあるのだ。
体の良い厄介払いのように思えた。先の戦いが初陣となれば、碌に武功も挙げてないだろうから、それで城主とは、余計にそう思える。
ひょっとしたら、水野忠政が安祥城に入ったのは、信広を補佐するためかもしれない。
信孝が和睦の繋ぎにと水野を考えたように、弾正忠家もそう考えているのだろう。
つまり、信広の武勇で安祥城を守る事は難しいと思っているのではないだろうか。

「西側から騎馬隊で突撃し、一番乗の武功を挙げております」

「なに!?」

しかし広忠の予想は、その続く信孝の言葉で覆された。

「百にも満たぬ騎馬隊で南北に別れた守備隊の隙を突いて突撃を敢行した模様。流石は虎の子、といったところでしょうか」

「齢十六の若武者とは思えぬ豪胆さ。いや、むしろ若さ故でしょうかな」

「西側からというのは偶然か? 織田の位置を考えれば偶々なのであろうが」

その後に続く、家臣たちの言葉を広忠は聞いていなかった。
いや、聞いてはいたが、彼らの言葉は頭に残らなかった。
ただ一部。
信広のあまりに鮮烈過ぎる武功と、その若い年齢のみが、広忠の脳裏を駆け巡っていた。

自分と一つしか違わない、側室の子がそれほどの武功を?
信秀の指揮、あるいは弾正忠家の戦力のお陰ならばこれほど衝撃を受ける事はなかっただろう。
だが、その信秀は守備兵相手に苦戦中。信広の手持ちの兵はわずか五十騎ほど。

自分は、城攻めも防衛の指示も失敗したというのに……。

その時広忠の胸に灯った炎は、間違いなく嫉妬の炎だった。
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