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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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西広瀬城救援?


松平軍が出陣したという報告があったので、安祥城の軍議の間に、俺と家臣達が集まる。
とは言え、四椋よんりょうなどは、どうせ上和田城への攻撃だろう、と完全に油断していた。
まぁ、この弛緩した空気はいつか引き締めないと、と思っていたので良い機会になったな。

「松平勢は一千の兵を率いて北上(・・)するつもりらしい」

俺の言葉に家臣達がざわつくけど、すぐに顔を引き締める。
いつもと違う状況に、ようやっと武士の本領を思い出したようだ。

「上野城でしょうか?」

尋ねたのは新田しんでんだった。それは当然の懸念だよな。

「東広瀬城という事だ」

「東広瀬? そこは松平方の城では?」

「独立領主に近い立場だったからな、強く臣従させるための示威行動では?」

「東広瀬城を支援し、西広瀬城を攻めるつもりらしい」

古居ふるい公円こうえんの考えが間違いである事を、俺は皆に伝える。
ざわつく室内。

「西広瀬城と言えば、今度殿が娶られる……」

「うむ、於広姫が居る、佐久間全孝殿の城だな」

「なんという偶然、いや、大殿はこれを見越して……!?」

それは流石に親爺を神格化し過ぎだとは思うけど、そう思えてしまうくらいにチートなんだよな。

「まだ輿入れ前なので、我らが西広瀬城を助ける義理は無いし、その資格も無い」

「お見捨てになられるので?」

「要請があれば援軍に向かう。だが、無いのであれば勝手に動く訳にはいかん」

「殿、しかし……」

古居の表情が崩れる。
これが刈谷城だったら、是が非でも援軍に行くべき、と家臣達から突き上げられるところだ。
その辺りは、正室になる予定とは言え、既に輿入れし、子供まで授かった於大との違いだよな。

「西広瀬城への援軍はいつでも行けるよう用意しておく。安祥城からでは少々遠いので、上野城にでも入れておけ。酒井忠尚殿へ先触れを忘れるな」

「はは」

「西広瀬城への救援は勝手に行く訳にはいかないが、我らは父上より三河切り取り次第の許可を得ている。矢作川を渡り、東広瀬城を攻める事はなんら問題が無い」

俺の言葉に感嘆と安堵の溜息が漏れた。

「情報によれば、この度岡崎城より出立した一千の軍は先鋒だ。率いているのは大久保忠俊。数の少なさに侮り、援軍を出し渋れば、続く広忠率いる後詰、二千に飲み込まれるという訳だな」

「そこまで詳細な情報をどのようにして……」

わたり長太郎ちょうたろうという者から書状があってな」

「聞かぬ名ですな」

「矢作川で渡し舟を営んでいる者だ。矢作大橋が完成すると職を失うというので、橋の守役を依頼してある」

前世では橋の通行はほぼ無料だった。
けれど、今世ではそういう訳にはいかない。橋の修復や整備は、それこそ城を築く程の経費がかかる。
通行料を取るのは当然だった。
というのを古居から聞いたので、仕方なく有料にした。

税を取り、払えない者を拒絶する事で、浮浪者や野盗が橋に居座る事を防げるのだとか。
安全が確保できるので、商人達も安心して利用できる。

そう考えれば、まぁ、ありか、とは思った。

ただ、川には渡し舟があり、彼らはそれで生計を立てているから、橋ができてしまうと仕事を失い、生活ができなくなる。
この時代の倫理や道徳は相当独特なので、橋が無くなれば自分達の仕事が戻って来る、と橋を焼き落とされたらたまらない。
だから、矢作大橋近辺で渡し舟を営んでいた者達に、通行税を取り、不埒な輩が橋を通らぬよう監視する役目を与える事にした。

渡し舟はイメージ的に、個人が細々と営んでいる気がするけど、そんな事はない。
付近を支配する武士の家臣だったり、寺社や座の下請けだったりするので、無碍にもできないんだ。
矢作大橋の上流や下流には当然渡し舟の需要は残る訳だけど、そこには別の渡し舟の縄張りがあるからな。

ついでにこの渡し舟の組織に、『橋元』町でも作ったらどうか? という話も持ち掛けた。

矢作川の両岸には氾濫対策で土手を作るつもりだから、それより内側に、宿場を中心に町を作れば、きっと儲かるだろう。
橋を渡るというのは、旅人にとって良い区切りであるから、そこに宿場町があれば、必ず足を止めて金を落とすだろうからな。

ある程度範囲は決めるが、橋の周囲、土手の内側になら好きに町を作って良いと伝えてある。
勿論、その町に住む住人、商家からはきちんと税を取る事を伝え、その税の一部をこちらに収めるよう話もつけていた。
ただ無秩序に町を作られるとこちらも困るので、家や建物を建てる場合はどのような目的で使うのかをこちらにその都度説明するよう伝えた。当然、そこで許可が出ないと建設はできない。
許可を求める際にはこちらに登録料を払うようにも伝えてある。

不労所得っていいよね。
厳密には違う訳だけど。

で、長太郎は矢作川で渡し舟を営んでいる若者なんだけど、辿って行くと、矢作川の水運を司る商家の一族らしいんだ。
その商家は岡崎城に出入りしてるらしいんで、長太郎を間者に仕立ててみた。

どんな思惑があろうと、民からしてみれば広忠は何度も戦を仕掛けては俺に負けてる情けない当主だ。

「松平様の下で、この橋を維持できるでしょうか?」

橋元町の構想の事もあって、利のある俺に乗ってくれた訳だな。

「我らはこの一千の先鋒をやり過ごし、広忠の本軍を叩く」

「という事は、いよいよ松平と決着を……」

「つけない」

四椋の威勢の良い言葉を俺は遮った。

「では広忠を殺して松平家を内部分裂……」

「させない」

こちらは若干恐ろしい事を言う公円。
お前、それ絶対親爺の前で言うなよ?
嫡流の男子が幼い間に当主を殺して、家督争いを誘発させるとか、まんま弾正忠家ウチに通用する手だからな!

「我々が背後から襲い掛かれば、退路を断たれた事を理解し、松平勢は何とか広忠だけでも逃がそうとするだろう。本来なら、広忠と同じか、すぐその後に逃げるべき重臣が盾になってでもな」

そうした重臣を討ち取るチャンスだ。
勿論、最早これまで、と死兵化してこちらの損害が増える可能性もあるから、その辺りは注意しないとな。

玄蕃げんば

「はっ!」

「志願兵で良い。三千五百程を集めよ。集まらぬ場合は信時と姫城の信孝に援軍を要請せよ」

「はは!」

「そのうち五百を西広瀬城への援軍として上野城に待機させよ。指揮は玄蕃に任す」

「は!」

「小左衛門(吉次の事)は三千の兵が矢作川を渡るために必要な船と、筏を用意せい」

「はは!」

「これより我らは矢作川を渡り、広忠本陣の後背を突く。諸君らの奮闘に期待する」

「「「「はは!!」」」」

家臣達全員が頭を下げ、今回の軍議は終了した。
信広が西広瀬城救援について色々言っていますが、松平軍を途中で叩けば、少数の援軍で大丈夫だと思っているからですね。何の要請も無く援軍に赴くのはこの時代確かに有り得なかったですが、事後承諾や先触れとほぼ同時に援軍到着なんてのはよくある話だったので、「未来の嫁を助けに来た」などの大義名分があれば大丈夫だったと思います。
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