挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/67

家族の会話

輿入れと言ったな、あれは嘘だ!
まぁ、かな? とも言ったし、問題ありませんよね。

「内々の話がある故、部屋に来い」

その日は古渡城に泊まっていく事になったので、体を清めて部屋へ向かう途中、親爺に呼び出された。

「どのようなご用件でしょうか?」

部屋に入ると、親爺は湯帷子を着ていて、酒の入った壺と、盃を手にしていた。

「まぁ、まずは飲め」

「いただきます」

盃を差し出されたので受け取ると、親爺が酌をしてくれた。
前世でどうだったかは知らないけど、今世の俺は酒がそれなりに好きだ。
研究させている清酒の完成が待たれる。
蒸留酒の方が先に完成しそうだけどな。

くっ、と一口飲む。
うむ、強い。

「これから話す事を儂は明日には忘れとる。其方も忘れよ」

「はい、忘れます」

成る程、そのための酒か。これは公式の会見ではないと。
とは言え発言には気を付けないとな。
無礼講と言って無礼講じゃなかった例は枚挙に暇が無い訳だし。

特にこの時代の武士だ。
酔っ払って理性のタガが緩んでいる時に頭に血が上ったら、あっさり刃傷沙汰とかになりかねない。

「其方は何者じゃ?」

「!!!!???」

親爺の言葉に頭が真っ白になった。
え? それでどういう意味ですか?
ひょっとして俺の正体が……。

「其方は何を為そうとしておる? その身に蓄えた知識、その身に修めた武で何をする?」

ああ、そういう意味か。
びびったー。いや、親爺なら気付いてもおかしくないと思わせる程度にはおかしいからな。

「私は織田信秀の長男です」

「其方の本心が知りたい」

「本心です。私は貴方の息子であり、吉法師の兄である」

そして、親爺の目を真正面から見据える。
目元に皺がある。白髪も見える。
老けたな、親爺。

「兄弟を守る。それが私が変わらずに持ち続けている、唯一の野望(・・)です」

敢えて強い言葉を使ってみた。

「家督を継いだ方が守り易いのではないか?」

「父上が私に家督を譲ってくれ、家の人間全員が穏便に納得していただけるというなら、そうしますが?」

「無理だがね」

言って親爺は盃を呷った。空になっ盃に酒を注いでやる。

「父上が吉法師を後継者と言うなら私はそれに従います」

「吉法師以外を後継者としたら?」

「従いますよ」

「その時吉法師はどうなる?」

「弾正忠家では邪魔でしょう。私が引き取りましょう」

「甘い考えだがや」

「考えはそうでしょう。しかし、覚悟まで甘いつもりはありません」

「言うでないの」

「私にとって弾正忠家とは枠組みでしかありません。吉法師が家督を継ぎ、私が兄として支える。それが最も兄弟を危険に晒さない道だと信じているから、私はそのようにするだけです」

「虎の子とは思えんでや……」

「翼を持って生れて来たそうですからね。そもそも異形なのでしょう」

「戯け……」

それだけ呟いて、親爺は盃を呷り、無言で俺に差し出した。
親爺の盃に酒を注いでやり、俺も酒を一口飲む。

「これは何の他意も無く聞くのですが」

「なんだで?」

「父上こそ、吉法師を後継者のままでよろしいのですか? 土田御前様は弟君を推しておられるようですが?」

「ああ、変わらぬ。儂の後継者は吉法師よ」

「ならば、私が申す事は何もありませんよ」

「おかしな奴よ。三河の力を十全に使えば、弾正忠家から独立する事もできようが?」

「知多湾を臨む港が手に入ったら考えますよ」

「ほう、ようやっと野心が出たな?」

「吉法師からやめろと言われたらやめますがね」

「ふん、つまらん……」

「兄弟を守る、その中に、当然長男も入っていますから」

俺がにやり、と笑うと、親爺は苦笑を浮かべた。

「其方の安祥城を見た時、尾張を統一して吉法師に譲ってやれるかもと思った。だが、美濃が騒がしい。信友や信安も簡単には攻める口実を与えん。何か大きなきっかけがないと、統一まではまだ十年はかかるかもしれん」

十年どころか、史実だとあと二十年くらいかかるんだよな。
まぁ、史実の俺が負けて三河戦線が大きく後退したのが大きいとは思うけど。

「できる限り伊勢守と大和守の力を削ぐ。吉法師はうつけのままでいさせよ。さすれば、あいつが家督を継いだ時、不穏分子が一斉に牙を剥くだろう」

「それを口実にするとは言え、大変な道のりですね」

「そうでなくてはこの混迷した尾張は統べられんでや。大義名分も無しに上役を討っても誰もついてこやんでよ」

「わかりました。家中の不穏分子は私が抑えましょう」

「それは儂がやる。其方は三河を安定させとけばええ」

信長が家督を継ぐときは、親爺が死んでいるんだが……。
それを口にする事はできず、俺は無言で盃を呷った。


翌日、痛む頭に鞭打ち城を出る。
出ようとしたところで、一人の少年と出会う。

「お久しぶりでございます、五郎三郎兄上」

正装に慇懃な態度。幼子特有の舌足らずな口調でありながら、しっかりとした言葉で挨拶をする、利発そうな美少年。

「おお、坊丸。久しぶりじゃな」

そこに居たのは信長の弟、嫡流にある、正真正銘の弟、織田信行だった。
ただ現在では幼名の坊丸と呼ばれている。
信行かなー? 信勝かなー?
元服が楽しみだ。

「勉強はしておるか? 武芸はどうだ? 馬にも乗れんではいかんぞ?」

言いながら俺が頭を撫でてやると、自然な動作で俺から離れた。
おお、こちらに不快な思いをさせないさりげない動き。
やるな!

「勿論、織田弾正忠家の一門として、恥ずかしくないよう日々精進いたしております」

うわー、真面目ー。
信長とは本当真逆の性格してるなー。
なんで両親が同じでここまで正確に違いが出るかね?
教育係だって、信長の教育係や家老が特別変な奴が居る訳じゃないしな……。

沢彦、お前のせいか?
いや、あいつ呼ばれたの実は割と最近だからな。
やっぱり天性の才能なんだろうか?
それとも、はっきりと記憶が思い出せてないだけで転生者だったりしないよな?

まぁ、年齢を考えれば、どっちかっつーと信行の方が転生者っぽいけど。

「うむ、良い心がけじゃ。其方は嫡流であるから儂よりも近くに居る筈であるからな、しっかりと兄を助けてやるのだぞ?」

「……吉法師兄上ですか?」

「他に誰がおる?」

「五郎三郎兄上も……」

「長い、信広で良い。信に……では誰の事かわからんな。広(にい)と呼ぶが良い」

「信広兄上でも、吉法師兄上が後継者に相応しいと思うのですか?」

言い直してそれか。つくづく真面目な奴だな。

「勿論だ。嫡流の長男が継ぐのは当然の話よ。病弱だと言うなら別であるが、野山を駆けまわる程元気であるようだしな」

「私も、後継者は吉法師兄上で問題無いと思っております……。けれど、周りが……」

「うぅむ。儂も吉法師には周囲の評判を気にするよう言うておるのだがな。どうも奴はその辺りに無頓着のようだ。そういう意味でも、其方が助けてやってくれぬか? なに、簡単な話よ。吉法師を諫める際、『弾正忠家の後継者なのだから』と一言付け加えるだけで良いのだ」

「成る程、それなら私が兄上を後継者と認めていると、周囲に知らしめる事ができますね」

おお、これだけで理解したか。
こいつ本当、頭良いな。
存外、謀反なんて起こさなかったら、それなりの名将に成長していたんじゃないだろうか?
どちらかと言えば内政向きだと思うが、まぁ、合戦は信長が担当すればいいんだしな。

「その通りよ。ただ諫めるだけでは、其方を担ごうとする者が其方に期待してしまうでな。しっかりと周囲に『後継者は吉法師』と伝える事が大事じゃ。親爺殿も常々そうしておろう?」

「はい。母や権六に兄上の事で進言を受けても、それだけは頑なに譲りませんから」

信長のうつけのフリを見抜いているのか、それとも、戦国乱世を生き抜いて来たチート武将としての直感か。
親爺が死ぬまで信長を後継者として譲らなかったからこそ、史実での家中の混乱はあの程度で済んだんだよな。
それでも幾つもの重臣が寝返ったり独立したりしたんだから、やっぱ信長やり過ぎたんじゃないかな?

まぁいいや。とりあえず信行の翻意はできる限り無くしておこう。
どうやら既に、傍に信行を後継者にしたがっている人間が居るみたいだしな。
あのババァ。幼い信行に何を吹き込んでいやがる。
真面目で素直で責任感の強いところが、丸々裏目に出てるじゃねぇか。

「つまりそれが弾正忠家の総意という事よ。勿論、忠臣であるからこそ、当主の考えと真逆の意見を出す必要がある。何故なら、当主がその意見を見落としている可能性があるからだ。あらゆる意見を聞いた上で、結論を出すのが当主だ」

「はい、信広兄上。平手様や信広兄上では補えない部分を、私が担おうと思います」

「頼むぞ? 弾正忠家の将来は、吉法師や其方のような若者が作っていくのだからな」

「はい! お任せください!」

本当、素直で良い子だ。
信行と信長を足して割ったら丁度良いんじゃないのかな?
まぁ、そんな武将でこの戦国乱世を乗り切れるかと言われれば、確かに微妙だけどさ。

とにかく会える回数が少ない以上、こういう機会に兄弟達の思考を誘導しておかないとな。
どうしたって、やっぱり近くに居る人間の言葉に影響されちゃうだろうから。

まぁ、一度の謀反は許そうじゃないか。
それで兄の偉大さを知る事になるだろうし。
けれど信行、二度目の謀反はお兄ちゃん許さないからな。

俺が守るべき兄弟には、お前も入っているんだから。
今まで頑張って実績を残して来た結果、親爺に信頼されるようになりました。
そして信行登場です。
主人公同様楽しみにしている方は申し訳ありませんが、拙作では「信行」でいきますのでご了承ください。
ちなみに幼名は資料に無かったので、息子の幼名を拝借しています。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ