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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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未来の英雄との邂逅 馬廻り衆編


親爺に呼ばれて古渡城へ向かおうとした折、岡崎から出陣の兆候が出たそうだ。
正直、敗戦で機嫌最悪だろう親爺の元へ行きたくなかったので、迎撃を理由に出向を取りやめようとしたのだが、

「余四郎たちだけでも大丈夫でしょう」

新田しんでんに言われて、俺はそのまま古渡城へ出向く事になった。

数はそれほど多くないし、陣容も有名な武将が少ないそうだ。
どうやら広忠も俺と同じことをしているらしい。
何度も攻めかける事で、上和田城を消耗させようとしているんだろう。

弾正忠家が手厚く支援してるから、先に潰れるのはお前らだぞ?

言ってやりたいが、それは俺の戦略を覆す事になるので言わないでおく。

俺のお供は四椋よんりょう公円こうえん
上和田城への援軍には、公円の幼馴染の西尾にしお住吉すみよしと、俺の乳母の弟の松原まつばら福池ふくちが千名を率いて向かうらしい。

住吉と福池の二人はすげぇ良い顔して出陣していった。
やっぱりこの時代の武士は、槍働きで認められてこそ、みたいな風潮があるからな。


尾張国内に入ると、妙な一団に出会った。

「おう、あにうえではないか」

「久しいな、吉法師」

というか信長だった。
派手な染付の湯帷子を気崩し、荒縄を帯び代わりにし、瓢箪と火打石をぶら下げている奇抜な姿の美少年がその一団の中心に居た。
信長の周囲に居るのは同じくらいの年嵩で、みすぼらしい恰好をしたガキ共。
ああ、これが信長の悪ガキ軍団か。

利家とか秀吉っぽい奴はいないな……。
あれ? あいつらいつ信長の配下になるんだっけ?

「大将なんすか? このでかいの?」

悉く目つきの悪い一団の中で、一際目つきの悪いガキが信長と俺の間に割り込んで来る。

「無礼者! このお方を……」

「兄弟の会話を邪魔するとは、いい度胸だな、小僧」

四椋より先に俺がキレた。
まだ信長と挨拶しか交わしてないのに何邪魔してくれてんだ? ああ!?

「い、ぐ……」

「そのガキ共が其方の噂の家臣団(笑)か? 吉法師」

俺は馬から降りながら訪ねた。

「いまなにかばかにされたようなきがしたが、そのとおりだ。おれがかとくをついだあかつきには、みなおれのだいじなかしんとなる」

「大将!」

「あざっす!」

「一生ついていきます!」

「兄弟の会話を邪魔するなと言ったぞ?」

信長の言葉にそれぞれ歓声を上げるガキ共を、俺は一睨みで黙らせる。

「まだまだガキだな、これでは戦場では碌に役に立たんぞ?」

「こ、これからきたえればよい」

「ふむ、よかろう。儂も武芸には少々自信がある。少し試してやろうではないか。おい、そこの」

ちょっと思う所があったので、さっきの目つきの悪いガキを指名する。

「全力で儂を殴ってみろ」

「え?」

散々ビビらされたガキがキョトンとした表情を浮かべる。
うん、信長と違ってまるで可愛くない。

「反撃も防御もせぬから全力で殴ってみよ。其方の力を見てやろう?」

「え? いや……」

ちらちらと信長を見るガキ。

「なんだ? 威勢が良いのは口だけか? まぁ戦には言葉合戦もあるから、口が達者なのは良いがな。しかし武士たるものそれだけではな。そのような口先だけの腑抜けでは、我が弟を任せる事などできんな」

「ぐ、な、なめんなよ!」

相手にもガキなりにプライドとかあるだろうからな。これだけ挑発すれば乗ってくるか。
ガキは拳を握り、俺に向けて放った。
拳は顎に命中したが、俺は微動だにしなかった。

相手の身長は130cmくらいだろうか。俺との身長差は50cm以上。
顎を引き、首を窄めた状態で受ければ、この身長差が威力を殺してくれる。

「う……?」

渾身の力で殴ったのに、俺がびくともしない事を不審に思ったんだろう。拳を振り抜いた体勢で首を傾げた。
だから可愛くないんだって。

「其方、名前は?」

「も、毛利新左衛門……」

「名だけは立派だな。良いか。このように上背に差がある相手の顔を狙っても大した効果は望めぬ。その程度もわからぬとは、其方誠に武士の子か?」

「た、大将を討てば戦は勝ちだろうが!」

「それは一理あるが、今の其方の攻撃は、相手が万全の防御陣を形成しているところへ寡兵で正面から突撃したようなものだ。それで大将を討ち取れると思うか?」

「う……」

「足を狙って体勢を崩す、腹を殴って衝撃を蓄積させる。急所を狙う。手は幾らでもあろう。もし戦であれば其方が指揮する先鋒は無謀な突撃で壊滅。間違いなく、後続の部隊の士気は低下するであろう。そうなっては、勝てる戦も勝てぬ」

「殿っ!!」

と、俺が高説のたまっていると、四椋が叫んだ。
ほぼ同時に背後から木剣で殴られそうになったので、素早く振り向きそれを受け止める。

「な……、なんで!?」

わかったのかって? 気配がしたからだ。
なんて達人みたいな事は言えない。でも、目の前のガキ共の反応と、後ろで足音と剣を振りかぶる音がしたからな。
今のは中々良い打ち込みだった。けどな……。

「其の方ら……!」

「よい、公円」

下馬して刀の鞘に手をかけた公円を俺は手で制した。

「吉法師……」

「な、なんじゃ?」

まぁそう怯えるなよ。

「儂は前に言ったな? 儂を殺せば其方の立場が悪くなると」

「う……」

「木剣とは言え、頭に当てたら人は死ぬぞ? このガキ共が其方の家臣だと言うなら、家臣のしでかした事は主君の責任じゃ。咎はこのガキのみならず其方にも及ぶ」

「な、なんでだよ!? あんたを殴ろうとしたのは俺で……」

「武士とはそういうものだ! それもわからぬなら家臣団ごっこなど今すぐやめて家で大人しくしておれ!!」

俺が叫ぶとガキ共は気まずそうに顔を逸らした。
信長を庇おうとした気概は評価できる。しかしガキとは言え、あまりにも自覚が無さ過ぎるな。

「家臣のしでかした事は全て主君にも責任が及ぶ。吉法師はこれから家督を継ぐ。その時其方らは家臣として召し抱えられるだろう。だがそうなれば、勝手な行動は許されぬ。其方らの言動は全て吉法師の評価に直結するのだ! それを理解できぬ者は今すぐ吉法師から離れよ」

「いくらあにうえとはいえ、いまのことばはゆるせぬ! こいつらはおれのだいじなかしんだ! あにうえだろうとちちうえだろうとかってなまねはさせぬ!」

「大将……」

「其方が確りと教育していないのがそもそもの原因であろうが! 将来家督を継いでこの者らを率いていく気があるのなら、甘やかすだけでどうする!」

「う……」

言葉を詰まらせ俯く信長。
胸が痛むが、ここは鬼になろう。
昔は信長が可愛すぎて叱る事はできなかったが、今の俺は成長したんだ。
こないだ駄目な兄の姿を見たばかりだし、今度親になるんだからな。

「其方らもだぞ。吉法師の家臣としてありたいなら、振る舞いに気をつけよ! 其方らの言動の一つ一つが吉法師の評判に繋がるのだ。わかったな?」

「…………」

ガキ共は無言。
これが自分を省みての沈黙なら良かったが、どうも顔を見ると、不貞腐れているだけのようだ。

「わかったかわからんのか!!?」

「は、はい!!」

俺が一喝すると、ガキ共が背筋を伸ばして声を合わせて答えた。

「よし、よく吉法師を支えてやれ。そいつは少々言葉が足らぬところがある」

「なっ!?」

突然の指摘に信長が声を上げる。

「「「ああー」」」

「きさまら!?」

しかしガキ共もわかっていたらしく、納得したような声を上げた。

「其方らが吉法師と他の人間の橋渡しをしてやるのだ。しかし、どこの馬の骨とも知らぬ、愚かなガキでは聞く耳を持ってもらえん。其方らの悪評が吉法師の悪評になるように、其方らの良い評判が吉法師の名声を高める事にもなるのだ」

ガキ共は無言。しかし、その目は爛々と輝いている。

「良い目をしておる。吉法師、其方の人を見る目は確かのようじゃな」

「あたりまえだ。おれはおだけのちゃくなんだからな」

「それが言葉足らずと言うておる。おい、そこの」

と、俺はさっき背後から襲い掛かったでかいガキを呼ぶ。

「名前は?」

「は、服部小平太です」

「今の吉法師の言いたい事、わかるか?」

「は、はい。多分、大将は、『嫡男だから、家臣は厳しい目で選んでいる』と言いたかったのではないかと……?」

「本当にそう思うか?」

俺はガキを睨みつけた。

「は、はい……」

「…………」

「…………」

「あにうえ、おれのかしんを……」

「儂もそう思う」

暫く無言で睨み合っていると、痺れを切らした信長が庇おうとしたので、機先を制して、俺はガキを肯定する。
安堵した雰囲気が漂い、空気が弛緩したのを感じた。

ひらりと馬に飛び乗り、そして俺は言った。

「小僧共、大志を抱け! 野望は大きい程良い!」

ノリで偉人の名言をパクってしまった。すいません、博士。
でも英語と日本語だとニュアンスが違うので気にせず学校を去る際に生徒に伝えてあげてください。

そして俺は颯爽と馬を駆り、その場を離れた。
若干罪悪感があってその場を早く離れたかった訳じゃない。
訳じゃないったら。
どちらかと言えば、その方がカッコイイと思ったからだよ。


古渡城はピリピリしていた。
まぁ、親爺が機転を利かせて、大敗の状況から、ライバルの戦力を削ったとは言え、負けは負けだ。
それこそ、直属の上役で、一番のライバルである、織田大和守家の力は相対的に増してしまったからな。

空気が重いよ。

「其方の婚姻が決まった」

親爺は一言そう言った。
えーと、正室かな? そういや於大側室だったね。
つーかこの状況で婚姻ってまさか美濃のどこかと?
まさか斎藤家?
つまり濃姫がこっち来ちゃうの!?
えーと、濃姫って今何歳だ? 確か信長とそれほど変わらなかった筈だから、十歳前後か。
戦国時代だと普通にあり得るからなぁ。

「そう言えば以前、相応しい相手を用意すると仰っていましたね」

けどいいのかな? 信長の嫁だよ?
確かに濃姫との間に子供は無かったとか言うし、そういう意味では問題無いんだろうけど、斎藤家との関係的には大丈夫なのか?
俺、道三と会見して謀殺されないどころか、気に入られて帰って来る自信ないぞ。

あ、でも道三の側室って件の土岐頼芸の元側室だから、話は合うのかもしれない。
いや、於大は別に広忠から奪った訳じゃないけどさ。

「うむ。佐久間全孝の娘だ」

おっと、違った。
え? 誰?
娘さんもそうだけど、そのお父さんは誰?
佐久間……だけど、織田うちの佐久間さんとは別だよな?

うーん、名前は聞いた事ある気がする。
それも前世じゃなくて最近。
となると三河関連か?
佐久間、佐久間……。

「三河国賀茂郡西広瀬城主……でしたか?」

「時間がかかったな。忘れていたか?」

「滅相もございません」

「周辺の武士と城くらい覚えておかんか」

「申し訳ございません」

素直に謝っておく。

「まぁ、良い。名前は於広だったか。同じだな、良かったの?」

どこに良かった要素があるんだろうか?

「ちなみに矢作川を挟んで対岸にある東広瀬城に対抗するため儂が築かせた城だ。東広瀬の三宅高貞と争っている。これを何とかする事を条件にお前への輿入れが決まった」

「なんとかって……」

そうかー。相応しい相手って、家格とかじゃなくて、政治的な意味だったのね。
まぁ、政略結婚だからな、そりゃそうか。

「姫城のように鮮やかにせよとは言わぬ。最悪城を保持するだけでも良い」

「畏まりましてございます」

こうして俺の正室が決まった。
まぁ、折角戦国の武士に生まれ変わったんだ。
ハーレムとはちょっと違うけど、正室と側室、せめて一人ずつは持ちたいよね。
信長悪ガキ軍団と遭遇。
そして信広の正室、決まりました。
信広の正室の名前は資料に無く、どこかで佐久間全孝の娘だと読んだ記憶があったのでそれを採用しました。
そして、佐久間全孝の娘の名前も資料に無かったので、オリジナル設定です。
次回は輿入れかな?
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