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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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上和田畷の戦い

上和田城防衛戦です。それっぽい合戦名をつけてみました。

結局敵はこの上和田城を目指しているようだ。
まぁ、今の松平家の国力を考えると、上野城を獲っても次が続かないもんな。
俺達が上野城を攻めても、援軍出せないだろ。
この時代、川を渡るってそれだけ大変な事だったんだから。

敵の数は予想通り千名。
広忠自身が率いているのは意外だったけど、まぁ、こっちも防衛の総大将が俺だからな。
忠倫を総大将に、俺はあくまで与力、客将として振る舞おうと思っていたんだが、

「あくまで五郎三郎殿のご厚意で独立領主とさせていただいているだけですからな。できるなら殿とお呼びしたいところですが」

「それは勘弁願いたい」

できれば信長が家督を継ぐまで待ってくれ。

「かしこまりました」

忠倫も特に拘っていた訳じゃないらしく、あっさりと引き下がった。

周囲の兵が忍び笑いを漏らしていたり、苦笑いを浮かべていたりする。
どうやら、忠倫も兵の緊張をほぐす事を目的としていたらしい。
古参兵って感じでいいな、こういうの。

「しかし我らの兵は本当に城に籠ってよろしいのですかな?」

「まだ防衛陣地の使い方を知らぬでしょう? 今回は我々がそれを教えますから、櫓からでもじっくり見ていて下さい」

「お言葉に甘えるとしましょう」

城の外の防衛陣地で敵の迎撃にあたるのは、安祥城からやって来た、俺の兵六百名。
忠倫の兵は三百名程で、こちらは城に籠って防御する手筈となっていた。

上和田城の北と東は矢作川から水を引き込み、意図的に湿地帯を作り上げた。
一応、矢作川の水害対策に、増水時は遊水池となるように設計しておいた。
増水するまではきちんと田んぼとして使えるようにはしてある。
つまるところ、地面はドロドロのグチャグチャ。
稲が実っているから今は地面が乾いているけど、こちらも早刈りを行い、水を止めていた堤を壊してしまえば、部隊が行進する事が非常に難しい泥濘地が完成する。

更にそこに土を入れた俵を積んで土塁の代わりにした簡易的な防御陣地を設置。
その背後に弓兵と擲弾兵を控えさせた。
擲弾兵は遠くへ投げるために地面に板を敷き、その上に立たせている。

「殿! 松平軍、前方二町先に到着。尚も前進中!」

俺の傍に控えた西尾義次が自分の手で作ったわっかを覗き込みながら報告した。
一応少し遠くまで見えるようになるらしいよ?

「よし、擲弾兵、投擲始め。五組、三投」

俺が命じると陣太鼓が鳴らされる。
最前列に配置されていた擲弾兵がそれを聞いて動き始める。
手にした焙烙玉に火をつけ、左半身になり、右手を大きく下に下げて構える。そして前にスキップするように走りながら、焙烙玉を投擲した。

五ヶ所の防御陣地から、それぞれ五個の焙烙玉が迫る松平軍へ飛び、その前方や上空で爆発する。
当然、中に詰められていた木片や石がばらまかれ、兵達に甚大な被害をもたらした。

しかし、姫城の時と違い、今回は敵の数が多い。
焙烙玉の直撃を受けた一部の部隊は混乱するものの、軍全体としては進軍速度を落とす事無くこちらへ向かって来る。

同じように焙烙玉の投擲が三回繰り返される。

「損害はどのくらいか?」

「おそらく五十程度かと……」

「ふむ、想定より少ないな」

「届く前に爆発してしまったり、敵軍とはまるで違う方向へ飛んでしまったものが相当数ありました。やはり地面が安定していないと難しいようですな」

「その辺りは改善しなければならんな。弓隊撃て。一斉射後、策の通りに」

そして再び陣太鼓が鳴らされる。
それを受けて、土俵の後方から弓が放たれる。
そこでようやっと、松平勢も弓を放ち始めた。

相手は前衛がまたしても被害を受けたようだが、こちらは損害は少ないようだった。多くは土俵に刺さっていたからな。
そして一段目の陣地に居た兵達は、弓を一発撃つと、すぐに後方へと逃げる。

彼らが二段目の陣地を越えると、二段目の陣地に配置されていた弓兵が松平勢に弓を射かけ始めた。

防御陣地は四段から構成されていて、俺が居る本陣は上和田城大手門の内側だ(・・・)

そしてついに四段目の兵も逃げ、開け放たれた大手門から城内へと逃げ込む。

それを松平勢が追いかけて来る。
しかし、百メートル以上の泥濘地を、重たい甲冑や槍を持って走って来たんだ。
しかも、いつ焙烙玉や矢で自分が死ぬかもしれない中を駆けて来た。
心身ともにすり減らされた彼らが、まともな隊列を保っている訳が無い。

大手門に辿り着いた先鋒は、明らかにほっとしてた。

「すまんがそこはゴールじゃないんだ」

そして、大手門の内側で待機していた、全ての弓兵が、松平勢に向けて矢を放った。
もう誰も、俺が英語を口にしても気にしなくなったな。
結構ポロポロ言ってるからね、しょうがないね。
一時信時なんか、俺が言った英語のリストみたいなの作ってて、どういう意味か聞いて来てた。
最初はなんか犬が尻尾振って寄って来てるみたいで可愛かったけど、流石に暫くすると面倒になって、「気にするな」と頭をワシワシしていたら、気にしなくなったからな。

それまで五つの防御陣地に四段に分けて配置されていて、一段ずつ行われていた射撃が、ここに来て一斉に放たれたんだ。
まともな隊列を成してない散兵が、混乱に陥るのは当然だった。

大手門に辿り着いた部隊が殲滅された事で、その後に続いていた兵の足が止まる。
しかし、その後を走っていた兵は前の状況がわからず、突然止まった前方の兵にぶつかる。
将棋倒しのようになって、倒れた前方の兵に、後から続く兵が躓いてこけて折り重なっていく。

「うわぁ……」

四椋よんりょう、哀れんでる暇があったら撃て。

当然、動きの止まった数百人の塊なんてただの的だ。次々に矢が射かけられて止めを刺されていく。
この時、俺の指示によって、下敷きになっている人間、より前方で倒れている人間から狙うようになっていた。
自分の前、あるいは下の人間が矢を受けて死んだのを見て、それより後方、あるいは上に倒れていた人間は即座に立ち上がって逃げ始める。

しかし、後方からは他の部隊がやって来ているので、逃げるに逃げられない。

土俵の防御陣地も、互い違いになるよう斜めに設置している。外から中へ向かうにはスムーズにいくけど、中から外へ出るには、陣地の間がすぼまっているので渋滞が起きるようになっているんだ。

「火矢じゃ」

進む兵と退く兵で、陣地の中で押し合いへし合いしている所へ、俺の指示を受けた兵が火矢を放つ。
土を入れた俵には種類がある。表面に土が塗られた俵はただの土俵。
しかし、表面に土が塗られていない俵には、火薬が詰まっている。
放たれた火矢が俵に刺さった瞬間、俵が爆発して周囲の兵を吹き飛ばす。
火にまかれた兵が混乱して逃げ惑う。
俵に引火して、辺り一面火の海となった。

「突撃貝、吹け」

そして俺は大手門から飛び出す。遅れてほら貝が吹かれて、俺に続いて騎馬武者が、混乱している松平勢に向かって突撃を開始した。

「だから総大将が先頭いくなっての!」

後ろから四椋のそんな声が聞こえる。
うん、ちょっと気が逸ってしまったと反省してる。
蒲生氏郷もびっくりの飛び出しっぷりだったもんな。

あまりにも策が上手く行き過ぎてテンション上がっちゃったんだよ。

混乱からの立ち直りが早い一団が幾つかある。
つまり、そこには部隊を指揮する者が居る。
流石にこの状況で城攻めは無理と判断したのか、素早く退いていく。

よし、許す。逃げるといい。但し、俺が追いついた一団だけは犠牲になって貰う。

俺の接近に気付いた武士のうち、一人の兵がこちらを向いて槍を構えた。

「兄上、子供らを頼みます」

「すまぬ、忠員」

何か言ってるけれど流石に聞こえないな。まー、きっと敗戦の悲愴美に酔った会話を交わしてるんだろう。
よかろう、その覚悟、汲んでやろうじゃないか。
松平家にとっての最悪の敵となってやろう。

「我は大久保忠茂が次男、大久保甚四郎忠員、いざ尋常に……」

「知らんっ!!!」

目の前の武士が驚愕の表情を浮かべたのは、自分の名乗りを一刀両断にされたからなのか。
それとも、一切速度を落とさず騎馬で突っ込んで来る俺を見たからなのか。

前者っぽいなー。

ちなみにこの時代の馬上槍は、敵陣に突撃して槍を振り回すようなのじゃなくて、殆ど馬を止めた状態で、歩兵を叩く感じの技術になっていた。
だから目の前の大久保某は速度を落とさず真っ直ぐ進む俺に戸惑いを覚えたんだろうな。

俺の今回の武器は総鉄製の槍だ。
それも、柄の先に鏃がついたタイプではなくて、刃はむしろなく、刺突に特化した、所謂ランスタイプのもの。
名付けて『金剛武槍こんごうむそう』!

流石にこれを全部鉄で作ると重くて持てなかったから、柄の部分は空洞になっていて軽量化が図られている。
ここで重要なのは、ランスタイプの槍を作った事じゃなくて、空洞になっている鉄製品を作れた事だ。

迫って来る俺にどう対応しようか目の前の武士が迷っている間に、俺は金剛武槍を突き出し、その鎧を貫いた。

「がはあぁ!」

騎馬の突進力もあって、大久保某の体が宙に浮く。
そのまま槍を下ろすように振るって相手を地面に落とし、逃げる一団を追いかけようとして、やめた。

一人だけとは言え、名のある(らしい)武者が殿軍を買って出たんだ。
てことはあの一団に間違いなく広忠が居るだろ。

今後も上和田城に攻撃を仕掛けて貰うためにも、あいつには生きて貰わないといけない。
是非ともまた来てその戦力を削ってくれ。

「とは言え、こちらの損害も馬鹿にならんな……。もう少し考えないと……」

擲弾兵も弓兵も、もう少し工夫する事で損害が減らせる筈だ。

「追撃中止! 勝鬨を上げろ!!」

「「「えい! えい! おおおーーーー!!」」」

城の中の兵はともかく、俺の後ろから追いかけて来た騎馬隊は不満気だ。
ちゃんと褒美やるからそんな顔するなって。

「最後の策は使わず仕舞いだったな。まぁ、また何度も攻めて来るだろうから、その時でいいか」

矢作川は、度々増水してはその付近に水害をもたらす。
そのための遊水池として、この上和田城の北と東に水が入るように作った。
普段は矢作川から水を曳き、水田として利用しているが、稲がある程度育てば水を抜く必要がある。
つまり今、矢作川からの水が堰き止められているんだ。

最後の策は、まぁ言わなくてもわかるな。

是非ともその一撃目は今川軍に食らわせたいところだな。
松平(徳川)に対する城の防衛では有名な戦術を採用。
元ネタの方は別動隊による横槍があったりしましたが、殲滅ではなくて敵に損害を与える事が目的ですので、こんな感じです。
そして史実では相当長く生きた武将がここで討死。
今後も松平、今川共に、史実では生き残った武将が消えていく事でしょう。
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