挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
28/50

織田家は数学のテクノロジーを獲得しました。

カタパルトの開発が可能です。

出陣の直前、俺は於大の部屋を訪ねていた。

「殿、戦に行かれるのですね」

於大が俺の兜の緒をしめながら言った。
体格差のお陰で、自然と俺を見上げる形になる。
上目使いで、心配そうに俺を見る於大の表情が素晴らしい。
あと俺の腹辺りに押し付けられる、大きな果実二つ。

生憎甲冑のせいで感触は楽しめないけど、歪んだ形が絶妙に卑猥だ。

「うむ、心配するでない。儂はこのような戦で死にはせぬ」

史実が絶対とは言えないが、まぁ、総大将なら余程運が悪くない限り死ぬような事はないだろう。
その前に敗走する事になる筈だ。
防衛戦ならともかく、城攻めなら尚更だ。

「はい、ご武運をお祈りしております」

そして於大が爪先立ちになり、顔を近付けて来た。俺も顔を近付け、唇を突き出す。

「え……?」

零れた於大の声は戸惑いが含まれていた。

所謂いってらっしゃいのチュー、は今まで何度もして貰っている。
けれど、大体はほっぺだ。
それが、俺が唇へのキスを求めているので困惑したんだろう。

真っ赤な顔が、決して嫌がっている訳じゃない事を俺に教えてくれている。

「ん……」

そのまま待っていると、躊躇いがちじゃあるけど、於大が口づけてくれた。

「もう、殿……」

「すまぬ。折角なので特別にな」

そして二人で見つめ合う。
俺は甲冑を身に着けているとはいえ、下は袴と佩楯のみ。
そして於大は着物。この時代の女性の着物の下は言わずもがな……。

「うぉっほん!」

漂い始めた点描は、咳払い一つで吹き散らされた。

「はな、居たのか?」

「はい、ずっと」

部屋の隅には水野家から於大について来た侍女のはな(・・)が居た。
年は確か於大の一つ上。水野家家臣の娘らしいが、庶民的な雰囲気漂う素朴な感じの少女だ。
年下なのに於大の方が色っぽいのはやっぱり人妻だからか。
それとも、単純に於大のスペックが上なだけか。

「では於大、行ってまいるぞ」

「はい。ご武運をお祈りしています」

そして俺は、於大の部屋を後にした。



「姫城前方にて敵の布陣を確認しました」

「野戦か……」

物見からの報告に、俺はうんざりしたように呟いた。
籠城してくれると楽だったんだけどなー。
そのために、上和田城の忠倫には寝返りを悟られないようにしてもらってた筈なんだけどな。
援軍の期待と逃げ場が残されてるなら、この戦力差だと普通籠城するもんな。

「流石は弥次右衛門。一筋縄ではいきませんな」

俺の隣に馬を並べて信孝が言う。
言葉とは裏腹に口調は楽観的だ。この戦力差で負ける事はないと思ってるからだろう。

それは俺も同感だ。だからこそ、より少ない被害で城を獲れるように、敵が逃げやすいように状況を作ったんだから。

「あれか……」

姫城より西に百メートル程。小高い丘の上に俺達は到着した。
そこから城の前に二百人程の軍勢が布陣しているのが見える。

「鋒矢か……」

「一点突破で五郎三郎殿を狙っているのでしょう。相手は勝つつもりですな」

俺の呟きに信孝は応えた。
新田しんでんが寂しそうにしてるな。
いつもこういう時に俺と会話するのは俺の家臣団で軍事のトップに居る新田か、四椋よんりょうだったからな。

まぁ今回だけだから我慢してくれ。

「この状況で募兵に応じるような兵だ。領民兵とは言え侮る事はできない。持ち輪を」

言いながら俺は馬を降り、手を出す。一人の若武者が木製の三角形の輪を渡して来た。
頂点の一角に縄が結ばれていて、2メートル程の長さがあり、その先は直径15センチ程度の陶器製の玉に繋がっている。

「なさるのですか?」

尋ねて来たのは新田だ。
こういう俺の行動に対する反応の速さは流石に一日の長があるよな。
あったからなんだって話だけど。

「試せる時に試しておかないとな。実戦と試験では違う結果が出るかもしれないし」

持ち手の反対側に玉からもう一本縄が出ている。その途中に俺に持ち手を渡して来た若武者が印をつけ、縄の先端に火を点ける。

そして俺は持ち輪を勢い良く振り上げ、玉を空中に浮かせると、そのまま回り始めた。

う、結構重いな。
総鉄製よりはマシとは言え、中身がみっちり詰まった直径15センチの玉だ。
ていうか前世のハンマー投げ(・・・・・・)の玉の大きさなんて知らなかったからな。適当に作ってみたけど、意外と大きい、というのが最初に見た感想だった。

回転速度を上げる。一度速度がつけば、玉の重量は加速の手助けになる。
遠心力に負けて手を離さないだけの腕力があれば、の話だけど。

前世のハンマー投げの世界記録は確か百メートル無かったと思う。
しかもそれは、最新科学に裏打ちされた、栄養摂取とトレーニング、投擲フォームによって叩き出される数字だ。
幾ら鍛えてるからって、俺が前世のトップアスリートに肉薄する事は勿論、追い抜く事ができるか?

いや、無理だろ。普通に考えて。

それも踏まえての丘の上への布陣。
まぁ、練習では転がる分も含めて二百メートルくらいは飛ばしたから、何とか届くだろう。

源平合戦の頃なら、この距離でも強弓を用いて矢を射って来る武士も居ただろうけど、持ち運びに便利な短弓が普及しているこの時代なら気にする事はない。
届いたとしても大した被害は出ないだろう。一応、俺の前の兵士は矢盾を持って警戒してるし。

安心して回転を続けられる。
しかし、長いな。ちょっと導火線に余裕を持たせ過ぎたかもしれない。
相手との距離と導火線の燃焼時間を計算して投げるタイミングを計るために印をつけて貰った訳だが、まだ先みたいだ。

ちなみに計算したのは俺に持ち手を渡した若武者。
信時と同じ時期に元服した、西尾義次だ。信時と一緒に安祥城に来て、そのまま俺の家臣団に組み込まれた。
だって親爺からの書状にそうあったからね。お前の所で使え、と。

元々は伊勢にも領地を持つ三河東条城城主吉良持広の次男で、その時に弾正忠家に人質として出された。
持広が死去した後、家督と継いだのは養嗣子の義安だった訳だけど、そのまま尾張に置いておくのは危険と判断されて、元服と同時に俺の下に送られた訳だ。
義安が吉良家の養子に入ったのは、義次の生家東条吉良家と、義安の生家の西条吉良家を結ぶため。
けど、長年激しく対立していた両家が和解するのは難しい。
余計な混乱、というか争いを招かないためにも、火種は遠ざけたかったんだろうな。

この時代の人質は牢屋とかに監禁されてるような事例は少ない。
脅しの材料というより、忠誠や協力体制の保証みたいなもんだからな。幼子を人質として受け取ったなら、責任を持って養育するのが普通だ。

そしてどうやら教育が良かったらしく、この義次、かなり頭良かった。
ちょっと数学知識を教えただけで、玉の飛距離と導火線の燃焼時間から、最適な投擲タイミングを計算できるくらいに優秀だ。

まぁ、そういった計算ができないと城を築くなんてできないし、軍事行動だって制限されてしまうからな。
ていうかこの時代、できる人とできない人の差が激し過ぎる。
やっぱり教育って大事だと実感できた事態だ。

ところで義次は暗算で計算していたので(紙に書いてもいたけど)、

「ソロバンも無しに凄いな」

と言ったら、ポカンとした表情で首を傾げられた。
おっと、これは俺が斎藤道三を道三って言った時の古居ふるいと同じ反応だぞ。

詳しく聞くと、ソロバンってこの時代存在しなかったみたい。

前田利家の逸話を考えれば既にあると思っていたんだけど。
古居に確認してみると、京や堺で使っているのを見た事あるんだとか。

なるほど、全国的に普及してないのね。

という訳で木工職人に作らせた。今の形に近い、五の珠一つと一の珠四つのタイプ。
桁は流石に覚えてなかったから、長さ50センチくらいに納まる数にしておいた。
ボタンを押すだけでご破算できるソロバンの記憶があったから、その絡繰りも仕込ませた。

義次はじめ、ある程度計算に強い武将はこのソロバンを絶賛していたから、この戦が終わったら量産して売り出そう。
開発がまだ終わってないから作物系の特産品には力を入れられていないから、工芸品による現金収入はありがたい。

さて、変なフラグが立つ前に戦を終わらせるかね。

「ぬぅおおおおぅりゃああああああぁぁぁぁ!!!」

導火線に点いた火が印の近くまで来たので、タイミングを合わせて投擲。

「「「おおお」」」

周囲から感嘆の声が漏れ聞こえた。
凄まじい勢いで飛んだ陶器の玉は、放物線を描いて敵陣中央の上空へと届いた。
そして、爆発した。

玉の中に詰め込まれていたのは火薬と先を尖らせた木片と石だ。
それが上空で弾け飛び、降り注いだんだから、兵士の損害と混乱は推して知るべし。

「お見事でございます!」

諸手を挙げて喜んだのは新田だ。うん、効果に懐疑的だったんだろうな。
回転しても火が消えないよう導火線の改良など、結構力を入れて開発したからな。
正直その情熱を他に回した方が間違いなく軍備の増強に繋がったとは思う。
いいじゃん、思いついたからやってみたかったんだよ。

まぁ、普通に投石器なんかで補助させて擲弾兵に投げさせた方が早いし確実だ。

「よし、敵は混乱している。騎馬隊を先頭に全軍突撃! 殿の投擲はあと二回予定されいている。巻き込まれるなよ」

「「「おおおおおおお!!」」」

そして新田の命令を受けて、部隊は丘を降って駆けていく。
うーん、後二回は時間的に無理かな?

「殿、火縄の長さを調整いたしました。先程よりは回転時間が少なくて済むかと」

そう言って義次が次のハンマーを渡してくる。
おう、気が利くな、こいつ。

「喜六郎、其方はここにおれ」

「は……!」

初陣の若武者を突撃させるのは普通有り得ないからね。
しかし信時の声は固い。緊張してるのがわかる。

「この戦はもう勝ちじゃ。戦場の空気は感じ取れたか?」

「は、未だ夢現のようで……」

「構わん。こういうものだと覚えておけば良い。暫くは領内の野武士や野盗の討伐を任せる事になる。家臣の補佐を受けてしっかり学べ」

そして俺は二投目を放つために回転を始めた。
ちなみにハンマー投げの世界記録は約88m。
鍛えている戦国武将でも、高低差を利用したからと言って、果たして100m先に届くのか。
内藤勢も前進していましたし、100mと言っても目算ですからね、ちょっと多めに見積もったのかもしれません。
多分、ハンマー投げは今後登場しません。流石に効率が悪すぎると思います。

2/28追記
流石にハンマーがでかすぎたので、大きさを修正しました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ