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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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内藤清長

三人称視点です。

内藤弥次右衛門清長は、広忠の父、清康の代から松平家に仕える譜代の臣だ。
祖父の代には松平家と争っていたが、父義清の代に松平宗家に仕え、岡崎五人衆の一人に数えられた。
その父義清は、主君清康が死亡した森山くずれの後に三河へ侵攻して来た信秀と戦い負傷。この傷が元で翌年に死去している。

祖父重清が領主となった姫小川の地に城を築いたのが現在の城主でもある内藤清長だった。
何度となく織田信秀と争い、矢作川西岸を守って来た百戦錬磨の猛将である。

その老将が今、自らの居城で憤死しかねない程に憤っていた。

勿論、その対象は安祥城城主織田信広である。

信広が城主になってから、清長は度々兵を出している。
勿論、姫城単独で安祥城を攻略する事など不可能であるから、その周辺に出撃して略奪、焼き働きを行っていた。
主君広忠からその行為を諫められた事もあるが、清長からすれば甘い考えだと思っていた。

元々西三河は松平家の領地であるから、そこに住む領民も松平家の財産である。
それは清長も理解できる。
しかし、敵の手中にある以上は敵の財産なのだ。
取り返せなければ、配慮してもそれは敵を楽にさせるだけ。

統治の苦労は取り返してから考えれば良い。

いかにも武辺者らしい考え方の清長だが、気付けば窮地に立たされていた。
昨年の年貢の集まりが悪いので家臣に確認にいかせたところ、幾つかの村が信広に寝返っていた事が判明した。
仕置きのために兵を出したら、どこで情報を掴んだのか、安祥城より兵が来ていて返り討ちにあった。

何度か繰り返したが領地を取り戻す事はできず、敗戦の度に寝返る村が増えた。
寺社勢力や矢銭を要求していた座もあからさまに態度を硬化させるようになった。
目と鼻の先にある誓願寺からも、素早く領地を取り戻すよう、やんわりと責められた。

そして今、安祥城から姫城に向けて出陣があったと報告を受けたばかりだ。

「田植えの時期に出陣だら、正気かて……?」

それに関してはこちらの主君も言えた義理ではないが、まだ主君の戦は秋だった。
それならば、自分達は早刈りによってある程度の収穫量を確保しつつ、相手の収穫に悪影響を与える事ができる。
焼き働きは勿論だが、略奪すれば、出陣しなかった場合より多くの物資を確保できるかもしれない。

ならば、秋の出陣はありだ。
だがこの時期は……。

「敵の数は千とも二千とも言われております。また、陣中に酒井将監様、松平内膳正様、松平安城次郎様の旗印も確認できたそうです」

「領地を奪われた安城次郎はともかく、将監に内膳正もかや」

家臣の報告に清長は舌打ちを隠さなかった。
既に矢作川西岸の松平方武将が相当数寝返っている。
だが、それらの多くは城らしい城も持たない、領地らしい領地も持たない小物ばかりであった。

だが、今回の寝返りは大きい。

譜代の重臣一人に一門二人。家中の動揺は計り知れない。
特に信孝は広忠の後見だ。
松平家の軍事機密はほぼ筒抜けだと思っていいだろう。

「とにかく陣触れを出し兵を集めりん。籠るか出るかはそれからだら」

「は」

短く応えて家臣は部屋を出て行った。

「おそらく殆ど集まらんだら……」

一人残された清長は、諦観を滲ませた声色で一人ごちた。


集められた兵は常備兵と併せて三百名程だった。

「これで打って出るんは無謀だら。ほいだけど籠るなら援軍が必要だがね」

「岡崎城に使者を出しますか?」

「岡崎にそんな余裕はありゃせんがね。西三河は無理だら。三河中央……矢作川東岸の上和田城に援軍を要請しりん!」

「は!」

上和田城から援軍が来るなら籠る準備を始めれば良い。だが、それが不可能だというなら、野戦にて敵将を討ち取る以外に勝つ方法が無くなる。
領民兵は勿論だが、常備兵も決死隊になってくれるだろうか。
上和田の援軍が断られたなら、それは逃げ道が無いという事でもあるから、死兵となる可能性はある。

勿論、清長を排して勝手に降る可能性だってある訳だが。

「出仕停止命令中故勝手に出陣できぬ。岡崎の殿に要請されたし……?」

使者が持ち戻った書状を呼んだ清長の顔は真っ赤だった。青筋が月代にまで及び、その怒りの大きさを表している。

「上和田も寝返っとるでよ!」

そして清長は憤慨して書状を床に叩きつけた。

「し、しかし、逃げる兵を受け入れる準備はしておくとも……」

大久保氏は(・・・・・)出仕停止命令を受けとらんだら!!?」

逃げ道が無い。それを認められない家臣が恐る恐る進言するが、清長の一喝で黙らされてしまう。
忠倫が調べた通り、矢作川西岸までは詳しい情勢が伝わっていなかった。
怒鳴った事で感情が収まったのか、清長の顔色は元に戻りつつあった。

「逃げれる事は言わんで野戦の準備をしりん。信広を討ち取れるようならほれでもいいが、無理なら逃げるて」

最初から上和田城に逃げる事を伝えておくと、士気が低い状態で戦に突入する事になる。
まさか自分が一か八かの野戦での突撃を行う事になるとは。

にわかに強くなる合戦の気配。それとは対照的に清長の興奮は冷めて行った。
清長の方言は「なんちゃって」三河弁です。語尾くらいしか特徴つけてないですしね。
歴戦の猛者、的なのを表現するために方言にしてみましたが、(作者的に)すっげぇ大変なのに、あまり表現できてないっぽいから、恐らく清長以外では方言を喋るキャラは出て来ないでしょう。
やっぱ九州の方とか、東北の方とか。方言に特徴ある場所の人物でやらないと駄目ですね。
感想蘭で三河地方の方いらっしゃったので、ごめんなさい、と先に謝っておきます。

2/28追記
松平忠倫と上和田城について、大久保氏との兼ね合いで矛盾が少ないように修正しました。
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