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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:安城発展記【天文九年(1540年)~天文十三年(1544年)】
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悲運の武将、松平広忠 肆

三人称視点です


「信秀が美濃で敗北したそうだな。すぐに兵を集めよ、信秀が動けぬ今こそ、安祥城を獲るぞ!」


天文11年11月、信秀敗走を知った広忠はすぐに行動を起こそうとした。


「お待ちください! 先の戦いで兵も民も疲弊しております! 我らに安祥城を攻略する余裕はございません!」


しかしすぐに松平信孝が反対する。

小豆坂の戦い出陣には賛成の意を示した酒井忠尚も、これを支持した。


「またか、叔父上! それは相手も同じであろう。信秀の支援が無いなら十分に可能な筈だ」


「無理です! 安祥城は今や難攻不落の堅城。常駐している兵も五百を超えると言います。それに、あちらに信秀の支援が無いのと同じように、我々にも今川の支援がございません!」


「条件が同じなら負けはせぬ! 三代信光より続く三河松平嫡男の儂と、守護代の家臣格の長男でしかない信広、どちらの才能が上か明白であろうが!」


あまりの物言いに信孝も忠尚も二の句が継げなかった。


「殿の三河奪還にかける情熱があれば、安城信広など物の数ではございません」


阿部大蔵定吉が追従の言葉を紡ぐ。


「三河松平復興こそが我らの悲願! そのために力を尽くすのが武士というものであろうが!」


重臣、本多忠豊も居並ぶ家臣達を一喝した。


「領民達も三河奪還のためとあれば、喜んでその力を貸してくれるであろう」


二人の言葉に気を良くした広忠は、安祥城攻めの話を進めようとする。


「安祥譜代七家であるならば、安祥城が敵の手にある事を許容する事など有り得ません」


植村氏明が忠尚を見ながら言った。忠尚も安祥譜代七家に数えられる酒井家の人間。嫡流ではないとは言え、この言葉は刺さった。


「そうであろ、そうであろ」


広忠はうんうんと頷く。

信孝や忠尚は、そんな様子を黙って見ている事しかできなかった。

まさか自分達が少数派になっていようとは思ってもいなかったのだ。

農繁期に出陣しようとするうえ、敗戦続きの広忠。

見限る事はなくても、広忠を諫める方に意見は傾いていると思っていた。


三河武士の頑固さが悪い方に出た、と信孝はまだこの時、それほど深刻に思っていなかった。

三河を奪還すると言う目的は同じなのだから、今は少し進もうとしている順路が違うだけだと。


信孝、忠尚、そして一門の松平忠倫が弁舌の限りを尽くし、なんとか今年中の出陣はやめさせた。


正月は慣例として戦は無いし、冬の矢作川はとてもではないが渡れるものではない。

春になれば田植えが始まる。

これで時間が稼げる。

どうせ信秀は美濃との抗争で今までのようには動けないのだ。

ならば、こちらの戦力回復と、今川が動けるようになるまで待つのが得策。


本来なら安祥織田と結び、三河の分断統治を行うべきだと思っている。

しかし、広忠の独断で弾正忠派豪族、水野忠政の娘と離縁してしまったので、それも最早不可能だ。


ならば、今川に依るしかない。



翌年1月。

家中での立場がまずいものになりつつある事は信孝も理解していたが、それでも広忠の後見として力を尽くさない訳にはいかない。

軍の再編で岡崎城を離れる事ができない広忠に代わり、信孝は今川へ新年の挨拶に向かっていた。


今川が尾張を支配するために三河を統治下に置きたいのはわかっている。

しかし、今の三河松平家には、独力で弾正忠家と戦う力が無い以上、今川に頼る他無かった。


しかしこの間に事件は起きる。

広忠が出陣し、信孝の居城である三木城を奪ってしまったのだ。


駿河でその報を受けた信孝は、広忠に理由を問う書状を送る。


「三河を奪還するため、松平家の力を一つにまとめる必要があった」


広忠からの返答にはそうあったが、信孝の力を削ぐためである事は明白だった。

酒井忠尚、松平忠倫、松平清定らも、岡崎城への出仕停止を言い渡されたと別の情報から得ていた。


これは流石に我慢がならないと、信孝は今川義元へ仲裁してくれるよう直訴した。


「松平家が余の家臣だというならその乱れを正すのも主君の役目だとは思うがなぁ……」


しかし義元には断られてしまう。

その時の、義元のにやついた顔を見て、信孝は義元もこの計画に参加している事を知る。


「確かに拙者の言葉は殿には煩わしかったかもしれん。しかし、それは全て松平家宗家を想っての事。最終的に決断するのは殿だとしても、自分が正しいと信じる提言を行う事が忠臣としての役目ではないのか……!?」


主君が道を誤ったのなら、それを指摘し、正すのも家臣の役目。

ただ唯々諾々と主君に従い、その機嫌を取る事だけに腐心するようでは最早佞臣にも劣る。


「自分を肯定する意見は耳に心地良いかもしれぬが、それが正しいかどうかを吟味するのは主君の役目。甘味だけを口にしていては体を壊してしまう……」


特に阿部定吉は清康死去から広忠を支えて来た忠臣だ。重用したい気持ちもわかる。


「だからこそ、儂が重石にならねばならなかったのに……」


しかし広忠には、何も届いていなかった。

一体自分は何のために……。


失意の信孝は駿河を出た後、三木城にも岡崎城にも戻らなかった。

彼が向かったのは、安祥城。かつて三河松平家躍進の地となった城である。

暫く広忠は落ちていくだけです。

暫くすれば反撃し始めますが、史実のように活躍できるでしょうか……。

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