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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
20/62

未来の英雄との邂逅 鉄砲伝来編

史実では鉄砲伝来はこの年くらい。しかもその時色々ゴタゴタがあって、ようやっと日ノ本に回り始めます。
つまり、本来なら尾張まで来るのはまだ先の筈。ご容赦ください。

公円こうえん四椋よんりょうを伴って古渡城へ向かう。
街道も随分整備されて来たので、馬の進みもスムーズだ。

最初街道を整備すると言ったら、古居ふるい達からあまり良い顔されなかったなー。
でも、今気持ちよさそうに馬を駆る四椋達を見ると、やって良かっただろ? とドヤ顔したくなる。

ちなみに街道の整備をしているのは碧海郡から尾張へ向けての道だけだ。
流石の俺も安祥城から東への街道の整備は自重してるからね。

「うおっ!?」

尾張国内に入って暫くすると、突然大きな音が響いた。
驚いた馬が暴れ始める。
落ち着け! まずは俺が落ち着くから。お前はゆっくり落ち着けば良い。

手綱を引いて止まるように指示を出す。
前足が浮き上がったのを、首にすがりつくようにして抑え込む。

暫くはドタドタソワソワしていたけど、馬はすぐに落ち着きを取り戻したようだ。

「お見事です」

声をかけて来た四椋も同じような姿勢だった。

「流石ですな」

一方の公円は馬を降りている。
ちらりと見たけど、振り落とされる前に自分から飛んでたよな。
馬もよく逃げなかったもんだよ。

「なんだ今の音は? 何か踏んだか?」

「初めて聞く音でしたね」

周囲を見回すけど、それらしいものは無い。

「くっくっく」

すると、頭上から甲高い笑い声が聞こえて来た。
声のした方を見ると、4メートル程の樹が一本生えている。

その枝の上に、一人の少年が座っていた。

適当に結った茶筅髷に、気崩した湯帷子。帯ではなく荒縄で前をとめ、袴は半ズボンのように短く、腰には幾つもの瓢箪をぶら下げている。
一見すると女子のようにも見える整った顔立ち、白い肌。
気の強そうな目の奥には怜悧な知性の光。

織田弾正忠家嫡男、後の織田信長である吉法師がそこに居た。

多分、本人は悪ぶってるつもりの、実に楽しそうな笑顔を浮かべて枝に座っている。

ていうかその手に持ってんの、鉄砲じゃね?
おお、ついに伝来したか。
いや、そうじゃねぇ。つまりさっきの大きな音は銃声?
え? ひょっとして今俺達撃たれたのか?

マジか、ガチで暗殺じゃねぇか。

「なさけないなあにうえ。おれがそのつもりだったならきさまはすでにしんでいるぞ」

どこぞの世紀末救世主みたいな台詞だな。

「死んでいるとはどういう事じゃ? 今の大きな音は其方の仕業か? 吉法師」

一応、鉄砲には気付かないふりをしておく。

「くくく、さすがのあにうえでもしらぬようじゃな。みるがよい。これこそがなんばんよりひのもとにつたわったあらたなるぶき。いくさをかえるしんへいき、たねがしまである!」

枝の上に立ち、抱えた鉄砲を誇らしげにこちらに見せつける信長。
ドヤ顔ウザ可愛い。

「ほう、それが噂の鉄砲か。しかし高価なものだと聞くが、よく手に入ったの」

全く知らないふりをするのも難しそうだから、適当にノッておく。

「くくく。だんじょうのちゅうけのざいりょくをもってすればわけないわ。そしておれはちゃくなんだからな。こうかなものでもてにいれることができるのだ。ちゃくなんだからな!」

大事な事なので二回言いました。

「しかし今のが鉄砲の効果か。ふむ、大きな音で敵を驚かせる兵器か? 騎馬にはある程度効果はありそうじゃが、人間にはどうなのであろうな」

「くくく。あにうえのかんさつがんはそのていどか。しょせんはちょうなんよの」

「ほう、儂の見立てが間違っていると? ならばその武器はどのように使う?」

「かやくのばくはつりょくをりようしてなまりのたまをうちだすのよ」

「それは強いのか?」

「くくく。やだてやかっちゅうではふせぐことかなわぬ」

「先程その気なら、と言っていたな。とするとわざと外したのか?」

「く、くくく。そのとおり。あにうえにこのたねがしまをみせねばいみがないのでな」

今一瞬言い淀んだな。
そうか、本気で狙って偶々外しただけか。
やっぱりガチ暗殺じゃねーか!
要人の銃殺って、宇喜多直家の何年先取りだ!
自分で要人って意外と恥ずかしいな。

「そうか。ならば折角だ。その鉄砲の性能見せてくれぬか?」

ちょっといじめてやろう。

「う、うん?」

「そうよな、あの柿を狙い撃ってくれぬか?」

そう言って、俺は二十メートル程離れた位置に生えている柿の樹を指差す。

「う、うむ……」

「どうした? できぬのか? 弓ならこの距離でも問題無いぞ?」

「ぐ、う……ふ、ふん。やってやるわ。しばしまっておれ!」

そう言うと信長は鉄砲の銃口から上薬と弾丸を入れ、棒でそれを突き、火蓋を切り口薬を入れて閉じ、火を点けた火縄を挟み、再び火蓋を開けて、柿の樹に向けて構えて、引き金を引いた。

「おっせぇ……」

耳を塞ぎながら呟いた四椋の評価が全てだった。
馬を落ち着かせている辺りは流石だな。

「……外れたな」

今度は公円が呟く。
信長の放った弾丸は、柿の実どころか、枝も、幹にも当たらず、空の彼方へ飛んで行ってしまった。

「…………ぐぅ……」

涙目になった。
ちょっとやり過ぎたか?

「二発目を撃つまでに時間がかかり過ぎだな。実戦では焦りや緊張もあって更に遅くなるだろう。命中率も悪そうだな。それとも吉法師、其方の腕か?」

「……たねがしまのけってんじゃ」

素直に認めたなー。それとも、自分の腕のせいだと言われる方が嫌だったか?

「そのような欠点だらけの兵器を儂に自慢したかったのか?」

「ち、ちがうわ! たしかにこれいっちょうだけではたいしたこうかはえられぬ。だからだれもがこのへいきのすごさにきづいておらぬ。だがおれにはこのけってんをおぎなうさくがある」

「ほう、それはなんだ?」

「にはつめをうつのにじかんがかかるなら、そのまえにじゅんびしておけばよい」

さて、繰り出されるのは射手交代の三段撃ちか。鉄砲交換の連続射撃か。

「ひとりがたねがしまをうっているあいだ、べつのひとりがたまごめをおこなう。たねがしまをうったらべつのひとりからたまごめのおわったたねがしまをうけとり、いまうったばかりのたねがしまをわたすのだ」

鉄砲交換の方だったな。

「めいちゅうりつもたいりょうのたねがしまをならべればもんだいない」

「しかし鉄砲は非常に高価なのだろう? そう簡単に数を揃えられるのか? どちらも大量の鉄砲が必要だろう」

「だ、だんじょうのちゅうけのざいりょくならばだいじょうぶじゃ」

「足りなかった場合は?」

「う、え……と、う、あ、も、もっとかせげばよい」

「どうやって?」

「う……ぐ……」

うーん、ここまでか。9歳にしては考えてるけどな。

「お、おれがげんぷくするまでにかんがえておく!」

「そうか、楽しみにしておく」

本心からそう思う。
きっと信長なら思いつく。思いつかなくても、沢彦や平手に教えて貰えるだろう。
俺が教えてもいいけど、それだと意味が無い。
信長が自分で気付くか、自分で聞く事が大事なんだ。

常備兵と鉄砲。どちらも大量に揃えるには、莫大な銭がいる。

「あにうえ!」

俺達が馬を進めようとすると、樹上で信長が叫んだ。

「おろしてたもれ」

猫か。あ、虎の子か。


「しかし吉法師よ、先程のあれはいかんぞ」

枝から下ろし、そのまま俺の馬に相乗りしている信長に、俺は四椋達には聞こえないよう注意しながら囁く。

「あれ、とは?」

「儂を鉄砲で狙った事よ」

「くくく、なにをいうかとおもえば、おれはちゃくなんだからな。しょうらいひだねとなるあにうえをのぞくことになにをためらうひつようがある?」

「父上が隙を見て儂を殺すと言うておったのだろ?」

「そうよ。ちちうえもあにうえを……」

「つまり何の理由も無く儂を殺す事は父上にもできんという事じゃ」

「…………」

「詳しくは沢彦殿にでも聞くが良い。あの時儂に玉が当たっておれば、今頃其方は無残な躯を晒していたやもしれんぞ? うまく逃げられても、この尾張で鉄砲を持っている者など他におるまい? 其方はいの一番に疑われてしまうぞ」

そしてこの時代、被告有利の法則は存在しない。疑わしきは、罰して良いんだ。

「儂を殺したところで其方の嫡男としての地位は安泰になる事はない。むしろ廃嫡の危険すらある。嫡流にある男子は其方だけではないのだからな」

「…………もん」

えーと、信行が今7歳か? 実はちょっと楽しみなんだよね。こいつの元服。
信行となるのか信勝となるのか……。

ん? なんか言った、信長?

「なんじゃ?」

「たまはいっとらんかったもん」

ん? えーと、空砲だったって事かな?

「たまいれずにかやくだけばくはつさせておとでおどろかしただけでや。あにうえころすつもりなんかちーともなかったでよ」

あ、やべ、涙声だ。なにこれ萌える。
じゃなくて。

「あー、それでも、あれだ。馬が驚いて落馬していた可能性もあったであろ?」

「そないまぬけはしんでよし」

武将の死因で落馬って結構多いんだぞ。

「多少思わんでもないが、それでもその時に重視されるのは、何故死んだかではなく、どうして馬が暴れたか? であるから、やはり其方の立場は危うくなるぞ」

「ぐぬぬ……」

「自分の敵が大きくなる前に倒してしまおうという、その気概はまぁ評価できる。だが、相手が本当に敵か味方かは見極めねばならぬ。誰も彼も敵対していたら、身動きできなくなるぞ。味方に引き込める者は味方にしておくべきだ」

でないと約30年後に苦労する事になるからな。

「それに前にも言ったが、儂は其方の敵ではない」

「うそじゃ」

「嘘ではない。儂は其方の兄だ。弟を守るのが兄の役目。家督は其方が継げ。儂は其方を守る」

「…………」

「傍にいるならいつでも儂は其方を守ってやろう。しかし、儂も自由には動けぬ。儂が居らぬ時に其方の身に危険が及ぶと守れぬ事もある。うつけを演じるのは良い。それで身を守るのもありだ。しかしやり過ぎるな。危険視されれば守ってくれる者の少ないうつけでは対抗できぬ」

目立って危険視されないなら、俺だってやりたい内政チートの一つや二つあるからな。
今は良い方に目立ってるからまだ良いけど、これ、簡単に裏返るからなー。

「わかったか?」

「あにうえがてきでないことはわかった」

「それだけわかれば十分じゃ」

「ところであにうえ、このみちはふるわたりじょうへのみちではないぞ?」

「そうだろうな。儂は今那古野城に向かっておる」

「な、なぜじゃ? あにうえはちちうえにようがあってきたのだろう?」

あからさまに動揺する信長。
ふっふっふ、俺ではどうしても甘くなって雷落とせないからな。
できない事はできる人に丸投げするに限る。

「その通りだが時間的な余裕はある。それに其方を連れて古渡城に行くのも憚られる」

「お、おれならだいじょうぶじゃ! ここからひとりでかえれる!」

「いかんいかん、其方は弾正忠家の嫡男じゃ。ここまで一人で来た事も問題なのだぞ? 何かあったらどうするつもりだ?」

「お、おとうとがおる!」

「殺されるだけならそれで良いが、人質になって利用されたらどうする? 今後は一人で出歩くでないぞ?」

「き、きをつける。ひとりではであるかんようにする。じゃから……」

「ところで吉法師よ、何故儂の家臣が一人居らんくなっておるかわかるか?」

「!!?」

はっとして、信長は周囲を見渡す。今、俺の馬について来ているのは四椋のみだ。

「いくら儂が長男でも、先触れも無しに那古野城へ行く訳にはいかんからな。先に話を通して貰いに行ったのよ。そちらの城主を保護致した故、これからお連れして差し上げる、とな」

「い、いやじゃ! じいはおこる! きっとしりをたたかれる! たくげんはねちねちといやなことをいう!」

そこで名前の出ない秀貞の影の薄さよ。

「悪い事をしたら罰を受ける。当然の話じゃ。信賞必罰がしっかりしておらんと、家臣はついてこぬぞ? 今のうちに身をもって学べ」

「は、はなせ! はなせあにうえー! うう、やはりてきじゃ! あにうえはてきじゃ!! こんどはほんとうにたまをいれてうってやるー!!!」

暴れる信長をしっかりとホールドし、俺は那古野城へ向けて馬の速度を上げる。

「今落ちると死ぬぞー」

「あにはおとうとをまもるものではなかったのかーーーー!!?」

尾張の抜けるような青空に、信長の心底からの絶叫が轟いたのだった。

那古野城で待っていたのは、鬼より恐ろしい形相をした政秀と、笑顔に悪意を込めた沢彦だった。
きっとこってり絞られる事だろう。
南無。



古渡城の評定の間にて、俺は頭を下げていた。
俺の前には親爺がいる。
良隣に並んだ家臣たちはピリついた空気を出していた。

親爺の機嫌も悪そうだ。やっぱり敗戦は堪えるかぁ。
こりゃ戦の報奨は無理かな。

「水野の娘との婚姻か……」

「はい。先の今川との戦はお味方の勝利で終わりましたが、こちらの損害も少なくありませんでした。西三河の統治を安定させるためにも、安祥城と尾張の間にある刈谷城との繋がりを強化する事は重要だと愚考いたします」

「道理であるな」

うーん、覇気が無いような気がする。

「構わぬ。話を進めよ。それと先の戦の褒美だが」

おお、そっちから話を振ってくれたか。ありがたい。
いや、忠政さんとの関係強化もありがたいけどね。だって嫁貰えるし。

「西三河に城を築く事を許す」

おっと……?

「場所と数は好きにして良い。金は都合してやる故、必要ならその都度人を寄越せ」

資材や人足はこっちで手配しろって事かな。

「ありがたき幸せ!」

「こちらは暫く国内と美濃にかかりきりで動けぬ。其方の裁量である程度動いて良い。なんなら領地を切り取っても構わぬ」

「殿、それは……」

声を上げかけた武将を親爺は手で制した。
ていうかまたお前か、権六!
佐久間信盛も林秀貞も大人しくしてるってのに、お前はもう……!

それとも、こういう時に声を上げるのは勝家の役目とか決まってんのかな?
厳つい外見してるもんな、相手を威圧するにはぴったりだ。
勿論、その相手ってのは親爺じゃなくて俺な訳だけどさ。

「美濃を落とすのは容易い事ではない。しかし美濃殿を抱えておる以上、ある程度は動いて見せねばならぬ。かと言って、その間三河を楽にはできぬ」

「松平を休ませるなという事でございますか?」

「戦をせよとは言わぬ。城を築くだけでも奴らを圧迫できよう」

流石に川を渡るのは難しいかなー。
あと、仮に築けても誰を入れるよ? うちの家臣にそんな人材いないぞ。

「仔細は任す。それと二千貫を用意する故それを持って行け」

「ありがたく、頂戴いたします!」

俺は更に平伏して言った。

「それと水野の娘だが、正室ではなく側室とせよ」

「え?」

思わず顔を上げてしまう。

「其方の正室にはいずれ相応しい相手を用意する」

相応しい相手って……。尾張守護の配下の守護代のそのまた配下の家の嫡男でない息子に相応しい相手ってどんなんよ?
正直、忠政さんの娘の方が格上なんじゃねぇかって気がするんだけど。

「しかしそれで下野守殿が納得するでしょうか?」

「させろ」

なんと見事な上意下達でしょう。
はーい、がんばりまーす。
信長との邂逅二回目。
そして信秀の信広評は少しずつ良くなっています。
+注意+
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