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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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信広と広忠


矢作川西岸に布陣した俺は、突撃する親爺の部隊を見ながら、その統率の取れた動きに感心していた。
また、親爺が立てた作戦も見事なものだった。

背水の陣は逃げ場を無くし、不退転の決意で臨む覚悟を現す布陣だと思われがちだ。
しかし実際は、川を背にするという不利な場所に布陣する事で、城という有利な場所から敵軍を吊り出し、更に別動隊によってがら空きの城を奪取させた逸話が残る。

つまり一種の囮戦術なのだ。
今回は獲るべき城は無い。
けど、親爺が矢作川東岸に布陣した事で、坂の上、という有利な地形から、平地へ今川軍が引き摺りだされたのは事実だ。
そして本隊をめくらましに信光叔父さんの部隊を今川軍右翼の更に奥へと伏せさせた。
あとは突撃した本隊を包囲しようとする敵軍の背後から叔父さん達が強襲すれば策完成だ。

「おお、今川も凄いな」

親爺の本隊の突撃を受け止めた今川軍は、そのまま崩れるかに思えたが、すぐに体勢を建て直し始めた。
そこは流石に東海一の弓取りか。
考えてみれば、武田、北条相手に綱渡りの外交を行いながら、三河を支配下に治めたんだ。
ただの公家かぶれの愚将にできる事じゃないよな。

元々の家が大きかっただけって理屈も通じない。なんせ義元が家督を継ぐ時に内乱が起きてるんだ。
義元が家が名門なだけの暗愚だったなら、その後に武田と北条にすり潰されて終わっていただろうさ。
そうでなくても、三河に進出する余裕なんて作り出せなかっただろう。

「のんびり見物している場合じゃないぞ、五三郎」

俺の横に並んだ四椋よんりょうが声をかけてくる。

「物見からの報告だ。岡崎城下に兵が集まってる。松平軍が出て来るぞ」

「そうか、なら俺達の仕事だな」

ちなみに矢作川の水深は深いところで四メートルくらいなので、馬で渡る事はできない。
渡し舟も考えたけど、騎馬隊を運ぶために筏を事前に用意しておいた。
あとはこれを繋げて簡易的な橋にするだけだ。

いくら松平家でも俺達の存在には気付いているだろう。船を用意していたら渡る気満々なのがバレてしまうってのもあったな。
出て来ないならそれはそれで楽だったんだが。

刈谷城に居るだろう忠政さんに、心の中でごめんね、と呟いて、俺は渡河を指示した。


岡崎城から出陣したのは七百名程らしい。
ちなみに俺達は五百名程度。一応全部自前の軍だ。常備軍百の、農民兵四百ってところか。
募兵に関しては徴兵じゃなくて志願制とした。
農繁期が終わっていた事と、賃金も貰えるとあってそれなりの数が集まってくれた。
中には松平家と戦うかもしれないと聞くと志願を取り下げる者も居たけど、まぁ、それは仕方ない。
つい二年前まで、ここは松平家の領地だったんだから。

自分から志願したからと言って、簡単に殺しちゃうと遺族が反織田になっちゃうだろうから、その辺は注意しないとな。
三間半槍は信長のためにとっておくとして、調べたら鉄砲はまだ伝来してないらしい。

キリスト教伝来に先んじて来ていた筈だけど、キリスト教が「いごよく広まる」で1549年。信長の年齢から逆算する事で元号と西暦の置き換えが可能だったので、今が1542年だと判明した。
鉄砲伝来は1542年だか1543年の筈。ならそろそろ種子島についてる頃か。
まぁ、これもまずは信長に発見して貰ってからだ。
鉄砲の有用な運用方法を伝えて大量に購入、生産して貰い、俺はそのおこぼれにあずかろう。

という訳でこちらの装備は普通の槍と弓。
ボウガンも考案したけど、俺が詳細を知らなかったから、まだ研究途中だ。
スリングもどきも考案して、投石部隊に持たせてある。
そして投石部隊には、親爺から貰った大量の火薬の一部を用いた焙烙玉も持たせてある。
戦国史上初の擲弾兵部隊の誕生だ。

という訳で岡崎城から出て来た松平軍へ攻撃を仕掛けさせる。
船を用意してなかった俺達が渡河してくるとは思っていなかったらしい松平軍は、弓と石と焙烙玉をまともに浴びて混乱に陥る。

おい、ちょっと簡単すぎやしないか。
思いながらも合図を出し突撃。俺も馬上から槍を振るう乱戦となった。

遠距離攻撃でその数が減らされ、混乱冷めやらぬままに強襲を受けた松平軍は脆かった。
大半が農民なせいだろう、次々と逃げていく。

「逃げる者は追うな! 逃げない者は訓練された兵だ! 優先的に狙え!」

俺は皆によく聞こえるよう大声を張り上げる。
そう、皆に。
味方には出陣前に同じことを言い含めてある。今更改めて伝える意味は薄い。
俺が本当に伝えたい相手は松平軍だ。

逃げれば助かる。

それを知った農民兵が踏みとどまって戦う訳がない。

「うぬが指揮官か! 織田の別動隊じゃな! 名を名乗れ!」

豪華な鎧に身を包んだ、偉そうな奴が俺に槍の穂先を突き付けながら叫んだ。
顔を真っ赤にして激怒している。

折角なので名乗らせていただこう。

「織田五郎三郎信広。其方は?」

俺の名乗りに目の前の武将は一瞬驚いたような表情を浮かべた。
しかしすぐに憤怒の形相に彩られていく。

「うぬが信広か! 儂は松平岡崎三郎広忠! うぬを討ち、安祥城返してもらう!」

え? 広忠? 松平軍の総大将か。随分と奥まで入り込んじゃったんだな。
気勢を上げているけど、こちらは馬上、あちらは地面に片膝ついている。
どうもこちらの奇襲で負傷までしちゃってるらしいな。
広忠が武芸の達人だって話は聞かないから、ちょっと負けるところが想像できないな。

俺が槍を突き出すと、広忠はそれを転がって避ける。
馬を常歩なみあしで動かしながらそれを追いかけ突きを繰り出す。

負傷しているせいもあるんだろうけど、やっぱり槍使いがそれほど上手じゃないよね。
俺は一応古居や槍の指南役から筋が良い、と褒められる程度の腕前ではあるからな。

ついでに言えば裕福な弾正忠家で飯はたらふく食えた。
勝手に山や森に行って「弓の鍛錬」とか言って鹿や猪も狩って食ってた。
加えて織田家は長身揃い。
有名なのは遠縁だけど豊臣秀頼? 2メートル近くあったって言うからな。

大阪なのに巨人。

あのコメントはかなりツボった記憶があるなぁ。
どのくらいかっていうと一旦死んで、生まれ変わって、17年経ってもまだ思い出し笑いできてしまう程。

そんな巨人の遺伝子に良好な栄養状態。幼少の頃からの適度な運動。
ついでに言えば、夜は基本真っ暗なこの時代、夜更かしなんてできやしない。早寝早起きがデフォルトの規則正しい生活。

それらが合わさり、俺はかなりでかく育っている。
正確に身長測る方法がないからあれだけど、少なくとも、弾正忠家全員の中で一番でかい。

位置取り、現状、体格、技術。全て俺が上回っている。
ちょっと負ける要素が思い浮かばないなー。

槍を弾き飛ばしてさてとどめ、となった瞬間、俺は一瞬考えてしまった。

そう言えば、こいつここで殺すと家康ってどうなるんだ?
竹千代ってもう生まれてたっけ? 結婚したのは去年だから、可能性はあるけどさ。

生まれないとどうなる?
将来的に言えば清洲同盟が結ばれなくなるな。
いやそれ以上に。
俺が安祥城を落とされて今川に捕えられた時、交換する捕虜が居なくなる。
そもそも、捕えられる事が無くなるんじゃないか? そのまま切腹? あるいは斬首? 討死?

うーん、正直もう負けないようにする事を考え始めてるから、そこまで史実の流れに沿う必要は無いんだけど、保険はかけておきたいよね。

「殿! ご無事ですか!?」

その一瞬の躊躇のうちに、近くに居たらしい松平勢の武将が俺と広忠の間に体を割り込ませて来た。

「何故だ!? 今俺を討てただろう!? 何故討たなかった!!?」

俺が槍を下げると、広忠が抗議の声を上げる。
死ななくて済んだんだから、甘い奴め、とほくそ笑んで帰ればいいじゃん、とは思うけど。
そこはそれ。生き恥を晒すよりはって考えが、理解できる程度には俺もこの時代に馴染んでいる。

とは言え、このまま無言で去るのもあれかなー? なんか妙に恨まれてるっぽいし。
まぁ、侵略者の一味なんだから恨まれて当然なんだけどさ。

「下野守殿(忠政さんの事)とは懇意にさせていただいている故な」

「な……!? !! 於大を案じたとでも言うのか!?」

どうやら俺の言葉の意図は汲んで貰えたようだ。

「子供もできずに未亡人となる娘の親というのは、やはり複雑な心境だろうて」

更にちょっとつっついてみる。
子が生まれたかどうかは割と機密だから、簡単には情報が得られないかもしれないからね。
竹千代が既にいるのかどうかを確認しておきたい。

「残念だったな、子なら今年生まれたわ! うぬは中途半端な情で儂を討つ機会を逸したのだ!」

ざまぁ、と顔に書いてあるなー。精神的に優位に立ったせいなのか、口調と一人称が元に戻った。

「そうか、それは良かった」

これで心おきなく殺す事ができる。

「殿、今川勢も退き始めております! ここはこの大蔵定吉に任せてお退きください!」

広忠を背中に庇っていた武将が言った。
確かに見れば、今川の軍勢が撤退していく。太鼓もさっきから散々打ち鳴らされているしな。

「安心せい。儂は武略以外で嘘はつかぬ。逃げるならば追いはせぬ」

「その油断が、いずれ破滅を呼ぶと心得よ!」

捨て台詞を残して広忠は、定吉とかいう武将に伴われて俺の前から去って行った。
時を同じくして松平勢が岡崎城へと退いていく。

「追い討つ必要はない! これ以上の犠牲は不要! 勝鬨を上げろ!!」

「「「えい、えい、おーーーー!!!」」」

俺の言葉に部下達が拳を天に突き上げ喉の限りに叫んだ。
親爺の陣からも勝鬨の声が聞こえてくる。

どうやら今回も勝ったようだな。
こちらの損害は30くらいか。それでも結構逝ったな。

やっぱり早く鉄砲が欲しいよ。
焙烙玉は有名なところだと厳島の戦いで使われた記録あるそうですが、擲弾兵部隊としては間違いなく史上初。
基本は投石部隊なので、対人、対軍、対城とオールマイティに戦えますし、継戦能力も高い、意外と汎用性の高い部隊ができたと思います。

そして今回で広忠は信広をロックオン。
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