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織田家の長男に生まれました 作者:いせひこ
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父へのプレゼン


「それで、これが貴様の提案か……」

とりあえず金は了承して貰えたので、次の話題に移る。
親爺の手には、俺が作成した資料があった。

「この歩き巫女を用いた諜報というのは?」

「はい。今の諜報は僧侶などを使って行っておると思われますがいかがでしょうか」

「まぁ、そうだな」

歯切れが悪いな。とは言え、一国の諜報組織と言えば秘中の秘。
どこの組織も大体似たようなものだから、公然の秘密のようなものとは言っても、簡単に肯定なんてできないよな。

「伊賀の忍を雇うなども考えましたが、やはりそれだけでは中々相手組織の中心へ入り込む事は難しいと思われましたので、その代わりとして歩き巫女を使うのはどうかと」

「確かに、歩き巫女はどこにでも入り込める。女であるが故に、それこそ、国主の寝所にさえな」

にやりと笑った親爺の顔は、助平親父のそれにしか見えなかった。流石、死ぬ直前まで子作りしてた性豪は違う。
歩き巫女は特定の神社に所属せず、全国を遍歴して勧誘や祈祷を行う巫女の形態だ。
基本は仏教の托鉢のように祈祷や託宣などで生計を立てるのだけど、中には芸人や遊女のような事をして生活費や旅費を稼いでいたものも居た。

「私はまだ経験がありませんが、寝所においては時に酒を口にするより男の口は軽くなるとか」

「ふむ、そのような事もあるだろうな」

目が泳いでるぞ、親爺。
多少見栄を張ってでも、女に良く思われたいのはいつの時代も変わらないよな。
長く付き合う側室は勿論、行きずりの関係なら尚更だ。
俺はこんな凄い事考えてるんだぜー、とうっかり自慢する奴だって当然居るだろう。

「しかし情報を収集する歩き巫女をどのように集める? へたをすれば逆に他国に情報が漏れかねんぞ」

「何も本物の巫女でなくとも良いのです。何せ歩き巫女は特定の神社に所属しておりませんから、怪しまれる事もないでしょう」

「つまり城や領内の女を歩き巫女に仕立てると?」

「はい。戦続きで未亡人も多く居るでしょう。また孤児などを引き取って養育し、素質のある者を歩き巫女として育てれば、その忠誠心にも期待できます」

「悪辣なやり方よな」

「今は戦国乱世。生き残るためには手段を選んでおれませぬ」

「ふん、女も知らぬ若造が知った口をききよるわ」

やり返された。自分でカミングアウトした事だとは言っても、やっぱり恥ずかしいな。
思わず顔を俯かせると、周囲から忍び笑いが聞こえて来た。
ちくしょー、悪かったな、童貞で!
童貞で悪いならとっとと俺にも嫁用意しやがれ! 長男だぞ! えら……くはないけど、多少えらいんだぞ!
商売女? 「梅毒にかかって一人前」とか言われる遊女なんて怖くて抱けるか!

「それにこの方法なら、養育途中で別の才を見出し、そちらを伸ばす事も可能です」

「ふむ、ならば男児も同じく育てるべきよな。たが誰が教育する?」

「諜報員として育てるなら伊賀から忍を招けばよいかと。そこは彼らも信用が金になる商売ですから」

「諜報先で裏切られるよりはましか」

偽の情報を掴まされる可能性もあるしな。

「読み書き計算は武家ならば教えられる者もおるでしょう。また寺領を持たぬ寺などに依頼するのも良いかと」

「ならば寺社勢力の力を削ぐ事もできような」

ただこちらの提案を理解するだけでなく、それによって得られる副次的な効果をしっかりと見抜いてくれる。
いやぁ、楽だし楽しいなぁ。

「寺社勢力に最も必要な『尊敬』と『徳』をくれてやるのです。何の文句がありましょうや」

そして二人でにやりと笑い合う。

「それで、この作事衆の設置というのは?」

「土木作業などを専門に行う集団です。名前は仮の名前です」

俺の狙いはどちらかと言うと工兵隊の設置だけど、さて……。

「土木作業を?」

「はい。田畑の開発、街道の整備、治水工事。作事はいつでもどこでも仕事が存在します。しかしその度に人を集めていては非効率です」

「言いたい事はわかるが、集団を設置という事は、その者達を雇い続ける訳だろう? それはちと銭がかかり過ぎやしまいか?」

「いえ、雇うのは多くても千人程です。まずは百人程からでしょうか、銭に余裕ができれば徐々に増やしていく次第です」

「ふむ、いくら専門的な訓練を課したといっても、その人数では時間がかかり過ぎるのではないか?」

「人足としては周辺の領民を雇います。しかし、彼らを指導、監督する者が、従来通りの人数では非効率的なのです」

ひどい時には三百人くらいの人足を一人の武将が監督するらしいからな。

「日頃から訓練を課す事で、この集めた人足を効率的に使う事ができるようになります。そして作事は領地の開発だけに限りません」

「城、砦の建設だな」

「はい。そしてそれらに何よりも必要な速度を得る事が出来、秘密の漏洩も防ぐ事が可能となります」

城の縄張りなんて、相手からしたら喉から手が出る程欲しい情報だろう。
監督の数が少なければ、作業に参加した者が他国の者と接触しても気付かない可能性がある。
けど、土木作業専門の部隊を作っておけば、人足は簡単だが人手が必要な作業を行わせ、重要な部分は作事衆に任せる事ができるようになる。
また作事衆という指揮官が多ければ、人足を小分けにする事ができるから、城や砦の全体像を把握しにくくする事ができる。

「ふむ、今後安祥城独立のためにも、周辺の開発は必要か」

「は……い、いいえ!」

あっぶねぇな、この狸親父! あ、虎か。とんでもなくさらっと罠しかけやがってぇ!

「今後も作事を行う際には父上に許可を求めます」

「その度に金をせびりにくるわけだ?」

「そ、その都度弾正忠家の懐をあてにする訳にもまいりませんので、ある程度は経済的に独立しなければならないとは考えておりますが……」

「ふん、まぁ効果があるようならこちらでも採用しよう。詳細な経過を定期的に寄越せ」

「はは」

つまらなそうにするなよぅ。失言を期待しなくても親爺に逆らう事なんてしないよ。普通に怖いもん!

「それで、この一緒に記してある道具類は?」

「はい。これまでにあった道具を基に、作事に役立つよう考案したものにございます」

そこには備中鍬、鶴嘴、スコップ、ネコ車、リヤカーが記してある。
俺の知識でもこの時代で作れそうな道具をとりあえず列挙してみたものだ。

「三又の鍬は仮に三又鍬と致します。これは製造時に鉄の消費を抑えつつ、従来の鍬より固い地面を掘る事ができるようになっております。また、先端が金串状になっておりますので、泥土に突き立てても、土が先端につきにくくなっております」

「まさに碧海郡を開発するにはうってつけよな」

「お、尾張西部にも使えると思われます……」

油断すると罠仕掛けて来るな。

「十字の鍬はその形状から鶴嘴と称します。これは固い地面を掘る事に特化した道具です」

使い方次第では色々使えると思うけど、一先ずこれだけでいいだろう。
採掘にも使えるなんて言ったら、また何を言われるやら……。

「ふむ、鉱山開発に役立ちそうだ」

これも罠だよな。尾張って鉄とか銅の鉱山無い筈だし……。
あ、砂鉄かな? あれなら尾張にも三河にも鉱床がある筈だし。

「この丸く平たいものは円匙えんしと称します。地面に突き刺し、掘り返すものです。あまり固いものには向きません」

「手で掘るよりは楽そうじゃの」

スコップはそのまま近接武器にもなるしな。威力、重さ、リーチと総合力では満点だろう。

「深く掘るには縁を強く踏む必要があるので、慣れるまでは足を痛めるかもしれません」

「それで専門に訓練する部隊が必要という訳か」

「こちらの車輪が一つついたものは猫車と称します。原型は蜀の軍師諸葛孔明が発明したとされる木牛流馬です。日の本に合わせて猫としました」

「ほう、あの孔明が」

その名前には親爺だけでなく、武将達も色めき立つ。
ちなみにその妻の黄月英の作ともされてるけど、まぁここでそんな注釈つけても意味ないしな。
箔つけの意味では「あの天才軍師諸葛孔明が作った」で押した方がいい。論破できる奴もその証拠も無い訳だし。

「車輪ゆえ段差などには弱いですが、作事の現場で土などを運ぶ際には重宝するでしょう」

「物資を長距離輸送するようなものではないと?」

今の説明でそこに気付くのは流石だよなぁ。

「はい。長距離を輸送するならこちらの箱車と称す道具が役に立ちます」

流石にリヤカーは名前の良い由来を思いつかなかったから、見た目からつけてみた。

「従来の荷車に比べて曲がりやすく、安定性があります。荷台に囲いがあるため多くの荷物を積んでも崩れにくいです」

「ふむ。欠点は?」

気になるよね、わかります。

「柔らかい地面だと沈み込みやすい事でしょうか」

「ふむ、まあ軍が通るような場所ならある程度は踏み固められておる。従来の荷車もそれは同じであるしな」

更に親爺は資料をぺらぺらとめくっていく。

「これらは文のみか?」

「それ以降のものは、商人や旅の僧侶に聞いたもの、あるいは古い文献に記されていたものの、私自身詳細を把握していないものを記してあります」

千歯扱き。
千石どおし。
灰吹き法。
揚浜式ではない塩の作り方。
綿。
菜種油。
手押し式ポンプ。
飛び杼式織物機。
ジェニー紡績機。
水車。
風車。
蒸留酒。
醤油。
燻製。
煉瓦と耐火煉瓦。
望遠鏡用レンズ。
古代コンクリート。

とりあえず、ある程度製法や材料を思い出せるものを適当に列挙してみた。
ちなみにその中に、さりげなく火薬の製法も入れてある。
黒色火薬に関してはあくまで材料のみ。
材料の一つの硝石もその製法を書いたけど、俺自身がよくわかってないからな。便所や土間の土を用いて作る、程度の事しか書いてない。
是非とも研究して見事作り上げて欲しい。ちなみに安祥城でも研究と試作をさせてはいる。

「この合鴨農法と鯉農法とはなんじゃ?」

そのままの意味なので特に説明なんかは書かなかった。ただどちらも鴨と鯉を田んぼに入れる事で稲の育ちがよくなり、害虫による不作が起こらないっていうだけだからな。

「なぜそうなる?」

あ、理由が必要?
えっと、どういう理由だっけ? まず鴨と鯉は害虫を食べるよな。
で、糞がそのまま肥料になる。
で、えーと、どちらも泳ぐ事で土が攪拌されて……。
攪拌されるとどうなるんだっけ?

待て、こういう時は順番に考えろ。植物の生育に必要なのはなんだ?
栄養、酸素、光だ。
あ、じゃあ酸素か。栄養は水や肥料。光は太陽光。
じゃあもう酸素しか無い。土の養分とかの答えもありそうだけど、まあどっちでもいいか。どうせこの時代じゃそんな詳しい事はわからないんだし。結果が出れば理由が間違ってても文句は出ないだろう。
正直、栄養って言っちゃうと、何故糞では駄目なのか? とか別の方法で栄養を与えれば良いのか? と言われたら答えられないからな。

「人と同じように植物も呼吸をしています。しかし植物は根によって呼吸をするため、土をかき混ぜてやる必要があるのです」

よし、それっぽい理由になったぞ。

「成る程な。それにある程度育てば鯉も鴨も食べてしまえばよいか」

「はい。特に鴨は稲の苗は食べませんが、稲穂は食べてしまうので、稲がある程度育ったならば水田から離す必要がございます」

「米以外の食糧がついでに得られるのはよい事じゃ」

「私もそのように愚考いたします」

「では次に、この交易品の要求なのじゃが……」

もう勘弁してくれー!

なんて言える筈もなく。
結局日が暮れるまで俺は親爺から質問責めにあった。
ちょっと一度に書き過ぎたらしい。
忘れないようにとりあえずで列挙し過ぎたと反省している。
とりあえず、戦国時代にできそうな事を羅列してみました。
できない事は基本丸投げ。アイデアさえ伝えれば、日本の職人さんなら何とかしてくれそうです。
この中からどれが実用化されるかはまだ決めていません。一部は勿論、できるできないを決めているものもありますが。
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