愛。そして殺人の快楽(1/1)縦書き表示RDF


〜かごめかごめ〜肉体は鳥かご、快楽がエサ。籠の中の鳥は、自分が不幸であることに気付かない。青空の広さを忘れ、自分が飛べることすら忘れた小鳥。思い出す方法は二つ。それは、愛。そして殺人の快楽。新感覚の電波ミステリーを、貴方へ。
愛。そして殺人の快楽
作:いざよいキラー



推理LV.0〜ジャブ〜


遠くに、セミの羽音が木霊している。

ガリガリ君をひとかじり…雫がポタリと、机に落ちた。

(拭かないと、蟻が行列を作ってしまいますね)

ふきんはカラカラだ…でも、
だからこそ、よく滴を吸い込む。

夏の日差しと、窓から吹き付ける乾いた風が、
アレを良いふきんにした。

最高に心地よい今の体勢を崩すに値する…最高のふきん。

そうだ。

僕は、怠け者なんかじゃない。

やるぞ。

意を決して半身を起こし。よいしょっっっと右手を伸ばす。
あと…5cm…4.7cm…3.41cm…2.983cm…そして、
ふきんとの距離が、1.8568cmを切った、
その時…

ブレスレットのエメラルドがカツン≠ニ鳴った。

「つっ、また君か…」

机の上でくすぶり続ける、蚊取り線香。

エメラルドが小突いた物は、
口から柔らかい煙を吐いて…遥か遠くを見つめる…陶器の豚。

アンティーク一色の部屋に、毒の煙を撒き散らして調和を揺るがす。
ただ一人、強烈に在る豚の王…これは、僕だ。

だから捨てられない。捨てるわけにはいかない。

「ハァ…」

なんだか興ざめだ。

どうやら今は、滴を拭く時ではないようだ。
僕は手を引っ込めて、再びドサッ、と安楽椅子に身を沈めた。

毒の煙が織り成す曲線美…しばし目にとどめん。

…ミーンミンミンミン…

(…美しい…)

…スイッチョ、スイッチョ、スイッスイッスイッ…

(…)

…さわさわさわ…チリーン…

(…全てが美しい…)

…キリキリキリキリ、キリ、キ…キ…

(…うっとり…)

窓から入るそよ風。
カーテンを揺らし、僕の頬をなで、最後に毒の煙を乗せて、
入口の方へとゆらゆら流れていく。

(…なんてエキサイティングな、壁のひび割れなのかしら…)

…ぶー―――――ん、ぶーん、ぶ、フンッ…

…蝿だ。

一匹の蝿が、蚊取り線香の煙に当たってクラリと舞い堕ち、
滴の隣でピクピクと、なまめかしく肢を蠢かし始めた。

(…この形…)

やがて痙攣は収まり蝿≠ヘ死骸≠ニなる。

(また…始まるのかしら…?)

未来の布石はあらゆる場所で、必死に僕らを導こうとしている。
それに気付かないことが、どれほど罪深く…恐ろしいことか。

蝿が落ちることで、テーブル上に符号≠ェ顕われた。

僕は、そこに築かれた世界≠観る…
まるで天蓋…落下の象…垂直と螺旋…ハエの死骸と、水色の雫。アクアマリン。

これは…

(逆位置にベルゼブル―浄化の美徳)
(そして、正位…ああ、いけないいけない)

また、悪い癖が始まった。

思考のスイッチをOFF…
落ち着かない両手を抑え付け、頬杖を突く…
顔筋を操作。気だるげな表情を作り…

ようやく僕は、こう考えることに成功した。

(ふぅん、蝿も蚊取り線香で死ぬのか…)

今は夏を楽しもう。

ガリガリ君と蚊取り線香…空が紫色に落ちて、セミの声が止めば、
窓の外に花火が上がる。

「ガリガリ君は、ソーダ味が王道だよね…」

そうだ。(クス)
ゆっくりと、夏を楽しもうじゃないか。

天から降り注ぐ真っ白い光を受けて、
遠くの山がキラキラと輝いている。
まるで、夏の全てを凝縮したような…このひととき。
嫌いじゃない。

嗚呼…なんだか贅沢な気分だ。
耳を澄ます。

聞こえるのは、絶頂を極め、停滞を迎えた夏の昼下がりと、
もう一つ。

トン…トン…トン…階段を昇る、足音。

(誰かしら)

ミシ…ミシ…廊下を歩く、足音。

(足音で判別できるほど、仲の良い人間はおりませんわ)

コンコン

背後のドアがノックされた。出入口は一つ。

コンコン

音階に特徴なし…まだ訪問者は特定できない。
もう少し情報が必要だ。

「はにゃん?」

椅子に沈んだまま首を45°傾げ、ドアを視界に捉える。

アンティーク調のドア。
人の手によって何度も磨かれた証となる、テラテラとした鈍い輝き。
一点の隙もない重厚な樫の木。

あまりにも重厚すぎて、開閉がしんどい…。

(ふふ、おいでなすったわね)

ドアを一瞥するだけで充分だった。
僕は訪問者が第一声を発する前に、その人物を特定した。

越前康介≠ノ間違いない。

「はにゃーん。コースケにゃーん」

「ああ、入っていいか?」

ノックして、許可を得てから入室する。
越前康介は平均以上の紳士だ。

けれど…ノックの仕方が、とても恥ずかしい。
いまどきアメリカのホームドラマでもやらないような…。

彼は、そんなノックをやらかしてしまった。

「へろへろ〜」(ハローと東北弁の「入れ」を融合)

彼の流儀に沿って、メリケン風味の挨拶を投げかけてやる。
遠回し過ぎる嫌味だが、彼には通じるだろう。

いつも、嵐のようにやって来て、新しい世界を見せてくれる。
越前康介…エチゼンコウスケ…

そんな慇懃無礼な使者・越前の第二声。

「『はにゃーん』は、やめておきたまえ」
「今の君には、いささか不釣合いだ」

(あらあら…いつもながら手厳しいこと)
(少し、お仕置きが必要ね)

反論の言葉は4085通りほど、閃いた。
その中からたった一つを選ばねばならない。

残酷な瞬間だと思わないか?

4085通りの反論は、一つ残らず僕の本音。

けれど、その全てを叩きつけるには、
とてもとても、時間が足らないのだから。

『貴方たちは、何故そうやって眉間にシワを寄せて、そこに立つの?』
『人は、こんなにも愛に包まれ、輝いているのに』

こんな感じの意味だけど。

ある程度フィルターを通さないと会話が成立しないのは明白。
彼が次の言葉を発するまで、4.2秒。

僕は必死に考えた…。

―二章へ続く―

【推理レベル0】
Q. 僕は、なぜドアの方を見ただけで人物を特定できたのでしょう?


なんか小説の肥やしになるようなアルバイト、ないもんですかね。













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