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猫と金髪  作者: co
9/16

「明日は来るのかしら」

 原田に問うた風でもなく、客は小声で呟いた。

 しかし原田は訊かれてもわからないし訊かれたようでもないので無視した。

「ま、いいわ」

 一度首を傾げて原田に向かって微笑み、客は伝票を持って立ち上がったので原田も声をかけた。

「ありがとうございました」


 空いた席にはすぐに別の客が座り、原田に向かってオーダーを頼む。

 それを請け負ったものの原田はまだ伝票の付け方を訊いてなかったので、裏で手の空いたスタッフを探した。結局さっきのスタッフが手早く教えてくれた。

 そしてついでに訊かれた。


「さっきの客って坂本の彼女だよね?なんであいつ今日来ないんだろ?会う約束してたんじゃないの?」

「さぁ」

 原田は坂本の事情をもう殆ど知っているが全く興味がないので、知らないふりをすることにした。

 多分この先修羅場も訪れることはないだろう。

 とりあえず自分はガソリン代くらいを稼げればそれでいい。


「そういえば君、名前は?」

「原田です」

「原田君、器用だよね。ナイフ使えるし。基礎的な料理とかできるでしょ?」

「バイトでいろいろやってます」

「便利だなぁ。坂本より使えるんじゃない?」

「でも俺、接客は向かないので」

「ここそういうところじゃないし」

 歩きながらそんな無駄話をしているうちに仕事場に到着し、また山積する作業に戻る。


 あら、新人君?今日坂本いないんだぁ、とまた客に声をかけられ、坂本は人気があるんだなぁと認識した。

「明日は坂本来るの?」

 今度はまともに訊かれたので、原田は正直に答えた。

「知りません」

「知りませんじゃなくて確認してよ」

 若い女が横柄に命令してくる。

 面倒なので正直に教えてやろうかと思っていたら、横からバーテンが助け舟をだしてきた。

「予定では今日も明日も入ることになってるんですけどね。今日は急病で。明日治ってたらくるはずですけど」

 ある意味病気だよなと原田は思う。

「じゃ、新人君は明日いるの?」

 どうだろうな、坂本次第だろうな、と原田が首を傾げると、バーテンが勝手に返事をした。

「明日何か用事ある?ないよな?くるだろ?くるって」

 原田がなんとなく絶句しているうちに客が喜んで、じゃ明日も来るわね!と原田に向かって笑いかけて、かと言って特に周囲に迎合する性質でもない原田は顔を顰めてバーテンを見下ろした。

「こんな顔してても多分くると思うよ」

「私もそう思う!」

 勝手に盛り上がる二人を無視して原田は洗ったグラスを棚に戻すためにその場を離れた。


「坂本君よりかっこいいわね。今度から彼目当てにしようかな」

「愛想悪いよ。あの新人」

「そういうのがいいかも。だって坂本君って誰にでもお愛想振りまくじゃない」

「そういう坂本がいいんでしょ?」

「ふふ~ん。もう飽きたかな」


 そんな会話が棚の裏から聞こえて、ばからしいなぁ……と原田が首を傾げてため息をつくと、背中を叩かれた。

「原田君、今日はどうもありがとう!」

 オーナーが満面の笑みで原田に礼を言った。

 原田が返事をする前にオーナーが続けた。

「明日もお願いできる?あなたとてもセンスが良いわ!坂本君よりずっと要領もいいし!」


 原田は無言でオーナーを見下ろした。

 それが了承の返事になった。

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