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「なんて言います?旅に出たとか?入院したとか?」
「多分昨日も来た子だと思うから……確か今日の都合が悪くなって昨日プレゼント持ってきたはずだから、今日も多分ここを切り抜ければセーフだと思うんだよ。だからまだ学校だとか言ってもらえれば」
「そういえば電話やメールが来てるんじゃないんですか?」
「電源切ってる」
原田にはこういう面倒をわざわざ自分で作り出す趣味がよくわからない。
「当分戻らないのでプレゼントはクリスマス明けにって言えばいいですか」
「クリスマスの次の次の日」
「知りません」
ため息をついて玄関を出た。
隣の部屋の前には、まさに昨日のバーの客が立っていた。
「あ。昨日のバーテンさん。隣に住んでたの?」
「坂本さん、いませんよ。多分学校でしょう」
「携帯も繋がらないんだけど」
「電源切ってるんじゃないんですか」
「ううん……。ちょっと予定が変わって至急連絡取りたいのよ」
「忙しいらしいですよ。クリスマス明けまで」
「それは知ってるわよ。いいわ。気にしないで。もうすぐ引き上げるから」
ふ~ん、と首を捻って、原田は自室に戻った。
「もうすぐ引き上げる?もうすぐっていつ?!やばいな~……!原田君、もう一回行って、」
坂本のそんな訴えと同時に、恐れていた叫び声が響いた。
「こんなところで何してるの?」
「あなた誰?」
「手遅れですよ」
原田が分りきったことを坂本に告げた。
坂本は腰を抜かしていた。
それを見下ろし、原田が止めを刺した。
「修羅場です」
「たすけ……」
言葉も不自由になるほど衝撃を受けている坂本を見捨てて、原田はたばこを探しに台所に向かった。
どうしよう、と小さく聞こえたが面倒なので無視した。
「坂本君いないわよ」
「あなた誰って訊いてるの」
修羅場加熱中。
原田が換気扇のスイッチを入れてタバコに火をつけると坂本が泣きついてきた。
「今日、泊めてくれない?」
「嫌です」
即答した。
「とても部屋には帰れないよ!どうしたらいいんだ……!」
そしてそこに止めのダメ押し。
「あなたたち、何?」
第三の女が登場したようだ。
真っ青になった坂本を、原田は同情よりも軽蔑の眼差しでみおろしたが、その視線をちらりと飛ばして思い出した。
原田の目に映ったのは、DS9。