緋色の眼〜神々の黄昏〜(6/61)PDFで表示縦書き表示RDF


サブタイのネタに段々困ってきております。
さて、次回の投稿までは少し間が空きます。
諸般事情がありまして、
Daysの方を2、3回やったら、こっちの更新再開です。
緋色の眼〜神々の黄昏〜
作:ジョン



第二話:死惨血河





 町の経済の中心を担っているオフィス街。
 スーツ姿の様々な年齢層が行き交う中、そこに学校の制服姿の神璽と由加は居た。
 着崩した制服に明るく染めた髪の神璽、キッチリと制服を着こなし、漆黒の髪を後ろで一つに纏めている由加。
 周囲からは全く反りの合わなさそうにに見える二人であるが、本人達の仲はすこぶる快調。

「神璽、やっぱり修学旅行行きたいんだね」

「そりゃぁ、ね……俺らだって健全な学生じゃん! 青春したいじゃん」

「でも、中身は……普通じゃないよ?」

 目を伏せる由加。二人の体の中には悪鬼を発生させる核となる、結晶が埋め込まれており、
 二人はどこか違う場所へ行くと、必ず悪鬼を生み出してしまう原因ともなる。
 近年では鬼神と呼ばれている人間と悪鬼のハーフの種族からも狙われているため、都内からほとんど出れていない。
 それでも、二人には理解者が沢山居たから寂しくはなかったのではあるが、
 
「まぁ、由加が居るからいいか」

「うん、神璽の苦しみは私の苦しみ、私の苦しみは神璽の苦しみね」

「そうだな。俺ら、たった二人だけの結晶持ちだもんな」

 昨年の戦い以降、神璽と由加は二人が"先生"と慕っていた男の遺品を捜し求めた。
 その過程で、神璽や由加の前にも結晶を移植した少年が居るらしく、その少年が亡くなって居た事も知る。
 そしてラグナロクの千島藍が言って居た事も気になってはいた。



         ──悪鬼でも鬼神でもない新たな種として選ばれたんだ──


 
         ──君達は滅多な事じゃ死ねない──いや、体内の結晶が君達を殺させない──



 この言葉の通り、自分達は結晶に選ばれたのだろうと由加は思う。
 体内の結晶は、完全に同調する前に自分に何度か、話しかけてきた事がある。
 神璽もどうやら話しかけられたらしい点から考えると、結晶には意思のようなモノが有るのではないか。
 神代兄弟の最後も、もはや結晶に全てを委ねていた。そして由加はあの結晶を見た時の感じを忘れられない。

(何で私と神璽は──何で"食べたい"なんて思ったのだろう?)

 刹那がコアと呼んでいた結晶をまじまじと見つめた時、本気で食べたいと思った。
 今まで生きてきた中で、一番強い欲求。餓死しそうな時に、料理を見たときよりもそれは更に強かった。
 
(多分、アレは私達の中の結晶の欲求)

 妙な確信だけが由加の中にある。
 そしてそんな事を考えながら歩いていると、二人は目的の場所へとついた。
 そこは、とある中堅程度のオフィスビルの入り口。外には無骨なトラックや、コンテナのようなものがある場所。
 神璽と由加は、その入り口を慣れた様に入っていき、階段を登って一つのドアに前に立つ。
 そしてポケットからカードキーを取り出して、それを認識させるとプシュッと軽い音がしてドアが開く。

「おいーっす」

「こんにちは」

 対照的な挨拶をして部屋の奥へと進む神璽と由加。
 様々なコードが纏めてあり、床にはいくつもの書類が散乱したお世辞にも綺麗とは言いがたいその部屋。
 その一番奥の方に、幾つにも重なった書類が乗っている机がある。そしてそこには一人の女性が突っ伏して眠っていた。
 神璽はそれを見ると、声をかける。

「おい、おばさん」

「…………」

「……未来さん。来ましたよ?」

 由加が声をかけると、未来はゆっくりと起き上がって目を擦る。
 乱れたショートヘアを手櫛でまだ見れる形に直すと、トロンとした目で未来は由加と神璽を見る。 
 そして数秒後、未来の意識が完全に覚醒した。

「───ハッ! ど、どどどどっどどうぞ、いらっしゃいませ」

「ぶはっ 何言ってんだよ」

「未来さん、起きてください」

 笑う神璽と普通に接する由加。
 そして更に数秒して、未来は落ち着きを取り戻し、

「失礼、私も疲れていましてね」

「ふぅん、そういや森羅さんは?」

「陸曹長は八神正宗氏達と一緒に結晶の視察へ行きました」

「置いてかれたのか……」

「そんな事じゃないですっ! 結晶の在り処を知る人は少なくていいんですっ!」

「そんなムキにならんでもよぉ……」

「なってませんっ!」

 頑として譲らない未来に神璽はため息をつく。
 由加はそんな二人のやり取りを羨ましいと思いつつ、未来へと言う。

「修学旅行不参加手続きしてきました」

「ああ、ご苦労様。……やっぱ許可は下りなかったわ」

「わかってます、私は我慢できますけど……」

 そう言うと、由加は横目で神璽を見る。視線を送られた神璽は「何だよ」と呟くとそっぽを向いた。
 どうやら心を読まれているのが勺らしい。そして、未来はふぅとため息をつき二人に言う。

「今の情勢を説明すると、現在【ラグナロク】は欧州の方で頻繁に活動しているの。
 イギリスでよく見かけられる鬼神は三人、【ヘル】と呼ばれる少女の鬼神、後の二人はまだ分かっていません。
 多分、神話上のロキの子供達の残りの二人、【フェンリル】と【ヨルムンガルド】だとこちらでは断定しています。
 後、リーダー格の【ロキ】と呼ばれる鬼神は世界中に現れていて、ただその姿は色々と不明」

「どう言う事だ?」

「目撃者とかは、ほぼ全員生還できていません。ロキが戦った後には遺留品一つ残らないみたいなの。
流石は北欧神話の中で、一番の狡知に長けた神の名を冠するだけあって、正体が全く以て不明」

「ロキ、か……」

「後は由加の話でも出ていた【スルト】ですが……現在、千島の方で色々と資料を探しているみたいですね」

「ああ、蒼二達の祖先にあたるんだっけ?」

「そう、文献にもあった【藍】と呼ばれる少年、そうよね? 由加」

「はい、外見は結構幼い感じで……私達と同年代か、もしくは下に見えました」
 
 由加は藍の外見を思い出しながら喋る。
 どこか幼くて未発達な外見、それでも、喋ってる時の声や目は真剣そのものだった少年。
 神璽はそんな由加の横顔を見ると笑い飛ばしながら、

「ハッ! 俺らと同じくらいじゃ余裕だっての」

「……神璽、貴方数百人の【コンセプト】使う相手を一人残らず殺し尽くせる?」

「コンセプトォ?」

「式神と同じく【根源】を使う力。海外ではこっちの力が主流なの、式神というのは日本独自のモノなのよ」

「要は式神使い数百人を殺せって事か……期間はどれくらいだよ?」

「四時間」

「ハァ? 無理に決まってるだろうがっ!」

「スルトこと千島藍はそれを一人でやってのけた、オーストラリアでね」

「……マジか?」

「あらゆる火器、あらゆるコンセプト、あらゆる罠。それを全て潜り抜けて彼はたった七年でオーストラリアを降伏させたの。
何千人重軽傷死者が出たか分からない、今でも死体すら見つかってない人も居るぐらいだわ。
その結果、千島藍はオーストラリア全土の結晶を集めて、コアを作り上げたのよ。たった一人で、誰の力を借りる事も無く」

「そんな事が……どうして今まで…………」

「隠蔽体質ね。日本人は特にそうだけど海外でもそう言う風潮は強いわ。それに結晶を取られたって生活には変化ないんだから」

「そうですね、悪鬼は国家にはあまり関係が深いとは言い難いですし。ここの設備見てれば分かります」

「それを言わないでちょうだい……さて、後ラグナロクにもう一人居るらしいけどコイツは全く不明。
 どの神なのか、どんな人柄なのか全く不明ね。だから次は【九尾の狐】に行くわよ」

 未来はそう言い、立ち上がると壁のスクリーンを下ろし始める。
 そして部屋の電気を消して、プロジェクターを起動させた。
 すると、暗闇の中に一人の無表情な顔で映っている少女の写真が映し出された。
 深く吸い込まれるようなつり上がった瞳、可愛いというよりも綺麗な感じのその少女を見ると、神璽は軽く口笛を吹く。
 そして由加は横目で神璽を睨むと、思いっきり足を踏みつけた。

「ぎにゃぁっ!?」

「神璽、うるさい」

「神璽、静かにしてなさい?…………で、この子の名前は【天美運命】九尾の狐の首領格ね」

「うう…………そういや、命ちゃんのお姉ちゃんだっけ? って事は命ちゃんも鬼神?」

「違うわ、命の話しによると、世話係みたいなものだったみたい」

「天美運命は自由奔放ね。世界中をダラダラ歩き回ったと思ったら、日本の旅館でくつろいだり……羨ましい」

「え?」

「気にしないで、でも性格は凶暴で冷静、内戦に参加したり、国家を破滅させたり色々裏の仕事もこなしてるわ。
 この子は結構露出が多くて式神名も【阿修羅姫】と呼ばれる鎖分銅のついた斬馬刀らしいわ。能力は不明だけどね。
 これは非公式な情報だけど、ラグナロクのロキを殺す寸前まで痛めつけた事があるらしいの」

「どんな情報だよ……」

「人間にも協力的な鬼神も居るって話よ」

「へぇ……」

「じゃあ、次は……」

 運命の画像から、次の画像へと切り替わる。
 そこに表示されていたのは、まさに地獄絵図、積み重なる死体、死体、死体、死体。
 そして由加と神璽はその死体の上で楽しそうに笑っている二人の青年を見た。
 前髪が目にかかりほとんど目がほとんど見えない、細身の男。
 短髪で酒瓶片手にカメラを見ている華奢な美しい顔をした少年。

「髪の長い方が有馬空我、短髪が石動大和いするぎやまとこの写真はペルシャの内戦の時ね」

「この人達も、鬼神?」

「天美運命に付き従うって感じの鬼神ね……それで、その有馬空我はさっきこの町に現れたの。
 蒼二君と命さんが交戦して、さっき私達の追跡も振り切って、雲隠れしてるわ」

「マジかっ!? あいつらに怪我は無かったのか!」

「無傷よ、敵対する意思はあまりなかったみたい」

 未来は一つ嘘をついた。命が泣いてしまって居た事は報告は受けていたのだが、今は言わない。
 言えば神璽と由加は激昂し空我の行方を追いかねない、そこまで見越しての行動である。
 
「そうか……よかった」

「うん、よかった」

 安堵する二人を見て、未来は微かに罪悪感を感じたが、これも彼らのため。
 この世界でたった二人だけの結晶を体内に有する二人の子供。
 
(でも……何でこの二人だけ…………)

 神璽と由加以外にも結晶を体内に埋め込まれた者は居る。
 だがそれらのほとんどは中からの力に耐え切れなくて、その全てが死んでしまったと未来は知っていた。
 それを知った時から、未来の中で段々と大きくなっていた疑問が、何故神璽と由加だけが平気なのかである。

(記録があるのは、結晶移植後から……だったらその前の二人の素性に何かあるの?)

 神璽と由加も結晶移植前の記憶が殆ど無いらしい。
 何時、何処で生まれたのかも分からない、両親や兄弟の顔もわからないそうだ。
 そして、未来はその疑問を調べてみる事にした。

「報告は以上よ、今日はもう帰って休みなさい。来週の金曜にまた来ること、いいわね?」

「ういーっす」

「わかりました」






 欧州のとある田舎町の夜。そこには、死が満ちていた。
 悪鬼、人間、鬼神、その他の生物、様々な死体が散らばっている中、その凄惨な黒と赤の世界で唯一の白があった。
 それは、髪の色は白、服も白、肌の色も白、まさに白尽くめな格好の一人の青年。
 
「ん……逃げられちゃったか」

 中性的な声だった、男でもない、女でもない、とても曖昧な声。言うならば中途半端。
 それは青年も自覚しているようで、声を出した後にほんの僅かだが顔を顰めた。

「もういいや」

 青年が腕を空に掲げる────すると、その腕に薄く光った文字なのか、絵なのか判別し難い紋様が現れた。
 青年はその紋様を満足そうに見つめると、一気に振り下ろす。ためらいも、何の感情も無い一振り。
 そして────死の世界が、文字通り"消え去った。"

「流石だね、【ロキ】」
  
 ロキと呼ばれた青年が声のした方を向くと、そこには黒いワンピースを着たヘルが立っている。
 夜の村では異端な格好ではあるが、ぞっとするほどそれは似合っており、尚且つ月夜に映えていた。
 そして、ロキの纏っていた死の空気が霧散し、無邪気な笑顔にかわる。

「やぁ、リーシャ! 久しぶりだね」

「リーシャ駄目、私はヘル」

「ああ、すまないね」

「絶対反省してない」

「勿論さ、僕の行動は、全て僕の思うがままにやっている。そう、だから僕は悔いないのさ」

「謝る必要なかったね……全く、相変わらず」

「僕は変わらない、僕は"あの時"のまま何一つ変わっていない。というよりも変わってたら殺して欲しいな」

「もういい……」

 ヘルが嫌そうな顔をすると、ロキもようやくからかうのを止め、本題を口にする。

「さて、何の用事かな? 本当に珍しい事に、君が日本語を使ってるなんて、きっとよっぽどの事なんだろうね」

「彼方、刹那、瞬、此方が人間に殺されちゃった──」

「…………笑えないジョークだ。刹那とはまだショーギの決着がついていないのに」

「殺したのは、リーヴ達を守護してるジャップ」

「汚い言葉遣いだねぇ……」

「その中のスルトの一族の子が、今度こっちに来る、殺していい?」
 
「敵討ち?」

「うん、許せないから。絶対に、確実に、必殺に殺す」

「日本語がおかしいけど……うん、殺していいよ。でも、できる限り情報は集めて欲しいな」

「わかった、ガルムとかにも伝えておく。ロキは今何してるの?」

「七つの大罪とちょーっとね。さっきまで転がっていたのはマモンの手下の鬼神だよ」

「わかった、じゃあね」

 それだけ言うと、踵を返して歩き去ってしまうヘル。
 ロキはしばらくその背中を見送っていたが、やがてその姿も見えなくなると、地面に腰を下ろす。
 空を見上げると満点の星空、それを見ながらロキは次の行動を考える。

(大罪を僕らのモノにしたら、次はリーヴ達だね…………)
























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