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連続投稿2
第五十四話:緋眼とは──
 蒼二と遥緋はユグドラシルに設置されている階段をひたすら昇っていた。
 由加と神璽が九尾の狐に変化して、ロキを倒したので残る鬼神は自分達の祖先──藍だけ。
 ふと下を見ると、郁人が懸命に頂上へと昇ろうとしているフールを狩っていた。
 傷だらけの郁人だが、そんな怪我の痛みなど感じさせない動きでひたすら動いている。

「お兄ちゃん……郁人君が言ってたのって……」

「もう、居ないみたいだな」

 無慈悲な蒼二の言葉。遥緋はその言葉に目を潤ませるが、泣きたいのは蒼二も同じ。
 幼いころから、ずっと、ずっと見守ってくれていた。一見冷たい言葉の裏には
 いつも暖かな優しさがあった。それは、例え自分がどんな道を歩んでも変わる事は一度もなかった。
 そんな彼の意思がもうこの世には無い。それは、とても悲しい事のように思える。

「でも、あいつらは郁人に何かを託したんだ。その意思を俺らが汲んでやらなくてどうする」

「……でも、ちゃんとお別れしてないのに」

 前回四条家で会話した時には、遥緋は今まで何があったのかを話すのに夢中で、
 お別れもしていなかった。ただ、灼也と話せるのがうれしい。それだけで、何も考えなかった自分。
 灼也はそれに文句を言うわけでもなく、いつも通りじっくりと話を聞いてくれていた。
 結局最後まで、自分は何もしてあげられなかった。いつも助けてもらってばかりで──

「う……ふぇ、……灼也ぁ……」

 堪らずに遥緋は泣き出す。蒼二も必死に涙を堪えている。だが、立ち止まらない。
 ついに階段が終わり、頂上へと続く大きな門が眼前に聳えている。
 ここを抜ければ、二人でも勝てなかった千島の鬼神が居るはず。門越しにも凄まじい式神の気配が漂っている。
 蒼二と遥緋はその前で一度止まると、呼吸を落ち着ける。

「遥緋。あいつらに何かをしてやりたいなら、証明してやろうぜ。
 あいつらは呪なんかじゃない。俺達を救ってくれた偉大な奴等だったってよ」

「……うん。二人で証明しよう」

 そう言うと蒼二と遥緋は二人で重い門を開くと、その奥へと進んだ。
 視界に入ってきたのは茜色の空。どこまでも続く、巨大な夕暮れ。心を打たれる風景。
 その奥には直立不動の藍の姿。レーヴァティンをゆっくりと引き抜き、構える。
 蒼二も修羅雪を虚空から抜き放ち、遥緋は輪廻転生を発動。そして、最初に口を開いたのは藍。

「まさか、生きているとはな。だが、今日で最後だ。千島も、人間も全てな」

「もう、お前達の負けだぜ。あの竜の鬼神も死んだ。これからどうするんだよ」

「散っていった全ての友の為に、俺はお前達と正々堂々と戦おう。千島藍としてスルトとしてな」

「じゃあ、私達も全力でやります。恨みっこ無しで」

「そうだな……俺達の理想の世界を否定したかったら、俺を斃せ! 俺はお前達の全てを否定してやる!」

 三人の瞳が同時に緋色に染まり、同時に駆け出した。遥緋は武器を使う事無く素手のまま、
 蒼二は修羅雪を構えて藍へと迫る。前回の戦いでお互いの手の内は大体知れている。
 厄介なのは妹の方。そう判断した藍は、まずは遥緋へと狙いを定め牽制の火球を放つ。
 
「へっ……」

 意外にもそれをかばうようにして蒼二が前面に出てきた。修羅雪を振るうと、何故か火球に
 向かって白い液体が発生し、それに火球が触れると一瞬で消し去られてしまう。
 更にもう片方を藍へと向けると、その切っ先から幾つもの氷柱が弾雨のように撃ち込まれた。
 藍はレーヴァティンを振って、全ての氷柱を焼き尽くす、或いは切り落とした。
 蒼二はそれでも攻撃の手を休めない。修羅雪にどんどん力を送り込み、氷柱を形成していく。
 藍にはそれがかく乱だと言うことはわかっていた。だから、絶えず移動する遥緋から視線を外さない。
 
「甘いんだよ!」

 藍はそう叫ぶとレヴァティーンの炎を手加減なく解き放ち、一気に蒼二の氷柱を蒸発させた。
 そのまま、全力で遥緋まで駆け出すとレヴァティーンを振って切り裂かんと迫る。
 それに遥緋は特に動じる事無く、輪廻転生の力を解いた。
 そして、今までは違うやり方で自分の根源のもう一つの力を引き出そうとする。
 根源と繋いでイメージするのは、従来の式神のような完成された力ではなく、力そのもの。
 それは、先日竜胆から大まかに教えてもらった、コンセプトの発動方法。
 遥緋のコンセプトはextinction──死滅。その紋様に触れた全てを死滅させる凶悪な力。

「ッ……!」

 突如として遥緋の前に現れた紋様に脅威を感じた藍は、慌てて方向転換しようと
 自らの体を投げ打って、遥緋の紋様に触れるのを避けた。そして、致命的な隙が生まれる。
 一瞬で立ち上がったが、その頃には修羅雪を構えた蒼二が迫ってきている。
 この距離じゃ回避も火球も意味が無い。純粋に斬りあいの勝負。足を止めずに二人は刃を
 絡ませ、踊るようにして切り結ぶ。だが、押されている。
 接近戦では蒼二の方が力量が上。回転する刃だけで厄介なのに、更にそれが二本ある。
 しかも刃が触れ合う度に、蒼二の氷と藍の火がぶつかり合い、威力が削られていく。
 そして──

「お前に何があったのか知らねェけどよ」

 蒼二は修羅雪を思い切り叩きつけ、藍の態勢を崩すと、

「人間だって辛いんだよ! テメェ一人が辛かったとか思ってんじゃねぇ!」

 刃を交差させるようにして、藍の胸を大きく切り裂いた。狂化してないため、硬度は人間と変わらない。
 鮮血が噴出すが、一気に凍りつき次々と内部に進行していこうとする。
 流石にこれはマズイと思った藍は、全力で跳躍すると、空中で斬られた傷口を自らの炎で焼いた。 
 気絶しそうな痛みが襲うが、それは一瞬。次の瞬間には痛みが消えうせ、傷が塞がっていく。
 鬼神特有の異常回復力。だが、安心しているヒマはない。下の方から氷柱がまた襲い掛かってきている。
 更にその隙間には遥緋のコンセプト。藍は意識を集中し、自分の体を作り変え始めた。
 体に青みが加わり、頭部からは角が生えた。口には鋭い牙。
 丁度、悪鬼と人間の中間辺りで変化を止めると、藍は地面に着地し蒼二に向かって突進。
 氷柱が容赦なく藍を襲うが、狂化した体には大したダメージはない。
 そのまま接近した藍は、レヴァティーンを持っていない左手を振りかぶると、そのまま蒼二を殴りつける。 
 スピード、パワー。先程とは全く違う藍の攻撃を受けてしまった蒼二は血を吐き出して後ろへと下がった。

「お兄ちゃん!」

 追撃しようとした藍の前に遥緋が躍り出て、行く手を阻んだ。紋様を体や周囲に纏わせ、
 一歩も進ませないように、視線を固定。すると、後ろで腹を押さえたいた蒼二は立ち上がると、

「アレ、やってみるわ。少し時間稼ぎ頼めるか?」

「任せて」

 そういうと蒼二は目を閉じて、集中した態勢に入った。修羅雪を優しく握り、
 リラックスした態勢で周囲の事などお構いなく自分の中へと浸り始める。
 訝しげに思った藍だが、厄介な方が一対一でやってくれるというのだ。先に始末を付けようと
 レーヴァティンの本当の力を発動させた。それは、少し考えれば誰でも思いつくこと。
 式神とコンセプトの融合。自身の式神である剣に炎概念の紋様を纏わせ、力を強化する。
 だが、これが難しい。式神とコンセプトの出し方は似ているようで違う。
 その二つを同時に出すのだ。しかも、無理矢理に。過去に何人か試したものがいたが、
 誰も彼もその力の強大さを制御できずに、普通に同時に使うようになった。
 それは、歴史の中に埋もれていった"神威"と呼ばれる新たな反する力。

「……あの、一ついいですか?」

「何だ?」

 レーヴァティンから噴出す炎を何とか制御下に置くと、汗をたらしながら藍は遥緋を正面から見据えた。

「灼也と煉の事を、呪いって言いましたよね? あれを、取り消して欲しいんです」

「何を言っている。あれは呪いだぞ、千島に憑依し、殺そうとする呪いの人格だ」

「じゃあ、何であの二人は命を張って私達に尽くしてくれたんですか?」

「何……?」

「灼也と煉はお父さんを助けてくれたらしいんです。詳細は話してくれませんけどね。
 そして、私達もいつも最後まで見捨てずに、あの二人は助けてくれました。
 そんな二人を呪いだって言うなんて、私はあの二人に失礼だと思う!」

「そんなの、お前が死んだらあいつらも終わりだからだろ」

「確かにそうかもしれません。でも、もう一つ根拠もあるんです」

「何がだ! 根拠だと……? そんなものあるわけない!」

「緋眼終式についてもそうです。初めて使った時、私は灼也と直前に会話しました。
 緋眼について、自分はどうするか。灼也はそう私に問い、私は答えをだしました。
 そしたら、使えるようになったんです。貴方も、そうでしょう?」

 確かにそうだった。自分も終式を使う時に焔に話しかけられ、力について聞かれた。
 自分の出した答えは、確か何でもいいから力を寄越せ。ただ、それだけだったが。
 本当に緋眼を越えた緋眼を使えるようになれたのだった。

「私の仮説は、千島の多重人格は強化された緋眼への防壁のようなもの。
 緋眼に対する思い、力に対する理由。それらを、人格が認めた時に初めて終式が使えるようになるんだと思います」

「確かに、その理論には納得できる。だが、それでは俺の一族を殺す理由はどう説明する?」

「それで、一つ聞きたいんですけど……貴方達、もしかして緋眼を悪用していませんでした?」

「……あ」

 確かに藍の時代の千島は最低だった。力に溺れ、ただ自身の利益の為だけに緋眼を使っていた。
 それは自分が一番良くわかっている筈の事。千島の一番汚い仕事をしてきた自分が覚えてならなくてはならない事だった。
 
「貴方達が悪用していたから、灼也や煉は緋眼を根絶やしにしようと思ったんじゃないんですか?」

「…………反論のしようが無いな。そう考えると、彼らは呪いではなかったのかもしれない。
 だが、何故だ。何故、もう一度奴らは現れたんだ。千島に絶望した筈なのに……」

「え……もしかして、わかってないんですか?」

 遥緋は訝しげに問うが、藍は全く耳に入ってないようで、ブツブツと何かを呟いている。
 「ああ……二年前のお兄ちゃんと似てるなぁ」と千島の男児の人の話の聞かなさを嘆き
 ながら遥緋は藍が理解していない事を口に出そうとした。だが、それを遮るように炎が燃え上がり、

「確かに呪いじゃなかった。だが、俺は人間を殺すぞ。それが、失った友達の為に出来る事だからな」

「あ、勿論戦いますよ。もう、ここまで来たら戦うしかないでしょうからね。
 さて、お兄ちゃん。そろそろ準備できたかな? 私は殆ど話し終えちゃったよ」

「むっ!?」

 遥緋がそう言った瞬間、蒼二の式神の気配が爆発的に膨れ上がった。


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