緋色の眼〜神々の黄昏〜(52/61)PDFで表示縦書き表示RDF


三連続投稿1
緋色の眼〜神々の黄昏〜
作:ジョン



第四十七話:贖罪者



 ユグドラシルは間近で見ると、恐ろしく巨大な建物だった。一応、頂上は見えるものの果てしなく遠い。
 鴉を纏って空を飛んでいる自分達がとてもちっぽけな存在に見えた。そして、この戦場でも自分はちっぽけな存在だと。
 莉王の言葉に心打たれて、ここまで来てみたのは良いものの。これから何をしていいかわからない。
 蒼二達が、ユグドラシル目掛けて飛んでいくのが見えたから、少し手伝いをしようと思って近づいては見たが、
 命と莉王の戦いっぷりを見ていたら、そんな気力は消えうせた。そう、自分はここに居るのに力が足りないと、

「竜胆……どうするか」

「行くしかないよぉ。アタシらが頑張れば、きっと蒼二さんとかだって少しは楽になる筈だもん!」

「そうだな」

 郁人は急降下すると、ユグドラシルの表面に取り付いた。触ってみると、堅い。だが、変な感じがする。
 金属でも岩石でもない事だけはわかる。郁人は竜胆に指で合図をすると、雷撃砲を出させて、壁に一撃。
 ドカンッと轟音が響き渡り、煙が晴れた後には無傷の表面。竜胆は更に二発、三発と連続して雷の砲撃を撃ち込む。
 それが二分ぐらい、十発ほど撃ち込んだ辺りで、ついに表面にひびが入り、やがて大穴が開いた。

「凄いねぇ……」

「流石は本拠地ってトコか」

 中に入って天網を発動、周囲には特に気配は無い。上の方で身の毛もよだつような式神の気配を感じるがここにはない。
 半ば安心して、中を歩くと特に変わった所は無い。普通の塔のような建物。生活環境も見当たらない。
 ただ、あるのは墓標。よくわからない言葉が書かれた幾つもの墓標が何メートルおきかに置いてあった。
 郁人は軽く息をつくと、背負っていたデイパックから爆弾を取り出して、設置していく。自分の持っている式神には爆弾の
 ような能力は無い。似たのは幾つかあるが、それを使うなら四条が用意してくれた武器を使ったほうが数段マシといった所。

「ねぇ、郁人ぉ。コアさんが何か言ってるよぉ?」

 二人で手分けして、爆弾を設置していると竜胆が声をかけてきた。郁人は顔をあげて、デイパックまで戻ると、
 その中を探って八神から奪ったコアを取り出す。このコアには、神代事件の首謀者、神代兄弟の意思と蒼二と遥緋曰く、
 千島と秋月が生み出した人格が存在しているらしい。そして、刹那がベースとはなっているものの、時間によって人が変わる。
 この前偶々話していたら、女性の声が聞こえた事に凄く驚いた非常に驚いた想い出がある。

「何ですか?」

「いよぉ! オメーらが何か面白そうな事やってるんで協力してやろうと思ってんだけどよぉ」

「はぁ……どうやって?」

「ちぃっと見てなぁ」

 コアは一瞬振動すると、その体から黒い光りのようなモノを放ち、郁人達が仕掛けた爆弾へと取り付く。
 何が起こったのかはわからない。そのまま無視すると怖いので、郁人は何をしたのか聞いてみることにした。

「何をしたんですか?」

「爆弾の威力を反意思で上げたやったのさぁ。スゲーだろ? な? な?」

「わー凄い凄い」

「冷めたガキだなぁ……お前」

「そういう教育受けましたので」

「まぁいいや。俺は引っ込むから後は好きにやんな。袋ン中の残りのにもつけといたからよぉ」

「あ、どもっす」

 そう言うと、コアは喋ること無く再び沈黙した。喋り方から察するに遥緋さんの中の人だろうと郁人は思いながら、
 コアをデイパックの中にしまうと、竜胆を呼んでもう少し上の階に幾つかの爆弾を仕掛けることにする。
 無言で階段を上っていく郁人と竜胆。しばらく、上の階に登ると、そこは大広間のような場所だった。
 とりあえず、鴉を使って天井や重要そうな柱に爆弾を取り付けていく。時限性のリモコン式なので取り付けるだけなのである。
 全ての作業が終わると、上の方から轟音が聞こえた。パラパラと天井からも粉が降ってきている。
 まだ爆発させるのはマズいなと、判断した郁人は竜胆と合流して一度脱出をしようと考え、

「竜胆、一回出ようぜ」

「うん、わかったぁ」

 と、雷撃砲を再び発現させた時だった。不意に嫌な予感がし、竜胆は振り返って動きを止める。
 郁人もそれに釣られて背後を向くと、丁度階段から誰かが上がってきた。
 日本人らしき容貌。特に変哲の無い青年に見える。自分達側に味方か、と思い郁人は声をかけた。

「えっと……俺達、この辺りに爆弾仕掛けたからここ危ないっすよ」

「ほぉ……」

 男は何か感心したように、上を向くと感心したようにウンウンと頷き、

「反意思を付加した爆弾か。見事だな。これなら十分このユグドラシルを破壊できるだろう」

「ゆぐどらしる……?」

「この建造物の名前だ」

「そうなんですかぁ〜物知りですねぇ」

 竜胆は感心したように頷いているが、郁人は一連の会話を聞いていて気が気でなかった。
 この建物には自分達勢力から特に名称はつけられていない。だが、眼前の男は確かにユグドラシルと言った。
 そして敵勢力の名前はラグナロク。そしてここはユグドラシル。導き出される答えは一つしかない。
 眼前の男はラグナロクの鬼神。しかもここに居るという事は幹部クラスだろう。
 以前戦ったヘルよりも強いのか、弱いのかはわからないが。あれだって強かった。
 郁人は動揺を悟られないよう、そっと出口側に移動すると、何気ない口調を装い、

「じゃ、俺達行きますんで失礼します」

「あ、郁人待ってよぉ〜」

 最悪自分が追いつかれなければ良い。竜胆は式神だ。いつでも自分の中に戻せば良い。
 冷や汗が背中を伝う。その感覚を無視しながら郁人は徐々に下への階段へと向かう。
 チラリと横目で男の様子を伺う。何やら靴紐を結びなおしている。よし、今のうちにと足を急ぐ。
 男が靴紐を結び終わった。出口はあと少し、走ればこっちの勝ちだ。
 すると、男の姿が急に消えた。その瞬間不安を覚えた郁人はすぐに竜胆を中へとしまう。

「ほぇ?」

 竜胆が間抜けな声を出して消えた。そして次の瞬間、急にそこに現れた男が竜胆の残像を目掛けて蹴りを放つ。 
 
「む」

 だが、寸前の所で竜胆の姿が消えた。男──ガルムはしばらく黙考した後に、郁人に問う。

「凄い女だな。何かの式神か? 存在が全く感じられない」

「さぁな。んで、アンタ、ラグナロクの鬼神だろ?」

「正解だ。若いのに大し洞察力だよ。君の予測どおり、俺は鬼神。名はガルムと言う」

「俺らを見逃す気は?」

「無い。流石にこの爆弾はマズい。それに、お前達にも興味が湧いた。しばらく付き合え」

 逃げ場は無い。あのスピードではここを出る前に確実に追いつかれてしまうだろう。
 もはや戦って勝つしか選択肢は無かった。郁人は再び竜胆を顕現させると、顔を見合わせる。
 中から見ていたのだろう。状況はわかっているようで、いつでも式神を出せる体勢となっている。
 まず、竜胆に雷撃砲でかく乱させて、蛇王で急所を一撃で突く。頭の中でそう指示をすると、竜胆は雷撃砲を虚空から取り出した。

「ほぉ、奇異な力だ」

 無言で雷撃砲をガルムに撃ち込む竜胆。最初から当てる気はあまり無い。少し下の地面へ。
 床が砕かれて粉塵と雷が舞い、一瞬視界が悪くなる。その隙に郁人は射程ギリギリまで近づき、
 竜胆から蛇王を受け取ると、ガルムの居た場所へと思い切り振り下ろした。
 
「──ッ」

 当たった感触は無い。ただ、地面が砕ける感触がしただけ。すると──

「何故、幾つもの式神を使えるんだ?」

 背後から声がした。慌てて振り向くと、そこにはコンセプト、そしてその横にはガルムの姿。
 動いた形跡は見当たらない、と言う事はあのコンセプトで移動したのかもしれない。
 それにアレには見覚えがある。自分が変な空間に閉じ込められた時にもあのコンセプトがあった。
 すなわち、アレは移動のコンセプト。あの女に連れられて脱出したときにもあの中へと入った。
 非常に厄介な能力だった。アレでは攻撃がほとんど当たることは無い。

「このままじゃ、攻撃が当たらない。とでも思っているのか?」

「──!?」

「確かに、これを使えば当たる事は無い。これは攻撃専用の紋様でも無いしな」

「……ああ」

「舐めるなよ、小僧」

 ガルムの姿が変化していき、体の大きさが更に大きくなった。腕には銀の剛毛が現れ、顔の形が変わって狼男のような外見へと変わった。
 ガルムはその体へとなると軽く跳躍し、腕をぐるぐると回すと、消えた。

「なっ!? 竜胆! 気をつけろ!」

「うん!」

 感覚を研ぎ澄ますと、やや残像と静かな大地を蹴る音が聞こえる。早い、目がついていかない。
 蒼二達みたいに緋眼があれば捉えられるのであるが、生憎そんな力は無い。
 集中しろ、集中。と自分に声をかけて、感覚をガルムの動きだけに集中させる。
 そして、銀色の閃光が右横から迫ってきた。蛇王を使い、それを受け止めるも凄まじい衝撃に思わず吹っ飛ばされてしまう。
 
「郁人!」

 竜胆がすぐさま雷撃砲を連射するが、その頃にはガルムは再び移動を開始しており、全く当たらない。
 郁人は衝撃でフラつくのを堪えると、頭の中で竜胆に囁く。

(鴉をくれ)

(う、うん)

 竜胆は鴉を顕現させると、郁人に駆け寄って渡した。それに腕を通さず着込むと、郁人は再び竜胆に囁いた。

(俺の合図で雷撃砲をあいつに叩き込め)

(……わかった! 無理、しないでね)

(ああ)

 そういうと郁人は竜胆から離れて、再びガルムの残影を追う。相変わらず早いが、動きが直線的でしかない。
 しばらく見ていると、大体の動きがわかってきた。ガルムは今、獲物をなぶっている気分であろう。
 それもその筈。鬼神が人間に肉弾戦で負けるわけが無いからだ。その慢心に付け込むしか自分達に勝機は無い。
 すると、ガルムが近寄ってきているのがわかる。さりげなく郁人は右肩を鴉から抜き左腕で襟元を持つ。

「来いよぉ! クソ犬野朗!」

 銀色の閃光が再び見えた。郁人はそれを今度を迎撃するのではなく、避けて鴉を叩きつけるようにしガルムへと放つ。
 一瞬視界がふさがれるガルム。冷静に鴉をはがそうと試みるが、鴉は郁人の意思によって大きさを変え、更に絡みつく。
 その隙に距離をとった郁人は蛇王を振り回し、ガルムの体を切り裂く。

「竜胆、撃て!」

「わかったよぉ!」

 竜胆の砲撃と同時に、郁人は蛇王を操作して鴉ごと蔓のように伸びた刀身を巻きつける。
 流石にこれでは逃げられない。竜胆の雷撃砲が次々と命中し、流石のガルムも膝をついた。
 すると、ガルムのコンセプトが発現。その中に入ろうとするガルムを強引に引っ張って、郁人は中に入らせない。
 引っ張った拍子に、ガルムは転倒した。これを好機と見定めた竜胆は雷撃砲の他にもう一つ。
 悪鬼炎狐を何体も顕現させて、ガルムへと攻撃を仕掛けさせる。炎で出来た狐達は、ガルムへと群がり、炎による攻撃や鋭い牙を浴びせていった。

「へへ……ざまぁ見やがれ」

「やったね郁人!」

 そう二人が安堵の息をついた瞬間、ガルムの体が更に膨れ上がった。鴉を破って、蛇王の束縛を無理矢理解いて、体は巨大化していく。
 輝く銀色の体毛が、血に染まり、青く怒りに染まった瞳が竜胆と郁人を見据える。
 全長は三メートルはあるだろう。巨大な狼男が怒りの表情で上から見下ろしていた。

「やるな……純血で俺をここまで痛めつけたのは、お前達が最初だ」

 ガルムが右手を振りかぶると、その軌道上に紋様が現れた。そしてそれはもう一つ、郁人の眼前にも。
 そのままガルムが腕を振りぬくと真正面から何の前触れも無く、ガルムの拳が現れて郁人を殴り飛ばした。
 吹き飛んで壁に叩きつけられる郁人。更にそこを囲むようにして、幾つもの紋様が現れた。
 それは当然ガルムの前にも現れ、目にも止らぬ速さでその中へと拳を打ち込んでいく。
 紋様を潜り抜け、その拳は全て郁人へ。あっという間に血が飛び散り、郁人は抵抗も出来ないまま殴られている。

「や、や、嫌ぁ……やめろよ馬鹿ぁっ!」

 竜胆が雷撃砲を撃つが、ガルムはその軌道上に紋様を置き、盾とする。紋様に触れた雷の弾丸は全て何処かへと消えてしまった。
 更にガルムは竜胆の前面全てに紋様を配置し、冷酷な言葉を突きつける。

「その紋様に触れると、お前は外のGateへと追い出される、この意味がわかるな」

「嫌……嫌ぁ」

 紋様に触れてしまえば外へと追い出されてしまい、その間に郁人は確実に殺されてしまうだろう。
 手加減をしているのだろう。郁人の方を見ると殴られては居る物の、まだ意識はある。
 だが、それも長くは持たない。竜胆は涙を流しながら自分の式神を思い返すが、何一つ役に立たない。
 そして後ろを振り向くと、郁人のデイパックがある。そしてその中には──
 竜胆は走ってデイパックへと近づくと、その中からコアを取り出す。

「ほぉ……コアを持っているのか。だが、お前のような人間に使いこなせるのか?」

「アタシは、式神だもん! 使ってみせる」

「……なるほどな。通りで。お前のような式神は知っているぞ。何百年か前に、沢山居たからな」

 竜胆はガルムを無視して、略奪の力を発動。すると、コアが震えて刹那の人格が現れた。

「久しぶりだな、ガルム。お前の事だ、俺達の事は知っているのだろう?」

「ああ、とても興味深い。六道に持って帰りたいぐらいだ」

「残念、今の俺達の所有者のこの子達だ。持って帰りたかったら殺して奪え」

「そうするつもりだ」

「さて、竜胆。お前は俺達ごとコアの全てを取り込むつもりらしいが、実に面白い。
 確かに取り込めればお前は最強の式神になれるだろう。何せ、お前も式神だ。
 反する力の一つであるお前とコアの反りが合わないわけがない」

「うん。でも、代償があるんでしょぉ?」

「そうだ。俺達だってまだ意思はある。それも七人分もな。確実にお前の人格は失われるだろう。
 だが、力だけは絶大。お前の主は間違いなく世界でも有数の式神使いへとなり、
 お家にも帰れるだろう。主が本来貰える筈だった全てが帰ってくるだろう。
 だが、お前はもう二度と主と喋れない。全ての思い出は消えて、お前は無に帰す」

「……それでもいい。郁人が全てを取り戻せるなら、アタシなんかどうなったっていい」

「そうか……なら、取り込め! お前を奪ってやる!」

 竜胆は略奪の力を発動させようとした。これで、全てが終わる。自分の所為で不遇な目にあった郁人。
 自分の所為で最弱。自分の所為で親にも会えない。自分の所為で狭いアパート暮らし。
 でも、そんな自分を愛してくれた。それだけで、竜胆にはもう十分だった。
 思い残すことは何も無い。後の世界で郁人が幸せになってくれればそれでいい。
 竜胆は零れ落ちる涙を拭くと、郁人に顔を向けると、

「バイバイ、郁人」

 と笑った。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう