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書き貯め部分の最後です。
しばらく更新に間が空くかもしれません><
現在はDaysの遥のお話を書いてます。
第一話:空我之心
放課後の柳学院高校、普通科二年五組の教室。
白を基調とした制服に身を包まれた生徒達が級友と談笑し、
それぞれの予定をこなそうとしている中、蒼二もその輪の中に居る。
昔はほぼ全員から無視されていた蒼二だが、この高校では中々上手くやっているようで、友達と談笑していた。
 
「はぁ? 神璽は修学旅行いけねーの?」

 クラスメイトの村松信吾が残念そうな顔でその中の一人、榛名神璽に言う。
 とある"特殊な事情"のせいで、神璽は遠くに出る事や、国外旅行などは完全に禁止されている。
 それでも神璽は気にした風もなく軽いテンションで会話を続ける。

「ぬはは、だから外人ナンパはお前らだけでやれよ」

「馬鹿! お前が居なきゃ俺と蒼二と英輔だけだぞ!」

「俺は命が居るからパスな」

 蒼二が不適に笑い、信吾を見る。勝ち組と負け組みの差を思い知れとも言うような表情。
 信吾は激しく地団駄を踏むと、蒼二に襲い掛かりヘッドロックを決めようとする。
 しかし、蒼二は軽くその動きを避けると、逆に腕を取り信吾を押さえつけ、

「僻みとは恐ろしい物だ」

「ちっくしょおおおお!!」

 蒼二は信吾を放してやる、痛みから逃れた信吾はめげずに蒼二に襲い掛かる。
 その攻撃を避けながらも蒼二は思う、楽しい。楽しい。楽しい───
 人と接する事が、仲間が居る事がこれほど楽しい事だとは思わなかった。
 そして、蒼二が信吾にバックドロップを決めようとした時、

「ただいまー」

 委員会の会議で出払っていた命が教室の戸を開けて声を上げる。
 何が面白いのか、ニコニコと笑う命は蒼二達の近くへ寄り、蒼二の制服の裾を引っ張る。

「蒼ちゃんお待たせ、早く帰ろ」

「……ん、おう」

 信吾を投げ捨て、蒼二は自分の席に戻る。
 投げ捨てられた信吾は、鈍い悲鳴を上げると動かなくなる、蒼二はそれを気にせずにさらに踏みつけた。
 ぐへっと声をあげ今度こそ動かなくなる信吾。

「じゃあな、神璽、信吾」

「おー、俺と由加の土産も買ってこいよ」

「遥緋に買わせるわ」

「ははっ、相変わらず酷い兄貴だな」

「ぐっばーい! 神璽ちゃんと信吾君」

「じゃあね、命ちゃん」

 蒼二と命は手を繋ぎ、教室を出て行く。
 そして二人は人ごみの間をすり抜け、談笑しながら歩き始めた。
 命とこうして手とかを繋ぐようになってから数ヶ月、蒼二は口には出さないが命が愛おしくて堪らなかった。
 朱音への罪悪感もある・・・だがそれを超えるほどに命を知れば知るほど好きになっていく。
 クラスの男と命が話していると、イライラする───だが、それを望むのは無理、無駄、無謀。
 
(…………むぅ)

 話しながら蒼二は命の顔を見る、ふっくらとした頬に、寒いのかやや赤みがかかっている。
 風が吹くと、最近少し伸びてきた髪を払うその仕草にも、命という同級生ではなく、一人の女性としての魅力を感じた。
 そんなこんなで蒼二が悶々としていると、前方から異形の気配。
 何かが違う───そう警戒し蒼二は命に声をかける。

「命」

 いつも通り、の反応が返って来ると思っていた、だが返事は無い。
 見ると命は頭を抱え、小刻みに震えて座り込んでいる──まるで何かを恐れる様に。
 そして小さな声で呟く、

「何で…………空我が……」

「お、おい……命!」

 頭を抱え、うずくまる命、するとそれとほぼ同時に周囲一帯を結界が囲んでいく気配がする。
 結界が周囲を侵食し、完全に外と隔絶されると爆発的な式神の気配が蔓延した。
 蒼二は命に話しかけるのを止めると、意識を集中させ式神を召還する。
 冷気が周囲にたちこめ、蒼二の両腕には禍々しい形をした黒のチェーンソー、修羅雪。
 
「ニャハハ、おっひさしぶりでーす!」

 上空からの声───瞬間的に蒼二は命を抱えて移動する。
 次の瞬間、何かが蒼二達の居た場所に落ちてくる。轟音が響き地面がひび割れ、粉塵が舞い、その男は立っていた。
 前髪が目にかかりほとんど目がほとんど見えない、そして皮製のジャンパーに身を包んだその少年は蒼二を見ると一礼をして、

「はじめますて、俺は有馬空我ありまくうが。九尾の狐の鬼神です」

「鬼神……」

 九尾の狐───昨年蒼二達が戦った三人の鬼神が所属していた組織。
 蒼二を初めとする多くの人の運命を捻じ曲げ、最後まで自分達を貫いた鬼神達を蒼二は思い出す。
 すると、頭を抱えていた命が顔を上げて空我に言った。

「空我っ!」

「やーやー、ミコちゃん。桐生の牢から開放されたようだね」

「何しに来たの……お姉ちゃんは今何処にいるのよっ!」

「運命からさ、ミコちゃんを牢から出した奴をぶっ飛ばせって命令受けてさ。刹那達の供養も兼ねて来たわけデス」

 ケラケラと笑う空我、命はそれを緊張した面持ちで見つめている。
 蒼二は会話の端々から、空我の狙いは自分だと気づく、幸いまだ自分が敵だとは認識されては居ないようで、
 ゆっくりと、そして確実に殺せる間合いまでジリジリと迫る。狙うは首、頭を吹き飛ばされれば流石に鬼神といえども死ぬであろう。
 そう思い、修羅雪を構え───

「ふふん、お前かー?」

「チッ」

 そのまま構わず修羅雪を放つ蒼二、鋭い斬撃が空我の首目掛けて放たれる──が、空我の腕によって阻まれた。
 トリガーを引き、刃を回転させると空我は腕を払い修羅雪を弾く。そして袖からナイフを取り出し蒼二に攻撃をしかけた。
 至近距離での攻防。一瞬のうちに何発もの斬撃、巧みに体を入れ替え蒼二と空我はお互いの急所を狙い、斬り合う。
 空我は積極的に攻撃を仕掛けない、ただヘラヘラ笑いながら蒼二の斬撃を受け流したまにカウンター狙いでの一撃。
 だが、至近距離ではチェーンソーよりもナイフのほうが圧倒的に有利、やがて蒼二は後ろにステップして距離をとった。

「やるねぇ」

「……っ」
 
 修羅雪が怪しく光る──突如として空我の足元から何本もの氷柱が飛び出し、空我を貫こうとする。
 だが空我は全く慌てることなく「にゃはっ」っと笑うと勢いをつけて飛び上がった。だが氷柱はぐんぐんと伸び空我を追尾する。

「おーおー、中々の式神ですなぁ……じゃあ俺もっ!」

 空我の着ていた革ジャンの背中部分を突き破り、漆黒の羽が現れた。
 命や蒼威の良く使う式神の羽ではない、純粋に体の一部としてついている羽。それをはためかせ空我は空を飛ぶ。
 
「フフン、俺らを刹那達と同列に見てたら……お前、死ぬぜ?」

「…………」

「あいつらの狂化は完全じゃないよ、寧ろこうやって一部だけの顕現こそが狂化の真骨頂さぁ」

「さっき斬れなかったのもそのためか……」

「おーう! アレは結構焦ったぜ」 

 ケラケラと笑う空我。その顔には余裕の表情が丸出しであり、蒼二の感情を逆なでする。
 しかし、攻撃しようにも蒼二は空を飛べない。氷柱を駆け上がり攻撃は出来ても空中戦では明らかに分が悪い。
 数秒の思考の末、蒼二は命に羽を作ってもらう事に決めた。そして声をかけようとすると、スッと命は立ち上がる。
 前髪によって表情は見えない。だからこそ余計に命が何が考えているかわからない。そして──

『衝撃波、対象空我、速射』

 言霊が紡がれた。同時に空我に向かって見えない衝撃波が大量に襲い掛かる。
 「わわっ!?」っと叫びながら中を縦横無尽に飛び回る空我。その顔からはさっきまでの余裕が消えていた。
 そして蒼二は命を見る────命は泣いていた。ボロボロと涙を零しながら空我を一心に見つめている。l

「帰って……空我、願いだから……」

「ミコちゃん……」

「私、訳分かんない……何で? どうして今更お姉ちゃんや空我や大和は動いてるの? 何のために!?」

 悲痛な声で叫ぶ命。すると空我は信じられないと言った顔で命を見る。
 そして──「ああ、まだ影響が残ってるか」と呟くと、再び元の笑顔に戻って地上へと下降し始めた。
 地上へと降り立った空我は、真っ直ぐに命の下へと歩くと、

「ミコちゃんは、変わったね」

「え……?」

「俺の知ってるミコちゃんとは大分違うよ……やっぱまだ記憶が完全じゃないんだね?」

「……何なのっ!? 昔の私って一体何だったのよ?」

「それは、自分で思い出して……それが君の業だからさ」

「…………」

「それと、俺達──いや、運命は今でも君と約束した事を果すために一生懸命生きている。それだけは忘れないで」 

「お姉ちゃんが……? 約束……?」

「それは俺達も知らないよ。俺と大和は運命の選んだ道に付き合ってるだけだからさ」

「わかった……」

 命が小さく返事をすると、空我は蒼二の方を見る。
 さっきまでの命に向けていた笑顔とは違う、明らかな嘲笑の篭った笑顔。
 そして空我は言う。

「お前らが、刹那達を殺したんだな?」

「神代彼方が、俺の大事な人を殺した。だから俺も殺してやった、いや正確には俺達だな」

「フン、まあいいや。だったらラグナロクのヘルには気をつけるんだね」

「ラグナロクの……ヘル…………」

「あの子は彼方が大好きだったからさ、きっと殺される時は相当無残に殺されると思うよ」

「……それを何故、俺に言う?」

「君とミコちゃんは好きあってるんだろ? だったらいつか運命がぶっ殺すと思うから、ヘル如きに殺られるなって話」

「それはどーも……」

 半眼で空我を睨みながら言う蒼二。空我は別段気を悪くした風も無くそのまま後ろを向く。
 再び革ジャンの背中部分から黒い羽が飛び出しそのまま空我は飛び去る。空へ、空へとぐんぐんと吸い込まれるように──
 その後、空我の姿が見えなくなった辺りで結界が解ける気配がし、蒼二は命の下へと駆け寄る。

「命……」

「……帰ろ、蒼ちゃん」

「おう……」

 そのまま家に着くまで蒼二と命は一言も喋らなかった。
 家に着くと命は一目散に駆け出し、蒼二と命の部屋へと篭ってしまう。
 そして部屋に帰れなくなった蒼二は、家の中を歩き回るがこんな日に限って、蒼威も遥も遥緋も居ない。
 仕方が無いので、蒼二は遥緋の部屋へと入る。

「う……」

 相変わらずの汚さ。部屋には甘そうな洋菓子の包み紙や箱が大量に散乱しており、その合間を縫うようにして服も見える。
 別名、千島家の夢の島と言われる遥緋の部屋は蒼二の常識から言うと考えられない。というよりも受け入れがたい。
 遥が四日ぐらい前に片付けていたのであるが、一週間経たずにこの有様であった。

(親父のこういう部分が遥緋に伝わってくれて良かったぜ……)

 心から妹に感謝すると、蒼二はベットに座って制服の内ポケットから煙草を取り出す。 
 法律では禁止されているのだが、千島家では煙草の規制は緩い。
 蒼威は中学生の頃から、フィルター無しで吸っていたらしく、遥も兄と姉が喫煙してたので匂いにも敏感ではない。
 だから、吸っている所を見られても「ふーん、火だけは気をつけろよ」程度で済んでしまっている。

(ラグナロクのヘル。九尾の狐の有馬空我。命の姉の天美運命…………また、戦いが始まりそうだな)

 紫煙を肺に溜め込みながら蒼二は考える。
 だが、今の状態では何も出来ない、というよりも情報が足りなさ過ぎた。
 だから命すら救えない、朱音も、剣菱も、大切だった人はどんどんと消えていった。そう、自分はいつも何も知らない。
 その事が蒼二を一人悩ます。そして、そんな事を考えていると、下の方でドアが開く音がし、更に階段を登る音も聞こえた。

「ふいぃ……疲れた」

 そうぼやきながら、遥緋が部屋のドアを開け、硬直する。
 蒼二は何ら気にした風も無く、不思議そうに硬直している遥緋を見た。

「何だお前?」

「お兄ちゃん……何をしてるのかなぁ?」

「あぁ? 見て分からないか? 煙草吸ってんだけど」

「〜〜〜〜っ! 自分の部屋で吸って!」

「無理だ、命が居る」

「……? 喧嘩でもしたの? 珍しい」

「その事で話がある。まぁ、汚ねーけどその辺座れや」

「ここ、私の部屋なんだけどね……」

 蒼二は遥緋にさっきまでの事を話した。
 有馬空我の事、命が落ち込んでいる事、ラグナロクのヘルの事。
 そして、一通り話し終わると遥緋は「ふぅん」と一回唸ると喋りだす。

「命ちゃんの記憶が全部の鍵って事だね」

「ああ、俺が始めて会った時はもっと記憶の状態が歪だったけどな、そして段々と今になってったんだよ」

「私が始めて会った時はもう、アレだったからね〜。まぁ、後で時雨ちゃんにメール送っとくよ」

「頼むわ、後…………命に何か言われたら、相談とかにのってやってくれ」

 蒼二がそう言うと、遥緋は意外そうな顔をした。何か変わったようなモノを見たときのようなその表情。
 それを見ると、蒼二は「なんだよ」と言い顔を顰めて遥緋を睨む。そう、自分でも何か言ってて恥ずかしかったのである。
 しかし、それが何故恥ずかしいか蒼二にはまだ理解できていなかった。
 そして遥緋はそのままの表情で蒼二へと言う。

「まぁ……お兄ちゃんもついに青春突入って訳ね」

「うるせぇ……」

「あ、そうそう。修学旅行は私達とお兄ちゃん達の班一緒にされたからね」

「ハァ? 何でお前なんかと!?」

「失礼だなー……梨香ちゃんとか悪鬼とか出た時に為にも一緒に居たほうがいいでしょ?」

「まぁな、悪い……ってーと聖子、志穂、お前、命に俺と信吾と英輔か」

「うん、神璽君と由加ちゃんは行けないみたいだしね」

「あー……結晶持ちだからな」

「由加ちゃんが言ってた。神璽は強がってるけど本当は皆と行きたいんだって」

 学校でヘラヘラ笑ってた神璽を思い出す。そういえば最近はやけにテンションが高かった気がする。
 アレが強がりからくる行動だとすれば、鈍感な蒼二にも納得がいく。そして、しばらく修学旅行の話はしないようにしようと決めた。
 神璽とは高校に復学してから色々と世話になっているので、無下には出来ない。
 今の蒼二がクラスメイト達と上手くやっていけるのも、神璽のお蔭だと言っても過言ではないくらいであった。
 
「了解。そういや、親父達知らねぇ?」

「ママは町内会の集まりで遅くなるって、お父さんは正宗さんと一緒に仕事へ行ったよ」

「マジ? 俺もついてきたかったな……ってか何でお前が知っている?」

「今日、私寝坊して遅刻したじゃん。それで起きたらお父さんが珍しくスーツ着てて、そう言ってたからさ」

「あの中年、いつもジーパンだからな……お前もお前で昼休みちょうどに来るし」

「ハハハ……偶々だよ」

「ハン。ま、いいや……んで今夜は外食かぁ? いや、外食にしよう」

「ん? 私が何か作ろうか?」

「それだけは結構」

「それ、ムカつくんですけど……」










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