緋色の眼〜神々の黄昏〜(47/61)PDFで表示縦書き表示RDF


少し間が開きましたね。
残すところ十話ちょいぐらいですが、よろしくお願いします。
緋色の眼〜神々の黄昏〜
作:ジョン



第四十二話:それぞれの戦い












 罪歌が途中自ら落下してしまったものの、蒼二達は何とかユグドラシルの最下層まで辿り着いた。
 だが、そこに居る悪鬼の数も向こう側ほどでは無いがかなり多い。殺しても殺してもキリがないというのが本音。
 後衛に位置し一気に輪廻転生で悪鬼達を死滅させようとする遥緋、そんな妹の邪魔をさせないために修羅雪でを振って
 片っ端から悪鬼を切り捨てていく蒼二。そんな二人を尻目に命は短く呟いた。

「大地にに命じる。燃え盛り、真空の速さで敵を穿て」

 言霊によって"世界が改変"された。大地がひび割れたかと思うと、その隙間から無数の岩が飛び出し 
 数瞬後に何の前触れも無く炎を纏った。それを満足そうに見つめると、命は指を軽く振る。
 それを合図としたのか無数の燃え盛る岩石が緋眼でも早いと感じさせる勢いで悪鬼の集団へと激突。
 轟音と悪鬼の断末魔。それだけで蒼二達の周囲に居た大半の悪鬼は死に絶えていた。
 そして二人は唖然としたような口調で、

「命ちゃん……いつの間にか強くなってない?」

「確かに……前よりも凶悪だぜ」

「うん! 私は言霊で自分の力を抑えてたからねー。もうルールも殆ど無いし、負担も減るはずだよ?」

 昨年前の命は言霊で改変できるのは、三つまで。しかも数回使うと精神、肉体に大きな影響が出出ていた。
 それもその筈、命は言霊で抑えた力を無理矢理引き出して使って居たため、体に掛かる負担は大きい。
 だが、大和の式神によってそれは解除されたため、昔の力。運命を一撃で半殺しに追い込む程の強大な力を取り戻していた。

「ハハハ……」

「よし、とりあえずかなりの悪鬼が減ったしそろそろ中へと突入すっか」

「うん!」

 先頭を蒼二、その後に命。離れた距離に居た遥緋が少し遅れて走る。入り口はわからない。
 めんどくさいので遥緋はユグドラシルの表面部分に意識を集中させると、分解を発動させて大穴を無理矢理作った。
 「ナイス」という短い蒼二と命の賞賛。三人はそこへと向かって走るが、上空から幾つもの闇色の光が降り注ぐ。
 走りながら後ろを見ると、蝙蝠のような翼をはためかせ一人の鬼神──ルシファーが剣を構えて急降下している。

「人間風情が入れると思うなよっ!」

 ルシファーの狙いは少し遅れていた遥緋。だが、ここで体力を消耗してはスルトの戦いに影響が出る。
 一瞬の躊躇の後、遥緋が降下してくるルシファーを一撃で殺そうと死滅概念を利き腕に纏わせた時、
 悪鬼の大群の隙間から光の刃が飛び出しそのままルシファーを押し潰すようにしてユグドラシルへと突き刺さった。
 
「人間風情か、だがその人間に叩きつけられるとは無様だな」

 何体かの悪鬼を蹴り飛ばし現れたのは莉王。光の刃をしまうと元の剣王へと形を戻し一息つく。
 そして遥緋の方をチラリと見ると、すぐに目をそらした。すると遥緋。その視線を睨まれたと勘違いし、

「ご、ごめんなさい」

「い、いや……」

 気まずい空気が流れた。しかし、気の利いた言葉一つ出てこない莉王。
 今まで生きてきた中で二番目に自分の不甲斐なさを恨む。しばらく考えた後に莉王は大きく息を吸い
 その空気を払拭するように大声で怒鳴る。

「さっさと行け! ここは俺様に任せろ」

「あ……はい。助けてくれてありがとうございました」

 慌てて走っていく遥緋が蒼二達と合流するのを見届けると、莉王は何気ない動作で剣王を背後に向かって振った。
 ──直後に金属音。そこには何時の間にか背後に回って持っていた剣を叩きつけているルシファーの姿。
 何故攻撃が読まれたのか?といったような表情のルシファーを見て、莉王は無造作に蹴りをいれ、

「王の背後を取るとは無礼な輩だ。正々堂々と来い!」

 獰猛な笑みでルシファーを見据えた。






 スコルとハティはここ数年暮らしていた部屋の荷物を自ら作り出したカバンへと押し込んでいく。
 明らかに入るはずの無い量の私物が五十センチ程のカバンへと次々と入っていった。
 最後にカバンをパンパンと二回叩き、開け口がちゃんと閉まっている事を確認すると、二人はほぼ同時に立ち上がった。

「これで、お別れだねー」

「うん。スコルとハティもここで終わり。これからは元通りの十文字千春と、十文字千夏だよ」

 二人は金色の髪と銀色の髪にそれぞれの手を当てると、周囲から反意思を集めて元の形に戻るように命令。
 するとスコル──千春の髪がどんどん短くなって行き、黒髪で右サイドに青色のメッシュが入った髪型へと変わった。
 ハティ──千夏も同じく千春と同じ髪型で右サイドに赤色のメッシュが入った髪型へと変わる。二人は鏡に映したように
 色以外そっくりなお互いの髪型をジッと見つめた後、

「うん! やっと元に戻ったね」

「あの髪型暑苦しかったもんねー」

 陽気に笑いあい、同時に笑いを止めるとそのまま出口へと向かって歩き出す。
 通路の窓からは下での激しい戦闘が見える。激しい戦闘だった。人と悪鬼の最終戦争のような戦い。
 そこら中で炎や雷や在り得ない様々な事象が起きており、悪鬼もグロテスクな外見でなりふり構わず人間を殺そうとしている。

「あ、リッちゃんとリオーと……おお、ヒッキーのソータ君も来てるねー」

「うわ、絶対会わないようにしなくちゃ。特にリオーは強いから相手するのやだな」

「アレも"心眼"を超えたね。やっぱ"代償"があると、能力のレベルが上がるって仮説は本当なのかもー」

「うん。遠音ちゃんが最も足る例じゃない。きっとそうなんだよ……お兄ちゃんは違うけどね」

「そーするとリッちゃんが強いのはわかるんだけど、何で令がリッちゃんより強いんだろうね?
九我山待望の男子だからリッちゃんよりもかなり甘く育てられたはずなのに……それこそ何不自由なくねー」

「わかんないー。とりあえず、お家帰ったらその辺色々調べてみようよ」

「うん、そうだねー。早く会いたいなー」

 話しながら二人が歩いていると、前方に二つの最近知った気配。このまますんなりと帰れるとは思ってはいなかったが
 あまりにも意外なのがいる事に少し驚く。カバンをゆっくりと置くと千春と千夏は笑顔でその二人へと話しかけた。

「何か用事ですか? 有馬空我さん。石動大和さん」

 壁に寄りかかるようにして立っている空我と大和。見るからに友好的な雰囲気とは言えない。
 流石にこの二人には顔が割れてるかなーと千春は何となく想像してみるが、こうやって対峙したのは始めての事。
 こちら側は資料で知っていたが、まで思っていると大和が口を開く。

「君達。もしかして裏切るのかな?」

「裏切るってーかー。私達はガルム様に雇われてここに居ただけなんですよー」

「仲間というよりも協力関係にあるんですよ。それに、私達戦闘は苦手ですし」

 しれっとした表情で二人は言うと、ずっと黙っていた空我が突然笑い出す。
 たっぷりと一分は笑っただろうか。突然空我は笑うのを止めると、底冷えするような声で、

「嘘つくなよ。十文字が戦闘苦手とかありえねーし」

「…………知ってたんですか」

「オメーらの顔はずっと昔に会った十文字にそっくりだっつーの。それに、こんなありえねーモンを作れるのもやっぱ魔具ぐらいだからにゃ」

「それで、私達が十文字なら貴方達はどうなんです?」

「気に入らないんだよ。ラグナロクとは敵同士だったけど、彼らの事は嫌いじゃない。理由は、行動に芯があるからかな。
ここの鬼神達の大半は人間によって虐げられ、この世界の在り方を変えようとする鬼神ばかり。それもいいじゃないか。
人間にとって、僕達は悪。鬼神にとって僕達は正義。だから、何の理由があるかは知らないけど、余計な茶々をいれるなって言いたいんだ」

 その口ぶりから、千春がラグナロクの中枢に仕掛けたモノの事はバレてしまってるのだろう。
 しかし、アレが発動しないと計画が大幅に狂うし下手すれば自分達まで死にかねない。二人は一瞬目を合わせると、同時に頷く。
 考えている事は一緒。まだロキやガルムにはバレてない。なら──ここでこの二人を殺してしまえば良いと。

「あはは、仕方ないなぁ……じゃあ、死んでください」

 千春と千夏は虚空から拳銃を引き抜くと同時に発砲した。




 上空から悪鬼の吐く火球や、跳躍して自分に襲い掛かろうとする悪鬼を一匹一匹丁寧に殺していく梨香。
 地上では陸人がデタラメな勢いで悪鬼を投げたり蹴ったり殴ったりと大暴れ。今更ながら父の非常識さにやや呆れる。
 それでも未だに勝てる気がしない。敵の戦力は強大で数が特に多い。殺しても殺してもキリが無い。
 少し離れた場所では悪鬼を指揮する鬼神が自分側の人間と交戦しているのが見えるが余裕が無い為に助けに行けない。
 そして──

「郁人君……竜胆ちゃん」

 悪鬼を駆逐しながらがむしゃらにユグドラシルへと進む二人の姿が遠くに見えた。
 会いに行きたい。もう一度話したい。今度は上手く行くかもしれない。そんな思いがまた心の中に蘇る。
 もういいんだ。関わらない。もう他人なんだ。必死にそう思うが一度決壊した心は簡単に元に戻らない。
 涙を流しながら、梨香は悪鬼を討つ。討つ。討つ。討つ。それでも、気が晴れない。すると下の方で陸人が

「梨香ァ!」

「な、なに……うわっ!?」

 自分の顔の前で小爆発。慌てて視線を戻すと、陸人は拳を突き上げ、

「何やってんだよ! 行きてぇならさっさと行けェ!」

 そう、怒鳴った。

「でも、この数だしお父さんを一人には出来ないよ!」

 少しでも攻撃の手を休めてしまった陸人は悪鬼の大群に飲まれる寸前。それでも何発かの爆発が起き
 一気に吹き飛ばされるがすぐに悪鬼が群がって、陸人の姿は見えなくなってしまう。だが、その時
 幾つもの銀色の閃光が走ったかと思うと、周囲一体の悪鬼が切断され。それを洗い流すように渦巻く水が
 悪鬼を飲み込んで粉々に分解していく。

「遅ぇぞ、親友共」

 一発爆発が起きて、悪鬼の死骸が吹き飛ぶと水浸しになった陸人の姿が再び現れた。
 その視線の先には中学時代から共に戦ってきた親友──蒼威と森羅の姿。梨香はそれを見て安堵の息を吐く。

「梨香ちゃん、行ってきなぁ。君の地球最強のバカのお父さんは俺達に任せてさ」

「そうだぜ、梨香。ついでにあの中にウチのガキ共もいる筈だからよろしく伝えてくれや」

 蒼威と森羅はそう言うとニカッと笑う。それに笑顔を返すと、梨香は陸人の方を向き

「じゃあお父さん、行ってきます」

「おう! 悪鬼には気をつけるんだぞ? 鬼神が出たら速攻逃げるんだぞ? 危ない事はするなよな?
あ、応急手当の道具持ってるか? どーせ俺は怪我しねぇから俺の分持ってくか? ああ、ここ携帯通じるのかな?
困ったらすぐに俺か他の誰かに電話するんだぞ? あ、後お腹へってないか? 非常食が確かポケットの中に……」

「親バカここに極まれりだな」

「こういうウザい親父にだけはなりたくねぇ……」

 ゲンナリとした表情の蒼威と森羅。緊張がほぐれた梨香は軽く会釈すると穹蒼に力を込めて空を舞う。
 これがラストチャンス。自分の全てを伝えようと決心して梨香はユグドラシルへと向かう。













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