やっと、終わりました。約三ヶ月長かった。
一日を終わらせるのがこんなにかかるとは……
というわけで次回は少し間が空きます。
郁人編から始まるか藍の過去から始まるか千島側から
始まるからは少し未定ですが。
とりあえず、今回のお話で何故、緋眼があるのか?
煉達の存在理由について少しは説明できたとは思います。
第三十四話:それが俺達の真実だよ
「よぉ、始めましてか? 子孫共」
藍は蒼二と遥緋を見据えて、大した感慨も無いようにまずはそう挨拶をした。
それに対して遥緋は身構え、蒼二は特に反応をしない。それをわかっていたのか藍は溜息をつき、
「少し待ってろ。ちょいと仕事をしなきゃならん」
その声が聞こえた時には既に藍は蒼二と遥緋の間をすり抜け、由加の背後へと回ると
レヴァティーンの柄で首筋を殴りつけ、一瞬にして昏倒させてしまった。異様なまでの藍の速さ。
いくら緋眼を発動させてなかったとはいえ、ほとんど見えなかった。多分、自分達の終式よりも早いだろう。
冷や汗と緊張で体が動かず、藍は特に慌てるまでも無く由加を担ぐと元の位置まで先程よりも少し遅い速さで戻る。
すると、藍の手元に再びコンセプトの紋様が現れ、藍は由加をその中に無造作に投げ込むと、
「ふぅ……任務完了、と」
「由加ちゃん!」
大した仕事をした風でもなく藍は息を吐き、再び蒼二と遥緋を見据えた。
命に至っては完全に眼中にない。一応、生かしておく予定ではあるものの邪魔をするなら斬り殺す。
そんな感情で藍は何を言うまでも無く、ただジッと二人の事を観察した。
容姿は双子なだけあって似て居いる。体つきも緋眼使いに適していた、特に筋肉のつき方が素晴らしい。
(流石は異端の子だ。だからこそ、危険なのだがな)
自分もまた千島の中では異端だった。というよりも唯一無二だろう。千島史上で鬼神なのは自分だけ。
過去には何度もその境遇を呪ったが、数百年生きてくると段々と鬼神で良かったと思い始めた。
そのお陰で、自分はこうやって時代の流れを見ながら、目的が果たせると。ただの人間ならまず無理だ。
いや、もし人間だったら、こんな事にはならなかったろうなと思い、藍は自嘲気味に笑う。
「アンタ……マジで千島なのか?」
蒼二の質問。藍は少し眉を上げると、ぶっきらぼうに答えた。
「そうだ。お前の五代以上前の千島の直系に当る。ま、お前の先祖以外は全員殺したけどな」
「そうか。だから、俺らは親戚とかが少ないわけか。つか、母さん側のしか会った事ねぇわ」
「あんな一族生かしておくに値しなかったからな。俺としては生き残りが居た事が驚きだよ。
やっと忌々しい緋眼、そして呪いから解放されたと思ってたのにしぶとく生き残ってたようだな」
「忌々しい? 呪い?」
「ああ、お前ら知らないのか。混血と純血。何故千島の緋眼は穢れているのか。そして呪いとは何なのかをな」
「知らない」
「私も知らない」
同じように言う蒼二と遥緋に対して、藍は淡々と語り始めた。
「まず、混血と純血だが。お前達の周囲で言えば、浅葱は純血。千島は混血に当るんだ。
数の十名家なんてのは全部混血だ。後、神代は確か純血だったかな。さて、両者の違いは何だと思う?」
「血統の力か。浅葱、神代には特に変わった力は無い。だが、十名家や俺達には在る。それが緋眼や探知だな」
「そうだ。じゃあ、妹の方。普通の人間だった者達はどうやって、緋眼や探知をどうやって手に入れたと思う?」
「うーん……突然変異? もしくは、他と血が交わってとかかな?」
「半分正解。確かに突然変異も極稀だがある。だが、それを手に入れるのは偉く長い時間と運が必要なわけだ。
だから昔の人間は、自分達の敵──悪鬼と交わった。それが、全ての始まり。鬼神やら混血やらのな」
その言葉に、蒼二と遥緋、ずっと蚊帳の外に居た命も驚愕した。それは、ありえない。
だが、ありえないを覆す証拠を自分達は持っていなく、更に緋眼や探知についてもどういう原理なのかは全く知らなかった。
生まれ持った力。血統に伝わる力。それぐらいの認識しか今までしていなかった。だが、それについて否定したのは命。
「でも、それだったら私達は鬼神じゃない! 人間と悪鬼のハーフが鬼神なんでしょ?」
「流石は運命の妹だ、良いトコをつく。ただ、今までお前達が出逢った鬼神を思い出してみろ。全部、有名な悪鬼だったろ?
刹那達は赤鬼。大和は酒呑童子。空我は大天狗。運命は九尾の狐。ヘルは吸血鬼。フェンリルは狼男。ヨルムンガルドはナーガだ」
いずれも、子供でも知っている有名な妖怪の名前達。だが、それがどうしたと言わんばかりの目で見る命。
藍は溜息をつくと、その答えを導き出せる質問を命に向けて言い放った。
「じゃあ聞くが、お前達は普段討伐している悪鬼の名前を知っているか? 一つ一つの個性まで知っているか?」
「知らない……低級は弱いしすぐに死んじゃうから」
「そう、そこがポイントだ。上級悪鬼と人間が交わると、悪鬼の方の力が強くなり鬼神が生まれる。
だが低級の名もつけられない悪鬼と人間が交わると、人間の方の力が強まり、混血となる。その末裔がお前達だ」
「そんな……」
「実際、実験からもそのような結果が出た。それが、俺達の真実だよ」
「だが、俺はそれでもいいと思う。悪鬼を倒すにはやはり、緋眼や式神は必要だと言えるからな」
「おいおい、まさか緋眼が悪鬼を討伐するための力とでも言うつもりかぁ? ただの呪いなのにさ」
「何だよ、それ……」
「千島は緋眼使いの中でも最低の一族だぜ? 俺が居る、そしてお前等にも居た人格がその証さ」
「…………?」
「秋月の分家が千島、八神、真砂は知ってるよな。その中でも千島はかなり秋月に近い緋眼の性質だ。
多重人格、骨格や筋肉のつき方。分家の中では一番優れている。さて、それは何故だろうな?」
「血が濃いから……?」
「そう、だが同時期に分派していったのに、何故千島だけが濃いのだろうね?」
「まさか……」
「そう、悪鬼を討伐する一族でありながら、再び禁を犯したのさ。秋月を越えるためにね。
まず、俺の四代ほど前に再び悪鬼と交わった。そして、呪いが生まれた。お前らにも居ただろ?
灼、煉、焔。それが俺の先祖がその三つの俺達千島を食い尽くそうとする人格につけた名前だ」
「食い尽くす……?」
「煉は俺の従兄弟に当る人間の精神を乗っ取り、虐殺を始めた。灼は俺の時には出なかったけどな。
そして俺の中には焔という呪いが存在が居た。まぁ……鬼神に当ったのが不運だったな。精神の中で殺してやったけど」
「煉はそんなヤツじゃ……!」
とまで蒼二は言いかけて、煉が昔蒼威の体を乗っ取ろうとしていたという事実を思い出した。
だけど、自分には違った。いつも見守ってくれた。辛い時には助けてくれた。最後には命を張ってくれた。
だからこそ、藍の物言いに腹が立つ。
「しかも最悪な事にあいつらは血を媒体にして移るんでな。一滴でも宿主の血が入ってしまうとその瞬間憑依しやがるんだ」
「うるせぇ……」
「ん?」
「お前なんかに、あいつらの何がわかるッ!」
「蒼ちゃん! いもーと!」
蒼二は修羅雪を構え、緋眼を発動させると藍に向かって斬りかかった。遥緋も同じ気持ちだったらしく、
珍しく無言で蒼二に続き、刀を再生させながら藍へと迫る。その二人の動きに藍は顔に薄く笑みを刻むと、
「やはり、これが運命みたいだな。いいだろう、殺してやる!」
自らもレヴァティーンを一度振り、蒼二と遥緋を迎えうつ。蒼二が修羅雪の先端から氷柱を放つ。
だが、レヴァティーンの一振りでそれは全て蒸発させられてしまった。だが、蒼二は怯まない。
そのまま藍へと接近すると、二本の修羅雪を叩きつけるように藍へと繰り出すが、感触が無い。
その頃には藍は蒼二の背後ヘと回り、やや遅れてきた遥緋の刀をレヴァティーンで受け止めると、一撃で破壊。
あまりの威力に体ごと吹っ飛ばされる遥緋。藍は吹き飛ぶ遥緋に切っ先を向けると、
「終わりだ」
莫大な炎が溢れ出し遥緋を呑み込んだ、かに見えたが、炎は一瞬にして全て消えてしまった。
遥緋が炎が迫るとすぐさま輪廻転生で炎を死滅させたからである。流石の藍もこれには驚き、
後ろから斬りかかってきた蒼二に鞭のような回し蹴りを放つと、一旦二人から距離を置いた。
「お兄ちゃん! 大丈夫?」
「ああ……」
口の中の血を吐き出し、蒼二は返事をする。そして、改めて藍の強さに恐怖を感じた。
一人じゃ絶対に勝てない。蒼二は遥緋の元に駆け寄ると、作戦を耳打ちしそれが終わると立ち上がる。
遥緋は何かに集中するようにして手をかざしており、しばらくすると蒼二は修羅雪を一本、上空へ放り投げた。
そしてもう片方を大地へ突き刺し、ありったけの意思を式神に送り込む。
「ほぉ?」
すると、上空では藍を囲むように何十もの氷柱が顕現され、大地からは同数程度の氷柱が現れた。
それらは全て藍単体に向かっており、いかに緋眼を使っても全ては避けられない。
藍は慌てずに落ち着いた表情でレヴァティーンに力を込めると、莫大な炎を出現させ全て蒸発させた。
だが、蒼二の表情は絶望に染まってなく、視線で遥緋に合図した。
「うん」
その声と共に輪廻転生の再生をを発動させ、先程までの光景──蒼二の氷柱だけを全て再生させる。
大技の後に間髪居れずの攻撃。そしてこの量。流石のレヴァティーンでも消しつくせないと判断した藍は、
賞賛の笑みと共に、"本当のレヴァティーン"の力を発動させた。すると、先程よりも膨大な炎が周囲を埋め尽くし、
レヴァティーンの形状が変わっていく。噴出した炎が全ての氷柱を跡形も無く焼き尽くし、視界が真っ赤な炎に覆われた。
「惜しいな。数年程前の俺だったら、お前らの勝ちだったぜ」
荒れ狂う炎。もはやそれは式神の力の域を確実に超えていた。これほどまでの力は見たことが無い。
蒼二は膝をつき、死を覚悟した。勝てるわけが無い。遥緋も同じようで半泣きで立ち尽くしている。
そして絶対的な力の差を感じた二人が上空から巨大な炎の塊が落ちてくるのをゆっくりと見ていた時、
『転移!』
視界がブレて一瞬、意識が飛びそうになった時、一瞬の偶然か、炎の隙間から藍のレヴァティーンの姿が見えた。
そしてそこには──とまで思った所で、再び視界が変わり何時の間にか上空で翼を顕現させた命に抱えられていた。
下には相変わらず荒れ狂う炎がさっきまで自分達の居た場所を埋め尽くしている。流石にアレをくらったら確実に死んでいただろう。
『重い〜! あ、蒼ちゃん達にも翼がある〜!』
そんな声が聞こえた後、体がふわりと浮き上がり自分達の背中に翼がある事を感じる蒼二と遥緋。
ゆっくりと振り向くと、そこにはいつも通りだが、前とは少し表情の違う命が居た。
「命……」
「命ちゃん」
「蒼ちゃん、いもーと。ごめんね……私なんか助けに来て由加りんが……」
「……いや、こっちこそ助かったよ。なぁ、遥緋」
「うん。本当に死ぬかと思った……ありがとう、命ちゃん」
「うん、これぐら当たり前。散々迷惑かけたもん」
「とりあえず、色々と時雨に話す事もあるから八神家に行こうぜ」
「そうだね。森羅さんにも謝らなきゃ……」
「じゃあ命、帰ろうか。お前にも色々時間が必要だと思うしな」
言いたい事、伝えたい事は色々あるが、今はそんな余裕はない。
そして三人は不安定な体勢でゆっくりと八神家へ向かって飛んだ。
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