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はい。二連続投稿です。
三月は序盤から色んな場所に遊びに行くので、
次回の投稿は全くの未定です。
第二十四話:二階堂雨龍 ─ 予知と念動 ─
 八神の屋敷の裏手の山々の一番下に莉王達軍勢は居た。
 時刻は夕刻。表側から入ると結界を張っていても流石に人目につく可能性があるのでこちからから。
 と言った莉王の提案によるもの多少こちらが不利になるが、それでも負ける気は全くと言って良いほど無い。
 数の十名家四条側の最強戦力を集めた精鋭部隊。いかに八神といえども簡単には倒せないだろう。
 その場に居るほとんどがそう楽観視していた時、莉王が前に進み出て言う。

「さって、そろそろ始めようかな。じゃあ、律。後は任せた」

 そう言うと一人で森の中へスタスタと歩きさってしまう莉王。その姿に困惑する四条家以外の者達。
 四条の面々は自分達が近くに居ては莉王の戦いの妨げになる事は知っていたので、
 いつも通りの表情で見送ったのだが、明らかに他の家は困惑している。すると律は溜息をつき、 

「総大将は莉王だが指揮は各班の長に任せるよ。兎に角無駄死に犬死にはするな。みっともない。
後、七海の次女や浅葱や八神の名を連ねる者が出てきたら逃げたほうがいい。君達じゃかなわない。
いや、殲滅者といわれたあの化け物共に蹂躙されたいというなら別だよ? でもまぁ、基本は僕達に任せて欲しい」

 嵐のような律の言葉が終わると、それぞれが無言で頷き事前に指示された場所へと向かう。
 彼らはプロ。自分達の力量以上の事はしないし、己の限界というモノを知っていた。
 だからこそ、名を轟かす様な者は自分達の家の頭首に任せて、自分達はせめて彼らが戦いやすくするだけ。
 数の十名家ではもはや基本となっている戦術であった。突出した頭首が大半は一人で行動する非常識な戦法。
 だが──それが出来るほどに各家の頭首は比べ物にならないぐらい強かった。

「じゃあ、お前達も頑張れよ。僕は僕の戦いをしてくるからさ」

 その言葉と共に律は歩き出す。後に残された颯太と雨龍もそろそろ動き出さんと体をほぐす。
 郁人と竜胆は莉王よりも先に森の中へと入ってしまたっため、もはや残す所はこの二人だけ。
 そして律の姿が完璧に森の中へと消えると、颯太は雨龍を軽く睨みそのまま森の中へとノソノソと歩き出す。
 後に残された雨龍は少し笑うと、煙草に火をつけて一度吹かす。

「さて、そろそろいくか……【黒龍】」

 その言葉と同時に、雨龍の背後に黒い影。巨大で無骨で、黒い翼の生えた爬虫類のような二足歩行生物。
 だがそれはおおよそ生物とは言い難い。というよりも、機械に近い黒い金属のようなモノで体を覆われた龍。
 生き物特有の呼吸音などは全く聞こえない。匂いもしないその龍はただ無言でそこに居る。
 雨龍は煙草を捨ててニヤリと意地悪そうに笑うと、その龍の背中へ飛び乗った。

「今日は機嫌が悪いな」

「うむ……飛ぶぞ」

 口を開いてないのに聞こえる野太い龍の声。それと同時に翼をはためかせ空へと飛翔した。
 風の切り、ぐんぐんと空へと上っていくと下界では戦闘している様子が良く見えた。
 所々で爆発や悲鳴が聞こえ、まさに惨状となっている。──雨龍にとってはそれが楽しくて、滑稽でしょうがない。
 そして八神の屋敷を見据えると、「景気づけに一発かますか」と言い軽く龍の頭を叩く。

「───グォォォォォォォォッ!」

 大気を揺るがす咆哮と共に、龍の口から放射された巨大な火球。
 回転しながら八神の屋敷を消し飛ばすはずだったその火球は、地面から急に盛り上がった土によって阻まれる。
 巨大な炎が大地を焼くが、相変わらず八神の家は倒壊する様子も無くちゃんと残っていた。
 
「面白い奴見っけたな」

「そうだな」 

 地上へ向かって急降下する龍。何人かの式神使いが攻撃を飛ばしてくるがその全てをはじき飛ばす。
 異常に硬い表皮。それが雨龍の式神黒龍の特性の一つ。他の式神の攻撃の大半を無効化してしまう
 ほどの防御力を誇るその龍は轟音を立てて大地に降り立つと、周囲に炎を吐き障害を排除。
 雨龍も雨龍で、腰から刀を引き抜き音も無く走り出すと次々と式神使いを切り裂いていく。
 式神だけではなく体術も一流──それは数の十名家に所属するほどの名家の長ともなる当然。
 何事も無かったかのように、雨龍と黒龍はその場をしばし見回すと、楽しそうに笑う。

「おいおい……さっさと出てこいよ。七海家の次女さんよ」

「七海奏……【念動】の一族か」
 
 一人と一匹の獰猛な声を聞き、近くの木の陰から現れたのは七海奏。
 ラフな服装を着込んだ奏はいつものお嬢様然とした態度ではなく、一人の戦士としての面構え。
 それに満足したのか、雨龍は機嫌よく語りかける。

「久しぶりだな。まさかお前が八神側につくとは思わなかったぜ」

「大切な人の、守りたい家ですから」

「あーあー……お見合いしたんだってな? 落ちぶれた秋月何かとよ」

「二階堂如きとお見合いするよりは、ずっと良かったと思います」

 笑顔で切り返す奏。だが雨龍はそれに怒る訳でもなく、ただ楽しそうに笑い出した。

「ギャハハハッ! 言うねぇ! "遠音"の陰に隠れてた女如きが言うようになったよ! アハハハハッ」

「……くだらない話は終わりにしましょう。貴方に構ってる時間はありませんから」

「ああ、そうだな──じゃあ、もう殺すか」

「気を抜くなよ、雨龍」

「お前もな、黒龍」

 奏の周囲の地面が振動し、式神が大地に干渉していく。その力は──大地を統べる力。
 式神【地神】と七海家の先祖代々受け継がれてきた【念動】という力が世界を変えていく。
 雨龍も雨龍で受け継がれてきた【予知】の力を発動。雨龍の右目の色だけが薄紫色に染まった。
 数の十名家に属する一族には全ての共通点がある。それは──異形の力を持つ事。
 現在の十名家は【傀儡】【予知】【狂乱】【心眼】【千里眼】【継承】【念動】【緋眼】【鬼憑】【魔具】
 となっている。そして今宵──ついに、予知と念動がぶつかり合った。  

「くたばりやがれェッ!」

 雨龍の声と共に、黒龍の口から数発の火球が発射された。だが、奏は一歩も動こうとしない。
 それどころか余裕の笑みさえ浮かべて──火球をジッと見つめて念動の力を発現。
 途端に奏の意思によって火球は向きを変えて雨龍と黒龍へと迫る。
 だが、雨龍はそれを知っていたかのような動きでそれを避け、黒龍は構わず前進し火球を突き破った。
 その勢いをつけたまま奏へと迫る黒龍。すると地面から巨大な黒い鉄の腕が現れて黒龍を殴りつける。

「──ぬぅ!」

 数メートル後退する黒龍。だがダメージは全く無い。怒りに身を任せ再度突撃しようとしたが、

「上に飛べ!」

 雨龍の怒鳴り声によって上空へと飛翔する黒龍。するとさっきまで黒龍が居た場所に大量のトゲがついた岩。
 森の木を破壊しながらの攻撃であったため、下手すれば致命的なダメージだった。それも七海の念動が成せる技。
 雨龍はとっくに"予知"していたため、完全にその岩の群の範囲から完全に逃れた場所へと居た。

「流石念動の次女だな。遠音までとはまではいかないが、素晴らしい力だ」

「貴方の予知も厄介極まりないです。それに私の力は姉妹の中でも一番弱いですよ」

「ほぉ……んじゃ、一番が遠音、二番が神楽、そしておまえか」

「私の見込みじゃ……たぶん神楽が一番強いですよ」

「ハッ! あの遠音よりも強いだって? おいおいハッタリはよせよ、俺と黒龍だって遠音には五分持たなかったんだぜ?」

「当たり前ですよ。貴方、私にも負けるんですから」

「…………クハッ! いいぜ! いいぜぇ……んじゃやってみやがれクソ女ァ!」

 雨龍の血統の力"予知"は数瞬先の未来を見せる力。右目の色が変わっているのが発動状態。
 左目を閉じて右目だけで世界を見ると、周囲の情報全てが雨龍の脳に伝わり、次に何が起こるのかが"わかってしまう"。
 熟練した観察眼とでもいうのだろうか、それが異様に洗練されているために先が見える──すなわち、予知できる。
 それが二階堂家が古来より子孫に伝えた力。

「言われなくても、やりますから」
 
 対する七海の力は視界に入っているモノに念動の力を干渉させられるというもの。それを自在に動かし、
 戦ってきたのが古来よりの七海のスタイル。だが、念動という力は予知にとっては最高の獲物。
 モノを動かす力なので、確実に予知ができてしまうのであった。だから、奏は最初は逃げようと思い隠れた。
 でもそんな自分が悔しくて、惨めで、今もこのどこかで戦っている好きな人に申し訳が立たない。
 そして奏は最大限の勇気を振り絞って、二階堂最悪の男へと戦いを挑んだのであった。

(狂様……)

 初めてお見合いをしろと言われたときには素直に怖かった。あの死罪六神の第二位となんて嫌だった。
 だが、お見合いは結局開催されてしまった。そして秋月狂と始めて会った時、色々と楽しかったと思う。
 窓の外には楽しそうな仲間が応援していた。それに助けられながら、不器用に会話を繋ごうとする狂。
 それが面白くて、可愛くて、いつかしか奏は狂の過去の経歴なんて気にしなくなっていた。

(そして、あの言葉)

 ──俺達のために散っていった仲間が数多く居ます──
 ──俺がそれをないがしろにしてしまっては、あいつらに申し訳が立ちません──
 ──だから俺は──どんなに嫌われようと、罵られようと、死罪六神であった事を誇りに思います──


 その言葉を聞いた奏は、心から秋月狂を尊敬した。そして、不器用に時を重ねて行く事にその人柄にも惚れてしまった。
 だからこそ──嫌われたくない。自分もあんな風に強い人間になりたい。全てを乗り越えて前を見れるような、あんな人になりたい。
 奏は改めて決意すると、動きの止まった自分を訝しげに見ている雨龍と黒龍を睨みつけた。

「行きますよ! 地神」

 奏の周囲から大地で出来た数十体の人形が出現。それと同時に、巨大な人形も数体出現した。
 牧島勇雄の式神とよく似ている奏の力だが、用途や規模は比較にならない。まさしく大地を統べる式神、それが地神。
 それらを操作しながら、更には念動の力を使い岩石を雨龍と黒龍に向かって放つ。これが奏の戦闘スタイル。
 圧倒的な大地の力で一気に飲み込む、例えそれが少数でも容赦はしない。

「本気で来たか……黒龍、行くぞ!」

「うむ」

 雨龍は予知の力で人形は飛びかう岩石を潜り抜けて少しずつ奏へと迫る。黒龍はそのまま前進。
 次々と吐き出される火球。雨龍の剣技。その力は奏の力にも決して引けをとらない。
 この戦いの勝敗はシンプルだった。奏は雨龍か黒龍に接近されたら負け、それが出来なかったら勝ち。ただそれだけ。
 現在は押され気味だが、いくつかの手もある。まだまだ負ける気は無かった奏だが、

「おい、埒があかねぇから"アレ"やるぞ」

「了解した」

 その言葉の次の瞬間。黒龍の胸板の装甲部分が大きく開き、人一人分は入れそうな闇の空洞が見えた。
 雨龍はサッと走り出し、その空洞へと入ると装甲は再び閉じた。そして黒龍の体に変化が起きた。
 体の表面が波打つように揺れて、段々と収縮、雨龍の体にフィットするように龍の原型を残したまま縮んでいった。
 さっきよりも小柄になった黒龍いや、雨龍。しかしさっきまでの黒龍とは明らかに違う。

「厄介な力を……」

 黒龍の弱点は致命的なほどの鈍足。だが、今の姿を見る限りかなり素早そうである。
 更には口の他に背中や肩にいくつかの砲門のようなモノの形も見えた、そしてあそこからも火球が出るのだと予測。
 装甲や耐久力は下がっているように見えるが、所詮攻撃なんて当らなければ意味が無い。奏の背中に冷や汗が伝った。

「ヒャハハハ! いっくぜぇ!」

 人形と念動の力を最大限に発揮して、雨龍をどうにかしようとする奏。だが、雨龍は余裕の動作で避けてしまう。
 どんな角度から撃っても、どんなに陽動を混ぜても雨龍は難なく火球や爪の一撃で全てを破壊していく。
 完全に奏の劣勢だった。動きも黒龍何か比ではない。雨龍の動きよりも早い。

「ハッハー! こっちは予知が使えるんだよッ!」

「──ッ」

 周囲の大地を盛り上げ、自分を守るようにして幾重にも地層を重ねる奏。
 外では雨龍が火球や自らの体を使って防御壁を破壊しようとしている気配。奏はその間に様々な手立てを考えた。
 逃げる事は簡単。だが、気持ちがそれを許さないし七海の直系である自分が逃げたら、確実に士気は下がるだろう。

「オラァ! 出てこいよコラァ!」

 雨龍の暴力が奏に迫っていた。そして────

「今出て行きますよっ!」

 怒鳴りながら地神と念動の力を同時に使って、壁を雨龍に向かって砕け散るようにして破壊した。
 流石の防御力を誇る黒龍も至近距離からの念動の力までもが加えられた岩石の破片に耐えられない。
 岩石の弾丸に体を蹂躙された雨龍は数十メートルほど吹っ飛び、そのまま動かなくなった。

「やった……?」

 まずは呼吸を整えて、体の調子を見る。念動と式神の力を使いすぎたため頭が非常に重い。
 膝が踊ってもはや立つ事すら危うい自分の体。だが、奏は倒れなかった。一度倒れたらもうしばらくは立てない。
 それがわかっていたので、奏がゆっくりと歩き雨龍に止めをさそうと歩き出した時だった。

「──殺す」

「雨龍……」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 あれだけの攻撃を喰らっても雨龍は生きていた。普通なら考えられない。何故?
 だが現に雨龍は立ち上がって、黒龍の中から自分を睨んでいる。そして、次の瞬間全ての砲門から大量の火球が
 放たれ、奏を焼き尽くさんと向かってくる。もはや式神や念動はほぼ使えない。だから動いて避けようとしたが足すらも駄目だった。
 そして火球が奏の周囲に着弾。爆発と炎の余波で吹き飛ばされてしまう奏。

「アハハハハハハハハハハハッ! いいぞ! いいぞぉ!」

 地面に叩きつけられた後に自分の体を確認。四肢はちゃんとある。目立った出血もない。
 だが右腕は酷い火傷。じわじわと嫌な痛みが奏の体を襲う。顔や重要器官がやられてないのがせめてもの救いだった。
 顔を雨龍の方へと向けると見下すような態度で自分の方へと迫っていた。

(狂様……ごめんなさい)

 二階堂雨龍が自分を殺さないわけが無い。あの男は人殺し──というよりも死というものが好きなのだ。
 それがわかっていた奏はもはや自分の運命を達観していた。できれば死体は綺麗にして欲しい。それが最後の願い。
 十名家同士の抗争はかなり多い。どの家も自分達が優れていると思っているからであった。
 奏も幼い頃から死線をいくつも潜り抜けてきた戦闘のプロ。だからいつか戦場で死ぬ事はわかっていたはずなのに──

「奏よぉ……そのうち遠音のヤローもそっちに送ってやるから気楽にまってな」

「……貴方何かどうせ返り討ちですよ……」

「それだけ吼えれりゃ上等だ。死ね」

「ごめんなさい……」

 雨龍が自分を殺そうと爪を振りかぶった。それを冷めて目で見つめていた奏。だが、熱を感じた。
 痛みから来る熱ではない。膨大な熱。そして視界の隅に闇が見えた。轟々と唸りをあげる闇。
 それは──漆黒の炎。この世の全ての闇を怒りに変えたような漆黒の炎。

「チッ」

 舌打ちして雨龍は上空へと飛ぶとその渦巻く黒炎をギリギリのタイミングで回避した。
 森を焼き尽くし、その開けた道から歩いてきたのは炎と同じような長髪の女──秋月罪歌。
 雨龍はその姿を見て黒龍の中で軽く笑った。居る事は知っていたが、まさかこんな場所で会えるとは思っていなかった。
 元死罪六神最強の女。燃えないはずが無い。一方の罪歌は冷めた目で雨龍を見ると、

「人の義妹になるかもしれない子をよくも傷物にしてくれたわね……」

「お姉さま……」

「ごめんね、奏ちゃん。その傷なら遥緋が完全に治せると思う。だから、安心して」

 遥緋って誰ですか。という疑問に駆られたが、もはやそんな余力すら無くなっていた。
 火傷の痛みはどんどんと増していく。そして意識も段々とぼやけてきた。それを知っているのか罪歌は雨龍を睨むと、

「早く来なさい──殺してあげるから」

「秋月罪歌ァ……ヒャハッ! オメーも楽しませてくれよなぁ!」

「ごめんね、一瞬で終わっちゃう」

 罪歌の目が緋色に染まる。それと同時に周囲に黒炎が蛇のように動き罪歌を取り囲んでいく。
 そしてほぼ同時に雨龍と罪歌はお互いの火球を放った。ぶつかり合う炎。そして爆発的な熱が周囲一体を焼き尽くした。

 


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