溜め込み分全て出し終わりました。
少し更新に間が空くかと思われます。
第十五話:夜闇の攻防
────人間ってここまで変われるものなんだ。
千島家で遥緋はそんな事を思った。視線の先に在るのはいそいそとネクタイを締めて仕事へと向かおうとする父。
いつもならこの時間は廊下にはみだして寝ているはずなのだが。ここ二週間というもの、毎日この調子。
今まで見た事のない父親の真面目な姿に遥緋は娘として感動し、隣に座る蒼二はブスっとした顔でそれを見ている。
「んじゃ、今日も仕事行って来るわ」
「行ってらっしゃーい」
「おう……いってら」
子供達の声を背に家から出て行く蒼威。そしてバイクの音が遠ざかって行くと二人は再び朝食を取り始めた。
この朝食も蒼威が作った物であり、味は母親の遥にも引けを取らないほど美味しい。
蒼二にはこの事実がよほど衝撃的だったらしく、妙に小さな声で話し始めた。
「あの親父がここまで変わるとは……子供ってスゲェよな」
「うん……なんていうか、似合わないよね」
遥が身篭ったと発表された次の日から、蒼威は真面目に働き始めた。それこそ、仕事なら何でもやった。
八神の雑用や一課の雑務。元々人材的にはどこの勢力からも喉から手が出るほど欲しがられているので、
それらを器用に捌きながら蒼威は朝から晩まで毎日働いていた。
「ってか……あんま実感ねぇよな。俺らの弟か妹が生まれんだろ?」
「うん、私は妹が良いなぁ〜」
「いや、ここは弟だろ」
「えー……千島の男ってお兄ちゃんとかお父さんとかロクなのいないじゃん!」
「ハッ! こっちだって妹までこんな根暗なんて後免だぜ」
「お兄ちゃんに根暗って言われたくないな」
「そのセリフ、そっくり返すぜ」
睨みあう蒼二と遥緋。すると階段の方から誰かが足音がして、数秒後に命がリビングへと入ってきた。
今日はテスト後の振り替え休日なので、制服姿ではなくパジャマ姿。
命は眠そうな顔で「おはよ〜」と目を擦りながら蒼二と遥緋の対面の席に着くと、辺りをキョロキョロと見回して、
「あれ? 遥ママは?」
「今日は徹宵おじちゃんの所に行ったからもう出てちゃったよ」
「ふぅん……ってか私の朝ごはんは!?」
「お父さんが作ってって……あれぇ? 無いなぁ」
「蒼威パパ……まさか、私の分忘れたとか?」
「確実にそうだな。ってか俺も腹減ったなぁ……ラーメン食いてぇ」
「うー! 私だってこの家の一員なのに〜」
バタバタと足を揺らして抗議をする命。その姿はパジャマを来ているせいか本当に幼く見える。
そんな命を見かねたのか遥緋は溜息をつくと、
「じゃあ私が作ってあげるよ」
その瞬間、蒼二はガタッと椅子を大げさに押して立ち上がって無言のまま立ち去ろうとする。
しかし遥緋は蒼二の襟首を掴むと強引に引き寄せて椅子へと座らせた。
その隙に乗じて命も逃げようとするが、同じく襟首を掴まれてそのまま椅子に座らされる。
恐怖に慄く二人の顔を見ながら、遥緋は心外とばかりに鼻を鳴らし、
「大丈夫だって! 今回のは自信あるんだから。昨日寝る前にパッと閃いたのよ」
「いもーとぉ……農家や食品会社の人に申し訳ないと思わないの?」
「アレは食材への冒涜だからな。いや、地球への冒涜かもしれん」
「失礼ね! 私には美味しいの! でもまぁ……妹の嫁入り前の訓練ってことで付き合ってよ」
「全力で拒否する」
「そういうのは時雨さんにね? 私達そういうキャラじゃないの」
あくまでも冷たく突き放す二人。すると遥緋は頬を膨らまし、
「むー……もう怒った。じゃあもうお兄ちゃんと命ちゃんには何一つ協力しない!死にそうになっても助けてあげない。
大怪我したって輪廻転生で治して上げないし、テストで酷い成績とっても勉強教えてあげない」
その言葉に蒼二と命は卑怯だと言わんばかりの顔をした。だが遥緋にはそれだけの価値がある。
蒼二は仕事の度に怪我する事が多いので、輪廻転生は欠かせない。
命は勉強が殆ど出来ないために遥緋のテスト前の勉強のレッスンは欠かせなかった。
そして二人は一瞬目を合わせると意を決したような顔で、
「わかった……」
「うう……わかったぁ」
「よろしい。じゃあ早速作るね」
闇夜の封鎖された町の一角。そこにある一番高いビルの上に郁人と竜胆は居た。
服装は二人とも目立たない黒ずくめ。更には帽子やサングラスまでかける念の入れ様。
竜胆の周りには"Puppet"の紋様。下界と電子地図を見下ろしながら、郁人はたまに声を出し、
「竜胆、Bを北に向かわせてくれ。それで、Aはそこで待機」
「うん」
竜胆はコンセプトの操作に集中し、郁人の言ったとおりに操っている駒を動かす。
すると、ちょうど自分達のビルの真下で四人の男が鉢合わせ、臨戦態勢となる。
それは黒色のスーツを着た一族──八神と、九我山と五月の家の者。
無論竜胆が操っているのは、八神。
「死なない程度に攻撃」
すると八神の方が式神を顕現し、九我山と五月に襲い掛かる。
襲いくる敵から逃れるために久我山と五月も式神を顕現し応戦。そして下では血生臭い闘争が始まった。
それを無愛想な顔で見ながら郁人は双眼鏡を使って観察し、
「とりあえず病院送り程度にしておこうぜ」
「はいはーい」
二人は律の命令によって、ここ数日間。寝る間も惜しんで八神の者を操っては同じ事を繰り返していた。
全ては八神潰しを合法化する為。理由も無く潰したとすれば以下に九我山と言えども非難される。
だがこうやって、八神を操って九我山に戦いを仕向ければ必然的に理由という物ができてくる。
律は一族の者にすらこの事実を隠し、こっそりとわからないように術中に嵌めていっていた。
「郁人ぉ。この作戦あんま好きじゃないな」
「……仕方ない。今は九我山に従わないと後々めんどくさい」
「律さんが言うには、この計画の首謀者は莉王さんなんだって」
「へぇ、初耳だな」
「四条は凄く大きな御家だからね。律さんも颯太さんも流石に敵には回したくないらしいよぉ」
「まぁな。でも俺らだって千島や八神と敵対するんだ。あの蒼二さんや遥緋さんや命さんと戦うかもしれない。
だけど、俺達はもう決めたんだよな。強くなって、凄く強くなって世の中を見返してやるんだって」
「うん! 変な事言ってごめんねぇ」
「気にするなよ。相棒」
「うん…………ん? 郁人! AとBが何時の間にか気絶している」
「何?」
改めて下を見ると、何時の間にか八神が気絶しており、それどころか九我山達も気絶している。
──何が起きたんだ? 郁人はそう思い、双眼鏡で下を見る。
すると、倒れている四人の傍には一人の革ジャンを着た大柄な男が立っているのが見えた。
どこかで見た事のあるその男は、何とは無しに上を向き──郁人と目を合わせた。
「マズイッ! 見つかった!」
「ええっ!?」
「逃げるぞ竜胆。バレたら計画が全て終わる」
「うん! 出てこーい【鴉】」
竜胆が新たなる式神を発動させる。すると、二人の体に黒い外套が現れた。
それを着込むと二人は何の躊躇いもなくビルから飛び降り──重力の法則に逆らって空を舞う。
だが、安堵したのも束の間。周囲では激しい爆発がギリギリの位置でさっきから起こっていた。
左右に旋回や回転を繰り返し必死に飛ぶが中々逃げ切れない。
「相手はバイクに乗ってるよぉ!」
「チッ……」
後方を振り返ると、確かに青色のバイクが疾走しているのが見える。
流石に直線なだけあって単純なスピードではバイクの方が圧倒的に有利、そして追い付かれるのも時間の問題。
そこまで考えて郁人は、竜胆に指示。
「竜胆、雷撃砲であそこの陸橋をぶっ壊せ」
「うん」
金色の光の玉が前方の陸橋に向かって着弾、後に爆発。粉塵が郁人達を襲うが迷わず飛ぶ。
しかし、これで撒ける。だが──その予想は甘かったらしい。
粉塵の中から銀色の閃光が突き出し鴉が切り裂かれてしまう。何かの刃物のような鋭い感触。
郁人と竜胆は一度目を合わせると、陸橋を越えた先に叩き落されるように着陸し周囲を伺う。
「……誰だ?」
粉塵が晴れ、現れたのは夏だというのに革ジャンを着込んだ中年の男。
だが郁人と竜胆には見覚えがあった。というよりも裏社会に居て知らない者は居ないのではないだろうか。
気だるげな顔に不釣合いな爛々とした緋色の眼。銀色の翼を纏った千島蒼威がそこに居た。
「お前らか。最近コソコソと妙な動きをしてる奴らってのは」
「…………」
郁人も竜胆も声は出さない。一応サングラスや帽子で顔を隠しているためバレたとは思えない。
知り合いといっても息子と娘と居候だけ。だが、二人の体は動かない。いや、動けなかった。
ヘルと戦っていた蒼二よりも強いプレッシャー。熟練された恐怖を無条件に感じる。
(郁人ぉ……どーする? 正面からじゃまだキツいよぉ)
(確かに、"あの千島蒼威"だ……蒼二さんよりも強いかもしれない)
(逃げるしかないねぇ。一応律さんに救難信号は出しておいたけど)
(ナイスだ。仕方ねぇから全力で逃げに徹しようぜ)
(りょーかーい。アタシにまっかせてぇ)
こんな時でも明るい竜胆の声を聞き、郁人の心が少し軽くなった。
そして意識を集中し、頭の中にさっきまで見ていた地図を蘇らし一手一手組み立て挙げる。
その間も蒼威からは注意を逸らさない。そして黙考する事十分──大まかな作戦が決まった。
「何故貴方みたいな方が此処に?」
「ああ、最近八神が無差別に久我山やら、他の十名家襲ってるんだけどよぉ。当事者全員に聞いても記憶が無いんだよな。
陸人式最強拷問スペシャルを喰らっても知らないの一点張り、それで時雨が俺と陸人をポケットマネーで雇ったわけよ」
「へぇ……」
「んで、陸人の野獣の感でお前らを見つけて事情を聞きだそうってわけ。あそこで何してたんだ?」
「ハッ! ちょっと彼女と愛の営みをしてましてね」
少し挑発してみる郁人。だが、蒼威はそのままの表情で、
「あー…………そうかそうか。 うん、ぶっ殺すわ」
「何でっ!?」
「俺は嫁が妊娠してるから出来ないんだよっ! 羨ましい! 死ね!」
凄まじく自分勝手な理屈を振りかざし大我を戦闘態勢へ突入させた。
それと時を同じくして、破壊した陸橋の瓦礫部分が突如爆発を起こし中へと舞う。
その一瞬を駆け抜ける青色のさっきのバイク。それに乗っていたのは浅葱陸人。
猛スピードで郁人達の下まで走ってきた陸人は、バイクをゆっくりと止め一言。
「蒼威……その気持ちよくわかるぜ」
「わかってくれるか親友! でもお前は純粋に詩歌ちゃんに嫌われているだけだけどな」
「それを言ったらお終いだぜ親友……ま、ここは大人として清く正しく美しく教育してやらなきゃな」
それぞれの式神を構えて息をまく蒼威と陸人。そしてそれをポカンとした顔で見つめる竜胆。
郁人に至ってはどこまで真面目かわからない二人の言動に完璧に度肝を抜かれており、一瞬頭が空になっていた。
──駄目だ。ペースに巻き込まれるな。そう自分に言い聞かせ竜胆へと郁人は合図を放つ。
「──うん。【炎狐】【蛇王】」
蛇王をを竜胆から受け取り陸人へと走る郁人。竜胆は炎の狐を携えて蒼威へと走った。
竜胆が召還したのは式神ではなく吸収した悪鬼の力の一部。狐を統べる悪鬼を倒した時に得た力。
その異端の力に蒼威と陸人は驚きを隠せない。だが、それも作戦のうちの一つ。
「フン……」
陸人へと一発の斬撃。それを軽くスウェイバックでそれを避ける陸人。
直後に左に軽くダッキングし、ジャブを連打して距離を測る。郁人は更に近づき蛇王を振るう。
爆轟の手甲により止められる刃。直後にカウンター気味に右ストレートが放たれる。
郁人はギリギリのタイミングでそれを避けたが、自分の目の前の空間を通り過ぎていった脅威に戦慄し
一旦距離をとって、遠距離から蛇王を伸ばして陸人を削る。
「…………」
何発も何発も蛇王を振るが、陸人は完全に防御に徹し襲い来る斬撃だけを打ち落としている。
その姿に違和感を覚える郁人。だがここで少しでもダメージを与えなければ逃げる事は不可能。
自分が焦っている事に気づかないまま、郁人は蛇王を振るう。そして最後まで気がつかなかった。
陸人の前に構えた左腕が蛇王のタイミングを取るようにして、淡々とリズムを刻んでいた事に。
「しつこいんだよぉ!」
渾身の地から込めて振り下ろす。そしてそれと同じくして陸人も動き出す。
爆轟の力を使い、振り下ろされたと同時に加速し一気に距離を詰めた。当然の如く蛇王は空振り。
そして無防備な体勢の郁人のボディに凄まじく重い一撃を叩きこむ。
「────っァ」
自分の腹部が吹き飛ばされてしまうような感じ。そして更にフックが顔面に叩き込まれ、
呼吸が出来ない。その後も連続で叩き込まれて郁人の体がボロ雑巾のように力が抜けた頃。
腰貯めに力を込めて全力の一撃を郁人に放つ陸人。だが───そこに蒼威と戦っていたはずの竜胆が乱入。
郁人を庇うようにして組んだ両腕に陸人の渾身の一撃。
「────痛ぅっ」
竜胆の小さな悲鳴が響き渡り、陸人の顔が一瞬驚愕に染まる。
だが竜胆はすでに雷撃砲を右腕に構えており、その銃口は陸人に向いている。
とっさに両腕をクロスさせて雷の閃光を防ぐが、その威力に押されて近くにあったビルへと体ごと叩き込まれた。
それに満足せずに竜胆は再び【鴉】を顕現させて二人して夜の空へと舞う。
「待てっ! ってかあのニワトリマジ使えねぇ」
飛ぶ竜胆と郁人に向かって蒼威も大我の翼を使って追う。空中を縦横無尽に舞い必死に逃げようとするが、
速度は蒼威の方がやや上。そして巨大な海を跨ぐ大橋の上空で再び追いつかれてしまった。
見渡す限り広大な夜の闇。遠くの方では、町灯りが点灯しているそんな風景の中、
今度こそ蒼威の眼には本気に色が宿っており、大我も武器に変わって周囲を漂っている。
郁人もようやく痛みから解放されたようで、まだ呼吸が荒いがほとんど立ち直っていた。
(郁人ぉ……大丈夫?)
(ああ……さて、此処をどう切り抜けるよ?)
(少し戦ったけど隙が無いね。炎狐も一瞬で殺されちゃった)
(そうか……でも、ここまで来たら戦うしかねぇよな?)
(うん。アタシが陽動するから郁人は攻撃に集中してね)
(わかった)
再び蛇王と雷撃砲を構えて蒼威へと向かう郁人と竜胆。
蒼威は「ハァ……」と溜息をつき、大我を二本剣の形に変えて同じく二人へと飛んだ。
周囲の大我達は斧や刃物に形を変えて回転しながら蒼威の意思通りに中を動く。
郁人を狙う大我は全て竜胆が雷撃砲で自分を狙う大我を避けながら狙い撃ち、郁人は蒼威と切り結ぶ。
(剣術も結構上手いな)
蒼威の剣の型は素人っぽいが、実に理にかなった斬り方。自分との戦ってきた年季の差を感じる。
古来より我流を崩してきたのがお手本通りの郁人のような剣術。だが、経験の差は圧倒的であり、
蒼威が仕掛けてくる様々なフェイントや陽動に悉く引っかかる郁人は、いつしか劣勢。
「ガキのクセによくやるなぁ……ウチの息子ぐらいだ」
「それは、どーも!」
蛇王を振って牽制するが、いつしかそれは全て見切られてしまっていた。
原因は蒼威の持つ緋眼という力。蒼威は大我の強力な力によって有名になったのであるが、
郁人にとってはこの力の方が圧倒的に曲者。全ての攻撃が見切られ、早さも格段に上がるのである。
「だからちょっと本気だしちゃおうかな」
竜胆や郁人を狙っていた全ての大我が蒼威の手に集まり、巨大な剣と形を変えていく。
それも只の剣ではない。刀身の部分には化け物の顔とな刃のような歯。
まるで、本当に生きているかのようなその剣の外見に飲まれてしまう郁人と竜胆。
そして、剣の長さがどんどんと伸びて行き化け物の口が郁人を突き刺さんと迫ってくる。
「うわッ」
慌てて回避するが、鍔の部分からは新たな化け物の剣が伸びてきている。
追尾するように迫るその化け物の剣。すると、竜胆が意を決したような表情で蒼威へと突っ込む。
蒼威の意思によって郁人を追尾していた剣は竜胆へと対象を変えて、竜胆へと迫る。
「ああああああああああっ!」
雷撃砲を連射し、特攻する竜胆。だが、剣が間近に迫りそろそろ避けなくては刺さってしまう。
しかし竜胆はそのまま進み、剣が自分の腹と肩を貫いた──そして心のそこから叫ぶ。
「今だよぉっ!!」
蒼威の大我は今鮮血を撒き散らす竜胆の体に刺さっており、無防備状態。
使い手の蒼威もまさか特攻してくるとは思わなかったのか、面食らったような表情で竜胆を見ている。
郁人の心は激しいショックに苛まれるも体だけは勝手に動き、蛇王を構えて蒼威へと迫った。
「お前ぇぇっ!! よくもやりやがったなぁ!」
怒りのままに、蒼威の体を切り伏せて地面へと叩き落すように蹴りつける。
血を撒き散らし蒼威と竜胆は地面へ向かって落ちていくが、途中で大我が蒼威に追いつき支えるようにして、
ゆっくりと降下を始めた。そして郁人も落ちていく竜胆を抱えると思い切り抱きしめた。
「馬鹿野郎……何であんな無茶したんだよ」
「私、式神…………だか……らぁ。た……ぶ、ん死なな、いから」
「馬鹿! そういう問題じゃねぇ!」
「立ちた、かったの……郁人の役に。私のせいで、全部……駄目に」
そう言うと竜胆は笑った。そして郁人の心は怒り一色に染まりきる。
蒼威にではない──無力さと、竜胆の覚悟に答えられなかった自分に激しい怒りを感じた。
自分が自分で許せない。竜胆はここまで体を張ったのに自分はほとんど無傷。
「駄目なんかじゃねーよ……お前が居たから、俺は今日も幸せだ」
「郁人ぉ……」
「もう喋らなくて良いよ。お前の気持ちは十分わかった」
そのまま鴉を使って降下していると、大橋に隅に見た事がある車を発見した。
真っ赤な色をしたスポーツカー。それは最近見た九我山律の愛車。そして運転席にはサングラスをかけた律が座っている。
郁人はこっそりとその車へと近づき、何気なく血塗れの竜胆を後部座席に乗せ、自分もその隣へと座る。
「……生きててよかったよ。まさか千島蒼威と浅葱陸人とやりあうとはね」
「そうですか」
「僕もそれに応え様と思う。まずは闇医者か?」
「お願いします……一応、式神なんで死なないとは思いますけど」
「だが、念の為だ。最高のスタッフと医者を用意しよう」
「ありがとうございます」
そして車は動き出し、夜の街へと消えていった。
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