緋色の眼〜神々の黄昏〜(14/61)PDFで表示縦書き表示RDF


えらく間が空いてしまいました(汗
これから少しは更新頻度が上がるかもしれません。
よろしければお付き合いください。
緋色の眼〜神々の黄昏〜
作:ジョン



第十話:天美運命(前編)


 
 その少女は、生まれながらにして純粋だった。
 ただ在ったのは生まれながらにして世界の頂点に立てるほどの力だけ。
 何かを知り、ただ好き勝手にに生き抜くその少女は────かの有名な大悪鬼【九尾の狐】のたった一人の娘。
 アジアの全ての悪鬼を統べる王として、彼女は生まれながらに世界に約束されていた。
 彼女の親である巨大な九尾を持つ狐は、アジアの大半の結晶が集中して作られた存在。それ故に最強。
 並みの悪鬼とは比べ物にならないほどの知能と力を備えていたその狐は薄々と人間の欲の強さに気づいていた。 
 だからこそ、彼は最後には人間に追い詰められ自らを巨大な毒石と化し更には悪鬼までをも大量に生み始める。
 それでも人間は滅びない。やがて、毒石となった自分も人間に破壊されてしまった。

(死か……)

 アジア各地まで飛ぶほどに毒石と結晶はばらまかれ、彼の本体のカケラは日本の海岸線に人知れず埋まっていた。
 このまま死が来るのをゆっくりと待つのは嫌だった。何か──何か自分は残したい。
 並みの知能ではなかった彼は、最後の力を振り絞ると心の全てを任せられる人間を探して当てもなく日本中を放浪する。
 十年、百年が経ち人間はどんどん進化して汚れていった。それを横目で見ながら、彼は探し続ける。
 そしてついに一人の少女と出会い、彼は彼女との間に一人の子を産んだ────それが、運命と名づけられた次代の九尾。
 自らの目的を果した九尾の狐はもうこの世に思い残すことはない、と一言だけ呟き、
 再び結晶と化すと見事真っ二つに割れて元の物言わぬ結晶となり、その場から動かなくなった。
 それを追うようにして女も死に、運命は生れ落ちて数年で孤独となる。

(これが運命さだめの運命……)

 運命は一人で生きることを決意し、生きていくことを誓う。
 人間を化かし、人間を嘲り、時には不幸な人間を助けて面白おかしく生きていく運命。
 そのうち、運命は二人の少年と出会う。髪がボサボサのいつも陽気な少年と、美貌で無類の女好きな少年。
 一人が大悪鬼【大天狗】の息子──空我。もう一人が大悪鬼【酒呑童子】の息子────大和。
 こうして日本三大悪妖怪の子──鬼神達はそれこそ運命に導かれるようにして出会ったのである。

 そしてまた歳月が流れ、人間が世界大戦等といった滅ぼし合いをしている頃。
 鬼神の間でも、【第一次ラグナロク】と呼ばれた戦いが勃発。世界中の鬼神達が殺し合いをはじめた。
 発端は欧州最大の鬼神集団【ラグナロク】という鬼神集団の中でクーデターが起きたのである。首謀者は【ロキ】の名を冠する鬼神。
 世界を滅ぼそうとする【ロキ】と、世界を安定させようとする【オーディン】の確執によるその内乱は、
 やがて、アジアもを巻き込み世界中へと広がっていった。

 運命達も、それに巻き込まれるようにして最終的には欧州へと旅立つ。
 すると、戦いの中で何回か同じ日本で生まれた四人兄弟の鬼神と出会い、段々と協力関係になって行った。
 運命は神代兄弟と空我と大和を集め【九尾の狐】という鬼神集団を作り上げ、ラグナロクに対抗を始める。
 その頃の運命は鬼神の中でも突出した力を持っており、並みの鬼神では勝負にならないほどの力を身に着けていた。
 そして【第一次ラグナロク】終戦のきっかけとなった戦いが始まる。

「君が、【九尾の狐】のサダメ?」

「そう」

「同胞の恨み、晴らさせてもらうよ」

「そう」

 荒れ果てた古城で二人は出会った。周囲には大量の鬼神の死骸と巻き込まれた人間の死骸。
 死臭の風が吹くその古城で運命は自らの式神【阿修羅姫】を構え、ロキに突きつける。
 それでも、ロキは笑みを崩すことなく、静かにコンセプト【Erasure】を発動させた。
 ロキの体や周囲に紋様が現れ、運命も全神経を集中させて攻撃に備える。そして数瞬後────

「Erasure」

 ロキが右手を運命に向け、静かにErasureを発動させた。その紋様に刻まれた概念は【消去】。
 すると、ロキの意思に従って幾つもの紋様が運命に向かって放たれる、が運命は特に動じない。
 負ける気など微塵もなかった。だからこそ、一撃で終わらせようと運命は空へと跳躍。
 自分の真下で紋様が全てを破壊していく光景を冷めた目で見つめながら、運命は狂化を発動。

「九十九連狐砲」

 運命の頭から狐の耳が生え、着ていた衣服の尻の部分から九本の尾が飛び出す。
 狂化を終えた運命は、更に意識を集中させ阿修羅姫の力を発動させる。
 阿修羅姫の力は多重分身。自分と全く同じ────言うならば運命じぶんを増殖させる力。
 発動させると、まるで残像のように新たに十人の運命がこの世に顕現。その全てがオリジナルと同じ運命。
 そして、夜空には十一人の運命と九十九の狐の尾。すると、その尾の部分には九つの狐火のような光の玉。

「…………?」

 ロキが疑問に思ったときには、紅の九十九本もの集束したエネルギーが自分に向かって降り注いでいた。
 それは流星のように古城へと着弾し一気に爆発。戦闘の余波を受けきっていた古城は為す術も無く崩れ落ちる。
 土埃が大量に舞い、一瞬にしてただの瓦礫と化す古城。それを見て運命は、

「脆過ぎる」

 冷たく一言吐くと、分身を消して地面へと降りる。死体を捜す真似はしない、もはやロキへの興味は皆無であった。
 運命の心に残ったのは特に何も無い。敵が殺そうとしたから自分が殺してやった。ただそれだけ。
 すると、瓦礫を突き破って何かが空へと飛翔────それは、純白の羽を持つ人。何かの本で読んだ天使と酷似している。
 ロキだという事は明白なので運命は、半ば呆れつつも一言。

「まだ、やるの?」

「……うん、とことん殺しあおう。久しぶりに痛みを感じるけど、やっぱり痛いね」

 体中のあらゆる場所から血を流しながら笑うロキ。その光景は凄惨の一言。
 だが、運命には心からどうでもよかった。これから殺す者の事など、本気でどうでもいい。

「それ、当たり前」

 拙い英語で会話を終えると、阿修羅姫を構えて再びロキへと走り出す運命──今度こそ殺す、そう決めて。
 すると、ロキは再びErasureの紋様を発動させ、それを自分自身の正面に顕現させると、

「Rain of light」
 
 そう呟いた瞬間。紋様から幾重もの光が照射され、全てを消し去りながら運命へと迫る。
 ────間に合う! ギリギリのタイミングで運命は横に転がり、光を避けようとするが、
 転がったのとほぼ同時に、新たなる紋様が自分の前に出現してロキの放った光を飲み込んでいく。
 呆気に取られるロキと運命。すると、崩れた古城の瓦礫の上に何時の間にか誰かが立っている事に気づく。

「ガルム……」

「そこまでだ、ロキ。本気で死にたいのか?」

 日系の顔をした青年──ガルムが厳かにロキへと告げる。
 だが注意を促されたロキは不満そうな顔をし、

「僕はまだやれるよ……それとも、僕の力を君は信頼していないのか?」
 
「お前の力とは相性が悪い。ただそれだけのことだ」

 しばらく睨みあうロキとガルム。こう着状態は一分ほど続き、やがてロキが折れた。
 拗ねたような顔で体や顔についた血を手で拭うとすごすごと身なりを整え始める。
 ずっと情勢を伺っていた運命は、狐砲を一発ロキに向かって放った。
 ────だが、またも謎の紋様が現れ運命の弧砲もその中へと吸い込まれて消えてしまう。

「それが、お前の力?」

「そうだ」

「ふぅん……もういい。運命は帰る」

「そうか……この戦争も時期に終わりだ。刹那達によろしく伝えておいてくれ」

「何故、知っている?」

「ラグナロクにも日本人の鬼神が居るからな。そいつの知り合いだ」

「ふぅん……それって、強い?」

「ロキよりも、多分お前よりも強いかもな……」



 ガルムの言ったとおり、【第一次ラグナロク】はその四日後に終結した。
 【九尾の狐】の面々を連れて日本へと帰国すると、また当ても無くただ日々をダラダラと生き始める。
 神代兄弟はやる事があるらしく、空我と大和を手伝いにつけて運命は一人で穏かな日々を過ごす。
 10年が経ち、20年が経ち、更に60年ほど経ったある日。運命は一つの一族に追いかけられていた。
 突然自分の前に現れたのは【天美】と呼ばれる悪鬼討伐を生業とする一族。

「何故……逃げても逃げても場所がわかるの?」

 後で刹那達に調べてもらった所、天美は【探知】の力を持つ一族らしい。
 一度掴んだ気配をそれこそ数十キロ単位で探知できるという厄介な力、もはや皆殺しにするしかない。
 運命はそう腹を決めると、天美の一族を殺し始める。命乞いをされようが、泣かれようが構わず殺し滅ぼさんとする。
 そして────ある日、重厚な檻に閉じ込められた一人のまだ幼い少女を連れて天美家頭首、天美真が現れた。

「九尾の狐め……随分と殺してくれたじゃないか」

「お前達が運命の邪魔をしなければ殺さなかった」

「フン、鬼神如きが生意気な口を…………おい、アレを出せ」

 檻が開かれて、中から出てきたのは猿轡を咥えさせられた一人の年端もいかない少女。
 運命は少し拍子抜けしたが、その少女の瞳を見ていい用の無い不安を味わう。
 この世の全てに無関心で、何の感情の浮かんでいないその目。感情の一滴すらも読み取れない。
 すると猿轡が外され、真は一言。

「命、殺さない程度に痛めつけろ」

「……」
 
 無言で頷くと、命はとことこと運命の元まで歩き、軽く触れて一言。

『死ぬ寸前まで吹き飛べ』

 直後、自分の体が何かに弾かれたように吹き飛んでいく感覚。体勢を立て直そうにも体すらも動かない。
 やがて、重力の法則を全て無視した動きで運命は地面や壁や木へと何十回と受身をとれないまま叩きつけられる。
 痛みを感じた時には、次の痛み。それが永遠とも思えるほど長く続き、やっと体が止まる。

「かっ……はっ…………」

 鬼神の回復速度も追いつかないままなす術も無く徹底的に痛めつけられた体はピクリとも動かない。
 ただ痛みと熱だけが体に残り、運命は声すらも出すことが出来なかった。
 かろうじて前を見ると、命が何の感情も浮かんでいない瞳で自分を見ている────怖い。とてつもなく恐い。
 それは運命が生まれてはじめて味わった"恐怖"。大悪鬼九尾の狐の娘が生まれて初めて感じた恐怖。

「…………終わり?」

「フン、どけ」

 怪訝そうな顔で言う命を押しのけ、真が運命の前に立ち己が式神【誓約】を発動させる。
 すると、虚空から黒い球体が顕現し、しばらく運命の周囲を漂った後に勢いをつけて運命の体内に侵入。
 不思議と痛みは感じない──だが、体の中に何かの違和感を感じる。そして、真は口元を緩めながら、

「誓約一『我を攻撃するな』誓約ニ『我が命じた範囲からの離脱を禁止』誓約三『貴様は我を殺そうとはせぬ』」

 真の言葉が終わると、運命の体が一度輝き再び元の状態へと戻る。
 運命は体の中の調子を意識して探るが、特に異常は無くそして命から受けた傷もほぼ完治していた。
 そして勢いをつけて立ち上がると自分の目の前に居る真の首を刎ね飛ばそうと爪を閃かせ───れない。

「何で……?」

「それが俺の式神の力だ。お前は絶対に俺を殺せない」

 真を殺そうとするのだが、全く体が動かない。そしてそれに逆らおうとすると頭が割れるように痛かった。 
 項垂れる運命。その姿を真は勝ち誇った笑みで見下ろし、

「九尾よ。お前は俺が死ぬまで俺の手となり足となり働くんだ」
















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