緋色の眼〜神々の黄昏〜(12/61)PDFで表示縦書き表示RDF


遅れに遅れとります。
申し訳ないです。
緋色の眼〜神々の黄昏〜
作:ジョン



第八話:五月四日


 昼の住宅街をを榛名神璽はゆっくりと歩いていた。
 さっきまで、無性に銭湯に行きたくなったので近所にある銭湯へと行ってきたのである。
 神璽のアパートの風呂は狭い。久しぶりの広い風呂の感触と昼から風呂に入ったので大変気分が良い。
 そして、

(蒼二達……楽しんでるのかなぁ)

 修学旅行に行っているクラスメイトや仲間を思い出して、一人憂鬱な気分になる神璽。
 本音を言うとかなり行きたかった。だけど自分の体の中にある結晶がそれをさせてくれない。
 修学旅行中に自分のせいで、知り合いが悪鬼の被害にあうのだけは嫌だった。だからこそ我慢したのであるが、

「暇だ!」

 もう一人の結晶使いの棗由加は家から外へと出ようとしない。
 最初は結構出かけていたのだが、何やら最近ゲームに熱中していて、一日中ずっとやっているのである。
 確かに由加は一年ほど前までずっと逃亡生活していたので、そういうのに興味を持ってくれるのは嬉しい。
 だけど、外で遊ぶのが好きな神璽にとってはあまり面白くなかった。

「しかもやってるのは女の子のための恋愛ゲーだしよ」

 どうやら入手先は遥緋かららしく、その遥緋もクラスの女子に染められたという。
 女の世界は全く以て男にはわからん。そう思い溜息をつきながら神璽は街の中心街の方へと歩き出す。
 すると、角を曲がったところで、

「ん?」

「……?」

 角から出てきた女性と目が合い、一瞬の間が生まれる。
 そして、お互いがお互いの存在に気づいたようで、

「あ、秋月罪歌」

「あ、榛名神璽」

 二人はポカンとした表情で同時にお互いの名前を呼んだ。

「アンタ、今保育の専門学校へ行ってるんだっけ?」

「ええ、これがやっと私の見つけた夢。世界を滅ぼすことなんかじゃなくてね」

 苦笑しながら罪歌は言った。

「へッ、アンタにはそっちのほうが似合ってるよ」

「ありがとう」

「弟さんはどうしてるんだ?」

「八神の家で、秋月復興に向けて動いてるわ。お見合いの相手とも順調みたいだし」

「ハハハ……アレか」

 数ヶ月ほど前に行われた狂のお見合いは色んな意味で楽しかった事を神璽は思い出した。
 狂にとっては最悪の一言であっただろうが、その狂も最後は笑っていた……はず。
 ……思い出すのは止めよう。そう思い神璽は話題を変えようとするが思いつかない。すると罪歌が、

「蒼二や命は元気?」

「ああ、今は修学旅行でイギリスに行ってるよ。何か鬼神と揉めてるらしいんだけどな」

「鬼神……か」

「まぁ、こっちの世界に居るあんたにはもうあまり関係が無いとは言えないけど……今は資格取るの頑張れよ」

「うん、そうだよね。でも、今でも私は暁闇炎帝を使えるからね」

「あの炎はマジで死ぬかと思ったぜ」
 
 そう一頻り罪歌と話す。すると何やら他の町に罪歌は用事があるみたいなのでそこで別れた。
 そして、さっきまでの憂鬱な気分は何処へやら、神璽は機嫌よく歩き出す。
 とりあえず、今は中心街の方へと向かおう、そう思いながら。




 中心街にあるファーストフード店に神璽が入ると、昼時なためかかなり混んでいる。
 それでも辛抱強く待ち、俺の順番が来る頃にはちょうど客が途切れたようだ。
 神璽は一歩進んで、一番可愛い店員の所へ行くと、

「ビッグワックとコーラのS一つ」 「ビッグワックとコーラのS一つ」

「ん?」 「ん?」

 隣のレジで注文していた奴と神璽の声が被った。
 神璽がそれを横目で見ると、自分と同じ金髪に初めた中々のイケメン男もこっちを見ている。
 ……ちょっと、ムカつく。そして、メニューが被るのが嫌になった神璽はもう一品追加をした。

「それと、アップルパイ」「それと、アップルパイ」

 ……またしても、メニューが被った。
 店員はそんな神璽ともう一人の男を見て、クスクスと笑っている。
 恥ずかしくなった神璽は、もう注文する事もなく代金を払うと不機嫌そうな顔で届くのを待った。
 そしてトレイを受け取ると空いている席を探すが、殆ど空いていない。

(お、一個空いた)

 二人座りの席がちょうど一つ空いた。
 神璽がそこに座ろうと、トレイを置くと同時に逆方向からトレイが置かれる。
 逆方向からトレイを置いたのは、さっきメニューが被りまくった男。
 ────また、コイツか。二人の顔にそんな表情が生まれた。すると、

「相席に、しませんか?」

「そうですね」

 思わぬ相手からの提案に神璽は頷くと、席について食事を始める。
 だが……何か食べにくい。というよりも周囲からの熱烈な視線によって食べる気が起きない。
 というのも、自分の正面に座っている男はよくよく見ると、モデルでもやっていそうな顔だった。
 そのため周囲の女性客はヒソヒソと話しながらその男を見ているため、神璽も嫌でもそれに巻き込まれてしまう。

(そういやコイツ、どっかで見た顔だな)
 
 そう、最近どこかで見たはず。何かのファッション誌だったかな?
 確か一緒に由加も居たはず────まで、思い出して唐突に神璽の思考はさえぎられた。
 隣の席で騒いでいた軽そうな女子高生達が、男に話しかけたのである。

「ねぇねぇ、お兄さん何かのモデルやってるんですかー?」

「……ん? いえ、特には」

 いきなりの不躾な質問にも笑顔で答える男。
 すると、いよいよ女子高生達も調子に乗ってきたようで、積極的に話しかけ始める。
 …………何ていうか、男して少し負けた気分になる神璽。何かムカついたので一気にハンバーガーをヤケ食いした。

「えーそんなにかっこいいのに? あ、よかったらお名前教えてください」

「……ヤマピーでーす」

 ヤマピー? それとこの顔…………アレ? 何か凄く大切な事だった気がするな。
 確かアレは────

「あ、あの! これから私達カラオケに行くんですけど……良かったらどうですか?」

「カラオケか……何年ぶりだろう。十五年ぶりぐらいかな」

「えーありえないですよぉ。あ、そちらの方はお友達ですか?」

 突然話題を振られた神璽。思考に没頭していたので何が何だかわけがわからなく、
 ただ黙って答える事が出来ないでいた。するとヤマピーと呼ばれた男が、

「彼もお友達ですよ。ではご一緒させてもらいましょうか」

(ええっ!? 何言ってんだコイツ)

 訝しげな目でヤマピーを睨む神璽。するとヤマピーはニヘらと笑うと神璽に顔を近づける。
 近くで見ると、益々ヤマピーの顔の美しさがわかる。そして何かの異質さを感じた。
 だが、それが何なのかは神璽にはわからない。

「いいかい。僕一人で行ってもあまり盛り上げられない。だからこそ君も一緒にと」

「だからって何で俺が……」

「匂いさ、君には同種の匂いを感じる。君も散々経験してきたきたクチだろう? こういう逆ナンを」

「まぁ、な」

 この町に来て、遥緋達と出会い由加と再会するまでの神璽はひたすら女遊びに耽っていた。
 家に帰っても誰も居ない。だからこそ神璽は人の温もりや母性を求め、散々遊んだ。
 女の取り合いや、痴話喧嘩やヤリ捨てを幾つも経験し今に至る。

「だから、ちょっと付き合ってよ」

 ヤマピーの笑顔に促されそうになった時、神璽の頭の中に由加の顔が一瞬浮かぶ。
 ────由加に、悪いよな。と一瞬思うが、すぐに自分の気持ちの矛盾に気づく。
 何故悪い? 自分と由加はただの幼馴染で────ああ、そうさ。ただの幼馴染さ。

「ああ、ところでお前は誰狙いだ? 俺は右端の子がちょっとな」

「ほぉ、中々お目が高いね。僕としては真ん中のちょいギャル系の子が」

「おーおー! アレもいいな」

「だろ? まぁ、お互い協力し合おうよ」

「OK! 任せろ」

 そして二人の少年(女好き)は意気投合をすると、ガッシリと手を握り合った。







 森羅の属する部隊の本部があるオフィスビル。
 神代との戦いの功績で、環境省所属特別環境局第一課となったその部隊は今日も平和であった。
 神璽があまり奇抜が行動をしなくなったのと、八神の名のせいか狙ってくる組織も殆ど居ない。
 なので、神璽と由加の行動監視任務等、よっぱど暇な者が押し付けられれるのであった。
 そしてその日の当番の狙撃兵庄屋正人は本日二十九回目の欠伸を噛み殺しながら、喋り始めた。

「いいっスねぇ……神璽は、いっつも自由で女と同棲なんて」

 ここ最近、一課の責任者である杉谷未来は何やら調べモノがあるらしく滅多に出勤してこない。
 仕事に真面目な未来と緩い森羅が責任者的立場にある一課では、その責任者の存在によって姿が変わる。
 すなわち────未来が居ないと、楽なのであった。そして、そんな部下の語りを神崎森羅は苦笑しながら、

「仕方ない。それが社会人ってヤツだよ」

「そんなもんスかねぇ……ああ、この部隊に入る前の輝かしい日々が懐かしい」

「まぁ、そう言うな。それに女性なら杉谷主任が居るじゃないか」

「ハァ!? 神埼陸曹長、アレを女って見てるんですか?」

「そうだが?」

「あーんな「陸曹長! さっさと書類を仕上げなさい!」とか「野蛮な貴方に言うわ、この腐った仕事環境をどうにかしなさい」
だとか、嫌味なことしか言えない生物が女ぁ? ホント、世の終わりっスよ。あーゆータイプは一生独身ですね」

 庄屋がおどけながら、未来の真似をすると森羅の顔が引きつる。
 だが勢いに乗った庄屋は全く気づくことなく、更に言葉を続けた。そう──後ろのドアが開いた事に気づくことなく。

「でも、実際あーゆータイプって中身が凄くメルヘンな女が多いんですよね。ファーストキスは木漏れ日の中でとか。
バレンタインはチョコと一緒に私を食べてとか、うわ、似合わねぇ〜〜〜ダハハハハハハハハハハハハハハッ」

「へぇ……庄屋正人陸士長。随分と楽しそうですね」

 後ろから響く、妙に明るい未来の声────その瞬間、庄屋の顔が凍りついた。
 そして恐る恐る後ろを向くと、案の定いつものスーツ姿で居る杉谷未来が笑顔でたっている。
 庄屋は助けを求めて森羅の方を向くが、森羅は目線を逸らした。

「ア、アハハハハハ。楽しいですぅ」

「公務員がそんな心意気で果たしていいのでしょうかね。一度、査定をし直す必要があるかもしれませんね」

「め、滅相もございません! さ、さて……主任も来た事だし、白鷺達と式神訓練に行って来ます!」

 この場に居てはマズイ。そう判断した庄屋は、慌てて部屋を出て行った。
 そして、後に残るのは気まずい沈黙。それを残していった部下を軽く恨みつつ森羅は愛想笑いで、

「お、お久しぶりです」

「陸曹長、貴方もそう思ってるなら、どうぞ正直に仰ってはどうです?」

「いやいや、女性が夢見るのは当然の事。俺はそういうの全然気にしませんよ」

「……そうですか。では、報告をお願いします」

「庄屋が監視していたシーンでは特に異常なし、これから俺が監視を引き継ぎます」

「ええ、お願いします」

 森羅は今まで座っていた自分の椅子を未来へと差出し、自分はモニター前へと座る。
 そこに表示されているのは、神璽が持っている発信機付近の監視カメラの映像。
 どうやら、何時の間カラオケボックスへと入ったらしい。

「ったく……呑気なヤツだよ」

 女子高生とデュエットしながらはしゃぐ神璽を見て、森羅は溜息をついた。
 室内は総勢七人。女子高生が五人に神璽が一人──そして、もう一人男の姿が見える。
 森羅は目を凝らして、それを見つめた次の瞬間。隣のディスプレイを操作して一枚の写真を表示させた。

「っ……あの馬鹿! この前説明したばっかりだろうが!」

「どうしました?」

 未来も興味を持ったのか、森羅の傍へと近づいてくる。
 森羅はカメラに映っている映像と、隣のディスプレイに映っている一人の少年を交互に指差した。
 すると未来の表情も驚愕に染まり、声にならない声を上げる。

「ま、まさか……神璽」

「……ええ、多分気づいてないと思います」

「陸曹長、至急周囲一体の封鎖と結界士をお願いします。後、戦闘準備も」

「了解」

 森羅は急いで部屋から出て行き、残されたのは未来一人だけとなる。
 そして未来は溜息と呆れを同時に吐き出すと、もう一枚のディスプレイに表示されていた写真と名前を見る。

「全く……つい最近説明したじゃない」

 そこに書いてあった名前は────石動大和。九尾の狐の鬼神にして、天美運命の右腕的存在。













 カラオケボックスで散々盛り上がった後、女子高生達は塾があるらしいので解散となった。
 それでも神璽とヤマピーは意中の女の子のメアドと番号を手に入れていたので、目的は達している。
 後は今後じっくりとメールや電話で仲を深めていけば言いだけの話。
 だからこそ二人には解散に異議はなかったし、二人で打ち上げでもするか、という提案も極自然にでた。

「いやーシンちゃん。君最高よ」

「ヤマピーこそ、中々駆け引きに長けてるな」

「いやいや、シンちゃんには勝てないよぉ」

「うはははははっ! んじゃ、祝勝も兼ねてどっかで一杯やってきます?」

「おーいいね! でも、親友がそろそろ迎えに来る時間なんだよねぇ」

「あーそうっすか」

「だからさ、自販機の酒でやらないかい?」

「いいっすよ」

 そう言うと、神璽とヤマピーは酒の売っている自販機で二本づつ購入し。
 ヤマピーが親友と待ち合わせている公園のベンチに座り、二人で乾杯した。
 
「それでは、恭子ちゃんの連絡先ゲット出来た事とー!」

「里穂ちゃんの連絡先をゲット出来た事にーっ!」

「「乾杯!」」

 二人は同時に缶ビールをあおると、全く同じタイミングで「ぷはーっ」と一息ついた。
 ファーストフードのメニューから息をつくタイミングまで一緒な二人は、無駄に大きな声で笑いあう。
 神璽も神璽で久しぶりの開放感溢れる人付き合いにかなり気が楽になり、気分が高揚する。
 そして、二人で今までの合コン自慢などをしていると不意にヤマピーが、

「おー! 空我こっちこっちぃ!」

 ヤマピーが公園の入り口の方に向かって手を振ると、黒い人影がこちらへ向かってきた。
 缶ビール二本開けた神璽には正常な判断力が鈍っており、ヘラヘラしながら人影を待つ。
 すると、月明かりに照らされてその男の顔や体などがはっきりと見えた。

(ありゃりゃ? コイツもどっかで見た顔だなぁ)

 だが、神璽は思い出せない。というよりも思い出す気などさらさらなかった。
 するとヤマピーも気分がいいのか、神璽の肩をバシバシ叩きながら紹介する。

「はろー空我! この子はさっき逆ナンで知り合ったシンちゃん! よろしくね」

「おーよろしくぅ! シンちゃんよぉ」

「いぇーいヨロシクゥ! えーっと…………」

「あ、俺は有馬空我デス! んでこっちが石動大和デース!」

「いぇーい、よろしく空我君よぉ」

 神璽と空我は硬い握手をすると、笑いあった。
 そして神璽が立ち上がることによって、付近の街灯の光がお互いの顔を鮮明に映し出し、

「あれ?」

「ん?」

 神璽と空我の顔に疑問符が浮かぶ。そして────二人は、

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! 九尾の狐の鬼神じゃねぇかぁ!」

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! お前は結晶使いの男の方!」

 完全にお互いを認識した空我と神璽は、ほぼ同時に大きく後ろへ跳躍し、距離をとる。
 只一人、大和だけが話の展開についてこれずに二人の姿をヘラヘラ笑いながら見ていた。
 そして────

「お前ら……日本で何をしている」

「ミコちゃんの様子を見に来たのと、刹那達の墓参り」

「なるほど」

「ちょーど良い! お前にはラグナロクとの交渉の材料になってもらおう」

「断る」

「じゃ……力づくしかないな」

 空我がそう呟くと、周囲一体に結界が発動された。しかし、それは空我達によるものではない。
 一課がいつも雇っている結界士の結界。それを確信した神璽は、いつも通り集中して力を解き放つ。
 体の中心にある結晶から力を外へ──外へと放出し身に纏う感覚。それと同時に神璽の体は黒い鎧に包まれた。
 そして、顔の部分までもが包まれると何も無い場所から漆黒の鎌を取りだして構える。

「へぇ……それが結晶使いの力か。やっぱほとんど悪鬼と同じだな」

 そう言うと、空我の背中部分からも漆黒の翼が展開し、懐から取り出したナイフを構えて不適に笑う。
 神璽も油断無く構え、そして────両者一斉に動き出した。神璽が振った大きな鎌をかわし、空中で回りながら
 空我は肩口にナイフを突き刺す、が硬い神璽の外装によって簡単に弾かれてしまう。
 すると神璽は口元に力を集中させて、闇色の光を一直線に空我に向かって放射し、一度距離をとる。

「へぇ……狐砲? いや鬼砲かなぁ?」

「……知るかっ!」

 空中へと再び飛び上がり、一瞬の内に何回も刃を叩き付け合いながら縦横無尽に飛び回る二人。
 それを大和は楽しそうに地上から眺めると更に持っていたビールを一杯あおる。
 すると、短く空気を切り裂く音がして大和へと圧縮された水弾が何発も打ち込まれた。

「やれやれ」
 
 しかし、それらの水弾は大和が手をかざしただけで元の水へと戻り、大和の足元へと落ちる。
 大和はそれを興味深げに見つめた後、水弾の飛んできた方向を見て告げた。

「まぁ、出てきてくださいよ」

「…………」

 公園の入り口から森羅がゆっくりと大和へ向かって歩く、その身のこなしに隙はない。
 だが、大和は別段敵意を剥きだす事も無く、只黙ってビールを更に一杯あおる。
 すると、森羅が大和に問う。

「九尾の狐の石動大和と有馬空我だな? ここで何をしている?」

「いやぁ……ただ久しぶりに日本の女の子の味見をしようと思ったら、たまたまシンちゃんと出会いまして、
んで、貴方達が介入してきたのとお互いの立場なんでしょうねぇ……こんな事になってしまったと」

「そうか……天美運命も日本に居るのか?」

「運命ちゃんも居るはずですよー。ってか聞いてくださいよ。ウチの運命ちゃんちょっとレズッ気がありましてね。
日本に来てからずーっとミコちゃんミコちゃんミコちゃん。もう呪文のようにぶつぶつ呟いてるんですよー。
僕としてはそんな一途な運命ちゃんも可愛いと思うんですけど、やっぱり女の子は男の子に目を向けるべきですよね」

「いや……個人の自由だろ」

「そんなもんなんですかねぇ。運命ちゃんったら折角綺麗な顔してるのに、洒落っ気が全くないんですよね。
大体夏はタンクトップにジーンなんですよ。それはそれで体のラインが出るからいいんですよ。
でも可愛い運命ちゃんも見たいなーとか思ってゴスロリっぽいワンピ買ってあげたら一分ほどで動きにくい、
 とか言って脱ぎ捨てちゃうんですよね。動きにくいじゃないよー全く。二万三千円もしたのにさ」

「そうか……お前らはラグナロクと敵対しているのか?」

「うーんと、一応セッちゃん達が死んじゃったから敵対ですね。というよりも目的の相違から来てるんですけどね。
まぁ、運命ちゃんの邪魔をするようなら容赦なく殺しますけど、あ! でも藍とは絶対に戦いたくないです。
アイツのデタラメ加減さと来たらもぅ……空我の七倍は手間がかりますからねー。もうアイツとは関わりたくないっす」

(詩歌ちゃんの自慢をする陸人みたいだな……)
 
 速射砲のように次々と聞いても無い事を喋りだす大和。
 森羅がそれにややうんざりしたような顔を向けると、大和も気づいたようで喋るのをやめた。
 そして数秒の沈黙の後唐突に、

「「うわぁぁぁぁぁぁっ!」」

 上空から重なるようにして神璽と空我が折り重なるようにして公園の砂場へと墜落した。
 …………今日の戦いは本当に締まらない。そんな事を森羅は思うが口には出さない、いや出せない。
 砂場では尚も空我と神璽が武器を捨て殴り合っている。もはや子供同士の喧嘩にしか見えなかった。
 すると空我が痺れを切らしたのか、

「大和っ! コア使うけどいいな?」

「いいんじゃないー?」

「っしゃぁ!」

 空我が懐からコアを取り出し、ゆっくりと力を放出していく。周囲に異様な気配が漂い緊張感が走る。
 闇の力が空我の周囲を埋め尽くし、段々とそれを吸い込んでいく空我。
 するとそれを見た神璽は────激しいからだの熱さを感じた。熱い。熱い。熱い。熱い。思考は只それだけ。
 その瞳にはもはや空我は映っていない。ただ────求めるようにコアだけを見つめている。
 それを訝しげに思った空我は、少しうろたえながら神璽に問う。

「お、おい……大丈夫か?」

「ア……ア……ア…………ア」

「ア? アメリカザリガニか? それともアナゴが食いたいのか?」

「アアアアアアアアアッ ホシイ……結晶が欲しい…………っ!」

 神璽の体がビクンッと勢いよく跳ね、鎧が更に大きく広がっていく。
 誰も動けない。森羅も、大和も、空我も、誰一人として動くことなく神璽の変化に見入っている。
 そして、膨大な力が神璽を中心に展開されてその鎧から───無数の闇色の手が顕現された。

「な……なんだよアレ?」

「空我っ! 逃げるんだ」

 大和の珍しく真剣な声に突き動かされるようにして、空我は空へと飛翔する。
 だが、その闇色の手は更に数を増やして空我を取り囲み、空我の手にあったコアへと絡みつく。
 「あっ」と空我が声を出した時にはもう遅く、腕は猛烈な速さで引き戻されるとコアごと神璽の体内へと消えていった。
 そしてコアが体内に取り込まれたのとほぼ同時に、神璽の鎧が解けそのまま砂場へと倒れこむ。

「神璽っ!」

 森羅が駆け寄って介抱した。幸い呼吸はしているようではあるが、意識は無い。
 そして森羅はそのまま神璽を担ぎ上げ、公園の入り口に向かって歩き出す。
 すると後ろから声がかかり、

「もし、意識が戻ったらシンちゃんに謝っておいてください」

「コ、コアも大事だけど今回の事は俺らのせいだからな……あー運命に怒られるぅ」

「自業自得じゃないか……でも怒る運命ちゃんも久しぶりに見て見たいね」

「このマゾ……」

 意気消沈したような声で言う空我と大和。本当に変わった鬼神である。
 そんな事を森羅は思い、右腕を振ってそのまま公園の傍に止めてあった車へと神璽を乗せる。
 そして無線で撤退命令を出すと、そのまま車を運転して病院へと向かう。

「本当に変わった鬼神だぜ。敵対している相手の心配かよ」

 無線で空我と大和の行方をロストしたという情報が入る。
 まだ公園を去ってから五分と経っていないのに一課の索敵班から逃げ出すとは中々出来るコトじゃない。
 それほどまでに強力な鬼神なのであろう。これで上層部への言い訳も出来た。
 そして森羅は携帯電話を取り出し、未来へと電話をかける。

「状況は聞いてますか?」

「ええ、鬼神と接触。神璽が……コアを取り込んで意識不明までは」

「多分呼吸も安定してるので大丈夫かと思いますが、一応由加にも連絡を入れておいてください」

「わかったわ……それに、こんな時だけど一つだけ良い報せがあります」

「何ですか?」

「千島の嫡子達がラグナロクの鬼神を三体撃破しました。これから大きく情勢は動くかと」

「それ、良い報せなんですか?」

「生きて帰ってこれるじゃないですか、何よりも良い報せだわ」

「それもそうっすね。じゃあ、俺はこのままいつもの病院向かいますんで」

「わかりました」

 森羅は電話を切ると、再び病院へと向かって車を走らせた。
 
















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