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浮気は却下!

作者: 百佳

「桃の天然水」というキーワードをもとに書いたリクエスト作品です。

遅くなって本当に申し訳ないです(−_−;)

突然だが、私には彼氏がいる。


顔はそこらへんのアイドルにも負けないくらいカッコイイ。気さくで人懐っこい性格だから多くの人に好かれている。主に女子から。

あっ、言っておくけど断じて惚気ではないからね。

チャラい皆の人気者である彼氏が、何故クラスでも目立たず本ばかり読んでいるどっちかというと地味系の私に声を掛けたのかは定かではない。しかし、しょっ中ちょっかいをかけてくるものだから、彼に気のある女子からは睨まれ嫌がらせをされいい迷惑だった。

付き合うきっかけとなったのも、彼のファンの子たちに校舎裏という、これまたベタな場所に連れて行かれて散々暴言を吐かれていた時だった。

何処からともなく現れた彼が、怒りに染まった瞳で鋭くファンの子達を鋭く睨みつけながら私を抱きしめた。

そして懇々とファンの子達を説得した挙句、その場で告白された。

羞恥プレイと彼女達の「まさか断らないよね」という無言の圧力の籠った視線に負けてうっかり頷いてしまった。

まぁ、彼優しいし、向けてくる視線も甘いからなんだかんだで絆されて幸せだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・付き合い始めて一ヶ月までは。


話しかけられる前々から複数の女子と同時に付き合っているとか、二股三股はまだいい方とか結構遊んでる噂は聞いてたけど、あまり関わらなかったから事の真相にも興味なかった。

けど、付き合って一ヶ月で身を持って真相を知ることになるとは。人生何が起きるかわからないものだ。

初めは美人で有名な先輩や同級生、後輩と手を繋いで街でデートしてたと何回も人伝に聞いた。

彼に訊いたら「そんな事するわけないじゃん」って笑って抱きしめられた。

だが彼の浮気はどんどんエスカレートして、校内でも堂々と他の女の子といちゃいちゃするようになり、キスやそれ以上のこともしていた。

友人だけでなく、私も何回か目撃している。

私という彼女の存在をまるっきり無視するその行為に傷付かなかったと言えば嘘になる。

何より衝撃だったのが、具合悪くて保健室で寝ていたら、隣のベットで事を致しているカップルの男の方が自分の彼氏だと気づいたことだ。しかも女の方はナイスバディーで男子生徒から人気の高い保険医だった。

何の嫌がらせだ!てか保険医あんた私が寝ているの知っているでしょうがっ、それでも先生か!?

そして彼氏、そんな艶っぽい声聞いた事ないよ?

まぁ、清らかな交際だから当たり前だけど!

そんなわけで、繰り返される浮気にもう疲れてしまった。

だからーーー





食堂に足を踏み入れる。

午前中授業でお昼食べずに帰った生徒も結構いるため、今日の食堂は空いている方だ。

そんな中、濃いピンクオーラを放つ美男美女のカップルが一番目立っている。

食事を食べさせあったり、お互いの体に触れ合ったりと周りの目を気にすることなくいちゃいちゃしている。

傍目にもお似合いのカップルだと思う。男が自分の彼氏でさえなければ。

私に気付いた周りの憐憫と嘲笑、好奇心の混ざった視線に反射的に俯く。

唇を噛み締め、拳を強く握り込む。

考えるのは彼氏の事。

もう私の事好きじゃないの?

あんな甘ったるい目は誰にでも向けるの?

・・・・・・どうせなら、始めたあなたに終わらせて欲しかった。

もう待てない。

疲れちゃった。

ごめんね?

やっぱ人気者なあなたと地味な私じゃ釣り合わないのよ。

今、終わらせてあげるから。

私から解放してあげる。


















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の良くない!?

ちゃんと傷心しているヒロインの心情出てるよねっ。

悲しさとかやるせなさとか、それでも決心した強さとか。

もう顔がにやけるのを隠しきれない。

今度の小説はこんな感じで決まりだね!

大好きな彼氏に浮気された健気なヒロインが傷つきながらも自分の元に戻ってくるのを待ち続けて、

やがて別れを決心するお話。

今までコメディしか書いたことないから不安だけど、実体験に基づいてなら書けなくもないかも。

ああ、もちろん心情描写は大げさに、有る事無い事混ぜて書かなければ。

私の実際の感性はシリアス向きじゃないからね。

なにしろ今彼氏に対して思うことは「ネタを提供してくれてありがとう!!」だけだもん。

さてと。

顔を引き締め、出来るだけ悲しい表情を作ってから顔を上げる。

彼氏さん、ネタになるような反応を頼むよ。

ゆっくりと二人に近付く。

んー、涙の演出あった方がいいかな。

涙よ、出て来い!

・・・・・・・・・・・・ダメだ。そう都合良く出てこないよね。

悲しいことでも思い浮かべよう。


そう、あれは確か真夏日のことだった。

突き刺さるほどの暑い日差しの中パンクした自転車を家まで押し・・・・・・いや、引きずり帰った。

台所にいた弟をスルーして汗だくのまま冷蔵庫を開け、砂漠で遭難してオアシスを見つけた旅人の気分でマイ・オアシスーーー桃の天然水(愛称桃天)に手を伸ばしたが、あるべき場所に桃天はなかった。

絶望に固まる私の背後で、シャワーを浴びたのか、湿った髪の毛に上半身裸という出で立ちの一つ下の弟が、ゴクゴクと何かをうまそうに飲む音に嫌な予感がして振り向けば、案の定その手には桃天があった。

私の桃天が・・・・・・!!!

声もなく見つめる私に、空っぽになったペットボトルをゴミ箱に捨てた弟が「おう、おかえり〜」なんて呑気に声を掛けてーーー


あ、思い出しただけ目の前が滲んできた。

「あら?」

涙目の私に先に気付いた浮気相手が声を上げ、遅れて気付いた彼氏は面倒臭そうにため息を吐いた。

いやいやいや、一般的に悪いのは浮気したあなたの方だからね?ため息吐かれても困る。

まぁ、いいけどさ。

「あの・・・・・・・・・っ!?」

声を掛けて気付いてしまった。・・・・・・・・・・・・彼氏の名前忘れてることに。

「なぁに?」

いや、違うね。最初から覚えていないほうかもしれない。

「ちょっと〜?」

うーん、人の名前を覚えるのが苦手とは言え、付き合って二ヶ月も経つ彼氏の名前を覚えていないってのはいくらなんでもマズイよな。

「話しかけといてシカト?」

マズイどころかヤバイ?

社会に出たら、人の名前を覚えられないのって致命的?

「莉紗ちゃん?」

何か対策を立てなければ!

「ちょっとあんたなんなの!?」

彼氏が声を掛けて来たが、それをスルーして悩みに沈んでいた私の思考は浮気相手の怒鳴り声によって現実に引き戻された。

「要一君の彼女だからって何様のつもり?今要一君は私と一緒にいるの、邪魔しないでくれる?」

気の強そうな瞳に睨まれ、こういうキャラ使える、なんて反射的に考えてしまう。

てか彼氏要一って名前だったのか。聞き覚えあるようでないような。

「あ、すみません先輩」

目くじらを立てる浮気相手に小さく頭を下げて、それから彼氏の方に向き直る。

もう涙乾いちゃったし、さっさと切り上げよう。

「要一君、今までありがとうございました。さよなら」

しおらしく目を伏せて小声で言うのがポイント。

震える声もプラスされるともっといじらしさが出ると思う。でも残念ながら即興でそれが出来るほどのスキルは、まだ私にはない。

「えっ、莉沙ちゃん?」

がばっとテーブルの上に身を乗り出し、私の名前を呼ぶ彼氏・・・じゃなくて元彼。

何をそんなに慌ててるんだろう。

「さよならってどういうこと!?」

どういうことって。

「別れるってことですよ」

分かり難かったかな?

「ーーーっ!!?俺は認めないから!」

・・・・・・・・・・・・はい?

「えっと、意味が分からないんですけど」

認めないって何?

「俺は莉沙ちゃんのことが好きで付き合ってるんだから、別れる気はないよ」

そんな真剣な眼差しで見つめられても。

「うーん、残念ながら私浮気されてまで付き合えるほど健気じゃないので」

だから別れようね、という思いを込めて見つめ返した。

「もう浮気しないから!ごめんね?ちょっと強引に付き合ってもらったから莉沙ちゃん俺の事ちゃんと好きなのか不安だったんだよ」

強引な自覚あったんだ。

そしてなんてテンプレな理由。

「気を引きたくて馬鹿なことをした。もう二度としないから許して!」

って言われてもなぁ。

いい加減面倒臭くなって来た。

なんていうか、もともとそんなに好きでもなかったけど、さらに冷めてしまった。

表情を作るのをやめてるから、その思いはしっかり表情に出ているはずなのに、何で気付いて諦めてくれないのかなぁ。

「一からやり直そう?」

一からって言われても、今あなたに対する思いは0だから無理。

それにさ、浮気・・・・・・じゃなかった、元浮気相手の顔見てみて?泣きそうだよ。

さっきまでラブラブだったのに、もう存在を忘れてるってことはあり得ないよね?

傷付けてるんだからちゃんとそっちの方を慰めてあげて。私の分まで。

多分私が慰めても逆効果だろうし。

不本意ながら、一応私も傷付けている側に入ってるみたいだから。あーあ、こんなつもりじゃなかったのになぁ。

予定では「いいよ、別れよ〜。どうせ君とは遊びだったんだからぁ」って逆に振られるはずだったんだけど。

好かれるようなことした覚えもないし。

今まで遊んだタイプと違うから興味持ったにすぎないって思ってたから。

はぁー。

面倒なことになったな。

「莉沙ちゃん!」

いい加減黙る私に痺れを切らしたのか、元彼は私に手を伸ばしてきた。

「触らないで」

「触るな」

自分の声とは違う声が耳元から聞こえてきたのと同時に、腰に誰かの腕が巻きついて後ろに引かれた。

背中がピタリと後ろの人物とくっつく。

「しつこい。潔く振られろよ」

低く棘のある声が元彼に投げつけられる。

もっとも、目を見開き、驚きに満ちた表情で固まった元彼には聞こえていないでしょうけど。


「えっ、何で晴樹さんが?」

「ひぃ、怖ぇ」

「目付きヤバイよな」

「きゃー、晴樹君カッコいい」

「えっ、誰?」

「お前知らねぇのかよ!一年の鈴原晴樹。うちの学校で最強って言われてる不良だよ」

「でも素敵〜」

「顔はいいけど目付き悪いじゃん」

「そこがいいのよ!」


・・・・・・・・・あー、周りの皆さんご説明ありがとうございます。

一年にして我が校最強と言われている不良の鈴原晴樹です。

「あのね、晴ちゃん。ここは晴ちゃんが出しゃばるところじゃないよ?」

「っつってもな、延々と終わらねぇみてーじゃん。一緒に飯食って帰る約束だろ?」

「あー、そう言えばそうだね」

結構待たせちゃったから割り込んできたのか。ああでも、短気な晴ちゃんにしては待った方だな。

「後は俺がなんとかする。莉沙は先に行け」

「ちょっと、呼び捨てにしないでよ。ちゃんと『お姉ちゃん』って呼んで?」

むっとして振り返ると、目付きの悪さを除けば至って端整的な顔を歪ませた晴ちゃんがいた。

大きなため息と共に何かを押し付けられる。

視線を落とせばそこにはマイ・エンジェルの「桃天」が!!

「それやっから玄関で待ってろ」

「分かった、先に行ってるね!」

すっかり機嫌良くなった私は桃天を大事に抱えて踵を返した。

あの真夏日に桃天を飲まれた恨みで晴ちゃんのお腹目がけて回し蹴りを放った以来、晴ちゃんは桃天さえ与えておけば私の機嫌は良い事に気付いたらしい。

まぁ、桃天が手に入ればなんだっていいけどね。

鼻歌交じりに軽やかな足取りで食堂の出口に向かう私とは逆に、周りは私と晴ちゃんが姉弟だって事に驚いてざわつき始めた。

一年と二年じゃ教室も遠いので今まで学校で接点なかったから、ほとんどの人は知らなかったんでしょうね。

でもさ、「あの晴樹さんに姉がいたなんて・・・・・・晴樹さんも人の子だったんだ!」ってちょっと酷くない?

晴ちゃんが喧嘩するのは大半その目付きの悪さに喧嘩を売られたからだよ。容赦ないけどね。

ん?「似てない」って?

当たり前じゃん。

親同士の再婚だったから、血は繋がってないもん。



その後、桃天を飲みながら学校の玄関口で待っていた私の元に、少し遅れてやって来た晴ちゃんは、なぜか口元に凶悪的で満足気な笑みを浮かべていた。



後は適当に脳内補充してくださると・・・・・・。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぬわ!桃天!!! なんだ、この子はまるで自分じゃないか!! 自分もめっちゃ不機嫌で怒ってても 桃天差し出されると機嫌良くなります笑 桃天でいいという安上がり加減にみんなにバカにされたと…
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