私の学校の乙女ロード:婚約破棄された女
この度、小説家になろうが主催する夏季限定イベント「夏ホラー七不思議」に参加してみることにしました。
本作は、なろう式ホラーです。
私、一条アヤメの高校には「乙女ロード」と呼ばれる場所がある。
文化部の部室が集中する西棟の3F。
文芸部や手芸部、第二ゲーム部、茶道部など、女子生徒が所属する部活が集中する場所。
共学の我が校だが、そこだけ女子高のようなオーラが出ている。
香水の匂いや、甘いお菓子の匂いが漂う場所。
そんな廊下の奥に、学校に似つかわしくない一つの祭壇がある。
腰までのある台の上に用意された大きなお城の模型。
日本式ではなく、西洋のそれ。
その中には様々な人形が置かれている。
男性、女性、両方の人形がある。
牢屋に入れられている人形も有る。
皆怖いぐらい表情豊かだ。
ファンタジーの世界独特のメルヘンな感じが伝わってくる。
その中で一際目を引くのが、金髪碧眼のお人形。
貴族令嬢のような豪華な衣装を纏い、お城の一番大きな広間にある玉座に座っている。
「マリーお嬢様」
その人形の名だ。
どこか日本人のような感じを受けるその人形。
精巧な作りになっており、まるで生きているように見える。
そんなマリー様にまつわる噂。
それは恋のおまじない。
『水曜日の深夜12時、マリー様の手を握り祈ると恋が適う』
そんな深夜にどうやって学校に入ったか分からないが、私の友達の夏子も祈ったと噂されている。最近夏子はビックリすぐらい綺麗になった。
それはマリー様のおかげと噂されている。
依然は普通の女の子で、告白して振られ、校舎の隅で泣いてた夏子。
私は右手から白い手袋を外す。
私は右手で物を触るとその過去を覗くことができる。
普段は手袋をして能力を抑えている。
余計な過去を見て、心に負担をかけたくない。
でも、私は憂慮している事があった。
私はマリーお嬢様を見つめる。
青い目でこちらを見返すマリーお嬢様。
一瞬、目が動いたようにも見えた。
気のせいだろう。
私は深呼吸し、マリーお嬢様に触れる。
すると、記憶がなだれ込んできた。
◇◆◇
夜の高校。
私は職員室にいた。
他には二人の人がいる。
一人は若い女性教師。
もう一人も同じように若い男性教師。
私が記憶を覗く際は、その現場に私が居合わせる形になる。
私の存在は無視され、記憶が再現される。
険呑な雰囲気の2人。
若い男の方が切り出す。
「ごめん、秋子。新しく好きな人が出来た。別れてほしい」
男が女に頭を下げる。
女は手に持っていた書類を落とす。
女の表情は凍りつき、唇が震えている。
「本気なの。私達、婚約しているのよ」
「悪い。でも俺の気持ちは変わったんだ。秋子が悪いわけじゃない」
再び頭を下げる男。
女は男につめよる。
「誰なの。まさか私の知っている人。あなたと仲がいいのは・・・・まさか、ひなこ?」
男は黙る。
沈黙の時が流れる。
数秒後、男が僅かに頷く。
「彼女は悪くないんだ。ただ、気が合っただけで」
「あなた、ひなこが私の親友って知ってるわよね。それにひなこもひなこよ、親友だと思っていたのに。いつからなの?」
女は男を睨みつける。
男はその視線を受けて目をそらす。
「・・・一年前」
男の小さな声が二人しかいいない教室に響く。
「あなた、一年もずっと隠していたの?」
女がつめより、男の服を掴む。
それを振り払い、女を押しのける男。
女は押しとばされて机に手をつく。
「俺だってつらかったんだ」
「もういいわ」
そうして職員室を出ていく秋子と呼ばれた女。
記憶が飛ぶ。
◇
暗い学校の廊下。
秋子は怒気を含んだ表情で歩いている。
息が荒く、唇を噛んでいる。
手を握りしめ、早足で歩く。
すると、突然光りだす床。
青い光が放たれる。
よく見ると、床に魔法陣のようなものが浮かび上がっている。
「何?何?なんなのこれ」
秋子は声をあげ、魔法陣から逃れようとする。
しかし、足が動かないようだ。
まるで魔法陣に固定されているかのように。
「何?ちょっと」
秋子の声とは反対に魔法陣は輝きをまし、秋子は光に包まれていった。
記憶が飛ぶ。
◇
とある王城の内部。
どこかで見覚えがある場所。
そう、学校の廊下の奥にあったあの模型の城だ。
「おーほっほっほっほ。あなたが悪いんですよ」
貴族令嬢の衣装に身を包み、美形化した秋子の姿。
秋子は兵士に拘束されている女性を見ている。
「わたし悪くない、みんなやってる事だし。私だけ捕まるなんておかしいよ」
兵士に拘束されながらももがく女性。
「その者を早く連れていけ。目障りだ」
玉座に座っている男性が声を上げる。
おして男性は秋子を見る。
「そなたにはこれまで迷惑をかけた。許してほしい。あの女に我々は皆騙されていた。あらためて礼を言う」
「そんなことありません。陛下がいたからこそ今の私がいます」
「なんと慈悲深い。そなたこそ我が妃にふさわしい」
記憶が飛ぶ。
◇
暗い神殿のような場所。
秋子は黒いローブ姿の者といっしょにいる。
「準備はととのいました。陛下の許可もでています。ですが、本当に行かれるのですか?」
「はい。こちらの人たちにはよくしてもらいました。ですが、あちらが私の生まれた世界ですし、やることがあります」
「分かりました。こちら用意していは物です」
黒ローブの姿の男は袋を秋子に渡す。
その中身を確認し、笑顔になる秋子。
「ありがとう」
「はい、くれぐれも慎重にお使いください」
「分かりました」
「では、儀式を始めます」
黒ローブの姿の男は、杖をかざし、呪文を唱える。
すると、地面に巨大な魔法陣が出現する。
学校の廊下で見たものと似ている。
秋子は魔法陣の中に入る。
「姫様、くれぐてもルールの事をお忘れずに。世界は陽と陰、世界は絶妙なバランスの上で成り立っています」
「分かっています。それでは」
「はい」
次の瞬間、秋子の体は消えた。
記憶が飛ぶ。
◇
暗い夜道。
美形になった秋子。
異世界での美貌がこちらの世界でも引き継がれているようだ。
そこに一人の男が現れる。依然、夜の職員室にいた男。
「秋子、秋子なのか?お前なのか・・・・綺麗だ」
男は秋子に見惚れていた。
「私は秋子ですよ。あなに婚約を破棄された」
「いや、気の迷いだったんだ。あの後、ひなことは上手くいかなかった。あいつは他にも男がいた。とんだ女だったよ。俺にはお前しかいないんだ。やり直そう」
男は秋子に頭を下げる。
それを満足げに見る秋子。
「あなた、私の事好きなの?」
秋子が首をかしげながら男を見る。
顔をあげ、秋子を崇めるように見る男。
「あぁ」
秋子は男の全身を見る。
そして満足げに頷く。
「それなら手を出して」
「ん?あぁ」
秋子に向けて手を伸ばす男。
秋子はポケットから腕輪を出し、男に装着する。
その瞬間、男の体が光りだす。
男を中心に魔法陣が展開される。
「なんだ?なんだ?何をした秋子?」
秋子は貴族令嬢のように微笑みながら男を見る。
「私の事好きなんでしょ。それなら証明して。向こう世界で見事目的を果たして帰ってこれたなら、あなたとやり直してあげるわ。頑張ってね。私でもできたんだから」
「何いっている?これか、この腕輪が原因か」
腕輪を外そうとする男だが、それはびくともしない。
そうこうしているうちに光はますます強くなる。
「それじゃ、あなた、ごきげんよう」
優しく手を振る秋子。
男は必死の表情で秋子を見る。
「おまえ、秋子」
男は消えて行った。
記憶が飛ぶ
◇
放課後の高校のとある教室。
授業の準備室として使われているの部屋。
お城の模型が置かれている。
模型の中にあるの人形一つだけ。
少し年をとった秋子はその人形を見つめている。
その人形は牢獄にいれられ、絶望の表情を浮かべている。
「あなたの思い、偽物だったようね・・・」
懐かしむような目でその人形を見る秋子。
ふと窓際に移動する。
校庭で部活に励む生徒を見る。
「あなたがだめなら、他の者を送り込まないと・・・」
彼女は観察するように生徒達を見ていた。
記憶が飛ぶ
◇
高校の空き教室。
秋子の目の前で泣く女子生徒。
涙で目の周りが腫れている。
それをなだめる秋子。
「そんなに泣くことないわ。振られることなんてよくある事よ」
「先生には分からないんです。先生は綺麗だから、私の気持ちは分かりません」
「先生にも分かるわ。私だって昔はかわいくなかったんだから」
泣くのをやめ、秋子を見る女子生徒。
その目には純粋な驚きが見て取れる。
「本当ですか?」
「えぇ、本当よ。秘密を教えてあげましょうか?」
秋子は女子生徒に優しく微笑む。
「何ですか?」
「私、別の世界にいったことがあるの」
そうして秋子は異世界での出来事を話し始めた。
そして最後に、
「あなたらできるわ。やってみる?上手くいけば、あなたは誰からも好かれる女の子なれるわよ?」
「先生みたいに?」
女子生徒は憧れの瞳で秋子を見る。
それを受け止める秋子。
「私より、もっと凄い子になれるわ」
「私、やります」
「そう、それなら手を出して」
「はい」
手を出す女子生徒。
秋子はポケットから腕輪をだし、女子生徒の腕に腕輪をはめる。
すると女子生徒の周りに魔法陣が展開される。
「え?え?どうなってるの?」
「慌てないで、いい。心を強く持つのよ。そうすればきっと願いはかなうから」
「え?え?」
魔法陣の光は強くなり、少女は光に包まれて消えた。
記憶が飛ぶ
◇
とある家の一室。
外からは元気な子供声が聞こえる。
「おばぁちゃん」と呼ぶ声が聞こえる。
初老になった秋子。
年を取っていながらも、キラキラとした雰囲気を放っている。
その傍にあるお城の模型には、人形が増えていた。
男女数々の人形。
彼女は一つの人形を眺める。
牢獄に捕えられている初老の男性。
「結局、あなたは駄目だったみたいですね」
秋子は机の上にある一つの人形の髪をなでている。
若かりし頃の秋子に似ている人形。
「もうそろそろこちらでの生も終わります。私もそちらに行きます」
秋子は人形の手を握ったまま、人形に腕輪をはめる。
すると、次の瞬間、魔法陣が展開され、秋子の姿は消えていた。
記憶が飛ぶ
◇
高校。深夜の廊下。
廊下の奥に置かれるお城の置物。
今と同じような姿。
そこに現れる一人の女子生徒。
私の友達の夏子。
泣いた後なのか、目元が腫れている夏子。
彼女は思いつめた顔で、秋子似の人形、学校で「マリーお嬢様」とよばれている人形の手を握る。
そして唱える。
「マリーお嬢様、私の願い、叶えて下さい」
その瞬間、夏子は青い光につつまれて消えた。
◇◆◇
私は現実に戻ってきた。
記憶から抜け出した。
とっさに、「マリーお嬢様の」の人形から手を放した。
私は人形を慎重に見る。
人形が私を見返している気がする。
マリーお嬢様人形。
記憶を見た私には「秋子」にしかみえない。
記憶を見る前はメルヘンな世界に見えたお城。
今では全く違った印象を受ける。
私は思わず後ずさる。
すると、後ろから足音が聞こえる。
振り向くと夏子がいた。
驚くほど美人になっている夏子。
夏子は貴族令嬢のように微笑みながら私を見る。
私は夏子に聞きたいことがあった。
最近、一人の男子生徒が失踪した。
私はその男子生徒の親から依頼を受けて調査していた。
夏子を振ったとされている男の子、加藤君。
「夏子、加藤君の居場所に心当たりない?」
夏子は優雅に微笑む。
「加藤君なら大丈夫よ。すぐに戻ってくるわ。彼、言っていたもの。私の事好きだって」
夏子なお城の人形を見る。
私も夏子の視線を追う。
すると、そこにどこか加藤君に似ている人形の姿。
「アヤメ、あなた、何か願い事があるの?だからこんな場所のいるのでしょ?それなら私が手伝ってあげるわ」
夏子が私に近づく。
私は彼女から離れようとする。
が、とある人形に腕を掴まれる。
マリーお嬢様人形。
青い目が私を捉える。
そして、次の瞬間。
私は右腕に違和感を感じた。
夏子は私の腕に、見覚えのある腕輪をはめていた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
宜しければ他の作品もご覧ください。
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