第9話 天然理心流
鞍馬寺を囲んでいる木々は美しい
静かに吹いてくる風を抵抗もなく受け入れ、木々の間からは木漏れ日が差している。
「ノボルさん、あなたはこの先、否応なく戦いの中に巻き込まれていきます。生き残るために強くなってください」
ノボルは部活もしてないし運動もロクにしていない
「同化できるんだからあんたが戦えば済むはずだろ?」
総司はノボルの声が聞こえてないかのように木刀を差し出してきた
普通の木刀に比べてやけに太くて重い
「天然理心流ではこの木刀を使い鍛えます。以前にも言いましたが実際の戦向きの剣法ですから、試合に勝つための竹刀を使った稽古はしません。」
それにしても太くて重すぎる
「沖田さん。これ重いよ」
「あなたは本物の刀を持ったことがないからわからないでしょうが、真剣は竹刀や普通の木刀のように軽くはない。竹刀などでいくら稽古しても無意味です」
ノボルは黙って総司に言われるがままに稽古を受け続けた
かつて、幕末の動乱期、京の町で奮闘した新撰組一番隊組長の天才剣士が何故に現代の弱りきった普通の高校生を鍛えあげようとするのだろうか。
疑問を感じながらもノボルは修行に没頭していった
朝も昼も夜も、徹底的に修行に励んだ
普段、温厚な総司が鬼になってノボルに修行をさせていた
…一体、どれほどの時が過ぎたのだろう
お正さんがお茶を持ってやってきた
「どうですか修行のほうは? ノボルはどちらに?」
「修行はまもなく終わりです。ノボルは今、汗を流しにいってます」
ノボルは滝の下ににいた。
体中が痛い
頭から冷たい水が体全体を癒やす
「私たちは明日の朝、出立いたします。急がねばなりませんので」
そう
すでに鞍馬寺を出て行った牛若丸を探し出さねばならない
お正によれば牛若丸は奥州平泉に向かったという
藤原秀衡のもとにいるらしい
どうも牛若丸が手がかりになるような気がしてならなかった
ノボルはその夜、泥のような眠りについた
ズタボロになった体には、しかしながら確かに天然理心流剣術が身につき始めていた。
「私の体がもつうちに、あなたに全てを伝授します。」
総司は眠っているノボルを微笑みながら見つめていた |