神の力の欠片
【パシフィス城下町】
「(モグモグ)この串焼きはうまいな。後で別の種類のも買うかな?」
「あとねぇ♪あとねぇ♪あそこのパン屋もすっごくおいしいよ!」
「…おすすめ。」
エイン王妃に住居候補の家までの地図と当面の生活費を渡された俺。
そして、住居候補までの案内人としてこの2人のメイドを紹介された。
「あそこのアップルパイってね!とっても甘くてね!りんごの良い匂いがするの!」
1人はショートの髪に白いメイド服を着た元気な少女。
このエルという子はこの町のおいしい店を教えてくれていた。
甘い物が中心な所は実に女の子らしい。
「…向かいの定食屋は要注意。サービス、味、衛生管理の全てが3流。個人的に潰れてほしい店ランキング6位。あの残飯をいまだに客に提供している度胸はすごいと思う。」
この毒舌は、エルの双子の妹のリン。
腰まで伸びるロングの髪に黒いメイド服を着用している。
おとなしいが無口ではなく、相手を非難する時はエルの口数をも上回る。
二卵性双生児らしく、性格は正反対であまり似ていないのだが共に黒髪の黒目。
はたから見ると姉妹というより親友みたいだ。
「あっ!喧嘩かな♪見てこうよ!」
前方に人だかりが出来ていて、道を塞いでいる。
どうも、人だかりの中心で何かあるようだ。
「…案内は?」
リンがエルを軽く睨みつけながらおとがめる。
「お兄ちゃん。いいでしょう?」
それには目もくれずに俺の右手に抱きつき、ねだった。
しかし…
「駄目だ!危ないよ。」
「え〜。」
「さっさと行こう。」
「む〜!」
むくれるエルをほっとき、今度はリンが負けじと俺の左手にしがみつく。
そして、リンの方も見て、声をかける。
「…お姉ちゃん。行こう?」
「は〜い。」
俺達が人ごみを避けて、手前の道を曲がろうとしたその時。
風に乗って中心の喧騒の声が聞こえた。
「だから!謝りなさいって言ってるの!」
「そのババアが悪いんだろ!」
「ぶつかってきたのはそっちでしょう!」
どうやら人ごみの中心では女性と男性が言い争っているようだ。
珍しくもないがリンとエルはこれを聞いて、ピタッと止まる。
「この声って…?」
「…まさか?」
「知り合いか?」
「たぶん…。」
「…でも、いるわけない。」
確信ではないようだが心当たりはあるようだ。
家探しは急いではないので一応見ていっても問題はないだろう。
「確認してみよう。」
「「うん。」」
2人は心当たりがあるらしいので俺らは喧騒の中心に入っていった。
野次馬を掻き分けていると2人とはぐれてしまった。
そのまま、中心に行くと…
「あんた達が余所見してるからお婆ちゃんが怪我したんでしょう!」
「知るか!ぼーっと立っているからだ。」
「なんですって!」
尻餅をついているお婆さんの前で若い女性がガラの悪い3人組と言い争いをしていた。
どうやら3人組がお婆さんとぶつかり、その拍子でお婆さんが頭に怪我を負ったようだ。
いつのまにか、リンがお婆さんの傷口をハンカチで押さえてた。
「痛い目に遭わないうちに謝りなさい!」
「やんのか、コラァッ!!」
「痛めつけてやろうぜ!」
「おう!」
そういって、喧嘩が始まった。
3人に囲まれた若い女性はすぐにやられるかと思いきや、足技を主体とした素早い動きで相手を翻弄しつつ、徐々にダメージを与えていく。
ある程度は訓練しているようだ。
しかし、未熟な所も多々ある。
このままでは…
「捕まえたぞ!」
「しまっ…!」
「そのまま捕まえてろよ。」
男の1人が短剣を取り出した。
「後悔させてやる!」
「鼻折られたんだ!やっちまえ!」
「にがさねぇ!」
「離せ!!」
男は短剣の鞘を抜き、女性に近づく。
このままではやられるだろう。
しかたないか…。
「ちょっといいか?」
「「「あぁっ!!」」」
3人組が一斉に振り返る。
すさまじい顔であった。
悪人顔の代表にも選ばれそうな顔であった。
さぞかし、子どもの頃は大変であったであろう。
…変な所で同情してしまった。
「いや、失敗面じゃなくてそっちの子。」
「「「何っ!!!」」」
3人組はさらに顔を歪ませる。
…実はモンスターではないのか?
「私?」
「そう。君はなんでお婆さんを庇ったの?」
「そんなの!お婆ちゃんを助けるためよ!」
「なんで?」
「えっ?」
「なんでその人を助けたの?助けても何にも得しないのに。そんな事しなければ今みたいに殺されそうにならなかっただろ?」
いくらなんでも3人相手は無理だということはこの女性もわかっていたはずである。
それでも立ち向かった。
疑問に思い、どうしても聞きたかった。
「助けるのが普通でしょう!損得なんて考えるつもりはないわ。」
「君にとって人助けは日常の1部なの?殺されそうになっても後悔しない?」
「しないわ。それが私が望んだ事だもの。それに、殺される気もないわ。」
周りの野次馬は見ているだけ。
それが普通。
それが人間。
なのに、この人は助ける事こそ普通だと言った。
それは異常。
正しい善行。
だからこそ、出来ない。
自分の身の方が正義より大事なのが人間。
けれど、この人は自分の信念を選んだ。
「君は本当にきれいな人だね。外見もだけど、何よりも心が。」
「なっ!何言ってるのよ!////」
いい人だと思った。
この人だったら力を使ってもいいかと思う。
自分自信の制約に背くことになっても。
「気に入ったよ。特別に取引無しで助けてあげる。」
「はあ!?お前バカか?」
「3対1で勝てるわけ無いだろ!」
「ば〜か。」
低レベルな侮辱に呆れた俺はため息を吐き、侮辱の見本を言ってやった。
「下等生物にバカにされる覚えはないね。いい加減目障りなんだよ。鼻がひん曲がりそうな悪臭を振りまきながら、醜い姿で町の皆の目を腐らせるのはやめてくれないか。それに3人がかりで女性に襲いかかる汚いやり方もむかつく。性根が腐ってるどころか発酵してるんじゃないか?ってか、すでにお前ら汚物レベルっていうか存在してることもむかつく。さっさと土にかえれ!いや、駄目か。大地が汚染される。どうやっても自然界に分解されそうにないから消滅しろ。手段はどうでもいいから他の人に邪魔にならない内に消えてしまえ。」
さらに、顔を歪ませた3人は表現できない顔となった。
そして、羞恥と怒りで赤くなった顔で一言。
「「「ぶっ殺す!!!」」」
3人組は女性を放し、全員が短剣を抜いて俺に襲い掛かる。
野次馬は悲鳴をあげて、ある者は目を逸らし、逃げ出した。
俺は呆れていた。
どうもこの世界の人間の戦闘能力は低いようだ。
この程度のスピードで神々の王である俺を殺せるつもりらしい。
あまりにも遅いので少し考える。
先ほどのモンスターの群れに魔法を使った所、威力が衰えているということは無かった。
他の神々は宝玉の中に入った時点で力が制限される事があるらしい。
それを危惧していたが魔法に関してはその心配はないらしい。
あと試してない力は俺自身の身体能力、神としての神力。
神は全員に神特有の力【神力】を持つ。
全ての神が力を持ち、力の種類も色々である。
オディーンであれば【宝玉を生成できる力】。
この力は神界でも10人ほどしか持たない珍しい能力である。
ウリエルには力は無い。
彼女は天使であって、神では無いので神力は無いが魔法の腕は神界でもトップクラスである。
俺にもあるが宝玉内でも使えるかわからないのでこいつらで試そう。
身体能力も衰えていたら面倒なので一緒に検証してみる。
「【万物創造 《刀》】!」
俺は右手を上に掲げて力の発動を宣言し、刃渡り150センチの太刀を《創造》した。
俺の力はありとあらゆる物を《創造》する力。
つまり、俺は無から望む物を作り出す。
それが【万物創造】。
俺が神王である理由。
その1つがこの能力。
無から有を生み出すことはこの世の原則を無視した力。
世界すらも俺に従う。
俺は150センチの刀、俗にいう太刀を逆手で構えた。
そして…
「陰天陽地神道流剣術 【一閃無月】。」
3人組を目の前まで引き付け、太刀で斬りつける。
1振りで3人まとめて叩き斬った。
3人は糸が切れたように崩れ落ちる。
周りの野次馬は静まりかえる。
当たり前だろう。
目の前で人が殺されたように見えたのである。
先ほどの女性が恐る恐る話しかける。
「…こ、殺しちゃったの?」
「んなわけないだろう。みねうちだ。ちゃんと呼吸してるだろ?気絶しただけだ。」
それを聞いた野次馬も安心する。
だが、みねうちというのは嘘だ。
本当に斬った。
斬ったが怪我をさせてないだけだ。
俺が斬ったのは《意識》のみ。
意識を斬って、気絶させたのだ。
普通は形の無い《意識》など斬れない。
そこで刀を生み出した時【意識のみを斬る刀】を創造したのだ。
普通ではありえないものも生み出せる力。
俺が望めば、世界がそれに従う力。
まぁ、とりあえず…
「ミッション・コンプリート♪」
野次馬の歓声があがった。
お年寄りを救った女性と圧倒的な強さで3人組をねじ伏せた青年に対して…
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