異世界でチートスキルで魔物の侵攻を食い止めろ!
「お集まりくださった100人の異世界の勇者よ。よくぞこのヒポラティカ王国へお越しくださいました。我々は、あなた方を歓迎いたします」
その始まりは、ネットのバナー広告だった。
『異世界で勇者になってください!定員100名、先着順!』
俺は、最近になってはまったネット小説のwebサイトの一番下に表示された広告が、やけに気になった。
この間まではまっていたアプリゲームは、課金返金問題を機に一気にユーザーが減り、俺もなんだか馬鹿らしくなってやめたところ。
どうせ新しいアプリゲームのβ版プレイヤー募集か何かだろうと思ったけれど、気がついたらクリックしていた。
新しく開かれたページには、いくつか質問が並んでいた。
俺はちょっと笑ってしまった。
*異世界へ行きたいですか
*スキルは欲しいですか
*勇者となって王国のために戦ってくれますか
ずいぶんとふざけたページだな、と。
まあ、今はちょうど他にゲームもしてないし時間つぶしにはいいだろう。
そう思って俺は全ての質問にイエスにチェックしてから、勇者になると書かれたボタンをクリックした。
そして次の瞬間には、俺は広いローマの古代闘技場の様な場所にいて、王様の挨拶を聞くことになった。
ざわついたのも、最初の数分だけだった。
ありきたりな説明──魔物の侵攻があること
5年間王国で戦ってくれれば後は褒賞をもらい自由にしていいこと──に引き続いて、スキルの説明が始まると、誰もが必死に耳をそばだてた。
「これから勇者の方々にはスキルを取得していただく。スキルとは、神に願い優れた技を振るうことを許された力である。しかし、神からのスキルには代償が必要でもある。また、スキルの内容と代償が判明していないスキル、人が扱うには多大な危険を伴うため取得を勧められないものもある。
今から配る冊子には、スキルの内容と代償が判明している一覧が載っている。皆さんにはここからスキルを選び、その後に神殿で神にスキルの取得を願い受け取ってもらいたい」
みんな必死になって冊子をめくる。
異世界言語理解が召喚時に付与されたおかげで、現地の文字の上にルビが重なって日本語としてスキルが読める。
火魔法……水魔法の耐性がなくなる。
水魔法……地魔法の耐性がなくなる。
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剣技……槍技に弱くなる。
槍技……斧技に弱くなる。
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まあ、ありきたりな補整関係が並んでいた。
レベルのある世界で、神様にスキルをもらって勇者になる。
選べるスキルは、10レベル毎に1個だけ。
レベルは一年鍛えてようやく1か2上がるくらい。
スキルはそれぞれ相関関係がある。
冊子に載っているのは火水風土光闇の魔法と武器を使う技ばかりだった。
しかし、不明なスキルが気になるな。もし神殿でそれらから選べるのならば…………。
神殿では一人ずつ個室に入ってスキルを神に祈るらしい。
何人かが先にスキルを取得して、個室からニヤニヤして出てきた。半分以上がスキルを取得した頃に、俺の番がやってきた。
個室には椅子が一脚置かれていた。
椅子に腰掛け、神にスキルを祈る。
と、目の前にウィンドウが開き、様々なスキルの一覧が流れていた。
冊子には載っていなかったスキルが幾つもある。
しかもそのスキルの内容はわからないが、日本語が重なって見えるからスキルの名前がわかる!
収納魔法、空間転移魔法、回復魔法、そして成長10倍。
ここは余裕で成長10倍だろう、と選びかけて俺はふと考えた。
成長10倍の代償って何だ……?
しかし、今を逃せば次にスキルを手に入れられるのはおそらく10年後になる。
その間に、他の奴らは毎年のようにスキルを手に入れられる。
悩んだ末に結局、俺はスキルを何も選べなかった。
他にも何人かは俺と同じ決断をしていた。
26人という数字が多いか少ないかはわからない。
しかし、残りの74人は当たり前のように成長10倍スキルを手に入れていた。
俺たちは、様子を見てからスキルを選ぶことにしたんだ。
訓練の時点から、成長10倍スキルの凄まじさをまざまざと見せつけられた。
ゴブリンを一匹を倒したすぐ後に、74人は楽に複数のゴブリンを屠るようになった。
俺たちはゴブリン二匹に翻弄される。
ゴブリンはコワイ、クサイ、キケンの3Kだった。
やっと二匹同時に襲ってくるゴブリンを倒せる様になった頃には、あいつらはオークも余裕、オーガですら単独で撃退する力を身につけていた。
俺たちの中にもそれを見て、神殿に行き成長10倍スキルを手に入れるヤツが出てきた。
俺はますます怖くなって、そんな奴らを眺めていた。
こんなにすごいスキルなら、きっと何かひどい代償があるはずだ。
一年が過ぎる頃、あいつらは幾つものスキルを操って華麗に魔物達を打ち滅ぼしていく様になっていた。
スキルを持たない俺は、ゴブリン三匹相手に必死になっていた。
やっぱりゴブリンはコワイ、クサイ、キケンな3Kであることは変わらない。
スキルなしは俺を含めて15人にまで減っていた。
今じゃ俺たちとあいつらじゃ体つきすら違う。
そりゃ俺の体だって一年前よりは筋肉も多少ついたし、足腰もしっかりした。
だがあいつらは、見事にパンプアップされた肉体になって勇ましく魔物達を薙ぎ倒していく。
あいつらが魔物の侵攻の最前線で戦い、その討ち漏らしのゴブリンなんかと俺は必死に戦っていた。
もちろん今じゃ待遇も違う。
あいつらは将校用の豪華なテント、お世話係のメイド付き。俺は後衛兵士の一般テントで集団で雑魚寝。
何度も何度も、成長10倍スキルを手に入れるべきか悩んだ。特に隣りで雑魚寝する兵士が酷いワキガだった夜には真剣に悩んだ。
二年目にはスキルなしは9人まで減っていた。
ここでスキルなしが2人、魔物にふいを突かれて死んで、俺以外は成長10倍スキルを手にすることを決めた。
それからしばらくした頃だった。
あいつらの中の1人が回復魔法を手に入れたのは。
そして。
次の侵攻の最中、腕を魔物に切り落とされた仲間に向かって回復魔法を唱えた瞬間、仲間の腕は元通りになった。と同時に、回復魔法を唱えたヤツの腕がゴトリと落ちた。
「ぐぎゃあああああああ!」
のたうち回り、そこいら中に血を撒き散らして回復魔法を唱えたヤツは死んだ。
召喚されたヤツらはみんな一様に押し黙った。
これが、回復魔法の代償だったんだ。
恐らく、転移魔法や空間魔法を取得したヤツもいたんだと思う。二次元は三次元になれない。じゃあ、三次元は四次元になれるのか、が多分回答になるのかと予想している。
いつの間にか、あいつらの中の数人がいなくなっていたんだから。
その次の侵攻で、俺は脚に怪我を負って後方で療養することになった。
三年目、魔物の侵攻は徐々に終息を迎えつつあった。
華々しく勇者の功績を讃える会が催された。
俺は怪我の回復が間に合わず、病床でそれを聞くだけだった。
成長10倍スキルを手に入れなかったから、こんな怪我をして、そしておそらく後遺症も残るんだと後悔しながら。
五年目、リハビリを終えたが戦線復帰の難しい体となった俺は王宮で事務官の仕事に追われていた。
そこで、かつての召喚された仲間たちの訃報を聞くこととなった。
かつての仲間たちは今なお辺境に出没する魔物に対応しているはずだ。
成長10倍スキルがあってもなおまだ勝てない魔物がいるのかと、俺は辺境の魔物の恐ろしさに身を竦めた。
しかし、葬儀には間に合わなくとも線香の一本もあげないのは気が済まない。休暇をもらい、護衛を雇って辺境へ向かった。
道中は、驚くほど平和だった。
「魔物の侵攻も終わったってのに、ずいぶん弱気な兄さんだなぁ」
雇った護衛にそう言われるほどだった。
辺境の街、その北にある墓地へと俺は向かった。
そこには大きな慰霊碑が建っていた。
【異世界より来たりて王国を救いし勇者達、ここに眠る】
慰霊碑の前に膝をつき、俺は呟いた。
「一番弱い俺だけが生き残ったなんて皮肉だな」
墓地にある公園では、車椅子に乗った老人がぼんやりと空を見上げている。
「俺も、あれくらい長生きできるかな」
老人はすでに意識がはっきりしないのか、歯のない口でモゴモゴと何かをずっと話し続けていた。
俺の顔を見た途端に老人が激しく暴れ出したが、すぐに看護人によって運ばれて行った。
「ごめんなさいね、お爺ちゃんすっかりボケちゃってて」
「いえ、いいんですよ。お年を召した方ですし……」
男は今、王宮で事務官をしている。
今回の魔物の侵攻は、勇者達のおかげでかつてない早さで終息を迎えた。
その功績の一つに成長10倍スキルがあったことは間違いない。
いつかやがてまた来る魔物の侵攻、その時に勇者達を召喚することとなるだろう。
その時に、勇者達が成長10倍スキルを選ぶことをためらわない様にと上官に願い出て、俺は冊子を編集している。
もちろん回復魔法や転移魔法、空間魔法の危険性も明記している。
これで、いつか来る勇者達も立派な勇者になるだろうと夢想しながら。