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2.5股

作者: shian2011

 くやしい! くやしい!

 彼と付き合って一年。

 いつの間にか2股かけられてた!!



 彼を追求した!


「ちょっと! あの女は誰よ!? いつから2股かけてたのよ!」


「ちがうちがう。2股じゃないよ」


「じゃあ、あの女とはどーゆー関係よ!?」


 あの女――落ち着いた感じの美人。

 少し年上っぽくて、人妻系かな?

 ハデじゃないのに、妙にエロいカンジの。


 あたし、しっかり見たんだから。

 二人で仲良さそうにホテルへ入っていくの!!

 あああああああっ、思い出しただけで胃が捻じくれて火を吐きそう!!!

 あたしの激しい眼光に、彼は軽く引いているみたい。


「わかったよ、話すよ。ちょっと長いけど、聞いてくれ」


「……わかった」


 あたしは渋々というカンジで頷いた。

 でも、内心ではちょっとだけ期待があった。

 彼の言い方から、ホントに2股じゃなくて何か事情があるのかも~~とか、ね?


「彼女はバイト先のお客さん。主婦仲間とよく来るから、お互いに顔は覚えてるくらいの関係だった」


 彼はカラオケボックスでバイトしている。

 平日の昼間なんかは主婦が割と来るらしい。 

 だからって、それがなんでホテルになるのよ! ……と心の中でツッコミ。


「一ヶ月くらい前だったかな? 俺がフロントにいたら、彼女が一人で入ってきたんだ。焦った感じだったし、いつも主婦仲間と来るのに変だなって。気になって聞いてみたんだ」


「……」


「そしたら、なんか変な男につけられてるって言って、しばらく店の中いさせてくれって」


「警察呼んだの?」


「110番しましょうかって聞いたら、大丈夫だからって断られた。……えーとさ、後から聞いて分かったんだけど、つけてきた男っていうのが彼女の不倫相手なんだよ」


「え!? なにそれ」


「別れ話をしたら相手の男に拒否られて、話になんないから一方的に別れるって言って帰ってきたら、後をつけてきたんだって」


「ちょ、こわくない?」


「うん、だけど警察呼べないじゃん? 彼女の旦那さんにもバレちゃうし」


「あ、そっかぁ」


 それって自業自得だけどね。

 でも、あの人、おとなしそうな感じなのに不倫なんて意外。


「んで、なんだか話をしているうちに俺が新しい彼氏のフリをすることになったんだ。そうすれば相手の男も諦めるんじゃないかって」


 なんかイマイチ納得できないけど。


「その日はバイトの帰りに彼女のウチまで送ったんだ。不倫相手が待ち伏せしてるかも知れないから」


「でも、それって一か月前の話でしょ? それがなんで一か月後には一緒にホテルになんのよ!」


「頼まれたんだよ」


「頼まれた?」


「何日かして、また彼女が来たんだ。不倫相手がまだつきまっているらしくて、俺にしばらくの間、彼氏のフリをしてくれって」


「はぁ?」


「最初は断ったんだけど、ちゃんとバイト代を出すからって。まあ、バイトだと思えばいいわけだし、人助けにもなるからいっかぁって」


「だからって……」


「だってさ~、断って彼女がストーカー事件とか巻きこまれたら、なんかちょっと責任感じなくね?」


「う~ん……」


「彼女、セレブだから結構いいバイト代くれたし。……誰かさんがクリスマスは泊まりでどっか行きたいって言ってたしさ~」


「え、あたしとの旅行のため?」


 そ、そりゃあ、確かにそう言ったけどさぁ。

 あたしのためって言われちゃうと少し嬉しいけど……。

 む~~~。


「まあ、そこまでは良かったんだけど、不倫相手の男ってのが、リアルにストーカー系でさ。俺と彼女のデート……あ、もちろんフリだよ? デートをどっかから覗いてんの。キスしないね~とか、ラブホ行かないね~とか、ホントに彼氏なの~とか、メール送ってくんだって。マジうざくね?」


 や~、きしょっ! 

 マジカンベン。


「だからってホントにキスするのも、彼氏のフリだけなんだし、なんかマズくね? だから仕方なくホテルに入ることにしたんだ。中で二時間くらい時間を潰して出てくればそれっぽくね?」


 うーん、まあねぇ……?



「一回だけじゃ、あのストーカー系の不倫相手は諦めなさそうだから、ホテル作戦は何回か繰り返すことにしたんだ。で、四~五回目くらいに」


「やっと諦めた?」


「いや。……その、なんか、こう、変な雰囲気になっちゃってさ」


 へ?


「ラブホの中ではいつも離れて座ってたんだ。一応、ほら、なんかアレだから。あの日も俺がベッドに座って、彼女はソファ。いつも通りたわいない話――スマホのアプリの話だったかな――をしてたんだ」


「……」


「彼女が面白いアプリをインストしたって言ってさ。スマホを俺に見せようと立ち上がったんだ。そしたら、テーブルの脚につまづいたみたいで、彼女が俺の方へよろけてきた。危ないって思って俺はとっさに支えようとしたら……顔に彼女の胸がボインってなって、慌てて離れようとしたら後ろのベッドへ倒れちゃったんだ。結果的に彼女に押し倒された状態。彼女がごめんねって言って起きあがろうとして、俺の顔から胸が離れたら、なんか馬乗りされてる態勢で、その、彼女と見つめ合う感じになっちゃって。うわ~どうしようかなって思ってたら、彼女の顔が近づいてきてさ。反射的に目を閉じてキスしちゃったら、なんか無意識に彼女の太ももからおしりを撫であげちゃった。そしたら彼女がびっくりするくらい甘い声で……」


「もうやめて!」


 彼はピタッと止まった。


「あ、ごめん。つい……」


 あたしは過呼吸になりかかった息を気合いで整えた。

 男の性欲なんて、こんなもんよ。女なら誰にだってポンポン勃つんだから!

 今回のは不慮の事故よ。そう、フリョノジコ!

 落ち着け、あたし!!


 頭の片隅で何気に冷静な脳細胞が、ふとあたしに話しかけた。

 彼があの女としちゃったこの話、ホテル『四~五回目』って言ってた。

 じゃあ、あたしが目撃したのは何回目?

 その間は?

 当然、何もないよね?


「いや、……行くと必ずやっちゃってるんだ。やると追加でバイト代くれるから。あ、でもまだ十回くらいかな」


 ちょっ、なにそれ!?

 それってただのエンコーじゃない!

 あり得なくない?

 それも『十回』も?

 しかも『もう』じゃなくて『まだ』?

 信じらんない!!

 ちょー信じらんない!!!


「あんな人妻とエンコーして、結局、2股してんじゃん!」


「だから2股じゃないって言ってんじゃん! バイトみたいなもんだし。言ってもせいぜい2.5股ってとこじゃないか?」


「にっ!?」


 何よ、『にーてんご股』って!!!

 バカにしないでよ!

 くやしくて泣けてきた。


 でも、頭の片隅で何気に冷静な脳細胞が、あたしに足し算するように言ってきた。

 あたし1股+あの女0.5股=1.5股。

 ……あれ?


「ちょっと! 2.5股ってことは、他に女がもう一人いるってこと!?」


 彼がビクッと身じろいだ


「あ、いや、なんかあの子は、その、なんか地元が同じで、しかもなんか同じ町内だってことでなんか親近感が」


「誰よ?」


「大学の下見にきた受験生だよ。女子高生、十七歳」


「あんた、女子高生にまで手を出してんの!?」


「人聞きの悪いこと言うなよ。初エッチは十八歳の誕生日にって約束してんだから。それまでは手か口で……」


「サイテー!!!!!」


 あたしは怒鳴りつけて、そこから走り去った。

 こんな男と付き合ってたなんて!

 くやしいくやしい、クヤシーーー!





<<エピローグ>>


「サイテー!!!!!」


 女はそう叫んで、走り去った。


「……はぁ、やっとこれで縁が切れたか。タチの悪い女だったな~」


 ヴヴヴッ……ヴヴヴッ……。


「ハイ、もしもし。あ、先輩。いま終わりました。

 ハイ、教えてもらった通り話したらアッサリと。

 すごい効き目ですね。

 あの女、自分が俺の彼女だと最後まで思い込んでましたよ。

 どこの誰だか知りませんが、怖いですね、ストーカーって。

 それにしても、先輩が『別れさせ屋』をやってて助かりました。

 こんなノウハウ、普通は誰も知りませんしね。

 しかも先輩自ら人妻役をやってくれるなんて。

 演技とは言え一緒にホテルへ入った時はマジでドキドキしましたよ。

 え? ヤですよ、間違ってもそんなことしたら彼氏さんにボコられちゃいますよ~。 

 アハハハハハ~」





<<エピローグ2>>


「アハハハハハ~」


 彼が笑っているのが見えた。

 ああ、良かった。

 彼はあの女にそそのかされていたんだ。

 そうよね、彼は2股かけるような人じゃないもん!


 それにしても、あの女!

 あの淫乱女が彼をそそのかしたのね。

 罰を与えなきゃ。

 どこかに監禁して可能な限り様々な辱めを与えてやりたいけど、監禁は犯罪だし、辱めるのは同じ女としては良心が痛む。

 清めてから浄土へ送ってあげよう。

 キャー、あたしって清いじゃん!


 彼は、やっぱり外に出しておけないわね。

 世俗の垢で汚されちゃう。

 ウチで大切に隔離してあげなきゃ。

 

 でも、部屋をどうしようかしら?

 さすがにあたしの部屋じゃマズいよね。

 まだ結婚前だし、彼に毎晩求められちゃったら……キャー!


 あ、そうだ。

 彼はお兄ちゃんの部屋で隔離してあげよう。

 お兄ちゃんはお父さんとお母さんの部屋へ『置こう』。

 三人一緒に『置く』方が寂しくないかもだし。


 さっそく準備しなきゃ。

 ふふふ、楽しみだわ。


<<END>>


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! 会話のテンポが良く、展開も早く先を読みたくなるものでした。 ラストをエピローグ1と2に分けたのもいいですね。それぞれの心情を表しながら意表を突く結末へと展開していきます。こ…
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