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私はいわゆる悪役らしいが、きちんと罰は受けるので見逃してほしいと思う。

作者:カン
私は転生者。
生まれた時から前世の記憶を持っていた。
周りに心配されるほど、がむしゃらになって生きた記憶を。

そんなもんを抱えた赤子は、さぞ奇妙だっただろう。
泣きもしない、わめきもしない、ただただ大人しい、そんな赤子は。

親や兄姉(きょうだい)、そして使用人たちから気味の悪い子と言われながら私は育った。

そんな時に義弟が出来た。半分だけ血の繋がった義弟が。

「今日からお前たちの弟となるユーリだ。仲良くしなさい」

簡単な紹介とともに私たち兄妹(きょうだい)の中に放たれたユーリは5才。やせっぽち。栄養が不足していることは、誰の目から見ても明らかだった。

彼はその欠けた頬を出来る限り上げて笑顔をつくる。

「おにー様、おねー様方、ぼくはユーリです。よろしくお願いします」

差し出された手を兄と姉は叩く事で拒絶していた。
子どもの世界は、時として大人の世界より残酷である。

汚ならしいと姉は罵倒し、兄は言葉を掛ける事さえ嫌な様子であった。

つくづく思う。我が家の人間は性格がひねくれていると。母に至っては、ユーリ紹介の場にさえ居なかったのだから。

親が親なら子どもも子ども。そんな表し方がぴったりの家族であった。

かくゆう私も、面倒事(ユーリ)に関わるつもりはさらさらないので、簡単な自己紹介だけしてから自室に戻った。

私も大概である。



予想通り、我が家でのユーリの扱いは酷いものだった。

父は、一応息子とした彼に家庭教師や剣の師をつけたようだったが、それ以外の事は何ひとつしなかった。

愛情も言葉も視線も、何ひとつ与えなかった。

対して母は与えていた。躾という名の暴力を。

兄は彼をいつまでも人として認識しなかったし、姉も彼をモノのように扱っていた。が、成長するごとに美しくなる彼に、やたらと優しくなっていったのも事実である。

私は出来うる限り彼には関わらないでいた。
同じ屋敷で過ごした数年間で言葉を交わしたのも数えるほどである。

ユーリはことあるごとに私を見ていたというのに、私は逃げていた。
弱き者が助けを求める視線から。

父は彼の味方でなく、母や兄姉に至っては敵である我が家で、ユーリを助けられる程私は怖いもの知らずではない。

一度母たちの目を盗んで助ける事ができたとしても、二度目はない。
最後まで面倒見れない者に一時の優しさを与えて自己満足に浸れる程、私の中身は幼くないのだ。

家族共々ユーリに恨まれ、憎まれ、そして報復されればいいのである。

それが私、リリアンヌ・アベンスターの運命なのだから。



私は、前世の記憶を持っている。
それと同時に、私自身にこれから起こる事も知っている。

アベンスター家の当主の悪事が発覚し、爵位剥奪、一家離散。
これはユーリの手によって行われる報復の一つである。

ユーリは、とある乙女ゲームのとあるヒロイン様に支えられて本来の力を発揮し、自分を手酷く扱ってきた家族を色んな意味で追い詰めるのであった。

私も追い詰められる家族の一人であるのだが、まあそれも仕方ないと思う。
私は長年に渡り、彼を見捨てていたのだから。

一家離散後の(リリアンヌ)の消息は、ゲームのストーリー上必要無いため不明である。
とりあえず死にたくない。でも、普通のお嬢様が身分を失って身一つで生きていけるかと問われれば答えは否だ。
世の中そんなに甘くない。

でも、私は普通のお嬢様ではない。30近く一般市民として生きてきた経験(ぜんせ)がある。
とりあえず、自分だけでも市井で生き抜こう。今生(リリアンヌ)0才の時に決意した事である。

有り難い事に、家族も使用人も私にはあまり関わってこないので、至ってスムーズに市井に下る準備が出来ていた。

さあ、後はゲームのクライマックス(悪役令嬢の断罪)を待つばかり。




「ふぅ」

甘い葡萄酒の入ったグラスを傾ける私の目の前には、断罪される悪役令嬢様が力なくうなだれていた。

只今メイン攻略者(ヒーロー)たる王太子様から「ナナミ(ヒロイン様)につまらぬ行いをしてきた貴様など、我が婚約者に相応しくない」と婚約破棄を言い渡された為である。

そして我が義弟を含む4人の攻略者の婚約者たちも、同じ理由で婚約破棄をつきつけられていた。
かくゆう私も、攻略者としての人気No.2の次期公爵様から婚約破棄を言い渡されたところである。

私以外のご令嬢様方は腰を抜かし、その場に倒れこんでしまった。
まあ、そうだろう。
素晴らしい家系に生まれ、素晴らしい婚約者に恵まれ、これから先何不自由なく暮らせると思っていたご令嬢様方には、晴天の霹靂であろう。

けれど、皆様の家は我が家のような爵位剥奪とかのオプションがついていないので、ご安心を。
うちだけですから。一家離散になるのは。

1人立っている私に視線を合わせた王太子は、静かに語る。

「リリアンヌ・アベンスター。そなたが受ける責は、公爵家との婚約破棄だけではない。…そなたの家は、あまりにも膿をもち過ぎた。追って沙汰があるだろうが………」

言いにくいのか、そこで言葉を途切る。
別にいいのに。
お優しい、王太子様ですこと。

ゆっくりと葡萄酒を口に含み、飲み込む。
こんな上等な酒を飲むのも今日で最後になることだろう。

「どのような罰も、この身に過ぎたる栄誉でございますれば、心尽くして受ける覚悟にございます」

普段無表情の私の笑顔が珍しいのか、王太子様含む攻略対象様方が驚き目を見張るのが分かった。




何やかんや面倒事を片付け、とりあえず市井に飛び込む事ができた。
色々あったけど、今となってはいい思い出である。

王都には働き口がそれなりにあり、お貴族様御用達の店でなければ、特に身分も問われなかった。
元執事たちが上手い事資産を現金に変えてくれたおかげで、借金もなく身売りする必要も無くなったので、当初の予想より軽い身の上となっている。

そして今日、住み込み家政婦の面接のため、とある一軒家へ来た。そこで待っていたのは………

「久しぶりです、姉上」
「………」

パタン、と扉を閉めて来た道を引き返す私。

「姉上!?どうされたのですか!?」
「いやいやいやいや、何故ここにいる義弟よ」

とりあえず家の中へ連行された私の目の前には、美味しそうなスィーツ…、いやいや、麗しの義弟がにこやかに座っていた。

なぜ、こんな所にいるのか…

「アベンスターの爵位が無くなりましたからね。俺も晴れて平民に戻ったって訳ですよ」
「へぇー」
「ここは俺の新居でして」
「ほぉー」
「でも、俺は家事的なものは一切できない」
「はぁー」
「だから家政婦の募集をかけて、そこにあなたが応募した、という事です」
「ふーん」

何やら説明をしてくれるが、あまりにも流暢過ぎて準備してました感がビシビシする。
しかしこれだけユーリと長く喋ったのは初めてかもしれない。
それ程、私達の関係は稀薄だった。

「えーと、姉上?どうしてそんなにやる気無しなのですか?」
「んー?だって私不採用でしょ?ユーリ、私の事嫌いじゃない」

嫌い以前に、憎んでるんだっけ。
まあ、そうなるようにしたのは私だけど。

目の前のユーリは手を額に当て、大きなため息をついている。
一体どうした。

「………姉上は、なぜ俺があなたを嫌っていると思うのですか?」
「そーゆー運命?みたいな?」

説明が面倒な訳ではありません。うん、絶対に。
ただこれまでの我が家の彼に対する仕打ちを口に出すのは、面倒…いえいえ、憚られるのだ。

「あなたは、本当に昔から意味が分からない人ですよね」
「よく言われる!」
「話すとここまで面白いというのは知りませんでしたが」
「隠してたからね!」
「もう隠す必要はないと?」
「ないね!」

淑やかな貴族令嬢の中身が残念な人、というのは弱味にしかならない。だから隠していた。でも今は必要ない。
今の私は一般市民、ようやく中身に近付けた気がする。
………と、爵位剥奪の忙しさの余り、ユーリに言うのをすっかり忘れていた言葉がある。

「ユーリ」
「はい?」
「あなたの幸せを心から祈っています」

呆けられてしまった。
まあ仕方ないか。

今までの行いが悪すぎる。

「という事だから、これで失礼する」

腰を浮かして…そのまま椅子へ逆戻り。
ユーリに押さえつけられてしまったのだ。
いわゆる馬乗り。私、身動き一つとれません。

うーん、これは一発殴っておきたい、そう言うことなのか?ユーリ?

「ユー」
「あなたは………!」
「うん?」
「俺を………」
「うん?」

恨んではいないのか?そう小さく耳元で呟かれてしまった。

私が、ユーリを恨む?………うん、意味が分からない。
疑問の視線を送ると、彼は苦笑いを浮かべていた。

「知ってるんだろ?姉上は………父の犯した罪は爵位剥奪に相当する程ではないってこと」
「あぁ…その事」

それなら知ってる。
我が家の父は小心者のため、そんな大それた悪事は働けない。
つまりは………

「嵌めたんだよね?ユーリが」

それが彼の我が家に対する報復。

「………」

いっしゅん苦痛の顔を見せる。がそれは笑顔へと変わり

「うん、嵌めちゃった」
「ですよねーハハハ」

まあ仕方ない。
我が家はそれ程酷い事を彼にしたのだから。
小さい彼の肉体を傷つけた。
弱い彼の心を抉った。
唯一無二の彼の人格を否定した。

その長年の恨みを昇華させたに過ぎない。

だから、私が彼を恨む事は出来ないのだ。
だからきちんと伝えなければならない。

「私はユーリを恨んではいな…「あなたが欲しくてアベンスターを壊した」

…………ん?言葉を重ねられてしまったが、内容が頭に入ってこなかったぜぃ?

「あなたがアベンスターであるうちは、あなたは絶対に手に入らないから」

………えーと?だから内容が…

「あの忌々しい公爵家と婚約もしていたし」 

…………ん?

「市井に落ちた俺たちの間に、面倒な身分のしがらみといった壁はない」

……………はて?目の前の義弟は何を言っているんだろうか?とりあえず
「目を覚ませバカ義弟。お前、半分とはいえ血の繋がった弟だろうが」
「それこそ俺の実母の(はかりごと)だよ。」
「……は?」
「いくら泥酔していたと言えども、下町の年増女をあなたの父は抱いたりしないよ。しかも生粋の貴族様だよ?愛人とかならまだしも、知り合ってすぐの女に子種を渡すわけないじゃないか」
「エグい!エグいよ!内容がエグすぎるよ!」

つまりユーリは赤の他人ってことか。

「実母は、俺の存在を奥方に知らせる!とあなたの父を脅して金を巻き上げた。それだけでは飽きたらず俺自身を押し付けた。ハッキリ言ってあなたの父上は、色々な面倒を押し付けられただけなんだよ」

そして押し付けられたらユーリを放り出すでもなく、殺すでもなく家へ招き入れたと。彼を実子と疑わずに。

「それは…何と言いますか…お父様、ご愁傷様です」
「本当に。あなたの父上はよい人過ぎる。………………あなたと一緒で」

ん?何の事だ?

「あなたはいつだって俺を心配そうに見ていた」

いやいや、見てたのはユーリの方でしょ。

「一の姉上や母上が俺の近くに来ていると、理由をつけて度々逃がしてくれた」

…そんな事あったっけ?無意識って怖っ!

「食いっぱぐれた俺の部屋の前に飯を置いてくれた」

だって!それは!!成長期の子にご飯抜きとか無いっ!て前世の私が!

「家から離すために、公爵家のボンボンに俺の話をして興味を持たせて、学園へ入れるように手配してくれた」

私はいたたまれなくなってしまった。
自由になった両手で顔を隠すが、真っ赤になった耳は彼から丸見えであろう。

恥ずかしい…好意がバレバレなのが恥ずかしい………

「幼い頃から唯一、俺を想ってくれている存在のあなたを、好きにならない訳ないじゃないか」

何だこれは。乙女ゲームどこへ行った。ヒロイン様カムバック。

「ナナミ(ヒロイン)様好きはどうなった」
「だって俺に婚約者なんていらないから」

婚約破棄の為だけにナナミ(ヒロイン)様を使っただと?
ユーリ!まったく何て恐ろしい子!!

「姉上…ううん、リリアンヌ、ごめんね。俺、世界で一番大嫌いな実母に似ちゃったみたい」

え、それって…

「目的の為には手段を選ばない所とか」

そーですよねー。私欲しさに一大貴族を陥れた訳ですもんねー。

これを聞いて思うのは、我が家の没落の原因は私って事じゃないか?
元凶は父やユーリにあるにしても。

「リリアンヌ、今何考えてる?」
「えー?あー?まーーー、お姉様を比較的良心的なお宅に嫁入りさせといて良かったなー?とかかな」

兄様は頭だけは良かったのでよい就職先を紹介出来たし、両親に至ってはのどかな田舎の小さな家へ押し込む事が出来ていた。爵位剥奪されたにしては、よい待遇のままだと思う。

没落の原因としては、良心が痛まない程度の環境を用意出来ていて良かったと考えていたのだ。

「この状況で、考える事がそれなわけ?」

この状況=馬乗りされた状態ですが、何か?

「いやー、まーそうは言っても非力な私じゃ、現状打破は難しいって言うか」
「うん?じゃあ何?このまま俺に好き勝手されてもいいんだ?」

普通の令嬢ならば、怖がるなり恥ずかしがるなりするのであろう。
だが私は違う。

たった今赤の他人と判明した目の前のイケメンは、私の事が好きらしいのである。
ピチピチの肌が私を誘う。

据え膳食わぬは、男も女も恥だろう?

でもとりあえずこれだけは言っておこう。初の今だから堂々と言える、あの悩ましい言葉を。



「初めてだから、優しくしてね?」



上目遣い、涙目で言ってみたらユーリは撃沈してしまった。

私は思う。彼が彼の実母を越える時は、まだまだ先だと。





























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