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それは今日に明日に
04
「おっと~お楽しみのところ失礼~。日向くんいけないなあ自分ひとりだけ楽しもうなんて」
 さらさらとした髪に、艶のある頬をしたスマートな男だった。口調はいかにも軽薄だ。

「そうそうわれわれ三人は一心同体だろお」
 威圧するような体格の男の耳はつぶれている。みおろしてくる目には嘲笑がこめられているようだ。

 日向の背に回した手もそのままに、唖然とした顔を今江はした。すでに唇は離しているが、どうやらみられていたようだ。
(ど、どうしてここに!?)
 急激に顔が熱くなる。首のうしろから広がって、熱が全身に広がり、顔に集中してくるのだ。汗がどっとでた。

「びっくりした顔もキュートだね先輩」
 ラグビー部の石井保はこんなことばをいう選手だったのだろうか。

「それじゃどうしようか雅彦」
 チャラチャラして、同性には嫌われていたようだが椿大吾はこんなに悪ぶっていただろうか。

 ポケットから煙草の箱をだすと、椿は一本くわえライターで火をつけた。
「いつものとおりひっかけた奴が最初?」
 煙を吐き出すのも様になっている。
 思考がまわらず体も動かないまま今江は茫然につつまれて事態を見守った。ふたりが口にすることばが意味として頭に入ってこない。
 でもどこかで血の気がひいていく音がする。
「おれとしては四人で楽しみたいなあ」
 制服姿のふたりはベッドを回り込み、椿が日向の肩を抱き寄せた。今江と日向はここにきてようやく離れた。
「先輩いつもおれたち近づいてきた奴とするんだよ。親しくなりたいんだもんね? 大丈夫、優しくする。だれにもいわない。それならいいでしょ?」
 今江は両肩をつかまれて石井に引き寄せられた。大きな手が背後に回り、上着のボタンを外された。
「わっ」
 石井の胸を押し返すが、とても力ではかなわない。
「いろいろ楽しいよ」
「そうそう」
 日向をベッドに座らせて、椿と石井で今江を挟む。
「日向と付き合ってると、何でもほしいの手に入るよ」
「こいつほんとうに金持ちなんだ。知ってるでしょ?」
 両側から交互に囁かれ、上着を脱がされネクタイを引き抜かれた。
 顔に、椿が煙を吹きかけた。



 涙を浮かべて震えていた今江はぎゅっと目をつぶったかとおもうと、やおら椿の口から煙草を奪い取った。

「未成年が! 煙草を吸うのはかっこつけてんのと、社会のルールがほんとうかどうか確かめたいからだって親父がいってた」

 ベッドのそばにあったゴミ箱をつかみあげ、その側面を使って火を消し、今江は吸殻の入ったゴミ箱をもっとも似合わない椿に突き出した。
「未成年の酒、煙草は禁止だ!」
 気迫に飲まれたのか椿はゴミ箱を両手をさしだして受け取った。小さな声で、すみません……とつぶやく。
「それと!」
 今江が険しい顔で振り向くと、石井が大きな体をぎくっとさせた。

「おれはおまえたちとはセックスしない。おれは好きな奴としかしたくない。気遣いながら丁寧に――するもんだとおもう」

 石井の足元に視線を落とし、今江は自分の考えを話した。
 学校のアイドルたちがこんなことをしていたとは幻滅だった。とても迎合できるものではない。この三人にいわれて囲まれたら、なかにはそういうのを楽しんだ者もいたのかもしれない。
 崩れそうな気持をどうにか支えて、今江は最後に眼鏡をかけてベッドにこしかけている男の両肩をつかんだ。
「日向、こいつらの話、嘘だよな!? そんな奴じゃないよな」
 揺さぶる。
 床をみつめていた視線があがり、今江と合った。
 合ったのに、日向は何もいわなかった。茶色の瞳からは何もことばを読み取ることもできなかった。
 さきほど耐えた涙が、じわりと滲み出てきた。
 白いワイシャツ一枚の今江は、日向を抱きしめた。絶望が押し寄せる。
「日向……バイバイ」
 耳元で告げる。
 涙を零した顔をあげると、今江はその場から走り抜けた。玄関の靴に靴下をはいた足をつっこみ、重たいがスムーズに開くドアを押し、廊下に飛び出てエレベーターに駆けこんだ。



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