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82話:森林道の戦い 2

 エジンバラ皇都へ続く森林道の中で、激しい戦いが行われていた。


「突撃ッ! 突撃――ッ!」


 森の奥深くへと逃げていくエジンバラ兵たちに、気炎を上げてウェルリア兵士たちが襲いかかる。

 大軍の馬の蹄が鳴り響く森林の中、エジンバラ兵たちは冷静にそれを対処した。

 

「トラップを発動させろ!」

「はっ!」


 エジンバラ軍の、アウトレンジ部隊を指揮する男がそう命令を下した。

 それを受けて、部下が木々の間に張り巡らされていたロープを切り落とす。


 これはルークが考案し、今までにも使っていた罠だ。


 木々にあらかじめ切り倒しておいて、倒れるギリギリのところでロープでつないでおく。

 そのポイントに罠をかけたい敵が到達すれば、ロープを切るか引っ張るかすれば、倒れる大木が襲いかかるという罠だった。


 これによって森の中を追撃してくるウェルリア騎兵たちに大打撃を与える。

 簡単な仕掛けだが、効力は絶大である。


 追撃してくるウェルリア騎兵たちに、ロープの支えがなくなった大木が倒れ込む。

 深い森林に、複数の大木が倒れ込む轟音(ごうおん)が鳴り響いた。


「クッ……またこの罠か!」

「エジンバラはどれだけ罠を仕掛けているのか、分からないのが厄介だな」


 馬を駆って追撃していたウェルリア騎兵の進撃が、罠の前にたたらを踏んで止まる。

 そしてさらに、木々の上に潜んでいたエジンバラの魔導弓兵たちが、彼らに狙いをつけた。


「第一射、攻撃用意!」


 その掛け声とともに、エジンバラ軍のアウトレンジ部隊が、攻撃の体勢を整える。


「テェーッ!」


 その号令の下に、周囲の木々を焼き尽くすような、火炎一色の攻撃魔法が、ウェルリア騎兵たちを襲う。


「ぐあっ……!」

「がっ……!


 倒れる大木の前に身動きできずにいたウェルリア騎兵に、火炎の攻撃魔法が直撃する。

 銀の甲冑ごしに火炎にまみれ、身体を悲鳴をあげながらウェルリアの兵士たちは馬から転げ落ちた。

 

「攻撃やめ! 退却!」

「はっ!」


 エジンバラ軍のアウトレンジ部隊は、速やかに退却していく。

 攻撃を一回行っただけで、隊列を再構築してまた森の奥深くへと逃げていく。


 それを、ウェルリア騎兵たちは燃える周囲の消火活動や、負傷した兵の手当てをしながら、彼らが逃げるのを見守ることしかできなかった。

 

「チクショウ! さっきから何度このパターンにやられてるんだ!?」


「エジンバラはちょっと逃げては罠を使って俺たちの足止めをし、その隙にアウトレンジから攻撃しては、またちょっと逃げての繰り返しじゃないか!」


「どこまで森の中を退却していけば気が済むんだ! これじゃキリがない!」


 火傷を負ったウェルリアの騎兵たちが悪態をつく。

 森の中を、反撃しながら後退していくエジンバラ兵を追って、ウェルリアの騎兵部隊はだいぶ森林道の本隊から離されていた。


 騎兵と魔導師では行軍速度が違うので、後続する魔導師たちとの連係もはかばかしくない。


「ユース騎士! このままではラチがあきません。進言致します。いったん退却し、本隊と合流しましょう!」


 ウェルリア軍の兵士が、ユースにそう進言する。

 しかしそれを、ユースは一蹴した。


「却下だ。あと少しであの臆病者たちの尻尾が掴めるのだぞ! 追撃あるのみだ!」

「で、ですが……、サー。ご覧のようにエジンバラ兵は罠を多数仕掛け、それを利用して退却しているのですよ。あらかじめ計画されていた後退ではなかろうかと思います」


「む……。それでは、俺たちを追わせている、あいつらが俺たちに時間を浪費させたいからだとでも言うのか?」

「その可能性は高いです。本隊ともだいぶ離されました。このままではいたちごっこなので、いったん体勢を立て直すべきかと」


 部下の進言に、ユースは舌打ちしながら応えた。


「チッ……、あいつらの思うがままになるのは癪だが……。たしかにこのままでは一方的にチマチマ削られるだけだ。よし、いったん後方に置いてきた魔導師部隊と合流し、魔導師を馬に乗せて追うぞ!」


「はっ!」


 ユースの命令を聞いたウェルリア騎兵たちが敬礼して応えた時。

 木々のあいだから一人の男が、彼らの前に歩み出てきた。


「よう。今、お前らに退却されるとうちの大将が困るんでね。ここは俺の相手でもしてくれ」


 青白く光る剣を肩に構え、黒髪に軽装をした男だった。

 その男を見て、ユースやウェルリア騎兵たちは驚愕の表情を浮かべる。


「お、お前……、噂には聞いていたが……。ほ、本当に生きていたのか!」

「ご無沙汰だな」


 わなわなと震える言葉を、ユースは絞り出すようにして言った。


「剣神ロイ……!」

「よう、ユース。俺が騎士団にいた以来だな。

 ヘボ騎士だったお前が、偉そうに部下の指揮をするまでなったか。出世したな」


 にやりと笑って、美形の青年は言った。



 ◇ ◆



 剣閃が、きらめく。

 青白い曳光(えいこう)を引きながら、俺の剣がウェルリア軍たちを襲う。


 森林の奥深くにて、エジンバラ軍を追撃するウェルリア騎兵の数は、数千にも上る。

 そのウェルリア騎兵を引きつけておくというのが、俺とアウトレンジ部隊に課せられた仕事だった。


「はっ!」


 馬上から重槍を突き出してくるウェルリア騎兵の攻撃を、ステップワークを駆使して懐にかいくぐる。

 馬の脚を切り、バランスを崩して騎兵が転落したところを、銀の鎧もろとも心臓を貫く。


「があっ……!」


 鮮血が舞い、ウェルリア兵士は一瞬にして絶命した。


「次! かかってこい!」


 剣にまとわりついた血を、振り落とすかのように大きく振って、俺は次の標的を見据える。


「け、剣神ロイ! 覚悟ぉ――ッ!」


 新たな騎兵が馬の手綱を引いて、こちらに突撃してくる。

 騎兵の機動力と突撃力は見事だが、遮蔽物(しゃへいぶつ)や障害物の多いここ森林の中では、騎兵も万全の能力を発揮することができない。


 ウェルリア騎兵の突撃を真正面から受けてやる義理もないので、俺は木に足をかけて高く跳躍(ちょうやく)した。

 乱戦時、それも1対多数を相手取る時は、敵に囲まれない位置取りが重要となる。


 俺は木を蹴って、木から木に高速で飛び移っていった。

 まるで暗部に所属する兵士のように、木々の上を身軽に駆ける俺を、ウェルリア兵士たちが呆然と見上げていた。


 そのうちの一人に向かって、頭上から飛び降りる。


 空中から落下する威力をつけて、ウェルリア兵士に脳天から剣を叩き込んだ。

 鉄の兜を割って、俺の剣がウェルリア兵士の頭蓋を叩き割った。


「あっ……!」


 悲鳴を上げる間もなく、脳天を叩き割られたウェルリア騎兵はほんの数瞬で死亡した。

 そのまま馬上にまたがっていた兵士を蹴落とし、馬を奪って背後をとられないように駆ける。


「よし、次だ! さぁどうした、なんならお前ら全員いっぺんにでもいいぞ」


 俺の言葉に、ウェルリア騎兵たちは身体を震わせていた。

 それもそのはずだった。


 こちらのアウトレンジ部隊を追撃するウェルリア騎兵の前に俺が姿を現してから半々刻(約30分)弱が経過していたが、周囲一帯には俺に倒された兵士の血や脳漿(のうしょう)がいたるところに飛び散り、あたりはウェルリア軍の死体の山ができていたからだった。


 俺に挑んでくる腕自慢の兵士は、片っ端から斬り落としてきた。

 その光景を目前で見ていたからこそ、残るウェルリア騎兵たちは足がすくんで動けない。


「つ、強すぎる……剣神ロイ……!」

「化物か、こいつ……!」


 兵士のうちの数人が、愕然(がくぜん)とそう漏らした。

 絶望の音色が、ウェルリア軍たちに伝染している。


 そこへ、エジンバラ軍のアウトレンジ部隊が再構築して声をかけてきた。


「ロイ様! 遠距離攻撃を行います。避けてください!」

「分かった」


 そう言うが否や、俺は馬を捨てて木々の上へと登っていく。

 俺の戦いぶりに恐怖しているウェルリア軍に対し、森林の奥に控えていたアウトレンジ部隊が、遠距離から火炎の槍や矢を降らせる。


 火系統の魔法に撃たれたウェルリア兵たちは、絶叫を上げて鎧ごと身体を焼かれた。


「魔導師部隊! 反撃しろ!」


 ウェルリア軍の指揮官であるユースが、彼の部下たちにそう命じた。

 騎兵の後ろに乗せられたウェルリア魔導師たちが魔法を唱え、氷の槍や雷の矢がエジンバラ軍のアウトレンジ部隊へ反撃にとばかりに襲いかかる。


 それを、エジンバラ軍は魔法障壁を張り巡らせたり、土中に掘った塹壕(ざんごう)の中に身を隠すことによって防いだ。


 数々の魔法がエジンバラ軍に突き刺さるが、魔法障壁を張り巡らした塹壕の中には届かない。


 ウェルリア軍の魔導師部隊による攻撃に、魔法詠唱の遅延と硬直による空隙(くうげき)ができると、すかさずエジンバラ軍の反撃が行われる。


「エジンバラ軍、反撃いきます! テェッ!」


 今度はエジンバラ兵からウェルリア兵に向かって、数々の魔法攻撃が降り注ぐ。

 それを、ウェルリア兵は同じように魔法障壁によって防いだりしたが、塹壕に身を隠せるエジンバラ軍とちがって、ウェルリア軍は野ざらしだ。


 地形の不利もあって、数十名のウェルリア兵士が魔法攻撃を被弾し、悲鳴と苦痛にもだえた。

 

 中距離から遠距離の魔法戦が行われる中、俺はアウトレンジ部隊の部隊長である男の下へと戻っていく。


「大収獲ですな、ロイ様!」


 アウトレンジ部隊の部隊長は、相好をほころばせた。

 こちらに目立った被害はない上に、向こうは死者累々。


 数えたわけではないが、すでにウェルリア軍の死者は500を超えているところだろう。

 戦術的快勝、と言っても差し支えない戦果だった。


「あぁ。しかし、ルークからの指示はあいつらを引きつけておくことだからな。

 あまり勝ちすぎて撤退されても良くない」


「ふむ。では、もう少し餌を()いて、引いて自分らを追わせますか」

「そうしたほうがいいだろうな」


「了解であります、ロイ様。――魔法戦、攻撃中止! 全軍、撤退!」


 そう命令を下す部隊長に、エジンバラのアウトレンジ部隊は攻撃の手を止めて、慌ただしく見えるように逃げ始める。


「逃げるぞ! 追え! 追え!」


 退却するエジンバラ軍に、ウェルリア魔導師の魔法攻撃が降り注ぐ。

 俺が殿となって戦場の支配力をコントロールしていたから被害らしい被害は出なかったが、初めて敵を追える立場にたったウェルリア軍は威勢に乗る。


 優位に立てると勘違いしたウェルリア兵たちは、ここにきてようやく勢いづく。


「いけるぞ! あいつら、やっぱり逃げることしか能がない!」

「押せ、押せ! 追撃――!」


 どれだけ負けていても、逃げる敵は追いたくなるのが戦場の常だ。


 攻撃を総中止したエジンバラ兵は、全軍が素早く隊列を組み直して森の中を後退していく。

 我先にと突っ込んでくる騎兵は、俺が殿となって馬の脚を切り落とし、機動力を削ぐ。


「チッ……また貴様か、剣神ロイ!」

「悪いな。うちの大将から、この部隊の殿(しんがり)をしろとのお達しでね」


「剣神であろうが、邪魔をするならば、斬る――!」

「いいね、かかってこいよ」


 ステップバックを多用しながら、俺はウェルリア騎兵たちの突撃をいなす。

 そうして、エジンバラ兵たちを逃してやる時間を稼いだ。


 森の奥深くへと、ウェルリア兵たちが誘なわれていく。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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