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30話:シリルカの街攻防戦 2

 シリルカの街の東口に到着した僕は、改めて平原の向こうから進撃してくる魔物の群れを見る。

 大量の魔物が、砂塵(さじん)を上げてこちら側に猛進してくる。


 目視できるだけでも敵戦力の数は、およそ4000はくだらなかった。


「数千の軍勢か……」


 この街に戦える冒険者がいくらいるのかは分からないが、おそらくいても数百。

 4000の魔物と戦うには、数千の軍勢は欲しい。

 それだけの戦力を揃えることは、他の街から冒険者の救援を呼んでくるか、皇帝軍を動員しない限り不可能に近い。


 だから大侵攻は事前に予兆を察知し、戦力を揃えることが重要なのだ。


 今回の大侵攻は予測できなかったため、シリルカの街にいる数百の冒険者だけで、4000もの魔物を打ち破らなければならない。


 できるだろうか……。

 難しい状況ではあるが、自分にできる最善を尽くす。


「まずは、敵戦力構成の分析」


 迷宮内で培った基礎に立ち返る。

 遠来してくる魔物の布陣を注意深く観察した。


 魔物を遠目に鑑定で分析すると、敵陣の中央に配置されているのは、僕がダンジョンで交戦したことのあるミドルオークやミドルトロールの上位種だった。

 ハイオークとハイトロールだ。


 僕が戦ったことのあるミドルトロールでもかなりの攻撃力を誇っていたが、その上位種ともなると突破力と破壊力にすぐれているのは自明の理である。

 巨体から繰り出される棍棒(こんぼう)の攻撃は、やすやすと人を吹っ飛ばす威力を持つ。


 そして、左翼と右翼を固めるのはペガサスナイトやサジタリウスといった機動力に優れた兵士であった。

 ペガサスナイトは神馬(しんめ)に騎乗して戦う飛行可能な騎兵であり、サジタリウスは頭は蛇のようになっていて下半身が馬の魔物だ。


 厚い重歩兵の敵兵中央に比べて、左翼と右翼の騎兵の戦力はやや少ない。

 敵の布陣を見れば、強力な重厚歩兵でもって、中央突破を図っているのが手に取るように分かった。


「敵主力が重歩兵であるなら、その主力を活かさせないような布陣を……」


 劣勢の会戦における最重要事は、敵主力の非戦力化。

 圧倒的な戦力を誇る敵を、やりたいように動かさないことを考える。


 敵の主力はどう見たってハイオークとハイトロール。


 あの強力ハイオークとハイトロールを非戦力化するためには、包囲網(ほういもう)を取ることが一番だ。

 全方位から囲い込んで攻撃すれば、敵主力(ハイオーク)の大部分は無力化することができる。


 中央を全包囲するためには、敵陣の手薄い右翼と左翼を突破しなければならない。

 こちらの右翼と左翼に精鋭を揃え、敵の両翼を突破のちに反転して背後につく。


「……よし!」


 頭の中に、勝利の絵は描けた。

 あとは戦陣を()き、的確に戦闘状況を判断、部隊を動かしていくだけだ。


「ルーク! 待たせた」


 その声に振り返ると、多数の冒険者たちを連れたロイさんがそこにいた。

 見れば冒険者の数は、数百人にものぼっている。


「ロイさん、集めてきてくれましたか!」

「あぁ。この街の大多数の冒険者は集めたと思う」


 そう語るロイさんの後ろには、シリルカの街の冒険者たちが勢揃いしていた。

 東口に来るまでに助けた、パーティーの顔もある。


 剣士から槍兵、弓兵、盾士、魔導師にいたるまで、僕が敷こうとする戦術に必要な職が全員そろっていた。


「市街地の魔物の先遣隊(せんけんたい)はすでに全滅させることができたんですね」

「あぁ。それで剣神ロイに集められたはいいが、東口に集めて俺たちに何をさせようってんだ」


 筋骨隆々としているスキンヘッドの、大剣を背負った冒険者が前に出てきて言った。

 僕のことを、半信半疑の目で見ている。

 そんな瞳の色だった。


「ここで戦陣を()いて、魔物相手に会戦を仕掛けたいと思います」

「お前の指揮下に入れば必ず勝てるのか? どうして冒険者のランクも実力も上の俺たちが、お前の指示で動かなければならない」


 歴戦の冒険者を感じさせる、鋭い眼光だった。

 身がすくむような思いをするが、ぐっとこらえる。


 おそらく彼が、この街の冒険者のボスなのだろう。

 彼を説き伏せれば、冒険者たちの全権を手中に収められる。


 それは、シリルカの街を守る上で、必要なことだった。


「おい、シルヴァ。こいつは俺の――」


 仲裁(ちゅうさい)に入ろうとするロイさんを右手で制し、僕は言った。


「でしたらあなたには、これ以上市街地の被害を出さずに、魔物を掃討する戦術がおありですか」

「それは……確かに俺にもないが」


「僕にはあります。あの魔物の軍勢を前に、勝利の絵を描く力がある」

「ハッ。経験の未熟な若造が思い上がったな。しかし、お前の考える策がハマる保証なんかどこにも無いだろう」


 表情に嘲笑(ちょうしょう)をにじませながら、シルヴァは言った。


「そうですね、結果を見てからでないと確かなことはなにも言えません。ですがこの場においてなんの打開策もなしに反論するあなたよりは、確実に先を見ていると思います」


 しばらくのあいだ、シルヴァは僕のことを怜悧(れいり)な瞳で見つめていた。

 やがて彼は、大きく息を吐き出し、言った。


「勝算は?」

「僕の読みどおりに戦局が動いてくれれば、九割ほどで」


 僕の言葉に、冒険者たちがどよめいた。

 

「一度始まった大侵攻に、九割の確率で勝てるのか!?」

「それはさすがに甘く見積もりすぎだろう!」


「魔物の大侵攻が始まれば、侵攻ルートの村や街は潰れたも同然なんだぞ!」

「大侵攻を止めようとするなら、皇帝軍の動員は必須だからな。冒険者たちだけじゃ多勢に無勢だ」


「でも彼は、剣神ロイ様の直弟子なんでしょう……?」

「あのロイが育ててるぐらいだから、並の魔導師じゃないことは分かるけど……」


 驚きの声をあげる冒険者たちを、


「うるせえ、お前らは黙ってろ!」

 

 シルヴァはざわめく彼ら彼女らを、一喝(いっかつ)して黙らせた。

 静寂に包まれる場の中、シルヴァは僕を見据えて言った。


「いいか。お前はレスティケイブに潜って戦っているらしいが、俺はそれはロイの力によるものだと思ってる。お前自身には、まだレスティケイブで狩れる実力はない」

「はい。僕もそう思います」


 それは事実そうだったので、素直に頷いた。


「ここにいるやつらも、俺も。みんなお前のことを認めてるわけじゃない。

 ただ迫ってくる大侵攻を前にして、勝算が九割もあるとうそぶく野郎は、今までには一人もいなかった。

 策士なのかよほどの馬鹿かは知らんが、お前の大胆さ、そこは買ってやる」


 交錯(こうさく)する瞳からそらさず、ただ彼の言葉の続きを待った。

 ここはそらしたら、負けの場面だ。


「もしこの戦いに負け、シリルカの街が潰れるようなことがあったら、俺はお前を殺すぞ」

「構いません」


 瞳に光を溜めて、僕は頷いた。

 やがてシルヴァは一度だけ大きく息を吐いて、それからみなに聞こえるように叫んだ。


「これ以降、シリルカの街の全冒険者は、ルークの指揮下に入る! 大将の言うことには一つも逆らうなよ!」


「おうっ!」

「はい!」

「了解した!」

「分かった!」


 シルヴァの号令によって、僕は冒険者たちを指揮統率する権利を得た。



 ◇ ◆



 それから、魔物が刻一刻と押し寄せてくる状況の中、素早く戦陣を敷く。


「守備力の高い盾剣士や槍兵、いわゆるタンク職を中央に。前方にふくらんだ弓なりに配置します! 敵の突破を1秒でも遅らせてください。

 左翼と右翼に、機動力と攻撃速度のある高速近接職を! 両翼に精鋭をそろえてください! 左翼と右翼の戦いでは勝ちにいきます。

 両翼の後ろに弓兵や魔導師といった中~遠距離攻撃職を置きます! 後衛職は両翼が突破するための火力支援をお願いします」


「おうっ!」


 僕の指揮によって、全冒険者たちが動き、戦列を整えていく。

 中央を前方にふくらんだ弓形に配置することによって、少しでも敵の侵攻を遅らせるのが目的だった。


 目前に迫る魔物の群れは、もう1クピテ(約1.3キロメートル)を切っていた。


「敵の狙いは重歩兵による、中央突破です。

 戦力差のある中央は安全第一で、やや引き気味で戦ってくれて構いません。

 魔物の突進に持ちこたえてくれるだけで十分です。

 しかしこちらの精鋭をそろえた左翼と右翼は絶対に負けられません。必ず撃破および突破を図って下さい!」


「了解した!」


 中央が防戦でもちこたえている隙に、こちらの精鋭部隊の右翼と左翼が敵両翼を突破。

 そのまま敵中央の真横と背後につき、包囲網を完成させる。


 包囲殲滅陣(ほういせんめつじん)

 これが、僕が描いた勝利の絵だった。


 戦型を整え、迎え撃つ準備を整える。

 そして後方で情報収集の担当をしていた後方支援職が、戦況分析の声をあげる。


「彼我の戦力差、出ました! 人間軍、およそ300。魔物軍、およそ5000!」


 場がどよめく。

 魔物軍に10倍差をつけられた、物量作戦だった。


 どんな戦闘でもそうだが、通常の戦いでは戦力の差は決定的と言われている。

 数を揃えれば揃えたぶんだけ、戦闘では優位に立てる。


 数的不利をくつがえすには、機先を制し、戦いの主導権を握るしかない。

 この陣形でもっとも重要なのは、機動力のある左翼と右翼。

 

 彼らの働きに、すべてがかかっている。

 

「接敵までおよそ30秒! 来ます!」

「よし、勝ちましょう! 必ず勝って、冒険者ギルドで、皆で酒を飲みましょう!」


「おうっ!!!」


 冒険者たちが(とき)の声を上げて、襲いかかる魔物の群れに立ち向かっていった。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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