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17話:戦術

 ロイさんが空中に創りだして維持している光の球が、薄暗いダンジョンの通路を照らす。

 レスティケイブはそれ以外に光源がないため、光の球が照らす狭い範囲しか視認できない。


 有効視界は7ヤルド(約10メートル)そこそこと言ったところだ。

 この有効視界範囲外から狙撃でもされると、ロイさんはともかく僕はひとたまりもない。


 視界に魔物がいないからといって、油断するわけにはいかない。

 気を張り詰めたまま通路を歩いていると、自動探知のスキルを持っているロイさんが声を張り上げた。


「敵接近! 5秒後に接触。敵戦力分析と指示をくれ!」

「分かりました!」


 これからの戦闘の流れや指示は僕が決めることになっていた。


 パーティーリーダー、指揮官、部隊長。

 一言で言うなら、僕はこれからそういう役割を担うことになった。


 しかし僕はまだまだ新米の、へたれ魔導師だ。

 もし大きな失敗をして、取り返しの付かないことになったらどうしようという不安で、心臓がバクバク鳴る。


 しかし、ロイさんが僕にはその才能があるかもしれないと言ってくれたのだから、自信を持ってやるしかない。


 そして本当に5秒後きっかりに、魔物がその姿をあらわす。

 魔物と接触してやるべきことは、まず敵の戦力構成の把握だ。


 敵前衛 トロール×3、エルフ騎士×3

 敵中衛 エルフスナイパー×2

 敵後衛 メイジキャスター×2


 相手のパーティー構成を素早く確認すると、僕は戦力分析を口にする。


「敵前衛に戦力が(かたよ)っています! 敵前衛の数が多いため、敵の各個撃破に自戦力を一極集中させます」

「分かった。具体的にはどうする!」


 じりじりと近づいてくる魔物を見ると、早く自分が指示を出さなければと気持ちが焦る。

 落ち着け、このダンジョンの1階層で戦うのは初めてじゃない。


 もし失敗しても、ロイさんがカバーしてくれる。

 僕は深呼吸を一度すると、素早く戦術を構築するべく思考した。


 考えろ。どう考えても、一番驚異的なのは、中衛のエルフスナイパーだ。

 エルフスナイパーは戦場のやや後ろよりから、弓矢攻撃を放つのが特徴的な魔物だ。


 風の魔法の加護がかかったエルフの弓矢攻撃は、異様な命中率を誇る。

 もし急所を狙われれば、一撃で戦闘不能に持っていかれる危険性もある。


 早急に倒しておきたい魔物だが、そこは敵前衛のトロールとエルフ騎士ががっちりガードを固めている。

 そう安々と敵主力戦力を潰させないためなのだろう。


 エルフスナイパーがトロールたちに安全に護衛されながら必殺の一撃を放ち、それをこちらが受けて致命傷を負わないことが、なによりも優先される。


 エルフスナイパーは弓矢攻撃という性質上、こちらが懐に潜ることに成功すれば、近接戦闘には非常に弱い魔物だ。

 

 だからまずは、一番脅威的(きょういてき)で、一番脆弱(ぜいじゃく)なポイントを崩す。

 僕は声を張り上げた。


「第一目標として、敵中衛のエルフスナイパーを狙います。

 僕がサンダーバレットで弾幕(だんまく)を張り、敵前衛を引きつけておきます。

 その隙にロイさんは中央突破。

 敵陣中央に到達し、エルフスナイパーを可及的(かきゅうてき)速やかに始末。

 そのまま後衛へ抜けてメイジキャスターを。

 そうして戦場中央で孤立した敵前衛を、僕が前、ロイさんが後ろからで挟撃(きょうげき)し、フィニッシュを決めます!」


「了解した」


 ロイさんが短く頷くと、剣を抜いて猛烈な速度で走りだす。

 僕の立てた戦術は穴だらけではないのかと自分でも思ったが、よほど「俺はルークを育てる」という言葉が本気らしい。


 こちらを信頼してくれている。

 ロイさんは僕の戦術を疑う素振りも見せず、敵中央へと突進していった。


 それを僕はありったけのサンダーバレットを連射することによって、援護する。


 雷の弾丸が雨あられのように魔物に降り注ぎ、致命的なダメージは与えられないもののトロールやエルフ騎士はわずかな被弾硬直(ノックバック)を起こす。

 その一瞬の隙を見逃すロイさんではない。


 彼はまるで突風のような速度で戦場を駆け抜けると、瞬く間に敵陣の中央へと滑りこんだ。

 一瞬にして敵前衛をすり抜けた彼は、エルフスナイパーと対峙(たいじ)する。


 懐に潜りこまれたエルフスナイパーは、弓矢という武器の最大の長所を発揮することなく、ロイさんに瞬殺されていく。

 魔物も馬鹿ではないため、敵陣中衛で暴れるロイさんを包囲殲滅(ほういせんめつ)せんと囲って襲いかかり始める。


 トロールが棍棒を振り上げ、エルフ騎士が鉄の剣で斬りつけた。

 ロイさんはしばし回避行動に専念せざるを得なくなり、エルフスナイパー2体目は倒しきれなかった。


 しかし、こここそが、中衛魔導師としての僕の出番だ。

 少し離れた場所から激しい雷の弾丸を速射して、トロールたちの背後から攻撃する。


 彼らの動き牽制(けんせい)し、制限するために。


 トロールのような硬い皮膚と剛毛によって耐久力が優れている魔物には、サンダーバレットではそれほどのダメージは与えられない。

 しかし、たとえ蚊に刺された程度のダメージでも、次々に命中する雷弾を喰らえばうっとうしいものだ。


 トロールとエルフ騎士は僕を見て、苛立つように咆哮(ほうこう)した。


「ガアアアァァッ!!」


 まずは弱い僕を狙うことにしたのか。

 トロールたちはロイさんに攻撃を加えることを放棄(ほうき)し、肩を怒らせてこちらに突進してくる。


 しかしそこは僕も素直にやられるほど馬鹿ではない。

 雷弾の弾幕を張りつつ、通路に転がっている大岩や曲がり角といった障害物を利用しながら、魔物と一定距離を保って適宜(てきぎ)後退していく。


 トロールが振りかぶる棍棒も、ファイアボールで撃ち落とす。

 エルフ騎士はわりと魔法ダメージが通るので、サンダーバレットで削りつつ足止めする。


 じりじりと後退しながら弾幕を張り、なるたけ時間を稼ぐ。

 そうすれば、ロイさんの余裕も増える。


 彼は2体目のエルフスナイパーを斬り伏せていた。


 遅滞戦術(ちたいせんじゅつ)

 自戦力の主力が救援に来るまで、なるべく敵戦力を焦らして引きつけておく、僕が即席で考案した戦術だった。


 戦闘力に乏しい僕にとって、敵の動きを遅らせること、妨害することが一番役に立てる。

 

 ロイさんとの2人パーティにおける僕の役割は、メインアタッカーではない。

 最高火力のロイさんに任せておけばいくらでも敵を倒してくれるので、僕はその補助と魔物の妨害をするだけでいいんだ。


 見ればロイさんはすでに後衛のメイジキャスターも始末したようで、反転してこちらに戻ってくる。


 これで

 僕→トロール・エルフ騎士←ロイさん

 という位置取りが完成し、僕は前からロイさんは後ろからトロールたちを攻撃できるという、僕たちの挟撃(きょうげき)作戦が成立した。


 雷の弾幕を突破することすら苦戦していた魔物たちは、天才剣士・ロイさんにバックアタックされて慌てふためく。

 前からはうっとうしい雷の弾幕が降り注ぎ、後ろからは閃光のような一撃を放つロイさんに襲われる。


 ものの見事に魔物の戦列を崩壊させることができた。

 やがて魔物をすべて倒しきり消滅し、あとには魔石だけが残った。


 ふー……。

 なんとか初指揮の戦闘に勝利した。


 未だに心臓がバクバク言っている。


 どこかで間違えるんじゃないのかとか、どこかで致命的なミスが出るんじゃないのかと、不安で不安でしょうがなかった。

 どうやら僕の考案した稚拙(ちせつ)な作戦は、とりあえずの成功を収めたようだ。


「お疲れ」

「お疲れ様です」

 

 いつものように僕は戦闘記録を書き、ロイさんは魔石を拾う。


「ルーク、これだけやる」


 そう言われながら手渡された魔石は、いつもの僕の取り分より多かった。


「今日は多いですね」

「ま、お前の今後に期待ってやつだな」

「結局、ロイさんの火力に頼った作戦でしたが……」


 ロイさん抜きでは、僕は魔物とまともに戦えるかどうかすら怪しい。


「俺たちは今はまだ1階層で戦っているから、魔物の戦力もそれほど驚異的じゃない。窮地(きゅうち)におちいっても俺一人でリカバリーも簡単だ。

 だが、もっと深い階層に潜って戦うことになれば、魔物はどんどん強力になって、狡猾(こうかつ)で嫌らしい作戦をとってくるようになる。

 俺の力だけでは絶対に歯が立たなくなる。それは経験済みだ。

 だからお前の力が必要なんだ」


 ロイさんの言葉に、僕は黙って頷いた。


「今はまだ、よちよち歩きの冒険者かもしれない。でもこれからルークが考案する戦術の練度がもっと上がって、ピンチを切り抜けられるようになれば、俺としてもだいぶ助かる」

「このダンジョン……レスティケイブってどのぐらいの階層まであるんです?」


「俺が確認したのは、25層までだ。俺ですら、25層に行けたことは1回しかない。トラップにかかって5層分一気に下に落ちたという不幸と幸運とまぐれに恵まれて、瀕死になりながらやっとそこまで辿りつけたんだ」

「そこが最終層ですか?」


「いや、おそらく違う。一応は25層で行き止まりになっていたから最終層と言えなくもないが、25層の最後の部屋に転移魔法陣があった。

 俺はほとんど死にかけで歩行すら困難な状態だったから、まだあれに乗るとどんな効果があるのかは調べてられていない。

 あれを調べるのが俺の目標の1つだな」


「25層の転移魔法陣……。一体どんな仕掛けが隠されているんですかね」

「俺の予想だが……、おそらくあの先に、俺の探している女は消えたはずなんだ」


「なるほど……。では僕がもっと良い戦術を考案し魔導師としても優秀になって、ロイさんのフォローができるようになれば、レスティケイブで失踪(しっそう)したロイさんの大切な人を探すため事にもお力添えできるわけですね」


「あぁ、まぁ一応はそうなるが」


 ロイさんは恥ずかしそうに頬をかいた。


「あまり気張るな。お前はお前の道を行け。強くなることを、焦らなくていいぞ」

「分かりました。地道に一歩ずつ道を踏み固めていきます」


「それがいい」


 僕とロイさんは頷き合うと、再び攻略に専念した。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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