赤い滝
展開が無理やりです。
内容は察しで。
「あの赤い滝を止めてくれんかの?」
仲間と旅を続けていたロン・コンプティは見知らぬおじいさんにこのような依頼を唐突に受けたのだった。ロンは「は?」と威圧をかける。ロンはおじいさんの正気を疑う。
「どうしたんですか?」
ロンの横にいたミザリー・フォルは嫌そうな顔をするロンを嗜めて、おじいさんに尋ねる。
「実は……」おじいさんは説明を始めた。話をまとめると、こういう事だ。この先にある森の中に滝があるそうだが、十数年前からその滝に赤い水を流すようになったそうだ。まるで白い布が赤く染まり、その頭を垂らし続けているよう。この滝は昔に美しい景観を楽しめる名瀑とされていたのだが、今はこれを気味悪がり人が近寄らなくなってしまった。
おじいさんは彼らをその滝に案内する。彼らはその滝を見て、おじいさんの言った言葉をようやく信じる。確かに、普通の滝とは一味違った。香辛料を大量に混ぜられたようだった。本来ならば滝口から零れ落ち、滝壺で跳ね踊る水けむりは純白に染まっているだろう。だが、この滝に至ってはその常識を易々と打ち破る。美味さを追求して不必要なスパイスをかけたことで、誰も手をつけないような凄惨な見た目となってしまった。
「これは、すごいですね……」
ロンの仲間のもう一人であるダレン・ゾンデリングが顎をさすりながら感嘆の声をあげる。身体から鮮血が溢れ出ているような耽美な絵に風情を感じ、そしてインスピレーションが働く。
「上流から流れているのよね。この先で何かが起きているんだわ。血なまぐさい争い事とか」
「だったら死体も流れてきますよ。おじいさん、何かしりませんか?」
ダレンが尋ねる。おじいさんは「知らんのじゃ」と首を横に振った。この森の奥は危険で獣などが跋扈する場所のようで、調査隊を数人だしたが一人も戻ってこないようだ。
「面倒事だな。正直オレは乗り気じゃないな。あまり危険な目に合いたくないよ。それにさ、別に色違いの滝というだけで、全然不気味でも何でもないし、むしろ綺麗じゃないか」
ため息まじりに言う。厄介事は勘弁してもらいたいようで、早く先へ進みたいようだ。調査隊が全員帰還しないことがこの案件の厄介さを暗示しているのだから。
「しかし、僕は気になりますね」ダレンがにやけながら言った。「私もー!」ミザリーも彼の意見に賛同していた。多数決で負けてしまったロンは「わかったよ」と渋々それに従うのだった。
「それにさ」彼女がニッと笑いながら「私たち勇者御一行じゃない。善行も必須だよ」と言った。ロンは大きなため息をついて肩をがっくりと落とす。その様子を見た二人は顔を合わせて笑い合うのだった。
現在の世の中は魔王によって支配されていた。村を焼き払い、可愛い女を連れ去る。略奪行為は当たり前。奴隷も多数。そんな極悪非道な悪行で世の中を支配するのが魔王。そいつを倒そうと立ち上がったのがこの三人だった。
ロンは田舎の町に生まれる。やんちゃをしていた一六歳の少年である。彼の行いはいつも町人を困らせていた。
そんなある日の事。
ボロボロで怪我をしていた、隻眼のミザリーがロンの住む町にやって来た。彼がそれを発見し、看病をする。その行為のおかげで、彼女は完治できた。
それから、いくらかの日にちが経ったある日に、ロンはミザリーから魔王を退治に行こうと誘われる。最初は渋ったが、暇だったので、それをつぶす感覚で旅に出ることとなる。やがて、その旅の途中でダレンと出会う。今は三人でこうして打倒魔王の旅を続けている。
ロンたちはまず上流を探りに行った。絶対にそこに何かがある。そうにらんだからだ。だが、やはりというべきか、森の中はとても危険なものだ。モンスターどもがうじゃうじゃと湯水のように湧き出てくる。一匹見たら三十匹いる。今身をもって体感する。
「もうやめようぜこんなこと。きりがなかろうぜ」
戦闘にあまり慣れていないロンが弱音を吐く。もう帰りたい。と駄々をごね始める。他の二人はまた始まった、と、いつもの彼にため息を漏らす。
「しかし、もう少しで分かるかもしれませんよ」
「大体ロンが帰ろうとすると必ず何かがあるのよね。だから、もう少し頑張ろうよ」
「そうか? その逆の場合もあるだろう。こう説得されて信じていくと何もない。やっぱり帰った方が良かったってなるよ」
「あら? 私はロンが無意識に持つ素晴らしい感性と幸運を尊敬しているのだけど。私、自分の腕を信じられない男性って嫌い」
「わー。ち、ちょっと……わかったからさ。行けばいいんだろ」
ロンは慌てふためき、結局さらに奥へ進むことに。
「私、なんだかんだ文句を言いながらも責務を果たそうとするロンが好きだよ」
「そうか。ありがとう」
ロンは照れた。
「(単純ですね)」
「(だよね)」
二人でくすくすと笑う。
「二人で何を話しているんだ?」
「いいえ。つまらないお話ですよ。それより、何か建物が見えてきましたね」
ダレンが指をさす。
「変わった建物だな……」
その先にはコンクリートで造られた大きな建造物が建っていた。川を跨ぐ形でその建物は存在している。あの赤いものはここから流れてきているようだ。
その建造物は見るからにも怪しい禍々しい雰囲気を醸し出している。建物からは不気味な叫び声が流れている。
「何か、行きたくないな」
「ま、依頼を引き受けたからには、もう引くには引けないわ。それに、面白そうじゃない。肝試しみたいで」
「雰囲気にはぴったりですね。ろうそくを持ってくれば良かったですよ」
「呑気だな……。ん? 誰か来たみたいだ。隠れよう」
三人は大岩の影に身を潜める。剣を持った男が三人話しながら歩いている。男たちの口ぶりから、男たちは見張りであることが分かった。
三人はいよいよ何かがあると悟る。
「どうするか?」
「破壊でもしましょうか? 多分、あそこがあの赤い滝の正体ですよ」
「八割方そうだと睨んでもいいわね。破壊なら爆破がいいんじゃないかしら? その方が手っ取り早いわ。邪魔者も消せるしね。あ、でも……ダイナマイトも何も持っていないわ」
「なら、中であるものでどうにかすればいいだろう」
「それもそうね。じゃあ、どうやって侵入しましょうか? 隠密に行動したいわ」
「それなら、僕に任せてください。変装なら得意です」
「じゃあ、任せた。オレはここで寝てる。もしくは逃げる」
ダレンは苦笑を漏らした。そして、一人で行く。
数分後、血で服を汚したダレンが帰ってくる。怪我はしていないようだ。どうやら、この血は彼の血ではなく返り血のようだ。笑いながら、彼は人の形をした皮と男たちが着ていた服を二つ投げ渡す。二人は気持ち悪そうにそれを受け取る。
「それをきてくれ」
ダレンは自分の分を着始める。そうすると、ダレンの容姿が変貌し、見張りの男そのものになったのだ。
「相変わらず、ダレンの能力は嫌なものだな」
「便利なら何だっていいじゃない。あ、例の物持ってきた?」
「ああ。もちろん」
ダレンはミザリーに白黒の玉を四つ渡す。ミザリーは嬉しそうにそれを受け取る。ミザリーは眼帯を外し、それを目に埋め込んだ。しばらくそのままで静止していた。しばらくした後、彼女はそれを取り換える。そして、何かを納得した。
「わかったわ。何もかも。行きましょう」
低く笑う。そうして、ダレンに貰ったアレを着るのだった。
この世界には人並み外れた能力が存在する。しかし、この能力は誰もが持っているわけではない。限られた人間のみが能力を開眼する。自分の強く願ったことまたは自分にとって必要なものが能力となって現れる。この三人はそれが現れた。
ダレンは自分が嫌いで誰かになりたかった。だからこの能力に目覚めた。それは、他人の皮を剥いで、それを着る事でその人になりきることが出来る。記憶が継承されないのがこの能力の欠点である。あと、他人にもこの能力を使用させることが出来る。
ミザリーは愛する人の全てを知りたかった。だからこそこの能力を得た。それは、他人の眼を自分の空洞となった眼窩にはめ込むと、その人が見た光景を全て覗くことが出来る。
ロンは自分の性的趣向を満たしやすくするためにこの能力を開眼した。それは、対象者に触れる事でその人の肉質・持病・遺伝的資質・強さ・年齢などの情報を読み取ることができる。
三人ともサポート向きの能力であり、戦闘には不向きだが、それ以外ではかなりの力を発揮する。似通っているような気はするが、それぞれがそれぞれの欠点を補う。ある意味良いトリオなのかもしれない。
ダレンの能力で簡単に建物内に侵入できた三人は中で起こっている惨状を眺めていた。
どうやらこの施設は人体実験場のようで、彼らの目の前では拷問のような実験が行われている。
「しかし、酷いことするわね。この施設の人は」
ミザリーはどこかへ歩き出す。
「ミザリーはどこに?」
「つけば分かるわよ」
「しかし、アレですね。赤い滝の正体が血でしたとは……」
拷問された人たちの血を川で洗い流していた。だから、それが下流へ流されていったのだ。
ミザリーは牢屋に向かっていく。その中には次の犠牲者になる予定の人たちが詰め込まれている。見張りが持っていた鍵を使い、牢屋の中に入る。
「ダレンは見張りをよろしくね。ロンは、こっちに来て」
「わかりました」
「はいよ」
二人は変身を解く。着ていた皮を適当に投げ捨てる。
「勇者だ。助けに来た。安心しろ。すぐにだしてやる」
その言葉で中の人は歓喜! だと思っていたがみんな浮かない顔だった。
ロンたちは顔を見合わせる。分からないという顔だ。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
ミザリーの問いに誰も何も言わなかった。
ロンはちょっと失礼し、投獄されている少女の手に触れる。その時、ロンはある違和感に襲われる。ロンはまた別の少女に触れる。やはり、違和感がぬぐえない。ロンは手あたり次第に人に触れ回る。ついでに年齢も尋ねていた。
「どうしたの?」
「おかしいんだ。見た目の年齢と実際の年齢が合わない……。全員十歳ぐらいズレがある」
「それは、説明させていただきます。勇者様……」
一人の男性が立ち上がり、説明を始めた。
ここでは痛みによる人体の影響を調べる実験の他に不老不死の研究が同時におこなわれているようだ。不老不死になる薬というのが存在しているようだ。ここにいる人たちは全員その薬を飲まされたそうだ。この人たちの存在がその薬の成功を示している。
「恐ろしいわ。そんな薬が完成されていたなんて。でも、出回っていないという事はまだ実験段階でしょうね。安全がまだ保障されていないから。副作用がどんなものか、貴方たちでまだ見ていないからでしょう」
ミザリーは爪を噛む。鳥肌が立つ。
「本当に、ひどい事をするな。だが、出してやるぞ」
「でも、勇者様。私たちはもう、普通の人間じゃないんです。この地獄のような生活から脱却できるのはいいことですが、でも、もう普通の生活は出来ないんです。私たちは人を信じられません。もしも、私たちの体を知った者たちが私たちを虐めいたぶるに違いありません……。それほど人間は狂気に満ちているのです。そして、それは永遠に変わりえないのです」
「そうかもな。だが、全員がそうであるとは限らないんだ。オレ達は一枚の皮を剥げばただの獣だ。だが人という皮を永遠に被れる人はいる。皮を剥ぐのは難しいんだ。身体に染み付いているようなものだからだ。良心というのがそれじゃないか? だから、もう一度人を信じてみたらどうだ?」
「フフ……」ミザリーは隠れて笑う。こいつは何を言っているのか、と。「(まあ、皮は誰かによって剥されるものだからね)」
「でも……」
中の人たちは中々答えを出さない。
「不安はあるだろうが……」
「ちょっと、出てるわ。少し待ってて」
ミザリーはどっかへ行ってしまう。だが、しばらくして戻って来た。
「どうした?」
「目で見た記憶でね、薬の場所がわかったのよ。それで、これを持ってきたわ」
注射器をごっそりと持って来ていた。
「これで、貴方たちと同じにすれば、大丈夫でしょ」
ニッコリと笑う。
「ロン。今から回診よ。死を治療してあげなきゃね」
ウインクする。ロンは親指を立てる。そうして、ダレンを呼びつける。三人で上にいる人たちを強襲する。その作戦を立てるのだった。
「疲れた」
時間はかかったが、全員を捕らえることに成功する。ここにいた研究員たちは椅子やらに縛り付けられて身動きが取れない状態にいた。
捕まっていた人たちは全員解放させた。ロンたちは感謝をされる。
「この注射液が、貴方たちを不老不死にしたのね」
数十本ある注射の一つをミザリーは手に取った。そして、それを彼らに見せつけるように頭よりも高く掲げた。
「さて。お前たちはどうする?」
ロンは彼らに問う。
「このまま自分の故郷に戻って失った時間を取り戻すのもアリだし、オレたちが近くの村で話をつけて、お前たちを迎え入れてもらう事もできる。どうする?」
彼らは不安そうな顔をして見合わせる。しばらく相談しあう。
その中で一人が家に帰りたいといった。それがきっかけとなり、一人、二人……とそれを言い出す人が多くなる。だが、その中に全く違う意見を言ったものがいた。そして、その意見にも多数の賛同があった。意見が分かれ、やがて口論となる。
口論をずっと聞いていたロンたちは彼らに一日の時間の猶予を与えることにする。ひとまず近くの村に連れていき、そこで改めて考えさせてあげることにする。
ひとまず、この件はこれで落ち着くのだった。
翌日。
「ああ。勇者様。ありがとうございます。お陰様であの滝は元通りになりました」
三人と老人はその滝を眺めていた。あの不気味さは見る影もない。滝壺に落下した水が純白な水けむりを巻き上げる。
「そうか。それはよかった。あの人たちは幸せに暮らしているそうだし」
「ええ。ええ」
「だけど、少し気がかりはありますね」
ダレンは眉間に皺をよせて腕を組んだ。ミザリーがそれを「恐いわ」と茶化した。
「もう、行こうぜ。オレ達には他にやるべきことがあるしな」
「それもそうね。じゃ、行きましょ」
「ええ」
「いや。本当にありがとうございました。いくら感謝してもしきれません」
三人はニッコリと笑った。そして、旅立つ。
「ああ! ああ!」
その時。老人が狼狽する。三人はその声に驚き老人を振り返る。老人は滝を見て腰を抜かしていた。三人は滝をバッと見る。
「「「あ……」」」
間抜けな声を出した。
なんと、滝はまた赤く染まったのだ。
三人はそれを見て察する。
老人が説明を求めてきたが、あの施設の事や、あそこで残った被害者の人たちの事は黙ることにしていた。だから、「分からない」と、とぼけたふりをして誤魔化す。
老人は阿呆になったように呆然として立ちつくしてしまう。
そんな奴をしり目に、三人は語る。
「あの赤い正体は狂気なのね……。人が生きている限り、あの滝は赤いままで流れ続ける」
「その流れを止めるためには、生き続けては駄目ですね。いいえ。衆情がなくなればあるいは……可能かもしれませんね」
「だが、そんな日は来やしない。それこそ永遠に。それが、世の理なのかもな」
三人は悲しげに血を垂れ流しつづける滝を眺めた。
踵を返す。赤い滝に背を向け歩き始める。
前々から嫌な能力を持った勇者御一行のお話がわちゃわちゃするお話が書きたかったです。無理やりでしたね。
こいつらであともう一つお話が書きたいなと思っているので、やる気があれば書きます。
では